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16:強襲する黒羽 作:ほーがん
第16話「強襲する黒羽」
リチャード達が地下に潜った後。ジェイミーは一人残された教会の中で、おもむろに端末を取り出した。
記憶の中に取り付き、離れないその姿。ジェイミーは冷ややかな目で端末を操作する。
「・・・」
その画面に表示された映像。そこには古ぼけた書店が映し出されていた。そして、その奥に佇む人の影。
ジェイミーは己に問う。
(これは監視か?それとも、ただの感傷か?冷血であろうとする心の中に残された、人としての感情。それが、この俺にこんな事をさせているのか。そこまで悔しいか、ジェイミーよ。)
その時。本来ならば映らない筈の存在にジェイミーの眉が動く。
「・・・来たのか。」
端末を上着の内ポケットに仕舞い込み、ジェイミーはゆっくりと腰を上げた。
「案外、早かったな。さて・・・」
教会の扉を開け、ジェイミーはディスクを展開する。
「《BF Mー太陽風のプラズマ》を召喚。」
ソリッドビジョンとして浮かび上がる鳥獣。その背中に飛び乗り、ジェイミーはフードを被ると姿勢を低くする。
「・・・しかし、奴らが彼女に干渉するとはな。」
刹那、急加速する鳥獣はわずかな光の帯を残し、灰色に染まった空へと消えた。
一方、カケル達は。
「おい、ジェイミーってのは・・・」
キジマの問いにカケルが答える。
「教えただろ、マサカーの事。ジェイミーはその一員で、ユーガの仲間を装って俺達に接近してきたんだ。もし、ナナさんの話が本当なら・・・」
「ジェイミーは、この街を襲ったペンデュラム軍の一員と言う事になる。」
カケルに続けるようにリンカが口を開く。交わされる言葉にナナは困惑しながら口を挟んだ。
「な、なんなのよ、そのジェイミーって。マナ姉を殺した奴と何か関係があるの?」
神妙な面持ちで、リンカはナナの方へ顔を向ける。
「関係ある所ではない・・・おそらく、ジェイミーはその張本人だ。」
それを聞き、ナナは驚愕する。
「そ、そんな・・・奴が・・・生きてるなんて・・・私はずっと、奴も戦争の中で死んだと・・・でも、そんな・・・」
次第にナナの拳に力が籠って行く。蘇る怒りに全身を震わせながら、ナナは叫んだ。
「どこ!!!奴はどこに居るの!!!許せない!!!あんな奴が!!!マナ姉をあんなにした奴が生きてるなんて!!!」
リンカに詰め寄るナナ。見かねたキジマが間に入る。
「落ち着け!!今奴がどこに居るかは分からない、そうなんだろカケル!」
カケルは頷く。
「ああ。ユーガが連れ去られてからは、何も・・・」
膝を折り、ナナは泣き崩れた。
「ううっ・・・なんで・・・なんでよ・・・なんであんなのが生きて・・・マナ姉が・・・」
その様子を見たマーナが、不安そうにリンカに抱きつく。リンカは黙って、マーナの身体を抱き寄せた。
その時。一瞬の閃光に遅れ、けたたましい雷鳴が窓を揺らした。気付けば外の景色は、横殴りの雨で埋め尽くされていた。
「・・・酷い天気になったな。」
カケルは目を細め、呟く。激しい雨音が耳を突ついた。
「かみなり、こわい・・・」
震えるマーナをリンカがなだめる。
「大丈夫だ。きっとすぐに止む。」
そうは言うものの、このまま雷雨が続けば旅に支障を来す事は間違いない。
「参ったな、どうするか。」
キジマが呟いたと同時に、またしても閃光が走る。その光の中、無数の雨粒に巨大な鳥のような影が映った。
それに気付いたのは雷鳴が響いた後。キジマは怪訝な顔をする。
「おい、今のはなんだ?」
次の瞬間、その影の主は土砂降りの地面に降り立った。
「お、おい!あのモンスターは・・・」
カケルが指を指しながら、言う。その姿にリンカは息を飲んだ。
「あれは・・・た、太陽風のプラズマ・・・ということは・・・!」
鳥獣の背中から降りる人の影。同時に鳥獣の姿が消え、その人物はゆっくりと歩き出す。カケルはたじろぎながらも、言葉を紡いだ。
「ジェイミー・・・!!」
それを聞くや否や、ナナはディスクを展開し外へ飛び出した。
「お、おい!待てよ!!」
カケルの制止を気にも留めず、ナナはその人物の前に立ちはだかる。
「お前が!!!ナナ姉を!!!そうなの!!!?」
フードに隠された顔がちらつく。その人物は呟いた。
「・・・やはり・・・つくづく似ている・・・」
激昂するナナは叫び続ける。
「答えなさいよ!!!お前が・・・!!!お前のせいで・・・!!!」
「今は、」
一息つくと、その人物は言葉を続けた。
「今は、お前に用はない。あるのは、後ろの連中だ。」
カケルは問うた。
「お前は、ジェイミーなのか!!何をしにきたんだ!!」
「何を?歯向かう者の粛正に理由が要るか?」
間髪入れず、ナナは言った。
「その声、忘れもしない・・・!!お前はまぎれも無く、あの時の・・・!!!」
フラッシュバックする記憶。無惨に引き裂かれた、姉の姿。ナナは左腕を振り上げ、ディスクを構えた。
「ここで取る!!マナ姉の・・・敵を!!!」
雨音の鳴り響く中、その人物はフードを外した。
「・・・デュエルか。この俺と。」
あの時と変わらない。まるで感情の入っていないような、底なし沼の目の持ち主。ジェイミーはナナを見下ろした。
「ぐううっ・・・!!」
もはや言葉にすらならない怒りを、カケルはその後ろ姿から感じ取った。それでも、カケルはナナに向かって叫ぶ。
「無理だ、一人でなんて!!俺も戦う!!」
だが、振り向きもせずにナナは言う。
「黙って!!・・・これは私の戦い。そうよ、戦争はまだ終わってなんかない・・・!!こいつを叩き潰すまで!!!」
眼鏡のレンズの奥。煮えたぎるような怒りの眼光がジェイミーに突き刺さる。
しかし、ジェイミーはあしらうように言った。
「言った筈だ。お前に用はない。お前とデュエルはしない。」
まるで相手にされないナナは、ジェイミーに怒号を飛ばす。
