EP10　魔王城を攻略せよ！　作：ター坊

遊季都は部長の登場から違和感はあった。粉々に砕けたドアがそれを物語っている。
【やっぱりどんな悪魔か分からない？】
【そうだね。まぁ、あーやって壊す訳だから脳筋悪魔の仕業だと思うけど】
遊季都がラズベリーと相談していると対峙する部長が話し掛けてきた。
「おお、そう言えば言ってなかったな。ワシの名前は華道山 慶次郎(かどうざん けいじろう)じゃ」
「赤崎 遊季都です。…よろしくお願いします」
「お前も面白いもの持っとるようだのう」
「…え？」
「ほれ、これじゃよ」
華道寺が学ランを脱ぐと太い二の腕に悪魔と契約した証である紋章があった。
「なんだ？部長は何を見せてんだ？」
他の部員達は一様に首を傾げる。悪魔の紋章は同じく悪魔と契約している者等、特殊な存在にしか見えないため、遊季都以外には筋肉自慢を始めたようにしか見えないのだ。
「どうじゃ？賭けるか？」
「…断ります」
遊季都は悪魔の力が惜しくて賭けないのではない。アリスの一件で悪魔を賭けて失った者の末路を見たが故のことなのだ。アリスはあの時、苦しみもがき、記憶を失い、今は行方を眩ませている。そういう人間を出したくないというのが遊季都の本音である。
「ふむ、そうか。…ならば別の事を考えなければならんのう。例えば…勝負に乗らんとその後ろで踞ってる奴をいたぶったり、とかのう」
「えっ！」
遊季都は後ろを見る。踞る人物と言えば負けて落ち込んでいる黒田だ。
「…受けるか？」
「…はい」
「よーし、じゃあ行くかの」

「「デュエル！！」」

「ワシのターン。…早速拝ませてやるわい。ワシはリリース無しで『深夜急行騎士ナイト・エクスプレス・ナイト』を召喚じゃい！！さらに召喚に成功した事で手札から『重機貨列車デリックレーン』を特殊召喚！！」
次々と巨大な列車が現れる。
【どれもデカっ！】
【列車デッキだよ。ランク１０の重量級エクシーズを狙うデッキ…パワー勝負に持ち込まれると不利になるかも】
「さらに手札から魔法カード『影依融合』を発動じゃ！」
「『影依融合』！？じゃあ…あのデッキは列車ドール…！」
「ワシは手札の『シャドール・ファルコン』と『マスマティシャン』を融合！！出てこんかい！『エルシャドール・シェキナーガ』！！」
なんとも形容し難い、機械仕掛けの巨大モンスターが降臨する。
「『シャドール・ファルコン』はカード効果によって墓地に送られた事で裏守備で復活じゃい。そしてワシはナイト・エクスプレス・ナイト、デリックレーン、シェキナーガの３体でオーバーレイ！！」
「レベル１０のモンスター３体で！？」
「機械族モンスター３体でオーバーレイネットワークを構築！！悪魔宿す魔城よ。今こそ起動して向かってくる敵全部ぶちかませ！！エクシーズ召喚！！ランク１０！『魔王城-チャルハニア』！！」
オーバーレイネットワークの光の渦から城とも船とも言える、巨大な建造物が現れる。
【…この気配は！！】
【ラズベリー？知ってる悪魔？】
【…ええ。まぁ…。とりあいず勝つよ！】
【うん！】
「チャルハニアの効果発動！オーバーレイユニットを１つ使う事で相手に１５００ダメージ与える！！」
巨大砲台から３発の火の弾が放たれる。

遊季都:LP 8000→6500

「くっ！」
「さらに墓地に送ったシェキナーガの効果で『影依融合』を回収してターンエンドじゃい」
「僕のターン、ドロー！！僕は『焔獄竜-バルディッシュ』を召喚！」
身の丈程もある斧槍を持った竜人の戦士が現れる。
「バルディッシュが召喚に成功したターン、僕はドラゴン族モンスター１体を召喚する権利を得ますが、バトルです！バルディッシュで裏守備モンスターに攻撃！」

