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20:戦いは湯煙の中で 作:ほーがん
第20話「戦いは湯煙の中で」
睨み合うリンカとレイ。そしてタオルを抑えあたふたするクリスと、下を向いてどぎまぎするカケル。そんな中、先に動いたのはリンカだった。
「先攻は貰う!私のターン!手札から《強化恐竜ホイール・メガロ(☆4/闇/恐竜/1100・1100)》を特殊召喚!」
湯煙の中、轟音を引き連れ車輪の両足を持つ肉食獣が出現する。
「こいつは自分のフィールドにモンスターが存在しない時、手札から特殊召喚できる!さらに、《強化恐竜トキシック・ヴェロキ(☆4/闇/恐竜/1800・1400)》を召喚!」
もう一体の肉食獣が毒の鉤爪を光らせ、軽快に躍り出た。そして、その2体を指差し、リンカは叫ぶ。
「私はレベル4の《強化恐竜ホイール・メガロ》と《強化恐竜トキシック・ヴェロキ》でオーバーレイ!!」
閃光の渦が広がり、2体の恐竜が飛び込んだ。
「絶対零度の大地より、その牙を振るい刻の流れを噛み砕け!!エクシーズ召喚!!来い、ランク4!《超強化恐竜アイスファング・クリオロフォ(★4/闇/恐竜/エクシーズ/2400・900)》!!」
浴場の床を踏み砕くように現れたのは、全身を氷の鎧に包んだ巨大な恐獣の姿。その咆哮が谺し、空間全体を揺さぶる。
「ほう、エクシーズ召喚か。面白い。」
恐獣を見上げ、不敵に笑うレイ。リンカはさらに手札にカードを取り出し、ディスクに叩き付ける。
「私は装備魔法、《遺伝子覚醒薬》を発動!これを《超強化恐竜アイスファング・クリオロフォ》に装備する!これを装備したモンスターは相手の効果の対象にならず、攻撃力が600アップする!(ATK2400→3000)」
覚醒の力を与えられた恐獣は、再び咆哮を上げるとその能力を高めた。
「いきなり攻撃力3000のモンスター。なかなか、侮れないわね。」
息を飲むクリス。リンカはレイを指差し言った。
「私はこれでターンエンド!さぁ、次はお前のターンだ!」
デッキに手を伸ばし、レイは口を開いた。
「ふっ、戦士の戦いをその目に焼き付けるがいい!!私のターン、ドロー!!」
そして、身を振りかぶり、勢いよく引かれるカード。その瞬間、衝撃で身体に巻かれていたタオルが緩む。
「ちょ、ちょっと、レイ!タオル、タオル!」
「ん?タオル?」
一瞬、レイの素肌が露になるが、クリスがなんとか横からタオルを押さえ込んだ。そして、カケルの方を睨み、声を荒げる。
「見た!?」
「え、い、いや、見てねぇ!見てません!」
変わらぬ調子で顔を伏せるカケルが弁明する。その様子にリンカが苦言を呈した。
「おい、カケル!しっかりしろ!」
「わ、悪りぃ・・・。」
タオルを巻き直したレイは得意げに言う。
「私も自分の身体には自信のある方だ!男なら緊張するのも無理はない!だが、戦いの中ではそれが命取りになると知れ!私は手札から、《V・B(ヴィラン・ボッツ)ブラスト・ウェーブ(☆4/闇/機械/1900・1700)》を召喚!」
レイのフィールドに、銃の片腕を持つ悪のロボットが出現する。
「ヴィラン・ボッツ?カケルのブレイバーと似ているな・・・。」
その姿を見たリンカが呟く。レイは笑って言った。
「これこそが、闇夜に輝くダークヒーローの姿だ!《V・Bブラスト・ウェーブ》の効果発動!このターン、このカードの攻撃権を破棄する事で相手に400ダメージを与える!喰らえ、『ショック・ヴァイス』!!」
ロボットは左腕の銃口をリンカに向けると、エネルギー弾を放った。
「くっ!!この程度!!(LP4000→3600)」
エネルギー弾が残した煙を振り払い、リンカは歯を食いしばる。カケルは少し顔を上げると、そのロボットの姿を確認した。
「・・・おお!かっけぇな、あんたのモンスター!」
思わず興奮したカケルは顔を思い切り上げた。その瞬間、クリスが叫ぶ。
「あ!こっち見た!変態男!」
「ああ、ごめんなさい!」
慌てるカケルに、レイは笑って言う。
「はははっ!私のモンスターの魅力が分かるとは、なかなか見る目があるな!なら、もっと格好良いものを見せてやろう!このカードでな!」
そう口にしながら、取り出された1枚のカード。そのカードが表示されると、リンカは目を丸くした。
「魔法カード、《改造融合(カスタマイズ・フュージョン)》!!」
「何っ!?融合だと!?」
レイは、さらに手札をカードを取り出し、リンカ達に見せつけた。
「私はこのカードにより、手札の《V・A(ヴィランズ・アタッチメント)ブリッツ・ショッカー(☆4/闇/機械/ユニオン/0・2000)》と《V・Bブラスト・ウェーブ》を融合する!!」
飛び出した黒き高速巡洋艦が、変形を開始し、悪のロボットを包み込んで行く。
「闇夜に揺らめく狙撃手よ!星間を進む巨船よ!銀河の荒波をかき分け、怒濤の破壊者となれ!!改造融合!!浮上せよ、レベル7!!《V・B(ヴィランズ・ベルセルク)タイダル・ガンナー(☆7/闇/機械/融合/2700・2500)》!!」
無数の砲塔を内蔵した巨大ロボットと化したダークヒーローは、溢れんばかりのエネルギーを関節の隙間から光らせながら、フィールドを威圧した。
「で、でかい・・・!!」
思わずたじろぐリンカ。レイは高らかに宣言する。
「ふっははは!私は《V・Bタイダル・ガンナー》の効果発動!このカードの融合召喚に成功した時、このカード以外のフィールドのモンスターを全て破壊する!!『アルティメット・ディザスター』!!!」
巨大兵器は全身の砲塔を展開すると、四方に向けてエネルギー波を撃ち放った。だが、それと同時にリンカが叫ぶ。
「私は《超強化恐竜アイスファング・クリオロフォ》の効果発動!1ターンに1度、オーバーレイ・ユニットを1つ使う事で、相手の特殊召喚されたモンスター1体の効果をターン終了まで無効にする!」
恐獣の放った冷気に、巨大兵器の動きが停まる。不服そうにレイは顔を歪ませた。
「ちっ、まぁいい。戦いはまだ始まったばかりだからな!私はカードを1枚伏せて、ターンエンド!」
動かないカケルに対し、リンカは声を掛ける。
「おい、カケル!お前のターンだぞ!」
「・・・あ、そ、そっか!俺のターンか!ドロー!」
急いでカードを引くカケル。そして、浴場の床を見つめながら溜め息を付く。
「はぁ・・・参ったぜ。裸の女の子相手にデュエルだなんて・・・目のやり場に困って仕方ねぇよ。」
「ちょっと!変な事考えないでよね!」
クリスの忠告を聞き、カケルはさらに溜め息を付いた。
「俺は・・・モンスターをセット。カードを1枚セットしてターンエンドだ。」
「カケル!何故だ!?」
その行動にリンカが声を荒げる。
「え、何故って、何が?」
「私の場には攻撃力3000の《超強化恐竜アイスファング・クリオロフォ》が居る!攻撃力2700の《V・Bタイダル・ガンナー》に攻撃すれば破壊できたんだぞ!」
カケルはガックリと肩を落とした。
「ああ、そうか。タッグデュエルだから味方のモンスターも使えるのか。すまねぇ。」
「ふふふ、どうやらその男は私達の姿に惑わされて、まともな判断もできないスケベ野郎らしいわね。」
クスクスと笑うクリスを、リンカは睨みつけた。
「私の仲間を馬鹿にするな!!」
「うっ・・・そ、そんなに怒らなくても・・・。まぁ、いいわ。私のターン!ドロー・・・っと。」
ディスクを填めた腕でタオルを抑えながら、クリスはゆっくりとカードを引いた。レイはクリスに向かって言う。
「クリス、私のモンスターを使え!」