「ふざけるな!!!私にとって、お前は敵!!この手で打ち倒すの!!!マナ姉の為に!!!」
その時。ナナの後ろからワイヤーが素早く伸びる。そのワイヤーの先端がジェイミーのディスクに突き刺さった。
「ん?・・・なんだこれは。」
怪しむジェイミーは自分のディスクを見ると、その画面に『強制執行』とLP4000の文字が表示されている事に気付いた。
ワイヤーを引き戻し、ディスクを左腕に装着したカケルは、雨の中へと足を踏み入れる。
「俺も一緒に戦う。こいつを倒さなきいけないのは・・・俺も同じだ!!」
それを聞き、キジマも外に飛び出した。
「世界をめちゃくちゃにした連中の一員となれば、俺にも戦う理由はある。」
ジェイミーは一考した後、口を開いた。
「・・・なるほど、これならば・・・。いいだろう、纏めてこい。」
怯えるマーナを抱き、リンカは不安の表情を浮かべる。
「ジェイミーが・・・デュエルを・・・ペンデュラム軍の男が・・・」
そして降りしきる雨の中、戦いが始まる。
『デュエル!!!(LP4000 VS LP4000×3)』
ジェイミーはディスクを構え、言った。
「互いのプレイヤーは最初のターン、ドローとバトルはできない。まずは俺からだ。」
手札を確認したジェイミーは、1枚のカードを取り出した。
「魔法カード《嵐の前の静寂》を発動。自分フィールドにモンスターが存在しない場合、次の自分のスタンバイフェイズまで、自分が受ける全てのダメージは0になる。俺はこれでターンエンド。」
ナナは透かさず前に出た。
「いきなり守りに出るなんて・・・私のターン!!私は手札から永続魔法《冥書庫(ネザーライブラリ)ーS・E・Kの記憶》を発動!!」
ナナのフィールドに禍々しい本棚が出現する。
「その効果により、デッキから通常魔法《冥書物(ネザーブック)ーダーク・ハーフ》を手札に加える!!そして、《冥書物ーダーク・ハーフ》を発動!!」
本棚より、一冊の本が飛び出した。
「デッキから「冥書物」と名の付く魔法カードを1枚墓地に送り、相手に1000ポイントのダメージを与える!!私は《冥書物ーバトルランナー》を墓地へ!!」
「・・・だが、《嵐の前の静寂》の効果で全てのダメージは0になる。」
雨粒の間から見えるその瞳には全く揺るぎがない。ナナは拳を震わせた。
「けれど、この効果は使える!!私は墓地に送られた《冥書物ーバトルランナー》の効果を発動!!このカードがデッキから墓地に送られた場合、《冥書物ーバトルランナー》以外の「冥書物」魔法カードをデッキから2枚墓地へ送る事ができる!!私は《冥書物ーデスペレーション》2枚をデッキから墓地へ送る!!さらに、2枚の《冥書物ーデスペレーション》の効果発動!!」
「このカードが墓地に送られた場合、デッキの上から2枚のカードを墓地に送る!!2枚分の効果で墓地へ行くカードは合計4枚!!」
次々と本棚から本が飛び出し、消えて行く。
「今墓地に送られたカードを含め、私の墓地に8枚の「冥書物」が揃った!!私はこの8枚のカードを除外する!!そして、このカードを特殊召喚!!!」
掲げられた魔法カードが土砂降りの中に光る。その勢いのままナナは叫んだ。
「現世に彷徨う孤独な記憶の束よ!!纏し文と紙を武器に、復讐の亡者となれ!!!魔法召喚!!!出でよ、《偽冥書亡霊ーバックマン・リッチー(☆無/無/無/?・?)》!!!」
無数の書は一つとなり、それは死王の姿を形作って行く。やがて完全に実体を現したそれは、威圧するようにジェイミーを見下ろした。
「このカードは自分の墓地の「冥書物」カードを任意の枚数除外する事で、手札からレベル・属性・種族を持たないモンスターとして特殊召喚できる!!そして、その攻撃力・守備力は除外したカードの数×500の数値になる!!(ATK4000・DEF4000)」
それを見たジェイミーは関心したように言う。
「ほう、魔法を召喚、か。」
「《偽冥書霊神ーバックマン・リッチー》がフィールドに存在する限り、相手は私の魔法カードを効果対象にできない!!私はこれでターンエンド!!」
ナナはジェイミーを睨み続ける。その横に立つカケルが口を開いた。
「俺のターン!!俺は魔法カード《武装融合》を発動!!手札の《I・B(イモータル・ブレイバー)マイデン(☆4/光/機械/1900・1500)》と《B・A(ブレイバー・アタッチメント)シールド・バット(☆4/風/機械/ユニオン/1800・100)》、そして《B・Aブレード・ダイナソー(☆4/地/機械/ユニオン/1600・1000)》を融合する!!」
早速、ヒーローロボット達が雨空へと飛び出し、変形を始める。
「紅蓮の勇者よ!太古の刃と疾風の盾を手に、新たなる戦士と生まれ変われ!!武装融合!!来い、レベル8!!《I・B(インフィニティ・ブレイバー)ドラゴン・マイデン(☆8/風/機械/融合/2800・2400)》!!」
竜の力を得た紅蓮の勇者は、その大剣を振るいフィールドに降り立った。
「これが俺の全力だ・・・!!俺達は、ここで立ち止まる訳にはいかねぇんだ!!カード1枚伏せて、ターンエンド!!」
カケルに続き、キジマも前に出る。
「カケルの言う通りだ。てめぇなんざ、ここで叩き潰してくれる!!俺のターン!!俺は手札から《D=M(ディプライブ=マンティス)ー闇襲のサイス(☆3/地/昆虫/300・300)》を召喚!!」
キジマの前にローブを纏い大鎌を携えた昆虫が出現した。
「さらに手札から魔法カード《捕食者の共鳴》を発動!!自分フィールドに「D=M」モンスターが存在する時、手札から同名カード以外の「D=M」モンスターを特殊召喚する!!来い、チューナーモンスター《D=Mー防楯のダーイン(☆4/地/昆虫/チューナー/1800・1800)》!!」
堅牢な盾を両手に備えた昆虫が、仲間の隣に並ぶ。
「行くぜ!!俺はレベル3の《D=Mー闇襲のサイス》にレベル4の《D=Mー防楯のダーイン》をチューニング!!」
豪雨の中、光の輪が宙に輝いた。
