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HOME > 遊戯王SS一覧 > 24:極限のドロップ・ドロー・後編

24:極限のドロップ・ドロー・後編 作:ほーがん

第24話「極限のドロップ・ドロー・後編」



「轟臨せよ!!ランク4!!《E/m(イレイズ・マグニフィセント)ビッグバン・スプレマシー(★4/闇/悪魔/エクシーズ/0・0)》!!!」

それは巨塔のような姿。悠久の光を放つの魔導士はその両腕を振るい、見上げるものを威圧した。

「で、デカい・・・!!」

あまりの大きさに目を疑うカケル。男は言った。

「これこそが俺の力の象徴!!《E/mビッグバン・スプレマシー》の攻撃力・守備力は自身のオーバーレイ・ユニットの数×1000になる!!よって、その攻撃力・守備力は4000!!(ATK4000 DEF4000)」

「こ、攻撃力、4000!!」

ハルはたじろぎ、後ずさる。

「《E/mビッグバン・スプレマシー》がペンデュラムモンスターのみを素材としてエクシーズ召喚に成功した時、相手フィールドの表側表示モンスターを全て破壊する!!消え失せろ、雑魚共!!」

その邪悪なる光を受け、キジマとハルのフィールドからモンスターが消える。男はマーナを指差し叫んだ。

「さぁ、バトルだ・・・!!まずは、俺をおちょくってくれたガキから消えて貰う!!《E/mビッグバン・スプレマシー》でダイレクトアタック!!!」

魔導士はその手に光のエネルギーを集約する。その光を見つめるマーナの顔が絶望に染まって行く。

「ああ・・あ・・・」


「喰らえ、『ジ・エンド・オブ・グリッター』!!!」


解き放たれる破滅の光。視界を覆い尽くさんばかりに輝く絶望を前に、ハルは叫んだ。

「カケルさん!!」

「分かってる!!罠カード発動!!《モンスター・ギフト》!!自分フィールドのモンスター1体のコントロールを相手に移し、プレイヤー1人のライフポイントを2000回復させる!!受け取れ、ハル!!」

カケルのフィールドに伏せられていたカードが消え、ハルのフィールドに移る。透かさずハルはディスクの墓地からカードを取り出し、それを男に突きつけた。

「僕は墓地の罠カード《クラッシュ・アウェイ》の効果発動!このカードを墓地から除外し、自分フィールドのモンスター1体を破壊する事で、このターンのバトルフェイズを終了する!!」

刹那、マーナの眼前で破滅の光が消滅する。キジマは安堵の表情で言った。

「カケル、ハル。良くやってくれた・・・。」

「危ない所でしたね・・・。」

「言っただろ、絶対に守るって。まぁ、ハルの協力が無ければ、マーナ以外の誰かがやられてた所だったけどな。さぁマーナ、ライフを回復だ。」

「お兄ちゃん達・・・ありがとう!(LP2000→4000)」

笑顔を取り戻したマーナに、三人は笑う。だが、男は煮えたぎる形相で喚いた。

「貴様ら・・・!!よくもまぁ、そんな腑抜けた面ができたものだな!!俺の場には攻撃力4000の《E/mビッグバン・スプレマシー》が居る!!対して貴様らは、フィールドはがら空き、手札もわずか!!一体ここから何ができる!!?」

男の言葉にカケルは答える。

「できるじゃない、やるんだよ。ここで負ける訳にはいかねぇんだ。絶対に!!」

「そうです、僕はクリス達を救うまで諦めません!!」

「さぁ、とっととターンを渡して貰おうか!!」

男は三人を睨みつけると声を荒げた。

「減らず口を・・・!!ターンエンドだ!!俺に残された手札は0、よって《極限のドロップ・ドロー》の制約は発生しない!!」



ハルはデッキに手を伸ばす。そして、深呼吸するとカードを勢いよく引いた。

「僕のターン・・・ドロー!!」

そして引いたカードを恐る恐る確認すると、その顔に笑みが広がる。

「やった!!僕は魔法カード《儀式の下準備》を発動!!デッキから儀式魔法を手札に加え、さらにそのカードに記された儀式モンスターをさらに手札に加える!僕は《人形技師の創作》を手札に、そして《人形儀神 ゼペット・マリオネッター》も手札に加えます!」