「ええ、そうさせて貰うわ、レイ!私は《V・Bタイダル・ガンナー》の効果発動!1ターンに1度、手札を3枚まで墓地に送ることで、相手にその数×500ダメージを与える!私は手札を3枚墓地へ!」
取り出した手札をクリスは墓地へ送り込む。それに反応し、巨大兵器の砲塔が伸びてゆく。
「なっ・・・!3×500、合計1500のダメージだと・・・!」
苦虫を噛み潰したような表情で、リンカは砲塔の奥に輝くエネルギーを見つめる。
「喰らいなさい!『スパイラル・ディスペアー』!!!」
そして、螺旋状に放たれるエネルギー弾。その一撃はリンカとカケルを吹き飛ばした。
「うわあああっ!!!(LP3600→2100)」
倒れ込んだリンカはなんとか体制を立て直し、立ち上がる。そして、カケルに向かって手を伸ばすと言った。
「ぼうっとするな。立て、カケル。」
「・・・ああ、悪いな、リンカ・・・。」
その手を取り、カケルは床に足を付ける。その様子を見たレイは高笑いした。
「ふははは!今のは効いただだろう!長く苦しませるのは趣味じゃない、さっさと止めを刺してやろう!クリス!」
「ええ、そうね!私は墓地の《V・G(ヴィランズ・ガール)リンリン(☆3/闇/戦士/1400・300)》の効果発動!このカードが「ヴィラン」モンスターの効果を発動する為に、手札から墓地に送られた場合、このカードを特殊召喚する!!」
クリスの墓地が光り、その中から拳法家の姿をした中華娘が飛び出した。
「そして私は魔法カード《ヴィランズ・タッグスター》を発動!このカードの効果で、私は《V・Gリンリン》のレベルを《V・Bタイダル・ガンナー》と同じにする!(☆3→☆7)」
「レベル7のモンスターが2体・・・まさか!!」
自分がタオル1枚であることも忘れ、クリスは叫んだ。
「私はレベル7の《V・Bタイダル・ガンナー》と《V・Gリンリン》でオーバーレイ!!」
巨大兵器と拳法娘は光の帯となり、閃光の渦へ飛び込んだ。
「宵空を駆け抜ける妖艶の乙女よ!宇宙兵器の力を得て、地上最強の戦士となれ!!エクシーズ召喚!!出でよ、ランク7!!《V・G・B(ヴィランズ・ガール・ベルセルク)ジェノサイド・ブラスター(★7/闇/機械/エクシーズ/3200・3000)》!!」
巨大兵器の外装を身に纏った娘は、両腕のキャノンを振りかざし、二人の少女の前に降り立つ。
「融合モンスターを素材にエクシーズ召喚だと・・・!!それにこの攻撃力・・・この二人、一体何者だ・・・!?」
リンカの零した言葉に、ずり落ちたタオルを慌てて巻き直したクリスが答える。
「おっとと・・・ふん!言ったでしょ、私達は戦士だって!この程度、朝飯前よ!」
「そういうことだ!《V・G・Bジェノサイド・ブラスター》の効果発動!このカードのエクシーズ召喚に成功した時、相手フィールドの全てのモンスターの攻撃力を半分にする!!『アトミック・ハザード』!!」
クリスに続けてレイが叫ぶ。しかし、リンカも負けては居なかった。
「忘れたのか!!《超強化恐竜アイスファング・クリオロフォ》の効果発動!オーバーレイ・ユニットを使い、特殊召喚されたモンスターの効果を無効にする!!」
再び、恐獣から暴風のような冷気が発生する。しかし、クリスは笑って言った。
「無駄よ!《ヴィランズ・タッグスター》の効果を受けたモンスターを素材にした《V・G・Bジェノサイド・ブラスター》は、相手のモンスター効果を受けない!!」
「ちっ・・・私のモンスターが・・・!!(ATK3000→1500)」
力を半減され、恐獣はフィールドに膝を付いた。そして、間髪いれずクリスが叫ぶ。
「バトルよ!《V・G・Bジェノサイド・ブラスター》で《超強化恐竜アイスファング・クリオロフォ》を攻撃!!『デストロイ・テンペスト』!!!」
両腕のキャノンを合体させた巨大兵器は、その中心に組み込まれた娘が引いたトリガーにより、凄まじい光線を放った。一直線に向かう光は、恐獣の鎧を砕き、跡形も無く焼き尽くす。
「うぅううっ!!(LP2100→400)」
ダメージに悶え、リンカは膝を折った。心配したカケルが声を上げる。
「おい、リンカ!大丈夫か!」
「仲間の心配をしている余裕があるのかしら?私は《V・G・Bジェノサイド・ブラスター》の効果発動!相手モンスターを戦闘破壊した時、オーバーレイ・ユニットを1つ使う事で、このカードはもう1度だけ続けて攻撃できる!!」
クリスが狙ったのは、カケルのフィールド。
「私は《V・G・Bジェノサイド・ブラスター》で、スケベ男の伏せモンスターを攻撃!!」
「なっ、お、俺のモンスターを!?けど、こいつは守備表示!ダメージは・・・」
言いかけたカケルを嘲るように、レイが口を開く。
「ダメージは無いとでも?甘いな!私達の《V・G・Bジェノサイド・ブラスター》は守備モンスターを攻撃した時、相手に貫通ダメージを与える!!」
「なんだと!!」
もう一度、エネルギーの充填が始まる。そして、レイとクリスは声を合わせて叫んだ。
「「喰らえ!!『デストロイ・テンペスト』!!!」」
その時、カケルのモンスターがリバースし、正体が露になる。
「くっ、俺のモンスターは《I・Bマイデン(☆4/光/機械/1900・1500)》・・・!」
「ははぁ!!そのまま砕け散れぇえぇ!!!」
レイの笑いが谺する。迫りくる光線にカケルは目を瞑った。
だが、この状況で、まだ諦めぬ者が居た。
「・・・私は破壊された《遺伝子覚醒薬》の効果を発動!!このカードを装備したモンスターが戦闘で破壊されたターン、墓地のこのカードを除外する事で相手モンスター1体の攻撃力を半分にする!!」
刹那、力を奪われた巨大兵器のエネルギーが落ちる。クリスは驚愕した。
「そんな!私達のモンスターが・・・!(ATK3200→1600)」
紅蓮の勇者は攻撃に砕け散ったが、そのダメージは最小限に抑えられた。
「助かったのか・・・?(LP400→300)」
恐る恐る目を開けるカケルに、立ち上がったリンカが言う。
「全く、急に世話が焼ける奴になって。私を支えてくれた勇者はどこへ行った。」
「・・・すまねぇ。」
思い通りの結末にならなかったからか、ギリギリと歯を食いしばりながら、レイが唸る。
「くっ・・・しぶとい奴らめ。だが、貴様らのライフはわずか300!!私達の勝利は目前だ!!」
「そうよ!あと、どさくさに紛れて顔上げないでくれる、スケベ男!!」
クリスの言葉に萎縮し、カケルは再び目線を床に落とす。
「・・・ふん!私はターンエンド!」
ターン終了の宣言をしたクリス。そして、リンカはデッキに手を伸ばす前に、ふとカケルに訊ねた。
「なぁ、カケル。そんなに女が苦手か?」
突然の質問にカケルは困惑する。
「え?あぁ、まぁ・・・今までこんな事無かったし、なんか緊張しちまって・・・」
「なら、私でも緊張するのか?」
その言葉に下を向いたままカケルは答える。
「リンカで?・・・いいや。しないな。」
「そうか・・・なら。おい、クリス。タオルを一枚貸せ。」
リンカはフィールドを横切り、クリスへと歩み寄る。
「な、何よ急に?」
「一体、何のつもりだ。」
警戒するレイ。しかし、リンカは落ち着き払った態度で言う。
「これは賭けだ。もしかしたら、私ならカケルの弱点を克服できるかもしれない。」
「どういう意味だ?」
レイの問いに、リンカはおもむろに自分の服を脱ぎ始めた。
「こういうことだ。」
「な、な、何よそれ!?あ、あんたも変態なの!?」
顔を真っ赤にするクリスに、リンカは呆れたように言う。
「まず、この場のどこにも変態などいない。カケルも含めてだ。これでカケルが過剰に反応しなければ、私の賭けは正しかった事になる。」