焔獄竜-バルディッシュ ATK 2000 VS シャドール・ファルコン DEF 1400

「『シャドール・ファルコン』のリバース効果で墓地のシェキナーガを裏守備で特殊召喚じゃい！」
「覚悟の上です。ドラゴン族モンスターが相手の守備表示モンスターを戦闘によって破壊した事でドライヴ条件達成！！その大弓、天を貫く！勝利の軌跡を描け！ドライヴ召喚！『弓穿竜-ヒートスナイプ・ドラニュート』！！」
地から昇る火柱が消えると竜人は軽装になり、弓を携えるシャープな姿に変わっていた。
「僕はヒートスナイプはダメージが半減する変わりに直接攻撃できます！ヒートスナイプでダイレクトアタック！」
「何！？」

弓穿竜-ヒートスナイプ・ドラゴニュート ATK 2400　直接攻撃(ダメージ半減)
　
華道山:LP 8000→6800

「ふんっ」
「さらにヒートスナイプは相手に戦闘ダメージを与えた場合、フィールドのセットカードを除外して相手に１０００の追加ダメージを与えます！」
ヒートスナイプは続け様に矢を放ち、裏守備だったシェキナーガを射抜く。しかし

華道山:LP 6800

ライフに変化はない。
「残念じゃったのう！『魔王城-チャルハニア』はオーバーレイユニットが存在する限り、戦闘では破壊されず、他のカードの効果も受けんし、ワシへの効果ダメージも無効にするんじゃい」
「そんな…。僕はカードを２枚セットしてターンエンド」
「ワシのターン、ドロー。チャルハニアの効果発動。また１５００ダメージじゃい」
再び、集中砲火を浴びる。

遊季都:LP 6500→5000

「くっ…」
「さらにワシはオーバーレイユニットとして外されたデリックレーンの効果発動！これでヒートスナイプ・ドラゴニュートを破壊じゃ！」
「させません！罠カード『焔獄の火柱』を発動！これを装備カード扱いでヒートスナイプに装備！」
突撃するデリックレーンの残像を地面からの火柱が遮る。
「ヒートスナイプは攻撃力が５００アップし、カードの効果では破壊されません」
「簡単にはやられんか。このままターンエンドじゃい」
「僕のターン、ドロー」
【ちょっと遊季都くん！ヤバイんじゃない？】
【いや、諦めないよ】
遊季都の頭には無敵の城の攻略方法が朧気に浮かんでいた。
【チャンスは次のターンからだ】「僕はモンスター１体を裏守備でセットしてヒートスナイプでダイレクトアタック」

弓穿竜-ヒートスナイプ・ドラゴニュート ATK 2900　直接攻撃(ダメージ半減)

華道山:LP 6800→5350

「ガッハッハッハッ！痒いのう」
「僕はこれでターンエンド」
「ワシの城にもう逃げ腰かのぅ。ワシはオーバーレイユニットを１つ使い、チャルハニアの効果発動！何べんでも、ぶっ倒れるまで浴びせてやるわい！」

遊季都:LP 5000→3500

「よし。オーバーレイユニットが尽きた！」
遊季都の狙いはこれだった。
「チャルハニアはオーバーレイユニットが存在する限り無敵のモンスター。だけどそれが尽きた今なら倒すチャンスがあります！」
「考えたのう。じゃが、それはどうかな？」
「え？」
「ワシはこのままターンエンドじゃが、オーバーレイユニットが尽きたチャルハニアの効果発動。デッキトップからカード３枚をオーバーレイユニットとしてチャルハニアに補充し、ライフを８０００に戻すんじゃい」

華道山:LP 5350→8000

【えー！せっかくライフ減らしたのに~！？】
「そんな…」
計算上、どう足掻いても遊季都に勝つ算段はないと言っても良いだろう。
遊季都のライフは残り３５００で、チャルハニアの効果を３回許せば負けてしまう。このままヒートスナイプ・ドラゴニュートで削り続けても３ターンでＬＰ８０００を削るのは到底不可能である。
【遊季都くん…】
【ううん。だからってサレンダーはしないよ。まだ逆転の手があるはずだ…】「僕のターン、ドロー。僕はヒートスナイプでダイレクトアタック」