デッキから迫り出したカードを手札に加えるハル。そして、そのカードを掲げ、力強く宣言した

「儀式魔法《人形技師の創作》発動!手札のもう一体の《人形儀神 ゼペット・マリオネッター》をリリースし、儀式召喚を行う!!」

天より舞い降りる無数の糸。その糸の先に新たな光が紡がれる。


「無機質なるものに、慈悲の光を与える傀儡の神よ!満たされぬ器に、魂を授けたまえ!!儀式召喚!!降臨せよ、レベル7!!《人形儀神 ゼペット・マリオネッター(☆7/光/魔法使い/儀式/0・3000)》!!」


輝きの操り糸を持つ人形の神。その老師は慈悲と命の光を持ってして、ハルの前に降り立った。

「来たか、ハルの切り札が!」

笑うキジマ。ハルは不敵な笑みを浮かべながら言う。

「行きますよ!僕は《人形儀神 ゼペット・マリオネッター》の効果発動!このカードの儀式召喚に成功した時、墓地から「ドール」永続罠をモンスターとして可能な限り特殊召喚する!!死の淵より蘇れ、《奇怪のマジック・ドール》!!」

しかし、その希望の糸は一瞬にして砕け散る事になる。

「無駄だぁ!!俺は《E/mビッグバン・スプレマシー》の効果発動!!1ターンに1度、オーバーレイ・ユニットを1つ使う事で、このターンに特殊召喚された相手のモンスターの効果を無効にし、破壊する!!」

「そ、そんな!!」

魔導士の掌から絶望の閃光が溢れる。その熱と煌めきが、命を紡ぐ糸を切り裂いた。

「そして、この効果で破壊したモンスターの攻撃力または守備力分のダメージを互いのプレイヤーに与える!!《人形儀神 ゼペット・マリオネッター》の守備力は3000!!よって、3000のダメージを喰らえ!!!」

「ああ・・あ・・・!!」

ハルは愕然として、魔導士の姿を見上げる。その破滅の光を一身に浴びると、ハルは意識を失った。

「ご・・めん・・・クリ・・スさ・・・。(LP3000→0)」

「ハル!!」

驚愕するキジマとカケル。怯えるマーナの足が震えた。男は嘲りながら口を開く。

「はははぁ!!無駄なんだよ、どんなに足掻いてもな!!オーバーレイ・ユニットを使った事で《E/mビッグバン・スプレマシー》の攻撃力は下がった(ATK4000→3000 DEF4000→3000)が、俺がダメージを受ける効果が発動した事で《E/mサイコ・インフェクショナー》のペンデュラム効果が発動!!3000のダメージ、代わりに受けてもらう!!俺が選ぶのは・・・カマキリ野郎、貴様だ!!」

「なっ・・・!!」

光の柱から飛び出た光線が、一瞬にしてキジマの身を貫いた。

「ば、馬鹿・・・な・・・。(LP3000→0)」

瞳を閉じ、倒れ込むキジマ。震える声でマーナが叫ぶ。

「ナオト兄ちゃん!!」

「へへへっ、あははは!!!愉快だなぁ、ええ!?これで残るは二人!!さぁ、どうする!?」

カケルの額を汗が使う。

「強い・・・なんて強さだ。」

ふと、カケルは自分の手を見つめた。恐怖と焦燥に振動する指先にカケルは問う。

「怖いのか・・・俺は・・・けっ、あんな大見得切っといて・・・今更怯えてんのかよ・・・。」

ふと、視線を感じたカケルは、マーナの方へ目をやった。その目は怯え、すがるようにカケルを見つめる。カケルはその目に、どこか見覚えがあるような気がした。

「カケル兄ちゃん・・・。」

「・・・マーナ。」

倒れ、意識を失ったハルとキジマ。男の後ろには、身体の自由を奪われ、今にも力尽きそうに肩で喘ぐリンカ達。辺りを見渡しその様相を認識したカケルは、ある過去を思い出した。

「そうだ・・・前にもあった・・・こんな状況が・・・。」

それは戦争の真っ只中。焼き付く炎と、迫り来る軍勢。訳も分からぬまま逃げ惑った。

「俺は追いつめられて、周りの大人達にすがって・・・。」

そこでようやく思い出す。マーナの瞳に感じた既視感。その正体を。

「・・・あの時の俺だ、今のマーナは。でも、あの大人達は負けて、それで・・・」

流れた血。絶望。ただ逃げた。逃げて、逃げて。

「でも、俺は・・・違う・・・そうだろ・・・」

「どうした!?貴様のターンだぞ!?さっさと進めて、さっさとくたばれ!!」

カケルの中で少しずつ闘志が蘇る。震えを押さえ込むように拳を握り、叫んだ。

「・・・俺は、俺は諦めない!!仲間を取り返すまでは・・・絶対に!!」

拳を開き、カケルはデッキへ手を伸ばす。



「答えろ、俺のデッキ!!今こそ活路を示せ!!俺のターン、ドロー!!!」

カケルは引いたカードを横目で確認すると、透かさずディスクに叩き付けた。

「・・・俺は魔法カード《渇望融合(クレイブ・フュージョン)》を発動!!手札を全て捨て、自分のデッキの上から5枚のカードをめくり、その中に正規素材となるモンスターが揃っていた場合、それを素材に融合召喚を行う!!」

