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HOME > 遊戯王SS一覧 > EP20 明からの暗

EP20 明からの暗 作:ター坊


チャレンジャーZ結成から二日後。
月曜の朝だが遊季都はまだ布団で寝息を立てている。もっとも今日は高校の創立記念日で休みなため何の心配もいらない。
「…ん。もう朝か…」
とはいえ、遊季都は真面目な少年のため体の生活リズムはしっかりしており、学校がある日と大して変わらない時間で目覚めてしまう。そんな遊季都は布団から出て1階に向かう。
「遊季都、おはよぉ」
「おはよう、ばっちゃん」
たいてい朝に顔を合わせるのは祖母の小町である。
「ばっちゃん、何か手伝えそうなことある?」
「じゃあ冷蔵庫から漬け物とか出しとくれ」
「うん」
変わらぬ朝のやり取り。けれど、最近は増えた住人によって賑やかになっていた。
「遊季都、小町。おはよう」
「あら、おはようチャーハンちゃん」
「小町、タコさんウィンナー」
「ええ。作ってるよ」
最初に来るのは小さなチャーハンである。その容姿、小町からしたら可愛くてしょうがない孫娘と言うところだろう。
「…」
「あら、ポップロックさん、おはよう。新聞ならそこに置いてるよ」
「…」コクッ
続いて黙って入ってきたのはポップロックで、小町に促されるまま席に座り、置かれた新聞を広げる。
「ポップロック、ラズベリーは?」
「アイツのことです。どうせまだ惰眠を貪ってるでしょう」
「おや、そうなのかい。遊季都、起こしにいっておやり」
「えっ…うん」
遊季都はやや歯切れが悪そうにするが、ラズベリーの部屋に向かう。
「ラズベリー…起きtのわぁぁっ!?」
「…ん?」
遊季都が部屋の襖を開けると、寝相が悪いのか布団を蹴り散らかし、Tシャツが捲れておなかとパンツ丸出しのだらしなくも目のやり場に困るラズベリーがいた。遊季都はその場でまわれ右をして目を閉じながら話す。
「ご、ごめん!じゃなくて!!ラズベリー、だらしない格好しちゃダメだって言ってるじゃないか!!」
「にゅふふん♪アタシのパンツ見たんだー。遊季都くんのエッチー♪」
女の子に免疫のない遊季都とそれをネタにからかうラズベリー。すっかりお馴染みの光景になった。



時間は経ちお昼近く。遊季都は服を着替え、洗面台に向かって入念に身だしなみを整えていた。
「遊季都くん、どうしたの?そんなにおめかししてデート?」
「そ、そういう訳じゃないけど…!!」
「じゃあ何?」
「それは…」
遊季都がおめかししている理由。それは二日前の夜に遡る。
チャレンジャーZのリーダーとして何をすべきなのかと考えているとスマホに1通のメールが届いていた。

《今週の月曜日は学校の創立記念日で休みでしたよね?
よろしければ私の家でささやかながら、チャレンジャーZ結成パーティーをしませんか?お返事待ってます

梓》

「ふーん、なるほどねー」
「白朧院さんの家って凄そうだから緊張して…」
そんな話をしていると

ピンポーン

玄関のチャイムが鳴る。
「え?来たかな」
「あっ、アタシも連れてってよ」



カード化したラズベリーを内の胸ポケットにしまって玄関を開けるとメイド服を来た若い女性が立っていた。
「こんにちは。私は梓お嬢様にお仕えするボタンと申します。赤崎遊季都様はご在宅でしょうか?」
「は、はい、僕ですけど」
「左様でございますか。それでは赤崎様、迎えの車がありますのでこちらに」
「は、はい」
遊季都は梓に仕えるというメイド、ボタンに言われるままについていった。