弓穿竜-ヒートスナイプ・ドラゴニュート ATK 2900　直接攻撃(ダメージ半減)

華道山:LP 8000→6550

「無駄な事を」
「いいえ。僕はＬＰが削れる可能性があるなら、戦います。僕はこれでターンエンドです」
「ふむ…。人間諦めが肝心じゃぞ？ワシはチャルハニアの効果で再び１５００ダメージじゃい！」

遊季都:LP 3500→2000

「…うっ！」
「ワシのターンはこれでターンエンドじゃい」
「僕のターン…っ！」
遊季都がドローしようとした時だった。自分の指が震えているのが分かった。
デュエル甲子園のスタートラインにも立てないまま終わってしまうのか―
黒田を侮辱し、白朧院を利権を得る出汁にしか考えていないような連中に敗北するのか―
そう思うと指が震える。
【…主よ】
ふと聞こえた声。それは久々に聞く声だ。
【ん？ポップロック？】
【ちょっと！こんな大変な時まで何やってたのよ！！】
【思いの外、契約後の処理に時間が掛かってな。主よ。我の新しい姿をイメージして下され】
【新しい…姿】
【左様。あのヘルホッフは前の契約者がイメージした姿。我をカードとして具現化するにあたって、主･遊季都のイメージが改めて必要になりまする】
【ラズベリーの時は負の心を出してって言ってたけど、それもやれば良いの？】
【はい】
【じゃあ…】
遊季都は目を瞑りイメージする。ポップロックの悪魔の姿を自分のデッキと重ね、指の震えの原因となった負の心を込めながら。

ヒュゥゥン…ｷｭｲﾝ

【主の手に勝利を！】
「ドロー！」
「考え込んでやっと引いたか」
「僕は…負けません！僕は『竜魂融合(ドラゴニック・フュージョン)』を発動！これでフィールド・手札からヒートスラッシュ、ルドラド、トウリュウを素材に融合！！封じられし竜の怨念、今解き放たれる。幾星霜積もりし復讐の想いを果たせ！融合召喚！！『霊龍王-ホフリノオロチ』！」
遊季都のフィールドに穴だらけの多角形の立体が空中を浮き、その穴から骨のみの龍の首が蛇のようにニュルニュルと３本伸びる。
【うわっ！キモッ！】
【ご、ごめん…。やっぱりポップロックってダークなイメージがあったから…】
【いえ、なかなか気に入りましたぞ、主よ】
「ほう…。それがお前の悪魔の力か」
「…バトルフェイズです！ホフリノオロチでチャルハニアを攻撃します！」

霊龍王-ホフリノオロチ ATK 0 VS 魔王城-チャルハニア DEF 4500

「馬鹿か！反射ダメージで自m」

華道山:LP 7200→2700

「何ぃ！？」
「ホフリノオロチの戦闘によって発生する僕へのダメージは全部相手に跳ね返します！そしてホフリノオロチは融合素材に使用したモンスターの数だけ攻撃できる！」
遊季都が２回目の攻撃を宣言しようとした時だった。
「そこまでですよ」
遊季都は後ろからの叫び声に振り返る。
「くっ！離しなさい！」
「…」
そこには男子部員に取り抑えられた白朧院と黒田、それと得意げそうな平戸の姿があった。
「白朧院さん！黒田さん！」
「その攻撃を中止しないとお友達がどうなっても知りませんよ？」
「卑怯者…！赤崎さん！私達に構わず！」
「…フッフッフッ。ワシは良い部員達を持ったのぅ」
焦っていた華道山は自分の次のターンが回ってくれば勝てると思っているのか、急に強気になる。
「…僕は」
遊季都は一瞬どうしようかと悩んだ。白朧院と黒田に危害を加えさせてはいけない。しかし、これが勝利のラストチャンスかもしれない。そこで遊季都は考えた。このデュエルに勝利しつつも二人を傷つけさせない方法を。
「白朧院さん、僕を見てください」
「え？」
「…すいません、〔愛の奴隷〕」ﾎﾞｿ
遊季都は白朧院に指を向け悪魔の力を掛けた。白朧院の目から光が失われていく。
「白朧院さん！部員達を、重傷を負わせない程度に懲らしめて下さい！」
「…はい」
白朧院は気力なく呟くと