「むちゃくちゃやるな、貴様・・・。」
半ば感心したのか、レイは興味深そうに見つめる。そしてリンカは身体にタオルを巻き終えるとカケルの元へ戻った。
「よし、カケル。私の方を向いてみろ。」
「え?なんでだよ?」
しびれを切らしたようにリンカが声を荒げる。
「いいから、見ろ!早くしないと風邪を引く!」
「わっ、わーったよ!っと・・・。」
そして、恐る恐るカケルが顔を上げると。
「ど、どうだ・・・?」
そこには、裸体にタオル1枚だけになったリンカの姿があった。少し恥ずかしそうにするリンカに対し、カケルはキョトンとした顔で言う。
「お前、なんでそんな格好してんだ?寒いだろ、それじゃ。」
その様子を見たクリス驚愕する。
「ま、まさかの無反応・・・!」
「あの男にとって、あいつは眼中にないということか・・・?」
不思議そうに見つめる少女二人。リンカは勝ち誇ったように言った。
「ふっ、それでこそカケルだ!私が大丈夫なら、あの二人も大丈夫だろ?」
「おお、なんかそんな気がしてきた!」
そして、リンカはカケルを指差し言った。
「私達のライフはわずか300。だが、ユーガを思い出せ!どんなに自分のライフが低くても、あいつは決して諦めず、逆転に繋いだはずだ!!」
「ああ、そうだったな。・・・俺はどうやら大切なもの忘れてたみたいだぜ!あいつらを倒して、俺達は前に進む!」
完全に前を向いたカケルの目に揺るぎはない。思わず慌てたクリスが叫ぶ。
「ちょっと、こっち見ないでよ!!」
しかし、カケルは笑って言った。
「へっ、俺には大事な目的があるんだ!仲間を取り戻すって目的がな!その強い決意の前じゃ、女の裸なんて大した事ねぇぜ!!」
「なっ、何を・・・!私の身体を馬鹿にする気か!」
荒ぶるレイに、カケルは笑ってみせた。
「それに、全部リンカと同じって思っちまえば、楽勝じゃねぇか!!はっはっは!!」
「そっ、それはそれでちょっと傷つくぞカケル・・・。まぁいい、逆転の時だ!私のターン!!」
デッキからカードを引いたリンカ。それを見た彼女はニヤリと笑った。
「行くぞ!私は速攻魔法《リベンジ・チェンジ・エクシーズ》を発動!ライフを半分払い、自分の墓地からエクシーズモンスターを特殊召喚する!!蘇れ、《超強化恐竜アイスファング・クリオロフォ》!!(LP300→150)」
リンカの場に氷の恐獣が復活を遂げた。
「そして、この効果で特殊召喚したモンスターをエクストラデッキに戻し、そのモンスターと同じランク・種族を持つエクシーズモンスターを、エクシーズ召喚扱いで特殊召喚する!!私が呼ぶのは、こいつだ!!」
瞬間、エクストラデッキが光り、その中から悪夢の爪が伸びる。
「恐怖の爪を携えし魔物よ!遥かなる太古より、その力を呼び覚ませ!!エクシーズ召喚!!現れろ、ランク4!!《超強化恐竜ナイトメアエッジ・テリジノン(★4/闇/恐竜/エクシーズ/3000・1500)》!!」
闇を突き破り現れたのは、両腕に巨大な爪を備えた恐獣だった。その恐獣は長く鋭利な爪を振り上げると、浴場の床に突き刺し、咆哮を轟かせた。
「こ、攻撃力3000のエクシーズモンスターがこのタイミングで・・・!」
身構えるクリス。リンカはさらに言葉を続ける。
「《リベンジ・チェンジ・エクシーズ》は発動後、特殊召喚したエクシーズモンスターのオーバーレイ・ユニットになる!!そして《超強化恐竜ナイトメアエッジ・テリジノン》の効果発動!!」
爪を引き抜くと、恐獣は自身の周りを浮遊するオーバーレイ・ユニットに手を伸ばした。
「オーバーレイ・ユニットを一つ使う事で、《超強化恐竜ナイトメアエッジ・テリジノン》はこのターン、相手フィールドのモンスターの数だけ攻撃回数を増やす!!お前達のモンスターは1体!よって、2回の攻撃が可能!!」
勢いに乗るカケルが叫ぶ。
「っしゃあ、行けぇリンカ!!」
「ふっ、バトルだ!!《超強化恐竜ナイトメアエッジ・テリジノン》で《V・G・Bジェノサイド・ブラスター》を攻撃!!『デッドリィ・ダイノエッジ』!!」
巨大な爪を引き摺りながら、恐獣は駆け出す。火花を散らしながら迫る魔物に、レイは唸りを上げた。
「ううぅ!!罠発動!!《弾幕壁(バラージ・ウォール)》!!このターン、自分へのダメージは半分になり、自分はデッキからカードを1枚ドローする!」
カードを引くレイ。しかし、恐獣の爪はすでに巨大兵器の砲塔を切り裂いていた。
「くっ!!(LP4000→3300)」
クリスはダメージによろける。しかし、リンカの追撃の手は止まらない。
「私にはまだ、後1回の攻撃が残っている!!《超強化恐竜ナイトメアエッジ・テリジノン》でダイレクトアタック!!」
爆発し、崩れ落ちる巨大兵器。その黒煙の中から魔物の爪が、クリスに向かって伸びた。
「あああっ!!!(LP3300→1800)」
倒れ込むクリス。荒い息を整えながら、レイは言った。
「《弾幕壁》のさらなる効果発動!このターンのバトルフェイズ終了時に、戦闘を行った全てのモンスターを破壊する!!」
「何だと!?」
罠カードより放たれた弾幕の雨は、恐獣の身体を突き貫く。
「これで、このターンのダメージは受け切った。さぁ、ターンを渡して貰おうか!」
リンカはレイを睨む。
「私の切り札が・・・くっ!ターンエンドだ!」
倒れたクリスに手を貸したレイは、彼女を立たせた。
「しっかりしろ、クリス。」
「ええ。た、タオル取れてないわよね?」
自分の身体を確認するクリスに、レイは言う。
「クリス、もうあの男に色仕掛けは通用しないぞ。タオルなど今更気にするな。」
「いや、あっちは良くても、私が良くないんだから!」
抗議するクリスを余所に、レイはデッキからカードを引いた。
「行くぞ、私のターン、ドロー!!ふっ、さっきの《弾幕壁》によるドロー。あれは私に良いカードをくれた!!私は装備魔法カード《再融合》を発動!!(LP1800→1000)」
レイの場に表示されるカード。リンカの身に悪寒が走る。
「《再融合》・・・!まさか!」
「そうだ!!800のライフと引き換えに、墓地の融合モンスターを特殊召喚しこのカードを装備する!!再び、浮上せよ!!《V・Bタイダル・ガンナー》!!」
巨大ロボットが床を突き破り、浮上する。再び、全身から溢れ出すエネルギーが光り始めた。
「まずい、あのモンスターには!!カケル!!」
焦りを見せるリンカ。しかし、カケルは目を閉じ、佇んでいる。
「そうだ!!このモンスターの能力!!それで貴様は終わりだ!!私は《V・Bタイダル・ガンナー》の効果を発動!!手札を1枚捨て、相手に500ダメージを与える!!『スパイラル・ディスペアー』!!」
展開される砲塔。そして、その奥には、あの螺旋状のエネルギー弾が充填されてゆく。
「カケル!!」
叫ぶリンカ。レイは高らかに宣言した。
「これで私達の勝ちだ!!ふはははっ!!!」
とうとう、砲身から凄まじいエネルギーが発射される。
ように見えた。しかし、カケルの瞳が開くと同時に、リバースカードが動く。
「速攻魔法発動!!《融合解除》!!」
寸での所で、巨大兵器の動きが止まる。レイは動揺の声を上げた。
「なっ、《融合解除》だと!!?」
砲口を前にして、カケルは笑う。
「ああ、そうさ!今までタイミングを逃して来たが、ようやく使う時が来たぜ!!さぁ、お家に帰りな、木偶の坊!!!」
悶えながら、煙のように消えて行く巨大兵器。その姿を前にレイは膝を折った。
「わ、私の《V・Bタイダル・ガンナー》が・・・!!」
「さぁ、どうする?もう打つ手無しか!?」
得意げに笑うカケルに、レイは苦しい顔で言った。