「誇り高き捕食者よ!崇高なる剣を掲げ、悪しき強者の身を穿て!!シンクロ召喚!!突き抜けろ、レベル7!《D=Mーファンデヴ・ロペラ(☆7/地/昆虫/シンクロ/2500・2500)》!!!」
雨の雫を切り裂き、エスパダ・ロペラを自在に操るカマキリの姫騎士はキジマの前に足を着けた。
「俺はカードを2枚セットして、ターンエンドだ!!」
キジマのターンが終わり、フィールドに一瞬の沈黙が流れる。雨に濡れる手を伸ばし、ジェイミーはカードを引いた。
「俺のターン、ドロー。さぁ、始めようか。」
ジェイミーは手札のカードをゆっくりと取り出した。
「俺は魔法カード《殺戮の警鐘》を発動。ライフを半分払い、デッキから「マサカー」と名の付くペンデュラムモンスターを2体手札に加える。俺はデッキから《BF M(ブラックフェザー マサカー)ー暴虐のペイン(☆5/闇/鳥獣/ペンデュラム/2300・1600)》と《BF Mー重力波のグラビトン(☆5/闇/鳥獣/ペンデュラム/1600・1500)》を手札に呼び込む。(LP4000→2000)」
デッキから迫り出したカードがジェイミーの手札に加わる。
「これで俺はこのターン、「マサカー」モンスター以外のモンスターを召喚・特殊召喚できなくなった。まぁ、ほとんど関係の無い話だが。俺はスケール1の《BF Mー暴虐のペイン》をペンデュラムスケールにセッティング。」
浮かび上がる光の柱。それを見たナナは確信する。
「あのモンスターは・・・やっぱり、こいつがあの時の・・・!!!」
ナナの反応を気にも留めず、ジェイミーは続けた。
「《BF Mー暴虐のペイン》のペンデュラム効果発動。このカードを発動したターン、1度だけデッキから「BF M」1体を手札に加える事ができる。俺はデッキからスケール6の《BF Mー病風のイルネス(☆3/闇/鳥獣/ペンデュラム/チューナー/600・600)》を手札に加え、片方のペンデュラムスケールにセッティングする。」
異形の鳥獣が光の柱となって黒い空に浮かぶ。
「これでレベル2から5までのモンスターが同時に召喚可能となった。ペンデュラム召喚。手札より、《BF Mー重力波のグラビトン》。そして、その効果を発動。」
宇宙服のような装備に身を包んだ鳥人が、這うように現れた。ペンデュラム召喚の登場に、カケル達は思わず身構える。
「このカードの特殊召喚に成功した時、自分フィールドのカード1枚を破壊しデッキから攻撃力1500以下の「BF」モンスターを手札に加える。俺はペンデュラムスケールの《BF Mー暴虐のペイン》を破壊し、デッキから攻撃力1000の《BF Mー太陽風のプラズマ(☆2/闇/鳥獣/ペンデュラム/1000・1000)》を手札に加える。さらに、《BF Mー病風のイルネス》のペンデュラム効果発動。」
光の柱の片方が消え、ほぼ同時にもう片方が光を放った。
「1ターンに1度、自分フィールドに「BF」が1体のみ特殊召喚された場合、デッキからそのモンスターより低いレベルの「BF」1体を手札に加える。俺はデッキからレベル1の《BF Mー葬斂のベリー(☆1/闇/鳥獣/ペンデュラム/チューナー/800・800)》を手札に加え、このモンスターを特殊召喚する。」
ジェイミーの前に、黒装束に身を包みスコップを手にした鳥人が、不気味な笑い声を上げ舞い降りた。
「《BF Mー葬斂のベリー》は自分フィールドに他の「BF」が存在する場合、手札から特殊召喚できる。そして、《BF Mー太陽風のプラズマ》を通常召喚。」
太陽パネルの翼を持つ鳥獣が奇声を上げる。
「な、なんだ何をする気だ・・・!?」
固唾を飲むカケル。稲妻の閃光が鳥獣達の影を映し出した。直後の雷鳴が身体を揺さぶる。
「さて、見せてやろう。ペンデュラムのもつ可能性の果て、その境地を!!俺はレベル5の《BF Mー重力波のグラビトン》とレベル2の《BF Mー太陽風のプラズマ》にレベル1の《BF Mー葬斂のベリー》をチューニング!!」
まるで稲妻と重なるかのように飛び出した鳥人は、光の輪となり上空に浮かび上がった。
「猛炎纏いし烈風よ!!漆黒の宇宙に、絶望の光を掲げよ!!ペンデュラムシンクロ!!!現れ出でよ!!レベル8《BF M-灼熱のコロナ(☆8/闇/鳥獣/シンクロ/ペンデュラム/3000・1200)》!!!」
その輝きは、世界に終焉を告げる炎。万物を焼き尽くし、己以外の全ての光を奪う炎。その凄まじい轟炎は周囲の雨粒を瞬時に蒸発させ、空を覆う暗雲さえも吹き飛ばした。
一瞬の内に太陽を呼び戻したその鳥人に、3人は驚愕のあまり言葉を無くした。しかし、その太陽の光はあまりにも強く、今度は地表から全ての水分を奪おうとせんばかりにぎらついている。
「な、空が一瞬で・・・」
カケルの横で、キジマは声を上げた。
「この瞬間、罠カードを発動する!!《超重力の落とし穴》!!このカードは相手がエクストラデッキからモンスターを特殊召喚した時に発動できる!!そのモンスターを除外し、相手に攻撃力の半分のダメージを与えるぜ!!」
表示される罠カード。しかし、ジェイミーは涼しい顔で言った。
「・・・《BF Mー太陽風のプラズマ》を素材としたモンスターは相手の罠の効果を受けない。」
「チッ、だったらこれはどうだ!!速攻魔法、《エネミー・ショート》!!相手モンスター1体を守備表示に変更する!!そしてこのターン、そのモンスターは表示形式を変更できない!!」
間髪入れず、キジマは2枚目のセットカードを使う。しかし、ジェイミーの表情は揺るがない。
「無意味だ。《BF Mー重力波のグラビトン》を素材としたモンスターは相手の魔法の効果を受けない。」
「なっ・・・!?」
たじろぐキジマ。見かねたカケルは、自分の罠を発動した。