ブーン

車内。やはり梓は別世界の人間なのだなということを遊季都はまざまざと見せられる。ホントに車かと思わされる柔らかい座り心地のシート、全然揺れない快適さ、全面的な主張はないが僅かに香る花の芳香。普段乗ってるバスと比べるなど烏滸がましい位である。
「…こういうお車に乗るのは初めてですか?」
「えっ?は、はい」
「緊張なさらずとも良いですよ」
バックミラー越しにボタンがニッコリ微笑む。
「そういえば、黒田さんは?白朧院さんのことならきっと黒田さんにも連絡してると思うんですけど」
「はい。黒田様は別の者が迎えに行っておりまして、同時刻に屋敷前で合流する予定です」
「そう…ですか」
「…それにしても梓お嬢様が個人的に御友人を屋敷に招待なさるなんて初めてですよ」
「え?そうなんですか?」
「はい。それに子どものように目をキラキラ輝かせていまして」
「はぁ…」
「梓お嬢様のお父上…旦那様の立場上、同年代の子達とは遊びにくい環境にいましたので」
「遊びにくい?」
「同年代の子達は謂わばライバル企業のご子息・ご令嬢なので仲良くするという発想がなく、梓お嬢様がお友達になりたいと思う気持ちを利用されて出し抜かれたり蹴落とされたり…」
【ふーん。金持ちも楽じゃないねー】
「けど梓お嬢様が高校にご進学されて暫く、あんなに生き生きしてるのは恐らく赤崎様と黒田様のおかげです。ありがとうございます」
「い、いえ!僕はその…全然…」
ニッコリした顔でボタンに礼を言われ、遊季都は急なむず痒さに襲われた。



車が走ってどれくらい経っただろうか。市街地を抜け、高速ハイウェイを抜け、いつの間にか後ろに同じ車が走り、ある所で停車する。
「着きましたよ」
「わぁ…」
遊季都の目に最初に飛び込んだのは門だった。門は白木と鉄を組み合わせた城門のような作りで普通の家一軒なら余裕で通ることが出来そうな幅と高さがある。そこから左右に伸びる壁はレンガ造りで何処までも続いていた。
「こちらボタン。お客様をお連れしました」
ボタンがドライバー席の横にある無線にそう話すと門が中の方へパッカリとゆっくり開き、ボタンが車を進める。
通り過ぎる庭園には花を活けた生垣や噴水、彫像など様々なものがあった。
「お待たせしました」
「はい、ありがとうございました」
遊季都の席側のドアが外で待機している別のメイドの手によって開けられると遊季都は車から出る。
「おぉ…」
遊季都の目の前にはまるでRPGの貴族の屋敷のような建物が鎮座する。一目では全貌を捉えることが出来ず、着地点から玄関と思われる入り口までレッドカーペットが敷かれ、その両サイドにメイド・執事達がいらっしゃいませと整然と並ぶ。
「赤崎くん」
「黒田さん」
後続の車はやはり盛雄を乗せた車であった。
「すんげぇなぁ…」
「僕たち…場違いじゃないですね?」
【ちょっとビンボーくさいかもねー】
【うーん…】
遊季都と盛雄の格好は良くも悪くも普通の高校生の私服である。しかしその荘厳な屋敷には場違いな訳で、遊季都達はやや畏縮してしまう。
「赤崎様、黒田様。どうぞこちらに」
案内役のメイドが遊季都達を連れて扉を開ける。屋敷に入るとこれまた別世界であった。一面が大理石の床で、道のようにレッドカーペットが縦横に走っている。正面には巨大な階段があり、昇りきった踊り場の壁には盾と歯車を組み合わせたハクロウ・コーポレーションの巨大なエンブレムが掲げられ、その踊り場から二手に分かれて2階への階段が続いている。
その異世界感に遊季都達が呆気に取られていると2階から見知った顔が降りてきた。
「赤崎さん、黒田さん!ようこそいらっしゃいました」
「白朧院さん!?」
降りてきた梓の格好は学校の制服ともデュエルの活動をする私服の時とも違っていた。エメラルドグリーンのパーティードレスに高いヒールを華麗に履きこなし、綺羅星のように銀のピアスやネックレスが光る。まさに貴族の娘か一国の姫君のような出で立ちである。遊季都様は階段を昇り、梓が階段を降っていく。
「お待ちしていましたわ」
「えっと…今日は誘ってくれて…ありがとうございます」
「うん…。すんげぇ驚いたよぉ」
「いいえ。お友達を招くんですもの。このくらいはしなければなりませんわ。立ち話はなんですし、こちらにどうぞ」
終始嬉しそうに微笑む梓は普段の落ち着き払った態度とうって変わって無邪気な子どものようだった。