表示されるカード。男は言った。

「はっ!!デッキの上から5枚だと!!それで揃わなかったらどうする!!?」

「・・・いや、揃う。揃うはずだ。」

それを聞いたマーナが声を上げた。

「カケル兄ちゃん!」

「大丈夫だ、マーナ。お前は絶対、俺が守る・・・!!それが・・・それが、俺の約束だ!!行くぞ、ハイドラー!!」

カケルはデッキに手を伸ばすと、一気にカードを引き抜く。それを確認したカケルは、その中から3枚のカードを取り出した。

「俺は、めくったカードの中から《I・Bハイドラー(☆4/光/機械/2100・1200)》と《B・W(ブレイバー・ウェポン)メガトロ・ガン(☆5/炎/機械/ユニオン/2000・0)》、そして《B・Wガルバトロス・キャノン(☆6/炎/機械/ユニオン/2400・0)》を融合する!!」

「な、なんだと!!本当に融合素材を引き当てたのか!!?」

仰天する男を尻目に、カケルはそのカードを掲げた。


「鐵の翼、轟炎得る時、破壊神の系譜に連なる!!誓いの炎に滾る戦士よ、蒼空に舞い行け!!武装融合!!撃ち抜け、レベル8!!《I・Bハイドラー/ユニクロス・ガンナー(☆8/炎/機械/融合/3000・2500)》!!!」


星々を喰らう、鐵の破壊神。その鱗片たる炎を手に、漆黒の勇者は新たな姿へ生まれ変わった。

「攻撃力3000・・・!だが、忘れたのか!!《E/mビッグバン・スプレマシー》の効果発動!!オーバーレイ・ユニットを使う事で、相手の特殊召喚モンスターの効果を無効にし、破壊する!!」

「無駄だ!!《I・Bハイドラー/ユニクロス・ガンナー》は相手の効果では破壊されない!!」

その言葉に、男は舌打ちをする。カケルは言った。

「俺は《I・Bハイドラー/ユニクロス・ガンナー》の効果発動!!1ターンに1度、墓地の「ブレイバー」1体を除外する事で相手フィールドのカード1枚をデッキに戻す!!俺は墓地から《B・Wガルバトロス・キャノン》を除外!!そして選ぶのは、当然《E/mビッグバン・スプレマシー》だ!!」

漆黒の勇者は肩のキャノン砲を構えると、狙いを定めた。その砲口にエネルギーが充填されゆく中、男は叫ぶ。

「ふざけるな!!《E/mビッグバン・スプレマシー》の効果発動!!1ターンに1度、このカードが効果対象となった場合、その対象をフィールドの正しい対象となるカードに変更できる!!俺は、ペンデュラムゾーンの《E/mハザード・インセイン》に対象を変更!!」

キャノン砲から発射されたエネルギー弾は、軌道を大きく逸らすと、光の柱にぶつかった。

「くっ・・・!!だったらバトルだ!!《I・Bハイドラー/ユニクロス・ガンナー》で《E/mビッグバン・スプレマシー》に攻撃!!『ジェネラル・ブラスター』!!」

「迎え撃て!!《E/mビッグバン・スプレマシー》!!『ジ・エンド・オブ・グリッター』!!」


勇者のキャノンが唸る。それと同時に魔導士は掌から閃光を放った。互いの光が激突し、空間を揺らす。やがてエネルギーの波紋は四方に広がり、互いの身体を打ち砕いた。


「ぐっ・・!!俺の《E/mビッグバン・スプレマシー》が、相打ちだとっ!!だが・・・俺にはまだ、この手がある!!罠カード発動!!《リ・イマジネーション・エクシーズ》!!2つ以上のオーバーレイ・ユニットを持った、自分フィールドのエクシーズモンスターが破壊された時、そのモンスターを特殊召喚する!!蘇れ、《E/mビッグバン・スプレマシー》!!」