「私は・・・ターンエンド・・・・。」
リンカはカケルに笑い掛ける。
「カケル・・・ありがとう。」
「なーに、今まで腑抜けてた分のお返しさ。さぁ、行くぜ。俺のターン!」
引いたカードを見たカケルは、ハッとした顔をする。
「お前は・・・そうか、お前も戦いたいか!なら、行って来い!俺は手札から《I・Bハイドラー(☆4/光/機械/2100・1200)》を召喚!!」
現れたのは黒い翼を持つ、漆黒の勇者。その鷹の如き鋭い眼光が二人の少女を貫いた。
「何っ!?イモータル・ブレイバーはマイデンだけでは無かったのか!?」
そのモンスターの登場に驚くリンカ。カケルは呆れたように言う。
「おいおい、リンカ。2号ロボットは勇者のお約束だろ?」
「そ、そうなのか?よくわからんが・・・まぁいい!こいつで奴らに止めが!」
しかし、カケルは首を横に振る。
「いや、《I・Bハイドラー》は通常召喚したターンは攻撃できない。」
「何ぃ!?」
混乱するリンカ。その様子にクリスは笑った。
「あははっ!せっかく呼んだモンスターが攻撃できないなんて!無様ね!次の私のターンで・・・」
しかし、カケルは笑顔だった。
「・・・誰が、《I・Bハイドラー》で攻撃するって言ったよ?・・・なぁ、レイさんよ。あんたは融合使いなんだよな?」
その問いにレイが突き放すように答える。
「それがどうした!?」
「融合を使えるのは、何もあんただけじゃないんだぜ・・・?魔法カード《武装融合》発動!!」
カケルの場に表示されるカード。レイは思わず声を上げた。
「《武装融合》だと・・・!?」
手札のカードを取り出し、カケルはそれを墓地へ送る。
「俺は手札の《B・C(ブレイバー・キャリアー)バスターカーゴ(☆5/光/機械/ユニオン/2300・2000)》と《I・Bハイドラー》を融合するぜ!!」
飛び出したのは、超音速輸送機。それに合わせ、漆黒の勇者のスラスターが光ると、一気に空中へ飛び出した。
「鐵の翼、天に舞う時、新たな戦士の鼓動が始まる!!これが限界を超えた、勇者の姿だ!!武装融合!!飛び立て、レベル8!!《I・Bハイドラー/ステルスバスター(☆8/光/機械/融合/2500・2000)》!!!」
音速の力を手に入れた漆黒の勇者は、雄々しい姿となってカケルの前に足を着けた。
「くっ・・・!攻撃力2500!!」
「嘘・・・でしょ・・・!?」
そして、カケルは二人の少女を指差し、笑いながら言った。
「フィニッシュだ!!《I・Bハイドラー/ステルスバスター》でダイレクトアタック!!」
翼を広げ、飛び上がる漆黒の勇者。そして、急降下と共に光を放った。
「『ダークウィング・サンダーボルト』!!!」
二人の少女はその衝撃に吹き飛ばされた。
「ぐあああぁぁぁっ!!!(LP1000→0)」
『勝者:カケル・リンカ』
その瞬間、レイとクリスのタオルがはだける。
「!!」
瞬時にそれに気付いたリンカはギリギリの所で、カケルの目を隠した。
「お、おい!リンカ!何も見えねぇぞ!せっかく勝ったってのに!」
「み、見ない方がいい!流石にこれはカケルにも刺激が強いと思う・・・。」
それから、しばらくして。
「もう、いいぞカケル。」
リンカの声に、カケルは振り向いた。そこにはしっかりと服を来た3人の少女の姿が。
「はぁ、まぁなんだかんだ言っても、服着てもらってた方が安心するな。色々と。」
「ふっ、私の裸で結構楽しんでたくせに!」
そう言ってそっぽを向くクリスに、カケルは思わず苦笑いをする。ふと思い出したのか、レイはリンカに訊ねた。
「お前達はペンデュラムを使って来なかった。ということは奴らとは無関係なのか?」
「ペンデュラムだと!?そんな力を持っているのは奴らしか・・・」
その時、レイとリンカはハッとして言う。
「もしかして、その奴らというのは・・・」
レイの言葉に、リンカは答える。
「マサカー、か?」
「何よ、貴方達マサカーを知っていたの?」
クリスがカケルに詰め寄る。
「ああ、俺達の仲間を攫ったのは、そのマサカーだ。」
それを聞き、レイは笑った。
「なるほど、ということは私達の追う相手は一緒と言う訳だ。」
「ま、まさか、レイ!こいつらと手を組むなんて言うんじゃないでしょうね!?」
不安そうに言うクリスをなだめるように、レイは肩に手を置いた。
「今のデュエルで、こいつらの力量は計れた。遠征が終わるまでなら問題ないだろ?」
「い、嫌よ!ただでさえハル君に手を焼いてるのに、これ以上パーティに男が増えるなんて!」
二人の会話にリンカが口を挟む。
「私達の相手は強大だ、仲間が増えるに越した事は無い。手を貸してくれるなら素直に嬉しいが。だろ、カケル?」
「まぁ、そこのクリスさんは俺が嫌みたいだけど。この分ならキジマも嫌がられるんじゃねぇか?」
しかし、そんなやり取りも気にすることなくレイは歩き出した。
「よし!心強い仲間も増えたことだし、ハルのアホを探しに行くぞクリス!」
「ええ、待ってよ〜レイ!私まだ賛成してないんだけど!」
とぼとぼと後を歩くクリス。レイの勢いに乗せられ、カケルとリンカも温泉の外へと歩き出した。
その道中、リンカは小さな声でカケルに言う。
「・・・なぁ、カケル。」
「ん?なんだ、リンカ。」
少し間を置いてからリンカが口を開いた。
「ほ、本当に、その、私の身体を見て、何も感じなかったのか?」
「へっ、らしくねぇな、リンカ。そんな事聞くなんて。」
リンカは少し顔を赤くしながら問う。
「いいから、答えろ。」
その目を見たカケルは、やや照れくさそうに言った。
「・・・まぁ、その、なんだ。さっきはデュエル中だったから、そんな考える余裕もなかったけど、今思い返せば・・・綺麗だった・・・かな。」
意外な反応に目を丸くするリンカ。それから小さく笑うと、カケルに向かって掌を差し出した。
「な、なんだよ?」
「パン。」
今度ははっきりと笑って、リンカは言った。
「パン、あるだろ。食べたい。」
それを聞いたカケルは一瞬驚いたが、同じように笑うと鞄から要求された物を取り出した。
「・・・食い過ぎんなよ。」
「ふふっ、分かっている。」
そうして、二人は再び同じ方向を向き、歩く事に専念した。
その頃、ナナ達は長く暗い廊下を歩いていた。
「なぁ、ナナさん。正しいルートを知ってるんじゃ・・・」
「・・・人は誰しも間違うものよ。そんな時は寛大な心が大切だわ。」
マーナの手を引くキジマは溜め息を付いた。
その時。
「やぁ、奇遇だなぁ。こんな所で人に会うなんて。」
廊下の角から姿を現したのは、シルクハットを被った男。警戒したキジマはマーナをナナに預けると、ディスクを構えた。
「誰だ!?こんな所で何をしてる!?」
その男は帽子の鍔からちらつく瞳で、キジマを見つめる。
「僕はハル。実は・・・」
コツコツと足音をならして近づく男は、笑って言った。
「道に迷いまして。・・・・出口知ってます?」
次回第21話「罠を越えた先に」
睨み合うリンカとレイ。そしてタオルを抑えあたふたするクリスと、下を向いてどぎまぎするカケル。そんな中、先に動いたのはリンカだった。
「先攻は貰う!私のターン!手札から《強化恐竜ホイール・メガロ(☆4/闇/恐竜/1100・1100)》を特殊召喚!」
湯煙の中、轟音を引き連れ車輪の両足を持つ肉食獣が出現する。
「こいつは自分のフィールドにモンスターが存在しない時、手札から特殊召喚できる!さらに、《強化恐竜トキシック・ヴェロキ(☆4/闇/恐竜/1800・1400)》を召喚!」
もう一体の肉食獣が毒の鉤爪を光らせ、軽快に躍り出た。そして、その2体を指差し、リンカは叫ぶ。