ダンッ

「いってぇ！」
部員の一人の足を全力で踏みつけ拘束をほどくと
「このやrぐわぁ！！」
「ぎゃあ！」
何処で習ったのか、肘鉄や背負い投げ等の体術で男子部員を圧倒していく。
【わーぉ♪悪魔の力の使い方、上手くなったね】
【ホントは使いたくなかったけど、これが一番の方法だと思うから】「…それじゃあ改めてホフリノオロチでもう一度攻撃！！」
「待て待て！今見逃したら部員に入れてやっても！」
「いいえ！こんな部活、入りたくありません！！」

霊龍王-ホフリノオロチ ATK 0 VS 魔王城-チャルハニア DEF 4500

華道山:LP 2700→0



デュエルは終わった。
「白朧院さん！こっちに来てください」
「はい…参ります」ﾊｧﾊｧ
白朧院は発情したような蕩けた表情をしつつ遊季都に歩み寄る。
「わ わ わ！解除！」
遊季都は白朧院の前で手を２回叩く。
「…っ！あれ…私は何を…っ！これは！」
周りには白朧院の手で懲らしめられた部員達が重なっていた。鼻血を出してたり痛みに泣いたり、とにかく凄かった。
「誰がこんな事を…」
【アタシから話そっか？】
【ううん。力を使ったのは僕だし、僕が謝るよ】
「主よ。それよりも」
いつの間にかホフリノオロチは本来の姿のポップロックに戻っていた。
「ぬおおぉぉ！！」
華道山は自分の腕を抑え苦しみだす。
「奴に宿っていた悪魔が出てくるぞ」
華道山の紋章が光り、部屋一杯にその光が広がる。光が消えると…
「…」
規格外な大きさの蟹がいた。遊季都のふたまわり程は大きい。甲羅は鋸のように刺々しくハサミが四本もある、少なくとも普通の生物としての蟹では無いことは一目で分かる。
「お主か」
「…」
ポップロックが語りかけるも蟹は動かない。
「な、なんだ…ば、化け物だ…」
「はーい、外野は黙っててねー。ほいっ」
化け物２体が並ぶ様を見ておののく部員達にラズベリーが姿を現し、手を翳す。
「う…」
部員達はバタバタと気を失い、倒れていく。
「ラズベリー？」
「その子とはそこそこ仲良いから任せといて」
そう言ってラズベリーは蟹の化け物の前に歩み寄る。
「久しぶりね。アンタも生き延びてたんだ」
「…」
「勝負に負けた以上、この人間と契約し直すけど結構居心地良いよ？」
「…」
「とりあいずさ、人間形態になって挨拶しなさい？」
「…」
蟹の化け物は光に包まれ、縮んでいく。
「…」ﾁﾏｯ
蟹の化け物の人間形態は意外なものだった。背の低い遊季都よりもさらに小さく、幼稚園児~小学生低学年くらいの女の子になったのだ。民族衣装とセーラー服を足したような不思議な服を着て、顔を隠すように魔女帽子を深く被っている。
「…」ｼﾞｰ
その蟹の女の子はラズベリーの後ろに隠れて遊季都の様子を伺ってるようだった。
「えっと…」
「…」ｼﾞｰ
蟹の女の子は遊季都を見続ける。
「うーん、この子結構シャイなんだよねー。…あのさ、アタシはこの世界ではラズベリーって名乗ってるけど、アンタは？」
「…」ﾓｼﾞﾓｼﾞ
蟹の女の子はなかなか答えない。そこで遊季都は近づいて、目線を合わせるようにしゃがむ。
「えっと…こんにちは。僕は…赤崎 遊季都って言います。君は？」
幼い女の子とはいえ、女慣れしてない遊季都の挨拶はどこかぎこちない。しかし、逆に遊季都のその辿々しい感じが一生懸命さを伝えたのか、小さな悪魔は顔を真っ赤にしながらか細い声で己の人間界での名前を告げる。
「… …チ…チャー…ハン…」