銀色の床を砕き、再び魔導士が立ち上がる。

「そして、特殊召喚したエクシーズモンスターが破壊される前に持っていたオーバーレイ・ユニットの数だけ、自分の墓地のモンスターを選び、そのモンスターをオーバーレイ・ユニットにする!!俺は墓地の《E/mアルケミー・マイスター》、《E/mヘイト・スマイリー》、《E/mマインド・デストロイヤー》をオーバーレイ・ユニットに加える!!そして、《E/mビッグバン・スプレマシー》の攻撃力・守備力は、その効果により3000となる!!(ATK3000 DEF3000)」

男は大口を開けて笑いながら、カケルに言った。

「あっはっはっは!!!無駄にモンスターを失ったなぁ!!これで、俺の勝利は決まったも同然!!さぁ、とっととターンエンドするんだな!!」

「・・・俺は破壊された《I・Bハイドラー/ユニクロス・ガンナー》の効果発動。このカードが破壊された時、相手の墓地の魔法・罠カード1枚を選び、自分の手札に加える事ができる・・・!!」

突如、男の墓地からカードが迫り出す。そのカードは引き寄せられるように飛び出ると、カケルに手に収まった。

「お前の魔法カード《極限のドロップ・ドロー》、確かに貰ったぞ!!」

「なっ、俺のカードを!!貴様!!卑小な盗人が!!」

カケルは怒号を飛ばす。

「盗人はお前だ!!俺の仲間を、リンカ達を拘束し、自分の物にしようなんて・・・俺は許さない!!魔法カード《極限のドロップ・ドロー》発動!!自分の手札が1枚の場合、ライフを半分払う事でデッキから3枚のカードをドローする!!(LP3000→1500)」

デッキに手を伸ばし、カケルは腕を振りかぶった。そして、引いたカードを確認すると、その中の1枚を見つめた。

「こいつは・・・そうか・・・分かった!俺は魔法カード《贈呈融合(ギフト・フュージョン)》を発動!!墓地の融合モンスター1体を除外し、そのモンスターに記された融合素材モンスターを正規素材に含む融合モンスター1体を融合召喚扱いで、相手フィールドに特殊召喚する!!」

「相手のフィールドに、融合モンスターを・・・!?」

困惑する男。カケルは高らかに宣言した。

「俺は、墓地の《I・Bハイドラー/ユニクロス・ガンナー》を除外!!そして、同じ融合素材を持つこのモンスターを呼ぶ!!」

異次元の扉が開き、墓地の勇者が消えて行く。そして、新たに生まれた光の中から、漆黒の翼が広がる。


「鐵の翼、天に舞う時、新たな戦士の鼓動が始まる!!その黒き豪腕を振るい、気高き姫の守護神となれ!!飛び立て、レベル8!!《I・Bハイドラー/ステルスバスター(☆8/光/機械/融合/2500・2000)》!!」


音速の翼を持つ漆黒の勇者は、轟音を響かせマーナの前へ降り立った。

「カケル兄ちゃん・・・ありがとう!!」

「頼んだぞ、ハイドラー・・・。」

漆黒の勇者を見上げ、カケルは微笑む。だが、男は声を荒げた。

「はっ、学習しない愚か者め!!《E/mビッグバン・スプレマシー》の効果発動!!オーバーレイ・ユニットを使い、相手の特殊召喚モンスターの効果を無効にし、破壊する!!」

魔導士はその力を振るい、破滅の光を放った。しかし、漆黒の勇者はその光をも切り裂く闇となる。

「愚か者はそっちだ!!《I・Bハイドラー/ステルスバスター》の効果発動!!1ターンに1度、相手の融合・シンクロ・エクシーズモンスターの効果が発動した時、それを無効にし破壊する!!マーナ!!」

「うん!!行っけぇー、ハイドラー!!」

漆黒の勇者は翼を広げると、瞬時に空中へ飛び上がった。そして、両腕を構え、そこに内蔵されたミサイルポッドを展開する。

「な、何!?そ、そんな馬鹿な!!」

たじろぐ男。カケルとマーナは声を合わせ叫んだ。


「「『バトルボンバー・シュート』!!!」」


発射される無数のミサイル。その弾頭は尾を引き、まっすぐに魔導士へと向かった。

「や、やめろぉ!!!」

男の訴えも虚しく、魔導士の身体は砕かれ、崩れ落ちて行く。阿鼻叫喚の中、最後の爆発と共に、魔導士は男の前から消え去った。男は膝から崩れ落ちると、うめき声を漏らした。

「俺の・・・俺の最強のモンスターが・・・」

爆発による煙が薄れていく中、カケルは呟いた。

「これで・・後は・・・。俺は、《極限のドロップ・ドロー》の効果でこのターンの終わりに手札を全て除外する。そして、その数×1000のライフを失う。マーナ、すまねぇ。」