「私はレベル4の《強化恐竜ホイール・メガロ》と《強化恐竜トキシック・ヴェロキ》でオーバーレイ!!」
閃光の渦が広がり、2体の恐竜が飛び込んだ。
「絶対零度の大地より、その牙を振るい刻の流れを噛み砕け!!エクシーズ召喚!!来い、ランク4!《超強化恐竜アイスファング・クリオロフォ(★4/闇/恐竜/エクシーズ/2400・900)》!!」
浴場の床を踏み砕くように現れたのは、全身を氷の鎧に包んだ巨大な恐獣の姿。その咆哮が谺し、空間全体を揺さぶる。
「ほう、エクシーズ召喚か。面白い。」
恐獣を見上げ、不敵に笑うレイ。リンカはさらに手札にカードを取り出し、ディスクに叩き付ける。
「私は装備魔法、《遺伝子覚醒薬》を発動!これを《超強化恐竜アイスファング・クリオロフォ》に装備する!これを装備したモンスターは相手の効果の対象にならず、攻撃力が600アップする!(ATK2400→3000)」
覚醒の力を与えられた恐獣は、再び咆哮を上げるとその能力を高めた。
「いきなり攻撃力3000のモンスター。なかなか、侮れないわね。」
息を飲むクリス。リンカはレイを指差し言った。
「私はこれでターンエンド!さぁ、次はお前のターンだ!」
デッキに手を伸ばし、レイは口を開いた。
「ふっ、戦士の戦いをその目に焼き付けるがいい!!私のターン、ドロー!!」
そして、身を振りかぶり、勢いよく引かれるカード。その瞬間、衝撃で身体に巻かれていたタオルが緩む。
「ちょ、ちょっと、レイ!タオル、タオル!」
「ん?タオル?」
一瞬、レイの素肌が露になるが、クリスがなんとか横からタオルを押さえ込んだ。そして、カケルの方を睨み、声を荒げる。
「見た!?」
「え、い、いや、見てねぇ!見てません!」
変わらぬ調子で顔を伏せるカケルが弁明する。その様子にリンカが苦言を呈した。
「おい、カケル!しっかりしろ!」
「わ、悪りぃ・・・。」
タオルを巻き直したレイは得意げに言う。
「私も自分の身体には自信のある方だ!男なら緊張するのも無理はない!だが、戦いの中ではそれが命取りになると知れ!私は手札から、《V・B(ヴィラン・ボッツ)ブラスト・ウェーブ(☆4/闇/機械/1900・1700)》を召喚!」
レイのフィールドに、銃の片腕を持つ悪のロボットが出現する。
「ヴィラン・ボッツ?カケルのブレイバーと似ているな・・・。」
その姿を見たリンカが呟く。レイは笑って言った。
「これこそが、闇夜に輝くダークヒーローの姿だ!《V・Bブラスト・ウェーブ》の効果発動!このターン、このカードの攻撃権を破棄する事で相手に400ダメージを与える!喰らえ、『ショック・ヴァイス』!!」
ロボットは左腕の銃口をリンカに向けると、エネルギー弾を放った。
「くっ!!この程度!!(LP4000→3600)」
エネルギー弾が残した煙を振り払い、リンカは歯を食いしばる。カケルは少し顔を上げると、そのロボットの姿を確認した。
「・・・おお!かっけぇな、あんたのモンスター!」
思わず興奮したカケルは顔を思い切り上げた。その瞬間、クリスが叫ぶ。
「あ!こっち見た!変態男!」
「ああ、ごめんなさい!」
慌てるカケルに、レイは笑って言う。
「はははっ!私のモンスターの魅力が分かるとは、なかなか見る目があるな!なら、もっと格好良いものを見せてやろう!このカードでな!」
そう口にしながら、取り出された1枚のカード。そのカードが表示されると、リンカは目を丸くした。
「魔法カード、《改造融合(カスタマイズ・フュージョン)》!!」
「何っ!?融合だと!?」
レイは、さらに手札をカードを取り出し、リンカ達に見せつけた。
「私はこのカードにより、手札の《V・A(ヴィランズ・アタッチメント)ブリッツ・ショッカー(☆4/闇/機械/ユニオン/0・2000)》と《V・Bブラスト・ウェーブ》を融合する!!」
飛び出した黒き高速巡洋艦が、変形を開始し、悪のロボットを包み込んで行く。
「闇夜に揺らめく狙撃手よ!星間を進む巨船よ!銀河の荒波をかき分け、怒濤の破壊者となれ!!改造融合!!浮上せよ、レベル7!!《V・B(ヴィランズ・ベルセルク)タイダル・ガンナー(☆7/闇/機械/融合/2700・2500)》!!」
無数の砲塔を内蔵した巨大ロボットと化したダークヒーローは、溢れんばかりのエネルギーを関節の隙間から光らせながら、フィールドを威圧した。
「で、でかい・・・!!」
思わずたじろぐリンカ。レイは高らかに宣言する。
「ふっははは!私は《V・Bタイダル・ガンナー》の効果発動!このカードの融合召喚に成功した時、このカード以外のフィールドのモンスターを全て破壊する!!『アルティメット・ディザスター』!!!」
巨大兵器は全身の砲塔を展開すると、四方に向けてエネルギー波を撃ち放った。だが、それと同時にリンカが叫ぶ。
「私は《超強化恐竜アイスファング・クリオロフォ》の効果発動!1ターンに1度、オーバーレイ・ユニットを1つ使う事で、相手の特殊召喚されたモンスター1体の効果をターン終了まで無効にする!」
恐獣の放った冷気に、巨大兵器の動きが停まる。不服そうにレイは顔を歪ませた。
「ちっ、まぁいい。戦いはまだ始まったばかりだからな!私はカードを1枚伏せて、ターンエンド!」
動かないカケルに対し、リンカは声を掛ける。
「おい、カケル!お前のターンだぞ!」
「・・・あ、そ、そっか!俺のターンか!ドロー!」
急いでカードを引くカケル。そして、浴場の床を見つめながら溜め息を付く。
「はぁ・・・参ったぜ。裸の女の子相手にデュエルだなんて・・・目のやり場に困って仕方ねぇよ。」
「ちょっと!変な事考えないでよね!」
クリスの忠告を聞き、カケルはさらに溜め息を付いた。
「俺は・・・モンスターをセット。カードを1枚セットしてターンエンドだ。」
「カケル!何故だ!?」
その行動にリンカが声を荒げる。
「え、何故って、何が?」
「私の場には攻撃力3000の《超強化恐竜アイスファング・クリオロフォ》が居る!攻撃力2700の《V・Bタイダル・ガンナー》に攻撃すれば破壊できたんだぞ!」
カケルはガックリと肩を落とした。
「ああ、そうか。タッグデュエルだから味方のモンスターも使えるのか。すまねぇ。」
「ふふふ、どうやらその男は私達の姿に惑わされて、まともな判断もできないスケベ野郎らしいわね。」
クスクスと笑うクリスを、リンカは睨みつけた。
「私の仲間を馬鹿にするな!!」
「うっ・・・そ、そんなに怒らなくても・・・。まぁ、いいわ。私のターン!ドロー・・・っと。」
ディスクを填めた腕でタオルを抑えながら、クリスはゆっくりとカードを引いた。レイはクリスに向かって言う。
「クリス、私のモンスターを使え!」
「ええ、そうさせて貰うわ、レイ!私は《V・Bタイダル・ガンナー》の効果発動!1ターンに1度、手札を3枚まで墓地に送ることで、相手にその数×500ダメージを与える!私は手札を3枚墓地へ!」
取り出した手札をクリスは墓地へ送り込む。それに反応し、巨大兵器の砲塔が伸びてゆく。
「なっ・・・!3×500、合計1500のダメージだと・・・!」
苦虫を噛み潰したような表情で、リンカは砲塔の奥に輝くエネルギーを見つめる。
「喰らいなさい!『スパイラル・ディスペアー』!!!」
そして、螺旋状に放たれるエネルギー弾。その一撃はリンカとカケルを吹き飛ばした。
「うわあああっ!!!(LP3600→2100)」
倒れ込んだリンカはなんとか体制を立て直し、立ち上がる。そして、カケルに向かって手を伸ばすと言った。
「ぼうっとするな。立て、カケル。」
「・・・ああ、悪いな、リンカ・・・。」