遊季都達が梓に連れられてきたのはテラスであった。日が降り注ぎ庭を一望できる広いスペースに白い丸テーブルと椅子3脚が置かれていた。丸テーブルの上には香り立つ紅茶や美味しそうなケーキ・スコーン・サンドイッチが並ぶティースタンド、高級そうなティーポット、とイギリス貴族のアフタヌーン・ティーのような豪華な仕様である。遊季都と盛雄は席に着くも、どう振る舞うのが正しいのか、どういう順番で飲食すれば正しいのか、などなど全然知らないお茶会マナーの事で頭が一杯一杯であった。
「えっと…」
「礼儀作法は気にしないで構いませんわ。今日は一緒にチャレンジャーZ結成をお祝いするためのものですし」
「そ、そうですか?じゃあ…」
「うん…」
遊季都と盛雄はティースタンドからケーキをそれぞれ一皿取り、フォークで切って口に運ぶ。
「うん!美味しい」
「うんめぇなぁ」
「良かったですわ」
ケーキの味で遊季都達の緊張がほどけ、梓も安心して、みな自然と口が綻ぶ。
これまでのデュエルの事を談笑し、紅茶や食べ物に舌鼓を打ち、チャレンジャーZ結成の小さな記念パーティーは楽しく進んでいくかに思えた。一人のメイドが梓に何かを耳打ちをする。
「えぇっ!?今日は確か…」
「はい…。それが急に予定を変更して昼食をこちらで、と…」
「そんな…」
梓の顔から笑みが消えてどんどん血の気が引いていく。
「どうしたんですか?」
「それが…」
「んん?なんか金ぴかの車が入って来たぞぉ?」
盛雄の言葉通り、ゆっくりとしたスピードで黄金に塗装された車が走ってきた。
「うぅ…。すみませんが赤崎さんと黒田さんはここで待って下さいますか?」
「え?はい…」
梓はそう言って足早にテラスを後にした。
暫くして、遊季都達はメイド二人に呼び出され、1階に降りる事になった。そのメイド達はいずれも申し訳無さそうに目が俯いていた。
1階に降りると暗く沈んだ梓と金のドレスを纏った厚化粧の女性がいた。
「あら?こんなのが友人ざますか?まー、なんて見るからに庶民なんざましょ」
「え?」
厚化粧の女性の第一声を遊季都と盛雄は一瞬飲み込めなかった。
「お母様。そのように仰るのはお止め下さい…」
梓は弱々しくも厚化粧の女性に反論する。そう、この女性こそ梓の母親なのだ。
「あの、はじめまして僕たちは」
「結構、庶民の名前なんていう余計なものは覚えない主義ざます」
遊季都が自分達の事を言おうとした途端にこれである。
【うわー。イヤミったらしいババア】
【何て言うか…取りつく島がないね】
徹底的に庶民と見下している節が見え見えな梓の母親に遊季都とラズベリーは当然良い印象を持つわけがない。
「梓ちゃん。もしかして最近、お稽古をお休みしていたのはこの庶民のためざますの?」
「それは…」
「まー!なんてことざましょう!!主人の強い要望で公立にしたというのに!!やっぱり私立にするのが正解だったざます!」
玄関に響くくらいの大声でわめき散らす梓の母親に遊季都とラズベリーはもちろん、より温厚な盛雄ですら引いていた。
「ふぅー、ふぅー。ところで庶民達はなんで梓をたぶらかしたざます?」
「そんな!たぶらか すなんて滅相もありません!ただその…普通に友達になったというか…」
「黙るざます!目的は金ざますね?言い値を払うから梓ちゃんとは金輪際関わらないと誓うざます!」
「えぇ!?そんなの無茶苦茶ですよ」
【あー。もう面倒だし〔愛の奴隷〕でとっとと従わせたら?】
【いやダメだよ!こういうことは悪魔の力とか使わずに、ちゃんと分かって貰えるよう説得しないと!!】
ヒステリック気味な梓の母親にラズベリーが疲れ始めた頃、娘は静かに口を開く。
「あの…お母様」
「ん?梓ちゃん、なんざます?」
「今回は私の身勝手な行為で申し訳ありませんでした」
梓は母親に深々と頭を下げる。
「お稽古を勝手に休んだ事も勝手に招いてしまった事も私がしたことです。どの様な叱責も受けます。ただ…彼ら、赤崎さんと黒田さんをこれ以上中傷することだけはどうか止めて下さい」
「梓ちゃん、何を言ってるのざましょう?」
「彼らは私が自分で初めて見つけた友達です。だから悪く言わないで欲しいんです」
「…ふぅ」
梓の必死の懇願に母親は折れた、