「カケル兄ちゃん・・・後は任せて。」

マーナは力強く言った。カケルは自分の手札を見て愚痴を零す。

「まさか、残りのカードが全部モンスター、しかも上級レベルだけって・・・全く、ついてないな、俺は・・・。ハイドラー、マーナを頼んだぞ・・・ターンエンド。(LP1500→0)」

手札を全て落とし、カケルは膝を付いた。同時に、マーナが一歩前へ出る。


「私のターン、ドロー!カケル兄ちゃん達の思い、私が受け継ぐ!バトルよ!《I・Bハイドラー/ステルスバスター》でダイレクトアタック!!」

漆黒の勇者はマーナの命を受け、ジェットパックを展開した。そして、一瞬の加速から、膝を折ったままの男に迫る。

「こんな所で俺の・・・俺の夢が・・・!!」

「喰らいなさい!!『ダークウィング・サンダーボルト』!!」


刹那に光るその翼は、男の身体をその野望ごと切り裂いた。

「うわぁぁぁああっ!!!(LP1350→0)」


『勝者:マーナ』


荒い息を整えながら、カケルは立ち上がる。

「はぁ・・・よくやったな、マーナ。」

カケルはマーナに歩み寄ると、その小さい頭を撫でた。マーナは嬉しそうに笑いながら言う。

「カケル兄ちゃんのおかげだよ。カケル兄ちゃんがモンスターを残してくれたから、私勝てたの。ありがとうカケル兄ちゃん。」

飛び付いてきたマーナに微笑むカケル。その時、ふらつく足で男が立ち上がった。

「・・・ふ・・・ふざ・・けるな・・・俺は・・・ペンデュラムの力で・・・貴様らを・・・」

マーナを後ろに匿まうと、カケルは男に向かって言った。

「俺達の勝ちだ。お前が何者なのか、この建物とはどういう関係なのか、どうしてペンデュラムを持っているのか、全部聞かせて貰おうか。」

「くっ・・・俺は・・俺は・・・」

その時、マーナの横に立つ《I・Bハイドラー/ステルスバスター》が男に睨みを効かした。それに怯んだ男は座り込むと渋々、口を開く。

「・・・俺は三日前にここへ来た。ちょうど、あそこに居る女が、この建物から出て行く所を見つけてな。あの中へ入れば、次にあの女が来た時に捕まえられるかもしれない。そう思って・・・」

ナナに視線を向ける男の言葉にカケルは呆れる。

「はぁ?お前、何から何まで下心だけで行動してんのかよ。呆れるぜ。・・・んで?」

「うっ・・・それで俺はここへ入った。ここに入った時落とし穴に落ちたが、その先が偶々この部屋の近くだった。」

カケルは周りを見渡しながら問う。

「ここは何の部屋だ?」

「・・・きっと、モニタールームか司令室か、そんなんだろう。ともかく俺はここに来て、パネルをいじった。すると電気が付いて、色々動き始めたんだ。なんでかは俺にも分からん。」

「そういや、地下に温泉もあったな。その熱で発電してるってのは、割とマジだったって事か。」

その時、カケルの後ろから声が聞こえた。

「ここは元々、用心深い金持ちの家だったらしい。地下に温泉もあるってことは、発電システムくらいあってもおかしくないだろ。」

「キジマ、大丈夫か?」

ハルに肩を貸しながら起き上がったキジマは、カケルに言った。

「どうやら、勝ったみたいだな。マーナも無事で良かった。」

「無事も何も、マーナのおかげで勝ったんだぜ、キジマ。」

カケルの言葉に目を丸くしたキジマはマーナに問う。

「マーナ、本当か?」

「カケル兄ちゃんがモンスターをくれたの!だから私は勝てた!カケル兄ちゃんのおかげだよ!」

照れくさそうに笑うカケル。キジマは申し訳なさそうに言った。

「・・・悪かった、何もできなくて。」

「そんな、キジマは悪くないさ。」

「ありがとう。約束・・・守ってくれたんだな。カケル。」

二人は小さく笑い頷き合う。そこから視線を外したキジマはカケルにハルを預けると、男に詰め寄った。

「・・・それじゃあ、この建物のカラクリは全部お前が弄ってたんだな!?女の子を捕まえる、ただそれだけの為に!!」

胸ぐらを掴み、睨むキジマ。すっかり萎縮した男は慌てて口を開いた。

「そ、そうだ!!今の世の中、女は貴重なんだ!!欲しがって何が悪い!!」

開き直ろうとした男の頬を、キジマは思い切り殴り飛ばした。激昂しながらキジマは叫ぶ。

「いいか!!よく耳を搔っ穿じって聞け!!俺は便利屋をやってる!!いわば人助けだ!!それはな、お前みたいな自分勝手な奴に泣かされた人々を見て来たからだ!!そんな人の力になる為に、俺は便利屋になり、戦って来た!!」