その手を取り、カケルは床に足を付ける。その様子を見たレイは高笑いした。
「ふははは!今のは効いただだろう!長く苦しませるのは趣味じゃない、さっさと止めを刺してやろう!クリス!」
「ええ、そうね!私は墓地の《V・G(ヴィランズ・ガール)リンリン(☆3/闇/戦士/1400・300)》の効果発動!このカードが「ヴィラン」モンスターの効果を発動する為に、手札から墓地に送られた場合、このカードを特殊召喚する!!」
クリスの墓地が光り、その中から拳法家の姿をした中華娘が飛び出した。
「そして私は魔法カード《ヴィランズ・タッグスター》を発動!このカードの効果で、私は《V・Gリンリン》のレベルを《V・Bタイダル・ガンナー》と同じにする!(☆3→☆7)」
「レベル7のモンスターが2体・・・まさか!!」
自分がタオル1枚であることも忘れ、クリスは叫んだ。
「私はレベル7の《V・Bタイダル・ガンナー》と《V・Gリンリン》でオーバーレイ!!」
巨大兵器と拳法娘は光の帯となり、閃光の渦へ飛び込んだ。
「宵空を駆け抜ける妖艶の乙女よ!宇宙兵器の力を得て、地上最強の戦士となれ!!エクシーズ召喚!!出でよ、ランク7!!《V・G・B(ヴィランズ・ガール・ベルセルク)ジェノサイド・ブラスター(★7/闇/機械/エクシーズ/3200・3000)》!!」
巨大兵器の外装を身に纏った娘は、両腕のキャノンを振りかざし、二人の少女の前に降り立つ。
「融合モンスターを素材にエクシーズ召喚だと・・・!!それにこの攻撃力・・・この二人、一体何者だ・・・!?」
リンカの零した言葉に、ずり落ちたタオルを慌てて巻き直したクリスが答える。
「おっとと・・・ふん!言ったでしょ、私達は戦士だって!この程度、朝飯前よ!」
「そういうことだ!《V・G・Bジェノサイド・ブラスター》の効果発動!このカードのエクシーズ召喚に成功した時、相手フィールドの全てのモンスターの攻撃力を半分にする!!『アトミック・ハザード』!!」
クリスに続けてレイが叫ぶ。しかし、リンカも負けては居なかった。
「忘れたのか!!《超強化恐竜アイスファング・クリオロフォ》の効果発動!オーバーレイ・ユニットを使い、特殊召喚されたモンスターの効果を無効にする!!」
再び、恐獣から暴風のような冷気が発生する。しかし、クリスは笑って言った。
「無駄よ!《ヴィランズ・タッグスター》の効果を受けたモンスターを素材にした《V・G・Bジェノサイド・ブラスター》は、相手のモンスター効果を受けない!!」
「ちっ・・・私のモンスターが・・・!!(ATK3000→1500)」
力を半減され、恐獣はフィールドに膝を付いた。そして、間髪いれずクリスが叫ぶ。
「バトルよ!《V・G・Bジェノサイド・ブラスター》で《超強化恐竜アイスファング・クリオロフォ》を攻撃!!『デストロイ・テンペスト』!!!」
両腕のキャノンを合体させた巨大兵器は、その中心に組み込まれた娘が引いたトリガーにより、凄まじい光線を放った。一直線に向かう光は、恐獣の鎧を砕き、跡形も無く焼き尽くす。
「うぅううっ!!(LP2100→400)」
ダメージに悶え、リンカは膝を折った。心配したカケルが声を上げる。
「おい、リンカ!大丈夫か!」
「仲間の心配をしている余裕があるのかしら?私は《V・G・Bジェノサイド・ブラスター》の効果発動!相手モンスターを戦闘破壊した時、オーバーレイ・ユニットを1つ使う事で、このカードはもう1度だけ続けて攻撃できる!!」
クリスが狙ったのは、カケルのフィールド。
「私は《V・G・Bジェノサイド・ブラスター》で、スケベ男の伏せモンスターを攻撃!!」
「なっ、お、俺のモンスターを!?けど、こいつは守備表示!ダメージは・・・」
言いかけたカケルを嘲るように、レイが口を開く。
「ダメージは無いとでも?甘いな!私達の《V・G・Bジェノサイド・ブラスター》は守備モンスターを攻撃した時、相手に貫通ダメージを与える!!」
「なんだと!!」
もう一度、エネルギーの充填が始まる。そして、レイとクリスは声を合わせて叫んだ。
「「喰らえ!!『デストロイ・テンペスト』!!!」」
その時、カケルのモンスターがリバースし、正体が露になる。
「くっ、俺のモンスターは《I・Bマイデン(☆4/光/機械/1900・1500)》・・・!」
「ははぁ!!そのまま砕け散れぇえぇ!!!」
レイの笑いが谺する。迫りくる光線にカケルは目を瞑った。
だが、この状況で、まだ諦めぬ者が居た。
「・・・私は破壊された《遺伝子覚醒薬》の効果を発動!!このカードを装備したモンスターが戦闘で破壊されたターン、墓地のこのカードを除外する事で相手モンスター1体の攻撃力を半分にする!!」
刹那、力を奪われた巨大兵器のエネルギーが落ちる。クリスは驚愕した。
「そんな!私達のモンスターが・・・!(ATK3200→1600)」
紅蓮の勇者は攻撃に砕け散ったが、そのダメージは最小限に抑えられた。
「助かったのか・・・?(LP400→300)」
恐る恐る目を開けるカケルに、立ち上がったリンカが言う。
「全く、急に世話が焼ける奴になって。私を支えてくれた勇者はどこへ行った。」
「・・・すまねぇ。」
思い通りの結末にならなかったからか、ギリギリと歯を食いしばりながら、レイが唸る。
「くっ・・・しぶとい奴らめ。だが、貴様らのライフはわずか300!!私達の勝利は目前だ!!」
「そうよ!あと、どさくさに紛れて顔上げないでくれる、スケベ男!!」
クリスの言葉に萎縮し、カケルは再び目線を床に落とす。
「・・・ふん!私はターンエンド!」
ターン終了の宣言をしたクリス。そして、リンカはデッキに手を伸ばす前に、ふとカケルに訊ねた。
「なぁ、カケル。そんなに女が苦手か?」
突然の質問にカケルは困惑する。
「え?あぁ、まぁ・・・今までこんな事無かったし、なんか緊張しちまって・・・」
「なら、私でも緊張するのか?」
その言葉に下を向いたままカケルは答える。
「リンカで?・・・いいや。しないな。」
「そうか・・・なら。おい、クリス。タオルを一枚貸せ。」
リンカはフィールドを横切り、クリスへと歩み寄る。
「な、何よ急に?」
「一体、何のつもりだ。」
警戒するレイ。しかし、リンカは落ち着き払った態度で言う。
「これは賭けだ。もしかしたら、私ならカケルの弱点を克服できるかもしれない。」
「どういう意味だ?」
レイの問いに、リンカはおもむろに自分の服を脱ぎ始めた。
「こういうことだ。」
「な、な、何よそれ!?あ、あんたも変態なの!?」
顔を真っ赤にするクリスに、リンカは呆れたように言う。
「まず、この場のどこにも変態などいない。カケルも含めてだ。これでカケルが過剰に反応しなければ、私の賭けは正しかった事になる。」
「むちゃくちゃやるな、貴様・・・。」
半ば感心したのか、レイは興味深そうに見つめる。そしてリンカは身体にタオルを巻き終えるとカケルの元へ戻った。
「よし、カケル。私の方を向いてみろ。」
「え?なんでだよ?」
しびれを切らしたようにリンカが声を荒げる。
「いいから、見ろ!早くしないと風邪を引く!」
「わっ、わーったよ!っと・・・。」
そして、恐る恐るカケルが顔を上げると。
「ど、どうだ・・・?」
そこには、裸体にタオル1枚だけになったリンカの姿があった。少し恥ずかしそうにするリンカに対し、カケルはキョトンとした顔で言う。
「お前、なんでそんな格好してんだ?寒いだろ、それじゃ。」
その様子を見たクリス驚愕する。
「ま、まさかの無反応・・・!」
「あの男にとって、あいつは眼中にないということか・・・?」
不思議そうに見つめる少女二人。リンカは勝ち誇ったように言った。