「罠カード《ラピッド・リミテッド・オーバー》発動!!相手フィールドにモンスターが特殊召喚された場合、自分フィールドのモンスター1体を選択して発動できる!相手ターンに1度だけ、『1ターンに1度』と書かれた、そのモンスターの効果を使用できる!!これにより俺は《I・Bドラゴン・マイデン》の効果発動!!1ターンに1度、相手フィールドのエクストラデッキから特殊召喚されたモンスター1体を破壊できる!!砕け散れ!!!」
竜の勇者は剣を振るい斬撃を飛ばした。しかし、灼熱の鳥人はいとも簡単に、それを手で払いのけてみせた。
「・・・《BF Mー葬斂のベリー》を素材としたモンスターは相手のモンスター効果を受けない。これで分かったか。俺のモンスターは全ての効果を受け付けない。」
「そんな、馬鹿な!!」
苦しい表情を見せるキジマ。だが、一人ナナは強気に言ってみせた。
「私の《偽冥書亡霊ーバックマン・リッチー》の攻撃力は4000。お前のモンスターは3000。例え効果を受けなくとも、攻撃する事はできないわ!!」
その時、ジェイミーは小さく笑った。
「それはどうかな。俺は《BF M-灼熱のコロナ》で《偽冥書亡霊ーバックマン・リッチー》を攻撃!!」
剣を振りかざし、灼熱の鳥人は一気に加速する。ナナは困惑した。
「な、なんで!?攻撃力はこっちが上なのに!!」
「この瞬間、《BF M-灼熱のコロナ》の効果発動!ペンデュラムモンスターのみを素材としたこのカードは、特殊召喚された相手モンスターと戦闘を行う場合、ターン終了までその相手モンスターの攻撃力分、自らの攻撃力をアップする!!(ATK3000→7000)」
鳥人の持つ剣に凄まじい熱気と炎が宿る。全てを焼き付くさんばかりに燃える刃がナナのモンスターに迫った。
「こ、攻撃力7000・・・!!!」
「切り裂け、『デッドリィ・ブラック・スラッシュ』!!!」
溶断される亡霊の姿。その衝撃がナナの身体を吹き飛ばす。
「うわぁぁぁああっ!!!(LP4000→1000)」
後方で見守っていたリンカの前に、ナナの身体が飛んで来る。
「お、おい!大丈夫か!」
リンカの問いかけに、ナナは震えながらも口を開く。
「・・・な、なんて強さ・・・マナ姉は、こんな奴と、戦って・・・」
ジェイミーは残る二人に向かって言い放つ。
「・・・《BF M-灼熱のコロナ》は「BF」のみを素材とした場合、通常召喚・反転召喚したモンスターと戦闘する際に、相手モンスターの攻撃力・守備力を0にする。こいつに勝てる要素がお前達にあるか?」
その言葉にキジマは歯を食いしばった。
「全ての効果を受けず、戦闘で絶対に勝てないモンスター、だと。」
「そんな奴、どうやって・・・」
カケルの表情が、段々と絶望に染まってゆく。ジェイミーは淡々と言った。
「これがお前達の限界だ。”弱く生まれた自分を呪え”。」
その言葉に、ナナがハッとする。
「あの言葉・・・やっぱり!!くっ・・うっ!!」
立ち上がろうにも、ナナの身体は言う事を聞かない。
「さて、そろそろ止めを刺そうか。俺は速攻魔法発動!《大虐殺》!!自分フィールドのペンデュラムモンスターが相手モンスターを戦闘破壊した時、そのモンスターは自身より攻撃力の低い相手フィールドのモンスター全てに攻撃しなければならない!!」
ジェイミーの場に表示されるカード。キジマの額に汗が伝う。
「奴の攻撃力は7000!!対して、俺達のモンスターはそれぞれ2500と2800・・・!!」
「俺達は、勝てないのか・・・!」
カケルは灼熱の鳥人が放つ光の前に膝を折った。これが、世界を滅ぼした力なのか・・・。
「終わりだ。瓦礫を這い回る卑賤な民よ、消え去れ!!」
灼熱の刃が眼前へと迫る。キジマとカケルは諦観の表情で、その光を見つめた。
その時。
「ん、なんだ。」
突如、ジェイミーの端末が揺れる。それを耳に当てると、スピーカーの向こうから怒鳴り声が飛び込んで来た。
「おい!!ジェイミー!!てめぇ、どこで何してやがる!!」
その声の主に、ジェイミーは冷静に返す。
「リチャードか。一体何があった。」
電話の相手、リチャードは焦るように言う。
「今直ぐ戻って来い!!奴が、鍵が、主君へと続く鍵が逃げた!!」
「なんだと。・・・分かった。」
会話を終えると、ジェイミーはディスクを仕舞い込んだ。同時に、寸での所で灼熱の鳥人が消える。
「・・・お前達の相手はまた後でだ。まぁ、自分の身の程は今のデュエルでよくわかったろうが。・・・《BF Mー太陽風のプラズマ》を召喚。」
鳥獣の背中に乗るジェイミー。その瞬間に、ジェイミーは小さく振り返る。
その瞳には、彼女の姿が。
(・・・やはり、よく似ている・・・)
次の瞬間、鳥獣の姿は光となって空へ消えた。
静寂がしばらく流れた後、カケルは地面に拳を打ち付けた。
「くっ・・・・そ・・・!!俺は・・・こんな程度の力しか持ってないのか・・・!!」
無力感に苛まれ、カケルは何度も拳を打ち付けた。その姿を見たキジマも、今回ばかりは掛ける言葉を持ち合わせていなかった。
その時、後ろからリンカが口を開く。
「・・・・カケル。さっきの言葉を聞いたか。」
カケルは拳を止め、リンカに問うた。
「さっきの・・・言葉?」
「ジェイミーが通信で言っていた。”鍵が逃げた”と。」
キジマも言葉を挟む。
「鍵?それってつまり・・・」
リンカは頷く。
「ユーガが逃げたんだ。」
その頃、朦朧とする意識の中で、ユーガは声を聞いていた。
「・・・い!」
うっすらと目を開ける。そこは涼しい空気が流れる青空の下。
「おい!君!大丈夫だったかい?奴らに殺されそうだったんだろ?」
ユーガは困惑して訊ねる。
「ここは・・・俺は・・一体・・・」
その声の主、視界に映った少年は笑う。
「大丈夫、僕も君と同じだ。さぁ、手を貸そう。」
その少年の手を取り、ユーガは上体を起こす。ようやく映り込んだ周りの景色に、ユーガは驚く。
「ここは・・・人が・・こんなに・・・!」
次回第17話「第2の村」
リチャード達が地下に潜った後。ジェイミーは一人残された教会の中で、おもむろに端末を取り出した。
記憶の中に取り付き、離れないその姿。ジェイミーは冷ややかな目で端末を操作する。