再び男に詰め寄るキジマ。男は恐怖の涙を流しながら後ずさる。

「俺は戦争が憎い!!この世界をぶっ壊した連中が憎い!!でもな、俺が一番憎いのはお前みたいに、戦争を生き残りこれからを必死に生きようとする人々を食い物にする輩だ!!己の身勝手な欲望の為に、他人を傷つける奴だ!!」

「ひっ・・・!」

「戦争の後、俺はお前みたいな連中を沢山見て来た!!弱い者から食い物を奪い、暴力でねじ伏せる!!女性の身体を弄び、癒えない傷を植え付ける!!そしてあげくに始まる、醜い殺し合い!!反吐が出る!!!」

あまりの怒り様に、カケルはマーナの耳を塞いだ。

「いいか!!お前が昔どういう人生を歩んでいたかなんて関係ない!!大事なのは、今だ!!人としての道徳を捨てるな!!”人間”である事を捨てるな!!少しは、周りと助け合う事を考えろ!!それが生き残った者の責任だ!!!」

「・・・ひいぃっ、ご、ごめんなさい・・・!!」

いつしか男の顔は涙に濡れ、汚く崩れていた。見かねたカケルがキジマに声を掛ける。

「キジマ、もういい。もう十分効いてるっぽいから。」

「ったく・・・。ところで、お前。どこでペンデュラムを手に入れたんだ。」

キジマの問いに男は、涙声で答える。

「地下街だ・・・あの・・・露店街で・・・」

「地下街・・・ダストポリタンの事か?」

カケルの言葉に男は頷く。

「そうだ。そこにいる闇商人から買った。そいつが誰なのかも知らない。これ以上、俺が話せる事はもう無い。」

「本当に無いんだろうな!!?」

キジマの剣幕に、男は頭を抱えて言葉を紡ぐ。

「無い!本当に無い!仲間の女達も返す!だからもう怒鳴らないで・・うっ・・うっ・・・」

男の言葉を受け、カケルは少し考えるとキジマに言った。

「ダストポリタンの闇商人。リチャードの事だ。マサカーの一員で、俺にユーガの手配書を送りつけて来た人物。」

「やっぱりマサカーが絡んでるのか。しかし、そのリチャードって奴はペンデュラムをバラまいて、一体何を企んでるんだ?」

その質問に、カケルは肩を竦めた。キジマはその疑問を頭に巡らせながら、男の方へ向き直る。

「よし、お前。」

「な、なんだ・・・?」

男から視線を外し、キジマはナナに歩み寄った。そして、その腕を止めるロープをほどき、彼女の身体を抱きかかえる。

「はぁ・・・ありがとう・・・キジマくん。」

「ったく、風呂入るだけでとんだ苦労だったぜ、ナナさん。」

安堵の笑みを浮かべるキジマ。そして、ナナをカケルに預けると、彼女を縛っていたロープを男の手足に巻き付け始めた。

「お、おい、何を・・・」

「何って・・・とりあえず大人しくしてもらわないとな。」

その言葉に男は焦った。

「ま、待ってくれ!こんなの付けて、お前らが居なくなったら、俺はどうなる!う、飢えて死んじまうだろ!」

「じゃあ、今すぐこっから出て行くか?もう二度と、こんな事はしないと誓ってな。」

男は激しく頷き、懇願する。

「誓う!誓うから、外してくれよぉ!!」

その言葉を受け、キジマはロープをほどいた。それを確認した男は一目散に近くの扉へと走る。

「はっ・・・もう、こりごりだっ!」

その扉が閉じた瞬間、警告音が鳴る。

「な、なんだ!ここ妙に狭いぞ・・・あれ!?と、扉が開かない!!」

扉の向こうで困惑する男。その瞬間、部屋のスピーカーから音声が響いた。

『緊急脱出ポッド、作動。射出まで5、4』

それを聞いたキジマは笑う。

「うぉっ、この屋敷そんなものまであんのか。」

「ま、待って!!待ってくれ!!」

男は扉を叩くが一向に開く気配は無い。そして、轟音はついに頂点に達した。

『3、2、1、0。射出。』

「待ってくれぇぇ!!」

次の瞬間、男は閃光となって打ち上がった。一瞬にして姿が消えた事にキジマは関心の声を漏らす。

「すごいな、向こうの部屋ごと打ち上がったよ。まぁ、あいつも、あんだけ言っておけばちょっとは効いてるだろ。」

「・・・ちょっとじゃない気もするけどな。さて、リンカ達を解放しよう。」

「僕も手伝います。クリスさん、レイ!今外しますからね!」

少女達は解放されるや否や、立ち上がり溜め息を付いた。