「ふっ、それでこそカケルだ!私が大丈夫なら、あの二人も大丈夫だろ?」
「おお、なんかそんな気がしてきた!」
そして、リンカはカケルを指差し言った。
「私達のライフはわずか300。だが、ユーガを思い出せ!どんなに自分のライフが低くても、あいつは決して諦めず、逆転に繋いだはずだ!!」
「ああ、そうだったな。・・・俺はどうやら大切なもの忘れてたみたいだぜ!あいつらを倒して、俺達は前に進む!」
完全に前を向いたカケルの目に揺るぎはない。思わず慌てたクリスが叫ぶ。
「ちょっと、こっち見ないでよ!!」
しかし、カケルは笑って言った。
「へっ、俺には大事な目的があるんだ!仲間を取り戻すって目的がな!その強い決意の前じゃ、女の裸なんて大した事ねぇぜ!!」
「なっ、何を・・・!私の身体を馬鹿にする気か!」
荒ぶるレイに、カケルは笑ってみせた。
「それに、全部リンカと同じって思っちまえば、楽勝じゃねぇか!!はっはっは!!」
「そっ、それはそれでちょっと傷つくぞカケル・・・。まぁいい、逆転の時だ!私のターン!!」
デッキからカードを引いたリンカ。それを見た彼女はニヤリと笑った。
「行くぞ!私は速攻魔法《リベンジ・チェンジ・エクシーズ》を発動!ライフを半分払い、自分の墓地からエクシーズモンスターを特殊召喚する!!蘇れ、《超強化恐竜アイスファング・クリオロフォ》!!(LP300→150)」
リンカの場に氷の恐獣が復活を遂げた。
「そして、この効果で特殊召喚したモンスターをエクストラデッキに戻し、そのモンスターと同じランク・種族を持つエクシーズモンスターを、エクシーズ召喚扱いで特殊召喚する!!私が呼ぶのは、こいつだ!!」
瞬間、エクストラデッキが光り、その中から悪夢の爪が伸びる。
「恐怖の爪を携えし魔物よ!遥かなる太古より、その力を呼び覚ませ!!エクシーズ召喚!!現れろ、ランク4!!《超強化恐竜ナイトメアエッジ・テリジノン(★4/闇/恐竜/エクシーズ/3000・1500)》!!」
闇を突き破り現れたのは、両腕に巨大な爪を備えた恐獣だった。その恐獣は長く鋭利な爪を振り上げると、浴場の床に突き刺し、咆哮を轟かせた。
「こ、攻撃力3000のエクシーズモンスターがこのタイミングで・・・!」
身構えるクリス。リンカはさらに言葉を続ける。
「《リベンジ・チェンジ・エクシーズ》は発動後、特殊召喚したエクシーズモンスターのオーバーレイ・ユニットになる!!そして《超強化恐竜ナイトメアエッジ・テリジノン》の効果発動!!」
爪を引き抜くと、恐獣は自身の周りを浮遊するオーバーレイ・ユニットに手を伸ばした。
「オーバーレイ・ユニットを一つ使う事で、《超強化恐竜ナイトメアエッジ・テリジノン》はこのターン、相手フィールドのモンスターの数だけ攻撃回数を増やす!!お前達のモンスターは1体!よって、2回の攻撃が可能!!」
勢いに乗るカケルが叫ぶ。
「っしゃあ、行けぇリンカ!!」
「ふっ、バトルだ!!《超強化恐竜ナイトメアエッジ・テリジノン》で《V・G・Bジェノサイド・ブラスター》を攻撃!!『デッドリィ・ダイノエッジ』!!」
巨大な爪を引き摺りながら、恐獣は駆け出す。火花を散らしながら迫る魔物に、レイは唸りを上げた。
「ううぅ!!罠発動!!《弾幕壁(バラージ・ウォール)》!!このターン、自分へのダメージは半分になり、自分はデッキからカードを1枚ドローする!」
カードを引くレイ。しかし、恐獣の爪はすでに巨大兵器の砲塔を切り裂いていた。
「くっ!!(LP4000→3300)」
クリスはダメージによろける。しかし、リンカの追撃の手は止まらない。
「私にはまだ、後1回の攻撃が残っている!!《超強化恐竜ナイトメアエッジ・テリジノン》でダイレクトアタック!!」
爆発し、崩れ落ちる巨大兵器。その黒煙の中から魔物の爪が、クリスに向かって伸びた。
「あああっ!!!(LP3300→1800)」
倒れ込むクリス。荒い息を整えながら、レイは言った。
「《弾幕壁》のさらなる効果発動!このターンのバトルフェイズ終了時に、戦闘を行った全てのモンスターを破壊する!!」
「何だと!?」
罠カードより放たれた弾幕の雨は、恐獣の身体を突き貫く。
「これで、このターンのダメージは受け切った。さぁ、ターンを渡して貰おうか!」
リンカはレイを睨む。
「私の切り札が・・・くっ!ターンエンドだ!」
倒れたクリスに手を貸したレイは、彼女を立たせた。
「しっかりしろ、クリス。」
「ええ。た、タオル取れてないわよね?」
自分の身体を確認するクリスに、レイは言う。
「クリス、もうあの男に色仕掛けは通用しないぞ。タオルなど今更気にするな。」
「いや、あっちは良くても、私が良くないんだから!」
抗議するクリスを余所に、レイはデッキからカードを引いた。
「行くぞ、私のターン、ドロー!!ふっ、さっきの《弾幕壁》によるドロー。あれは私に良いカードをくれた!!私は装備魔法カード《再融合》を発動!!(LP1800→1000)」
レイの場に表示されるカード。リンカの身に悪寒が走る。
「《再融合》・・・!まさか!」
「そうだ!!800のライフと引き換えに、墓地の融合モンスターを特殊召喚しこのカードを装備する!!再び、浮上せよ!!《V・Bタイダル・ガンナー》!!」
巨大ロボットが床を突き破り、浮上する。再び、全身から溢れ出すエネルギーが光り始めた。
「まずい、あのモンスターには!!カケル!!」
焦りを見せるリンカ。しかし、カケルは目を閉じ、佇んでいる。
「そうだ!!このモンスターの能力!!それで貴様は終わりだ!!私は《V・Bタイダル・ガンナー》の効果を発動!!手札を1枚捨て、相手に500ダメージを与える!!『スパイラル・ディスペアー』!!」
展開される砲塔。そして、その奥には、あの螺旋状のエネルギー弾が充填されてゆく。
「カケル!!」
叫ぶリンカ。レイは高らかに宣言した。
「これで私達の勝ちだ!!ふはははっ!!!」
とうとう、砲身から凄まじいエネルギーが発射される。
ように見えた。しかし、カケルの瞳が開くと同時に、リバースカードが動く。
「速攻魔法発動!!《融合解除》!!」
寸での所で、巨大兵器の動きが止まる。レイは動揺の声を上げた。
「なっ、《融合解除》だと!!?」
砲口を前にして、カケルは笑う。
「ああ、そうさ!今までタイミングを逃して来たが、ようやく使う時が来たぜ!!さぁ、お家に帰りな、木偶の坊!!!」
悶えながら、煙のように消えて行く巨大兵器。その姿を前にレイは膝を折った。
「わ、私の《V・Bタイダル・ガンナー》が・・・!!」
「さぁ、どうする?もう打つ手無しか!?」
得意げに笑うカケルに、レイは苦しい顔で言った。
「私は・・・ターンエンド・・・・。」
リンカはカケルに笑い掛ける。
「カケル・・・ありがとう。」
「なーに、今まで腑抜けてた分のお返しさ。さぁ、行くぜ。俺のターン!」
引いたカードを見たカケルは、ハッとした顔をする。
「お前は・・・そうか、お前も戦いたいか!なら、行って来い!俺は手札から《I・Bハイドラー(☆4/光/機械/2100・1200)》を召喚!!」
現れたのは黒い翼を持つ、漆黒の勇者。その鷹の如き鋭い眼光が二人の少女を貫いた。
「何っ!?イモータル・ブレイバーはマイデンだけでは無かったのか!?」
そのモンスターの登場に驚くリンカ。カケルは呆れたように言う。
「おいおい、リンカ。2号ロボットは勇者のお約束だろ?」
「そ、そうなのか?よくわからんが・・・まぁいい!こいつで奴らに止めが!」
しかし、カケルは首を横に振る。