「・・・」
その画面に表示された映像。そこには古ぼけた書店が映し出されていた。そして、その奥に佇む人の影。
ジェイミーは己に問う。
(これは監視か?それとも、ただの感傷か?冷血であろうとする心の中に残された、人としての感情。それが、この俺にこんな事をさせているのか。そこまで悔しいか、ジェイミーよ。)
その時。本来ならば映らない筈の存在にジェイミーの眉が動く。
「・・・来たのか。」
端末を上着の内ポケットに仕舞い込み、ジェイミーはゆっくりと腰を上げた。
「案外、早かったな。さて・・・」
教会の扉を開け、ジェイミーはディスクを展開する。
「《BF Mー太陽風のプラズマ》を召喚。」
ソリッドビジョンとして浮かび上がる鳥獣。その背中に飛び乗り、ジェイミーはフードを被ると姿勢を低くする。
「・・・しかし、奴らが彼女に干渉するとはな。」
刹那、急加速する鳥獣はわずかな光の帯を残し、灰色に染まった空へと消えた。
一方、カケル達は。
「おい、ジェイミーってのは・・・」
キジマの問いにカケルが答える。
「教えただろ、マサカーの事。ジェイミーはその一員で、ユーガの仲間を装って俺達に接近してきたんだ。もし、ナナさんの話が本当なら・・・」
「ジェイミーは、この街を襲ったペンデュラム軍の一員と言う事になる。」
カケルに続けるようにリンカが口を開く。交わされる言葉にナナは困惑しながら口を挟んだ。
「な、なんなのよ、そのジェイミーって。マナ姉を殺した奴と何か関係があるの?」
神妙な面持ちで、リンカはナナの方へ顔を向ける。
「関係ある所ではない・・・おそらく、ジェイミーはその張本人だ。」
それを聞き、ナナは驚愕する。
「そ、そんな・・・奴が・・・生きてるなんて・・・私はずっと、奴も戦争の中で死んだと・・・でも、そんな・・・」
次第にナナの拳に力が籠って行く。蘇る怒りに全身を震わせながら、ナナは叫んだ。
「どこ!!!奴はどこに居るの!!!許せない!!!あんな奴が!!!マナ姉をあんなにした奴が生きてるなんて!!!」
リンカに詰め寄るナナ。見かねたキジマが間に入る。
「落ち着け!!今奴がどこに居るかは分からない、そうなんだろカケル!」
カケルは頷く。
「ああ。ユーガが連れ去られてからは、何も・・・」
膝を折り、ナナは泣き崩れた。
「ううっ・・・なんで・・・なんでよ・・・なんであんなのが生きて・・・マナ姉が・・・」
その様子を見たマーナが、不安そうにリンカに抱きつく。リンカは黙って、マーナの身体を抱き寄せた。
その時。一瞬の閃光に遅れ、けたたましい雷鳴が窓を揺らした。気付けば外の景色は、横殴りの雨で埋め尽くされていた。
「・・・酷い天気になったな。」
カケルは目を細め、呟く。激しい雨音が耳を突ついた。
「かみなり、こわい・・・」
震えるマーナをリンカがなだめる。
「大丈夫だ。きっとすぐに止む。」
そうは言うものの、このまま雷雨が続けば旅に支障を来す事は間違いない。
「参ったな、どうするか。」
キジマが呟いたと同時に、またしても閃光が走る。その光の中、無数の雨粒に巨大な鳥のような影が映った。
それに気付いたのは雷鳴が響いた後。キジマは怪訝な顔をする。
「おい、今のはなんだ?」
次の瞬間、その影の主は土砂降りの地面に降り立った。
「お、おい!あのモンスターは・・・」
カケルが指を指しながら、言う。その姿にリンカは息を飲んだ。
「あれは・・・た、太陽風のプラズマ・・・ということは・・・!」
鳥獣の背中から降りる人の影。同時に鳥獣の姿が消え、その人物はゆっくりと歩き出す。カケルはたじろぎながらも、言葉を紡いだ。
「ジェイミー・・・!!」
それを聞くや否や、ナナはディスクを展開し外へ飛び出した。
「お、おい!待てよ!!」
カケルの制止を気にも留めず、ナナはその人物の前に立ちはだかる。
「お前が!!!ナナ姉を!!!そうなの!!!?」
フードに隠された顔がちらつく。その人物は呟いた。
「・・・やはり・・・つくづく似ている・・・」
激昂するナナは叫び続ける。
「答えなさいよ!!!お前が・・・!!!お前のせいで・・・!!!」
「今は、」
一息つくと、その人物は言葉を続けた。
「今は、お前に用はない。あるのは、後ろの連中だ。」
カケルは問うた。
「お前は、ジェイミーなのか!!何をしにきたんだ!!」
「何を?歯向かう者の粛正に理由が要るか?」
間髪入れず、ナナは言った。
「その声、忘れもしない・・・!!お前はまぎれも無く、あの時の・・・!!!」
フラッシュバックする記憶。無惨に引き裂かれた、姉の姿。ナナは左腕を振り上げ、ディスクを構えた。
「ここで取る!!マナ姉の・・・敵を!!!」
雨音の鳴り響く中、その人物はフードを外した。
「・・・デュエルか。この俺と。」
あの時と変わらない。まるで感情の入っていないような、底なし沼の目の持ち主。ジェイミーはナナを見下ろした。
「ぐううっ・・・!!」
もはや言葉にすらならない怒りを、カケルはその後ろ姿から感じ取った。それでも、カケルはナナに向かって叫ぶ。
「無理だ、一人でなんて!!俺も戦う!!」
だが、振り向きもせずにナナは言う。
「黙って!!・・・これは私の戦い。そうよ、戦争はまだ終わってなんかない・・・!!こいつを叩き潰すまで!!!」
眼鏡のレンズの奥。煮えたぎるような怒りの眼光がジェイミーに突き刺さる。
しかし、ジェイミーはあしらうように言った。
「言った筈だ。お前に用はない。お前とデュエルはしない。」
まるで相手にされないナナは、ジェイミーに怒号を飛ばす。
「ふざけるな!!!私にとって、お前は敵!!この手で打ち倒すの!!!マナ姉の為に!!!」
その時。ナナの後ろからワイヤーが素早く伸びる。そのワイヤーの先端がジェイミーのディスクに突き刺さった。
「ん?・・・なんだこれは。」
怪しむジェイミーは自分のディスクを見ると、その画面に『強制執行』とLP4000の文字が表示されている事に気付いた。