と思った。
「庶民と仲良くなるなんてもう貴方は白朧院の娘ではないざます!とっとと荷物を纏めて出て行くざます!」
なんと梓の母親は娘の言葉を聞いて激昂し、勘当宣言をしたのである。
「お母様!」
「もう貴方なんかに母と呼ばれる筋合いはないざます!早く出て行くざます!」
「奥様、少し冷静になっt」
「お黙り!貴方達はこの庶民をとっととつまみ出すざます!!」
梓の母親の暴挙をやめさせようとメイドや執事達も宥めようとするが、まさに聞く耳持たずであった。




結局、騒動は収まらず遊季都と盛雄は追い出され、チャレンジャーZ結成パーティーは最悪の形で終わってしまった。その日の夜、遊季都は敷いた布団の上で天井を眺めていた。
【遊季都くん、起きてる?】
【…うん】
まるで電話してるかのようにラズベリーがテレパシーで遊季都に話し掛けてくる。
【梓ちゃん、どうなったんだろうね?】
【うーん。どうだろう…】
【…なんか、帰ってきてから元気ないよね】
【うん…ごめん。ちょっと昔を思い出してね】
【昔…あっ】
ラズベリーは思わずハッとする。遊季都はこうして平穏に暮らしているようだが、かつて父親から勘当を言い渡され、ここに住んでいるのだ。今日の梓の姿は遊季都にとって過去の自分と重なるのだろう。
【ごめん!アタシったら】
【ううん、いいよ】
遊季都とラズベリーがそんな会話をしていると襖越しから小町が呼ぶ声がした。
「遊季都や。起きてるかい?」
「ん?ばっちゃん、どうしたの?」
「それが変な格好した女の人が来てねぇ。遊季都はいるかい?って。出てくれるかい?」
「うん」
遊季都は起き上がって玄関に向かった。
玄関にいたのは血相が青ざめたボタンだった。
「あの…どうしましたか?」
「夜分遅くに申し訳ありません。梓お嬢様はこちらにいらっしゃいましたか?」
「え?いいえ」
「そうですか…」
「あの…白朧院さん、どうしたんですか?」
「それが…行方知れずになってしまって」
「ええっ!?」

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光芒
カードが創造されてデッキトップが変わっても大して驚かれない世界であるためか、いつの間にかに住人が増えていてもあっさり受け入れるところに小町お婆ちゃんも遊戯王世界の人なんだなぁと実感しました。それでいて悪魔たちも赤崎家に慣れ親しんでいるのがなんだかほっこりします。ところで真面目に遊季都がラズベリーに食べられる(意味深)気がしちゃいそうなんですがそれは。

そして開かれた結成パーティーを妨害したのはまさかの母親。結果的に梓が家出(?)する事態となりましたが、トンビが鷹を産んだが如くの典型的なザマスオバさんですね。果たして本当にこの人が梓の母親なのか……シンデレラみたく実は継母とかそういうことはないですよね?(殴
(2017-12-30 02:11)
ター坊
光芒さん、コメントありがとうございます。
小町はあっさり受け入れてると言うよりも悪魔の暗示催眠を受けて彼女らの存在を自然のものとして何も感じなくなっています。だからチャーハンとか変な名前も何の疑問も抱かない。遊季都はどうt純潔を守れるのか、応援してください。
梓ママは実は…とかなく正真正銘の血の繋がった母親です。ただ絵面的には「え!?こんなババアから梓生まれたの!?」くらい落差があります。次回は家出娘・梓のお話です。 (2017-12-30 06:44)
ヒラーズ
何という母親だよ・・・いきなりひどいZOY!
庶民と仲良くなって何が悪いんだZOY!(本音)
次回も気になるが、お嬢様がすごく可愛そう・・・。 (2017-12-30 07:40)
ター坊
ヒラーズさん、コメントありがとうございます。
改心して認めると思うじゃん?ところがどっこい梓ママンはARC-Vのトップスもビックリな程の偏見家ですね。
梓ちゃんはどうなるのか?
?「お金がないなら体で稼げば良いだろ?」 (2017-12-30 08:09)
tres(トレス)
おおう、これはまた強烈な母親ですねえ。梓さんも苦労してそうだ。
そして行方知れず、ですか…嫌な予感がします。 (2017-12-30 19:22)
ター坊
tresさん、コメントありがとうございます。
ダメママンですね。梓ちゃんは反面教師にしたに違いない。
家出娘に遭いそうな目と言えばやっぱり…? (2017-12-30 20:04)

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