「はぁ・・・私達が不甲斐ないばかりに・・・迷惑を掛けたな、カケル。」

リンカの言葉に、カケルは微笑んだ。

「いいさ、リンカがこうして無事で居てくれてるなら、それで。」

その笑みにリンカは顔を赤くすると、腕を組んで言った。

「し、しかし、危なかったんだぞ!危うくあの男の慰み者になる所だった。・・・正直、今回は少し怖かった。」

「怖かったのか?あのリンカに怖いものがあるなんてな〜。」

いたずらっぽく言うカケルに、リンカは声を荒げる。

「わ、私だって女だ!怖い事くらいはある!」

「冗談だよ、冗談!わかってるさ、そのくらい。まぁ、元気そうで良かった。」


ハルはクリス達のロープをほどくと跪き、仰々しく言った。

「ああ、僕の麗しき姫!お助けに参りました!」

しかし、クリスはハルを蹴り飛ばし叫ぶ。

「全く、遅いのよ!ハル君のバカ!」

「デュエルでも結局やられていたしな。」

仰向けに倒れ込んだハルは、涙を流しながら呻く。

「そ、そんなぁ〜。僕、頑張ったんですよ・・・。」

そんなハルの視界に、逆さになったクリスの顔が映り込む。

「・・・まぁ、でもちゃんと助けに来てくれたのは、嬉しかった・・・わよ。」

恥ずかしそうにそっぽを向くクリス。ハルは飛び起きると、クリスに手を伸ばした。

「クリスさん!やっぱり僕の気持ちに気付いて・・・」

「調子に乗らない!」

再びクリスの蹴りが炸裂する。二人のやり取りを見て、レイは肩を竦めた。

「全く、ハルといいクリスといい・・・。まぁ、タイミングは遅かったが、助けてくれて感謝するぞ、ハル。」

その時、カケルが思い出したように言う。

「そうだ、本来の目的を忘れてないよな?」

「ああ、そうだった。地下に温泉があるんだよな、カケル。」

キジマの言葉に、カケルは頷く。マーナはリンカに抱きつくと顔を輝かせた。

「一緒入ろ、お姉ちゃん!」

「ああ、約束だからな。」

リンカはマーナを抱き寄せると、頭を撫でた。ナナは申し訳なさそうに言う。

「ごめんなさい・・・こんなことになって・・・罰として温泉には私・・・」

縮こまるナナを見かねたレイは、その肩に腕を回すと笑った。

「あんたがどこの誰か知らないが、あそこは中々良い温泉だったぞ!さぁ、行こうか!」

「ええ、ちょ、ちょっと・・・」

困惑したまま、ナナはレイに連れて行かれる。その後を慌ててクリスが追いかけた。

「レイ!待ってよ!私も、もう一回入るんだから!」

「・・・そういうことだ。カケル、行って来る。」

マーナの手を握るリンカが声を掛けた。カケルは笑って手を振る。

「ああ、気をつけてな。マーナも。」

「うん!おっふろ〜おっふろ〜」

スキップするマーナに引っ張られリンカは部屋を後にした。残された男三人は互いに目を合わせると、同時に噴き出し、笑い合う。

「ふふふっ、なんだよ、キジマ!急に俺の顔見て笑って!」

「ふふっ、そういうカケルさんだって、僕の顔見て笑ったじゃないですか!」

「あははっ、いや、すまねぇ。なんかあいつらの元気な姿見たら、急に安心しちまってさ。」

それを聞き、ハルが頷く。

「ふふふっ、そうですね。皆さん元気で良かった。やはり女性は元気な姿が一番です。」

「そうだな。はぁ、俺も温泉入りたいなぁ・・・。」

「まぁ、今はお嬢さん方を優先してあげよう。レディーファーストって奴さ。」

キジマの言葉に納得する二人。そのキジマの脳裏には、ある懸念が浮かんでいた。

「(・・・ペンデュラムをバラまくマサカー達。一体、何の目的だ。仲間を増やそうとするんじゃなく、その力だけを人に与える・・・それに何の意味が・・・。)」




一方、温泉へと向かったレイ達は。


湯煙立ち籠める中、湯に浸かるレイが満足そうに口を開く。

「いやぁ〜やはり温泉とは良いものだな。戦いの疲れが消えて行く。」

桶で湯を掬い、肩に掛けながらナナが呟く。

「はぁ・・・そうね、長年暖かいお風呂に入って無かったから、なんだか新鮮だわ。」

「ふう、ああは言ったものの、来て良かったな。マーナ、熱くないか?」

リンカの問いに、隣で浸かるマーナがにやけながら言う。