ワイヤーを引き戻し、ディスクを左腕に装着したカケルは、雨の中へと足を踏み入れる。
「俺も一緒に戦う。こいつを倒さなきいけないのは・・・俺も同じだ!!」
それを聞き、キジマも外に飛び出した。
「世界をめちゃくちゃにした連中の一員となれば、俺にも戦う理由はある。」
ジェイミーは一考した後、口を開いた。
「・・・なるほど、これならば・・・。いいだろう、纏めてこい。」
怯えるマーナを抱き、リンカは不安の表情を浮かべる。
「ジェイミーが・・・デュエルを・・・ペンデュラム軍の男が・・・」
そして降りしきる雨の中、戦いが始まる。
『デュエル!!!(LP4000 VS LP4000×3)』
ジェイミーはディスクを構え、言った。
「互いのプレイヤーは最初のターン、ドローとバトルはできない。まずは俺からだ。」
手札を確認したジェイミーは、1枚のカードを取り出した。
「魔法カード《嵐の前の静寂》を発動。自分フィールドにモンスターが存在しない場合、次の自分のスタンバイフェイズまで、自分が受ける全てのダメージは0になる。俺はこれでターンエンド。」
ナナは透かさず前に出た。
「いきなり守りに出るなんて・・・私のターン!!私は手札から永続魔法《冥書庫(ネザーライブラリ)ーS・E・Kの記憶》を発動!!」
ナナのフィールドに禍々しい本棚が出現する。
「その効果により、デッキから通常魔法《冥書物(ネザーブック)ーダーク・ハーフ》を手札に加える!!そして、《冥書物ーダーク・ハーフ》を発動!!」
本棚より、一冊の本が飛び出した。
「デッキから「冥書物」と名の付く魔法カードを1枚墓地に送り、相手に1000ポイントのダメージを与える!!私は《冥書物ーバトルランナー》を墓地へ!!」
「・・・だが、《嵐の前の静寂》の効果で全てのダメージは0になる。」
雨粒の間から見えるその瞳には全く揺るぎがない。ナナは拳を震わせた。
「けれど、この効果は使える!!私は墓地に送られた《冥書物ーバトルランナー》の効果を発動!!このカードがデッキから墓地に送られた場合、《冥書物ーバトルランナー》以外の「冥書物」魔法カードをデッキから2枚墓地へ送る事ができる!!私は《冥書物ーデスペレーション》2枚をデッキから墓地へ送る!!さらに、2枚の《冥書物ーデスペレーション》の効果発動!!」
「このカードが墓地に送られた場合、デッキの上から2枚のカードを墓地に送る!!2枚分の効果で墓地へ行くカードは合計4枚!!」
次々と本棚から本が飛び出し、消えて行く。
「今墓地に送られたカードを含め、私の墓地に8枚の「冥書物」が揃った!!私はこの8枚のカードを除外する!!そして、このカードを特殊召喚!!!」
掲げられた魔法カードが土砂降りの中に光る。その勢いのままナナは叫んだ。
「現世に彷徨う孤独な記憶の束よ!!纏し文と紙を武器に、復讐の亡者となれ!!!魔法召喚!!!出でよ、《偽冥書亡霊ーバックマン・リッチー(☆無/無/無/?・?)》!!!」
無数の書は一つとなり、それは死王の姿を形作って行く。やがて完全に実体を現したそれは、威圧するようにジェイミーを見下ろした。
「このカードは自分の墓地の「冥書物」カードを任意の枚数除外する事で、手札からレベル・属性・種族を持たないモンスターとして特殊召喚できる!!そして、その攻撃力・守備力は除外したカードの数×500の数値になる!!(ATK4000・DEF4000)」
それを見たジェイミーは関心したように言う。
「ほう、魔法を召喚、か。」
「《偽冥書霊神ーバックマン・リッチー》がフィールドに存在する限り、相手は私の魔法カードを効果対象にできない!!私はこれでターンエンド!!」
ナナはジェイミーを睨み続ける。その横に立つカケルが口を開いた。
「俺のターン!!俺は魔法カード《武装融合》を発動!!手札の《I・B(イモータル・ブレイバー)マイデン(☆4/光/機械/1900・1500)》と《B・A(ブレイバー・アタッチメント)シールド・バット(☆4/風/機械/ユニオン/1800・100)》、そして《B・Aブレード・ダイナソー(☆4/地/機械/ユニオン/1600・1000)》を融合する!!」
早速、ヒーローロボット達が雨空へと飛び出し、変形を始める。
「紅蓮の勇者よ!太古の刃と疾風の盾を手に、新たなる戦士と生まれ変われ!!武装融合!!来い、レベル8!!《I・B(インフィニティ・ブレイバー)ドラゴン・マイデン(☆8/風/機械/融合/2800・2400)》!!」
竜の力を得た紅蓮の勇者は、その大剣を振るいフィールドに降り立った。
「これが俺の全力だ・・・!!俺達は、ここで立ち止まる訳にはいかねぇんだ!!カード1枚伏せて、ターンエンド!!」
カケルに続き、キジマも前に出る。
「カケルの言う通りだ。てめぇなんざ、ここで叩き潰してくれる!!俺のターン!!俺は手札から《D=M(ディプライブ=マンティス)ー闇襲のサイス(☆3/地/昆虫/300・300)》を召喚!!」
キジマの前にローブを纏い大鎌を携えた昆虫が出現した。
「さらに手札から魔法カード《捕食者の共鳴》を発動!!自分フィールドに「D=M」モンスターが存在する時、手札から同名カード以外の「D=M」モンスターを特殊召喚する!!来い、チューナーモンスター《D=Mー防楯のダーイン(☆4/地/昆虫/チューナー/1800・1800)》!!」
堅牢な盾を両手に備えた昆虫が、仲間の隣に並ぶ。
「行くぜ!!俺はレベル3の《D=Mー闇襲のサイス》にレベル4の《D=Mー防楯のダーイン》をチューニング!!」
豪雨の中、光の輪が宙に輝いた。
「誇り高き捕食者よ!崇高なる剣を掲げ、悪しき強者の身を穿て!!シンクロ召喚!!突き抜けろ、レベル7!《D=Mーファンデヴ・ロペラ(☆7/地/昆虫/シンクロ/2500・2500)》!!!」
雨の雫を切り裂き、エスパダ・ロペラを自在に操るカマキリの姫騎士はキジマの前に足を着けた。
「俺はカードを2枚セットして、ターンエンドだ!!」