「いや、《I・Bハイドラー》は通常召喚したターンは攻撃できない。」
「何ぃ!?」
混乱するリンカ。その様子にクリスは笑った。
「あははっ!せっかく呼んだモンスターが攻撃できないなんて!無様ね!次の私のターンで・・・」
しかし、カケルは笑顔だった。
「・・・誰が、《I・Bハイドラー》で攻撃するって言ったよ?・・・なぁ、レイさんよ。あんたは融合使いなんだよな?」
その問いにレイが突き放すように答える。
「それがどうした!?」
「融合を使えるのは、何もあんただけじゃないんだぜ・・・?魔法カード《武装融合》発動!!」
カケルの場に表示されるカード。レイは思わず声を上げた。
「《武装融合》だと・・・!?」
手札のカードを取り出し、カケルはそれを墓地へ送る。
「俺は手札の《B・C(ブレイバー・キャリアー)バスターカーゴ(☆5/光/機械/ユニオン/2300・2000)》と《I・Bハイドラー》を融合するぜ!!」
飛び出したのは、超音速輸送機。それに合わせ、漆黒の勇者のスラスターが光ると、一気に空中へ飛び出した。
「鐵の翼、天に舞う時、新たな戦士の鼓動が始まる!!これが限界を超えた、勇者の姿だ!!武装融合!!飛び立て、レベル8!!《I・Bハイドラー/ステルスバスター(☆8/光/機械/融合/2500・2000)》!!!」
音速の力を手に入れた漆黒の勇者は、雄々しい姿となってカケルの前に足を着けた。
「くっ・・・!攻撃力2500!!」
「嘘・・・でしょ・・・!?」
そして、カケルは二人の少女を指差し、笑いながら言った。
「フィニッシュだ!!《I・Bハイドラー/ステルスバスター》でダイレクトアタック!!」
翼を広げ、飛び上がる漆黒の勇者。そして、急降下と共に光を放った。
「『ダークウィング・サンダーボルト』!!!」
二人の少女はその衝撃に吹き飛ばされた。
「ぐあああぁぁぁっ!!!(LP1000→0)」
『勝者:カケル・リンカ』
その瞬間、レイとクリスのタオルがはだける。
「!!」
瞬時にそれに気付いたリンカはギリギリの所で、カケルの目を隠した。
「お、おい!リンカ!何も見えねぇぞ!せっかく勝ったってのに!」
「み、見ない方がいい!流石にこれはカケルにも刺激が強いと思う・・・。」
それから、しばらくして。
「もう、いいぞカケル。」
リンカの声に、カケルは振り向いた。そこにはしっかりと服を来た3人の少女の姿が。
「はぁ、まぁなんだかんだ言っても、服着てもらってた方が安心するな。色々と。」
「ふっ、私の裸で結構楽しんでたくせに!」
そう言ってそっぽを向くクリスに、カケルは思わず苦笑いをする。ふと思い出したのか、レイはリンカに訊ねた。
「お前達はペンデュラムを使って来なかった。ということは奴らとは無関係なのか?」
「ペンデュラムだと!?そんな力を持っているのは奴らしか・・・」
その時、レイとリンカはハッとして言う。
「もしかして、その奴らというのは・・・」
レイの言葉に、リンカは答える。
「マサカー、か?」
「何よ、貴方達マサカーを知っていたの?」
クリスがカケルに詰め寄る。
「ああ、俺達の仲間を攫ったのは、そのマサカーだ。」
それを聞き、レイは笑った。
「なるほど、ということは私達の追う相手は一緒と言う訳だ。」
「ま、まさか、レイ!こいつらと手を組むなんて言うんじゃないでしょうね!?」
不安そうに言うクリスをなだめるように、レイは肩に手を置いた。
「今のデュエルで、こいつらの力量は計れた。遠征が終わるまでなら問題ないだろ?」
「い、嫌よ!ただでさえハル君に手を焼いてるのに、これ以上パーティに男が増えるなんて!」
二人の会話にリンカが口を挟む。
「私達の相手は強大だ、仲間が増えるに越した事は無い。手を貸してくれるなら素直に嬉しいが。だろ、カケル?」
「まぁ、そこのクリスさんは俺が嫌みたいだけど。この分ならキジマも嫌がられるんじゃねぇか?」
しかし、そんなやり取りも気にすることなくレイは歩き出した。
「よし!心強い仲間も増えたことだし、ハルのアホを探しに行くぞクリス!」
「ええ、待ってよ〜レイ!私まだ賛成してないんだけど!」
とぼとぼと後を歩くクリス。レイの勢いに乗せられ、カケルとリンカも温泉の外へと歩き出した。
その道中、リンカは小さな声でカケルに言う。
「・・・なぁ、カケル。」
「ん?なんだ、リンカ。」
少し間を置いてからリンカが口を開いた。
「ほ、本当に、その、私の身体を見て、何も感じなかったのか?」
「へっ、らしくねぇな、リンカ。そんな事聞くなんて。」
リンカは少し顔を赤くしながら問う。
「いいから、答えろ。」
その目を見たカケルは、やや照れくさそうに言った。
「・・・まぁ、その、なんだ。さっきはデュエル中だったから、そんな考える余裕もなかったけど、今思い返せば・・・綺麗だった・・・かな。」
意外な反応に目を丸くするリンカ。それから小さく笑うと、カケルに向かって掌を差し出した。
「な、なんだよ?」
「パン。」
今度ははっきりと笑って、リンカは言った。
「パン、あるだろ。食べたい。」
それを聞いたカケルは一瞬驚いたが、同じように笑うと鞄から要求された物を取り出した。
「・・・食い過ぎんなよ。」
「ふふっ、分かっている。」
そうして、二人は再び同じ方向を向き、歩く事に専念した。
その頃、ナナ達は長く暗い廊下を歩いていた。
「なぁ、ナナさん。正しいルートを知ってるんじゃ・・・」
「・・・人は誰しも間違うものよ。そんな時は寛大な心が大切だわ。」
マーナの手を引くキジマは溜め息を付いた。
その時。
「やぁ、奇遇だなぁ。こんな所で人に会うなんて。」
廊下の角から姿を現したのは、シルクハットを被った男。警戒したキジマはマーナをナナに預けると、ディスクを構えた。
「誰だ!?こんな所で何をしてる!?」
その男は帽子の鍔からちらつく瞳で、キジマを見つめる。
「僕はハル。実は・・・」
コツコツと足音をならして近づく男は、笑って言った。
「道に迷いまして。・・・・出口知ってます?」
次回第21話「罠を越えた先に」
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100 | 12:新たなる出発 | 1123 | 2 | 2016-02-23 | - | |
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116 | 22:渦巻くは、黒い欲望 | 944 | 2 | 2016-06-03 | - | |
61 | 23:極限のドロップ・ドロー・前編 | 912 | 2 | 2016-06-07 | - | |
94 | 24:極限のドロップ・ドロー・後編 | 968 | 2 | 2016-06-07 | - | |
85 | 25:秘められた殺意(ちから) | 963 | 2 | 2016-06-09 | - | |
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ちょうどダークヒーロー系が出てきてカケルと良い感じの対比になってましたね。そして女性メンバーが増えたぞ!
次回はレイ曰くアホのハルとの邂逅ですな。 (2016-06-01 09:07)
だいぶ荒療治ですね。きっとカケルの信頼がなせる技でしょう。ぜひ、私も掛かってみたいものですw
ダークヒーローの登場とタッグデュエルはいつか書いてみたかった内容でしたね。最後まで描写できて良かったです。
さて、次回はハルのデュエルが展開されますが、ちょっと変わった彼の戦術、お楽しみ頂けたら幸いです。
(2016-06-02 04:47)