「だいじょうぶ〜・・・あったかいおふろ〜・・・んへへ」

その時、レイの隣に座るクリスが耳打ちする。

「ねぇ、レイ。」

「ん、なんだクリス?」

クリスは尻目でナナを見つめながら言う。

「あの人・・・大きいわね。」

その言葉にレイも頷き同意を示す。

「ああ、確かに。デカいな。どうすればあんな大きさになるんだ。」

「聞いてみたくない?」

二人の視線に気付いたナナが声を上げる。

「な、なにかしら?」

困惑するナナ。クリスは意を決して、彼女に詰め寄った。

「あの、ナナさん、ですよね?」

「ええ、そうだけど。どうかしたの?」

深呼吸するクリス。そして、ナナの耳元に口を近づけると、小声でその疑問を伝えた。

「あの、その、どうしたら大きくなりますか・・・胸。」

「へ、ええ!?ど、どうしたらって言われても・・・」

見かねたレイが立ち上がる。

「ええい、クリス!まどろっこしい!私が直接確かめてやる!」

「ちょ、ちょっと何する気?」

不安な表情を浮かべるナナに、レイは両手の指をわきわきと動かしながら告げる。

「案ずるな、その胸の秘密、ダイレクトアタックで確かめさせてもらう!」

「ええ!?ま、待って」

問答無用でナナに飛びかかるレイ。その衝撃で顔に飛び散った水しぶきを拭いながら、リンカがぼやく。

「騒がしいな、全く。」

「ねぇ、リンカお姉ちゃん。」

ふと、聞こえたマーナの声に、リンカは答える。

「ん、なんだ、マーナ。」

「リンカお姉ちゃんはカケル兄ちゃんの事、好きなの?」

その言葉に、リンカは思わず立ち上がる。

「なっ、何故だ!?何故そうなる!?」

「好きなの〜?」

ねっとりと質問するマーナに、リンカは顔を赤くした。

「ちがっ、違う!カケルはそういうのではない!私達はあくまで仲間だ!私とカケルと、ユーガ!それに、最初のカケルは酷かったんだぞ!食料保管庫があると私を騙して!」

「でも、最近は違うんでしょ?ほんとは好きなんじゃない〜?」

マーナの質問攻めに、リンカは顔を真っ赤にしながら喚く。

「好きじゃない!そういうのではないと言っている!カケルは・・・カケルは・・・」

湯気の中で混乱しはじめたリンカの後ろで、ナナの声が漏れる。


「ちょ、ちょっと!そ、そんなに触ったら、あっ・・ん・・・」

「ほほう!これはすごいぞ!クリス!お前も触ってみろ!」

「そ、そうね・・・ちょっとだけ・・・」


ナナに手を伸ばすクリス。一方マーナはまだ、リンカへの質問を止めていなかった。

「素直になりなよ〜リンカお姉ちゃん。」

「カケルは・・・そういうのじゃ・・・違うんだ・・・カケルはぁ・・・カケル・・・」





男達は床に寝そべり天井を見上げていた。

「・・・遅いな。」

「そうですね・・・。」

溜め息混じりにキジマは言う。

「まぁ、女性はそういうものだろうよ。長風呂好きってさ。」

「ふ〜ん。」

カケルとハルは感嘆をもらす。三人が温泉に入れたのは、それからしばらく経っての事だった。



次回 第25話「秘められた殺意(ちから)」
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ター坊
三人がマーナに託す形での勝利となりましたな。そしてギャグっぽい感じでリアル脱出装置で退場した下心男ざまぁ。
そして本格的な温泉回となった後半は恋バナに乳揉みなどお約束ながらも楽しい展開が見れて満足です。 (2016-06-07 10:01)
ほーがん
ター坊さんコメントありがとうございます。
マーナのデュエルがようやく描けて満足です。下心満載の男はロケットの如く打ち上がりましたが、果たして再登場はあるんでしょうか。
後半はせっかくお風呂というワードを出したならやらねばと、テンプレ展開に挑戦してみました。これを機に彼女たちの仲も深まっていくことでしょう。
次回はようやくこの物語の主人公にスポットがあたります。お楽しみに。 (2016-06-07 14:09)

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