キジマのターンが終わり、フィールドに一瞬の沈黙が流れる。雨に濡れる手を伸ばし、ジェイミーはカードを引いた。
「俺のターン、ドロー。さぁ、始めようか。」
ジェイミーは手札のカードをゆっくりと取り出した。
「俺は魔法カード《殺戮の警鐘》を発動。ライフを半分払い、デッキから「マサカー」と名の付くペンデュラムモンスターを2体手札に加える。俺はデッキから《BF M(ブラックフェザー マサカー)ー暴虐のペイン(☆5/闇/鳥獣/ペンデュラム/2300・1600)》と《BF Mー重力波のグラビトン(☆5/闇/鳥獣/ペンデュラム/1600・1500)》を手札に呼び込む。(LP4000→2000)」
デッキから迫り出したカードがジェイミーの手札に加わる。
「これで俺はこのターン、「マサカー」モンスター以外のモンスターを召喚・特殊召喚できなくなった。まぁ、ほとんど関係の無い話だが。俺はスケール1の《BF Mー暴虐のペイン》をペンデュラムスケールにセッティング。」
浮かび上がる光の柱。それを見たナナは確信する。
「あのモンスターは・・・やっぱり、こいつがあの時の・・・!!!」
ナナの反応を気にも留めず、ジェイミーは続けた。
「《BF Mー暴虐のペイン》のペンデュラム効果発動。このカードを発動したターン、1度だけデッキから「BF M」1体を手札に加える事ができる。俺はデッキからスケール6の《BF Mー病風のイルネス(☆3/闇/鳥獣/ペンデュラム/チューナー/600・600)》を手札に加え、片方のペンデュラムスケールにセッティングする。」
異形の鳥獣が光の柱となって黒い空に浮かぶ。
「これでレベル2から5までのモンスターが同時に召喚可能となった。ペンデュラム召喚。手札より、《BF Mー重力波のグラビトン》。そして、その効果を発動。」
宇宙服のような装備に身を包んだ鳥人が、這うように現れた。ペンデュラム召喚の登場に、カケル達は思わず身構える。
「このカードの特殊召喚に成功した時、自分フィールドのカード1枚を破壊しデッキから攻撃力1500以下の「BF」モンスターを手札に加える。俺はペンデュラムスケールの《BF Mー暴虐のペイン》を破壊し、デッキから攻撃力1000の《BF Mー太陽風のプラズマ(☆2/闇/鳥獣/ペンデュラム/1000・1000)》を手札に加える。さらに、《BF Mー病風のイルネス》のペンデュラム効果発動。」
光の柱の片方が消え、ほぼ同時にもう片方が光を放った。
「1ターンに1度、自分フィールドに「BF」が1体のみ特殊召喚された場合、デッキからそのモンスターより低いレベルの「BF」1体を手札に加える。俺はデッキからレベル1の《BF Mー葬斂のベリー(☆1/闇/鳥獣/ペンデュラム/チューナー/800・800)》を手札に加え、このモンスターを特殊召喚する。」
ジェイミーの前に、黒装束に身を包みスコップを手にした鳥人が、不気味な笑い声を上げ舞い降りた。
「《BF Mー葬斂のベリー》は自分フィールドに他の「BF」が存在する場合、手札から特殊召喚できる。そして、《BF Mー太陽風のプラズマ》を通常召喚。」
太陽パネルの翼を持つ鳥獣が奇声を上げる。
「な、なんだ何をする気だ・・・!?」
固唾を飲むカケル。稲妻の閃光が鳥獣達の影を映し出した。直後の雷鳴が身体を揺さぶる。
「さて、見せてやろう。ペンデュラムのもつ可能性の果て、その境地を!!俺はレベル5の《BF Mー重力波のグラビトン》とレベル2の《BF Mー太陽風のプラズマ》にレベル1の《BF Mー葬斂のベリー》をチューニング!!」
まるで稲妻と重なるかのように飛び出した鳥人は、光の輪となり上空に浮かび上がった。
「猛炎纏いし烈風よ!!漆黒の宇宙に、絶望の光を掲げよ!!ペンデュラムシンクロ!!!現れ出でよ!!レベル8《BF M-灼熱のコロナ(☆8/闇/鳥獣/シンクロ/ペンデュラム/3000・1200)》!!!」
その輝きは、世界に終焉を告げる炎。万物を焼き尽くし、己以外の全ての光を奪う炎。その凄まじい轟炎は周囲の雨粒を瞬時に蒸発させ、空を覆う暗雲さえも吹き飛ばした。
一瞬の内に太陽を呼び戻したその鳥人に、3人は驚愕のあまり言葉を無くした。しかし、その太陽の光はあまりにも強く、今度は地表から全ての水分を奪おうとせんばかりにぎらついている。
「な、空が一瞬で・・・」
カケルの横で、キジマは声を上げた。
「この瞬間、罠カードを発動する!!《超重力の落とし穴》!!このカードは相手がエクストラデッキからモンスターを特殊召喚した時に発動できる!!そのモンスターを除外し、相手に攻撃力の半分のダメージを与えるぜ!!」
表示される罠カード。しかし、ジェイミーは涼しい顔で言った。
「・・・《BF Mー太陽風のプラズマ》を素材としたモンスターは相手の罠の効果を受けない。」
「チッ、だったらこれはどうだ!!速攻魔法、《エネミー・ショート》!!相手モンスター1体を守備表示に変更する!!そしてこのターン、そのモンスターは表示形式を変更できない!!」
間髪入れず、キジマは2枚目のセットカードを使う。しかし、ジェイミーの表情は揺るがない。
「無意味だ。《BF Mー重力波のグラビトン》を素材としたモンスターは相手の魔法の効果を受けない。」
「なっ・・・!?」
たじろぐキジマ。見かねたカケルは、自分の罠を発動した。
「罠カード《ラピッド・リミテッド・オーバー》発動!!相手フィールドにモンスターが特殊召喚された場合、自分フィールドのモンスター1体を選択して発動できる!相手ターンに1度だけ、『1ターンに1度』と書かれた、そのモンスターの効果を使用できる!!これにより俺は《I・Bドラゴン・マイデン》の効果発動!!1ターンに1度、相手フィールドのエクストラデッキから特殊召喚されたモンスター1体を破壊できる!!砕け散れ!!!」
竜の勇者は剣を振るい斬撃を飛ばした。しかし、灼熱の鳥人はいとも簡単に、それを手で払いのけてみせた。
「・・・《BF Mー葬斂のベリー》を素材としたモンスターは相手のモンスター効果を受けない。これで分かったか。俺のモンスターは全ての効果を受け付けない。」
「そんな、馬鹿な!!」
苦しい表情を見せるキジマ。だが、一人ナナは強気に言ってみせた。
「私の《偽冥書亡霊ーバックマン・リッチー》の攻撃力は4000。お前のモンスターは3000。例え効果を受けなくとも、攻撃する事はできないわ!!」
その時、ジェイミーは小さく笑った。
「それはどうかな。俺は《BF M-灼熱のコロナ》で《偽冥書亡霊ーバックマン・リッチー》を攻撃!!」
剣を振りかざし、灼熱の鳥人は一気に加速する。ナナは困惑した。
「な、なんで!?攻撃力はこっちが上なのに!!」
「この瞬間、《BF M-灼熱のコロナ》の効果発動!ペンデュラムモンスターのみを素材としたこのカードは、特殊召喚された相手モンスターと戦闘を行う場合、ターン終了までその相手モンスターの攻撃力分、自らの攻撃力をアップする!!(ATK3000→7000)」
鳥人の持つ剣に凄まじい熱気と炎が宿る。全てを焼き付くさんばかりに燃える刃がナナのモンスターに迫った。
「こ、攻撃力7000・・・!!!」
「切り裂け、『デッドリィ・ブラック・スラッシュ』!!!」
溶断される亡霊の姿。その衝撃がナナの身体を吹き飛ばす。
「うわぁぁぁああっ!!!(LP4000→1000)」
後方で見守っていたリンカの前に、ナナの身体が飛んで来る。
「お、おい!大丈夫か!」
リンカの問いかけに、ナナは震えながらも口を開く。
「・・・な、なんて強さ・・・マナ姉は、こんな奴と、戦って・・・」
ジェイミーは残る二人に向かって言い放つ。
「・・・《BF M-灼熱のコロナ》は「BF」のみを素材とした場合、通常召喚・反転召喚したモンスターと戦闘する際に、相手モンスターの攻撃力・守備力を0にする。こいつに勝てる要素がお前達にあるか?」
その言葉にキジマは歯を食いしばった。
「全ての効果を受けず、戦闘で絶対に勝てないモンスター、だと。」
「そんな奴、どうやって・・・」
カケルの表情が、段々と絶望に染まってゆく。ジェイミーは淡々と言った。
「これがお前達の限界だ。”弱く生まれた自分を呪え”。」
その言葉に、ナナがハッとする。
「あの言葉・・・やっぱり!!くっ・・うっ!!」
立ち上がろうにも、ナナの身体は言う事を聞かない。
「さて、そろそろ止めを刺そうか。俺は速攻魔法発動!《大虐殺》!!自分フィールドのペンデュラムモンスターが相手モンスターを戦闘破壊した時、そのモンスターは自身より攻撃力の低い相手フィールドのモンスター全てに攻撃しなければならない!!」
ジェイミーの場に表示されるカード。キジマの額に汗が伝う。
「奴の攻撃力は7000!!対して、俺達のモンスターはそれぞれ2500と2800・・・!!」
「俺達は、勝てないのか・・・!」
カケルは灼熱の鳥人が放つ光の前に膝を折った。これが、世界を滅ぼした力なのか・・・。
「終わりだ。瓦礫を這い回る卑賤な民よ、消え去れ!!」
灼熱の刃が眼前へと迫る。キジマとカケルは諦観の表情で、その光を見つめた。
その時。
「ん、なんだ。」
突如、ジェイミーの端末が揺れる。それを耳に当てると、スピーカーの向こうから怒鳴り声が飛び込んで来た。
「おい!!ジェイミー!!てめぇ、どこで何してやがる!!」
その声の主に、ジェイミーは冷静に返す。
「リチャードか。一体何があった。」
電話の相手、リチャードは焦るように言う。
「今直ぐ戻って来い!!奴が、鍵が、主君へと続く鍵が逃げた!!」
「なんだと。・・・分かった。」
会話を終えると、ジェイミーはディスクを仕舞い込んだ。同時に、寸での所で灼熱の鳥人が消える。
「・・・お前達の相手はまた後でだ。まぁ、自分の身の程は今のデュエルでよくわかったろうが。・・・《BF Mー太陽風のプラズマ》を召喚。」
鳥獣の背中に乗るジェイミー。その瞬間に、ジェイミーは小さく振り返る。
その瞳には、彼女の姿が。
(・・・やはり、よく似ている・・・)
次の瞬間、鳥獣の姿は光となって空へ消えた。
静寂がしばらく流れた後、カケルは地面に拳を打ち付けた。
「くっ・・・・そ・・・!!俺は・・・こんな程度の力しか持ってないのか・・・!!」
無力感に苛まれ、カケルは何度も拳を打ち付けた。その姿を見たキジマも、今回ばかりは掛ける言葉を持ち合わせていなかった。
その時、後ろからリンカが口を開く。
「・・・・カケル。さっきの言葉を聞いたか。」
カケルは拳を止め、リンカに問うた。
「さっきの・・・言葉?」
「ジェイミーが通信で言っていた。”鍵が逃げた”と。」
キジマも言葉を挟む。
「鍵?それってつまり・・・」
リンカは頷く。
「ユーガが逃げたんだ。」
その頃、朦朧とする意識の中で、ユーガは声を聞いていた。
「・・・い!」
うっすらと目を開ける。そこは涼しい空気が流れる青空の下。
「おい!君!大丈夫だったかい?奴らに殺されそうだったんだろ?」
ユーガは困惑して訊ねる。
「ここは・・・俺は・・一体・・・」
その声の主、視界に映った少年は笑う。
「大丈夫、僕も君と同じだ。さぁ、手を貸そう。」
その少年の手を取り、ユーガは上体を起こす。ようやく映り込んだ周りの景色に、ユーガは驚く。
「ここは・・・人が・・こんなに・・・!」
次回第17話「第2の村」
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そしてストーリーが意外な方向へ。無事だったのかよ、ユーガ!? (2016-05-24 18:06)
マサカーの持つ強さ、表現できてましたでしょうか?竜星と違う点はペンデュラムモンスターなので繰り返し耐性付与が狙える所ですかね。そう考えるとなかなか厄介かもしれません。
さて、次回は何故か無事だったユーガ、その助かった経緯が明らかになります。また読んで頂けたら嬉しく思います。 (2016-05-25 23:39)