第152話：前夜　作：光芒

「スノウ・ベルを素材にしましたが、超越融合の効果で特殊召喚したスノウ・ベルは効果が無効になっているため、クリスタルウィングに効果破壊耐性は備わっていません。ですが、十分です！」

　クリスタルウィングはレベル5以上のモンスターと戦闘を行う場合、その攻撃力を自身の攻撃力に加えることができる。遊大のフィールドには攻撃力3000のオッドアイズ・ランサー・ドラゴンが存在しており、その攻撃力を加えれば残りライフ3000の遊大のライフは尽きる。

「バトルフェイズに移行します！」
「だったらそのバトルフェイズ移行前にクリスタルウィングを対象にリバースカードを発動する！ 罠カード、無限泡影！ クリスタルウィングの効果をターン終了時まで無効にするよ！」
「っ！？」

クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン　効果無効

「これでクリスタルウィングの効果は無効になった。ランサー・ドラゴンを攻撃しても相討ちになるだけだよ」
「……やはりそう上手くは行きませんか。でしたら攻撃対象は撃滅龍 ダーク・アームドです！ “烈風のクリスタロス・エッジ”！」

クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン　ATK3000　VS　撃滅龍 ダーク・アームド　ATK2800

遊大　LP3000→LP2800

「クリスタル・ベルで覇王眷竜ダークヴルムを攻撃です！」

WW-クリスタル・ベル　ATK2800　VS　覇王眷竜ダークヴルム　ATK1800

遊大　LP2800→LP1800

「……バトルフェイズを終了します。私はこれでターンエンドです」


美鈴　LP6000　手札0枚
デッキ：34　モンスター：2（クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン、WW-クリスタル・ベル）魔法・罠：0　墓地：11　Pゾーン：青/赤　除外：0　EXデッキ：10（0）
遊大　LP1800　手札2枚
デッキ：33　モンスター：2（オッドアイズ・ランサー・ドラゴン、オッドアイズ・ミラージュ・ドラゴン）魔法・罠：1（天空の虹彩）墓地：5　Pゾーン：青0（覇王門零）/赤8（オッドアイズ・アークペンデュラム・ドラゴン）　除外：1　EXデッキ：14（1）


☆TURN04（遊大）

「俺のターン、ドロー。俺は天空の虹彩の効果を発動する。Pゾーンの覇王門零を破壊し、デッキからオッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンを手札に加える」
（覇王門零を……ミラージュ・ドラゴンではないのですか？）

　覇王門零はオッドアイズカードではないため、アークペンデュラムの効果の発動トリガーにならない。破壊するカードがミラージュ・ドラゴンであれば、デッキから他のオッドアイズを特殊召喚できるのだが。

「……腑に落ちないという顔をしているね。でも、俺の狙いはPゾーンを空けること。そして俺は手札から魔法カード、螺旋のストライクバーストを発動」
「結局サーチをされるのですか？ それでしたら尚更……」
「それは違うよ」

　次の瞬間、二色の幻想的な炎がクリスタルウィングを貫いた。螺旋のストライクバーストには二つの効果があり、一つはデッキからレベル7のオッドアイズ1体をサーチする効果。そしてもう一つの効果がフィールドにオッドアイズカードが存在する場合、フィールドのカード1枚を破壊する効果であった。

「クリスタルウィングが……！」
「スノウ・ベルの効果が有効な状態でシンクロ素材になっていたらこのカードでは突破できなかった。更に手札のオッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンをコストに、魔法カード、ドラゴン・目覚めの旋律を発動するよ」

　ドラゴン・目覚めの旋律はデッキから攻撃力3000以上で守備力2500以下のドラゴン族モンスター2体を手札に加えるカードだ。遊大のデッキに攻撃力3000以上のドラゴン族は主にアークペンデュラムの効果で特殊召喚されるランサー・ドラゴンかアドバンス召喚されることで真価を発揮できるアドバンス・ドラゴン、そして自身の効果で特殊召喚が可能なファンタズマ・ドラゴンと種類自体は多い。だが、遊大が手札に加えたのはそれらのいずれのオッドアイズでもなかった。

「俺が手札に加えるのは―――《ゴッドアイズ・ファントム・ドラゴン》2枚」
「ゴッドアイズ……？」
「スケール0のゴッドアイズをPゾーンにセッティング。そして俺は自分フィールドのドラゴン族Pモンスター1体を含む2体以上の全てのモンスターをリリース！ “全てを見通す神の如き二色の眼を持つ竜よ。幻影を超え、現実の世界に降臨せよ！” ゴッドアイズ・ファントム・ドラゴン！！」


《ゴッドアイズ・ファントム・ドラゴン》
特殊召喚・ペンデュラム・効果モンスター
星10/光属性/ドラゴン族/攻3000/守2500
【Pスケール：青0/赤0】
(1)：1ターンに1度、自分のドラゴン族Pモンスターが相手モンスターに攻撃したダメージステップ終了時に発動できる。その自分のモンスターは続けて攻撃できる。この効果を発動するターン、自分はそのモンスターでしか攻撃宣言できない。
【モンスター効果】
このカードは通常召喚できない。「ゴッドアイズ・ファントム・ドラゴン」は1ターンに1度、ドラゴン族Pモンスターを含む自分フィールドの2体以上の全てのモンスターをリリースした場合のみ、手札・EXデッキから特殊召喚できる。
(1)：1ターンに1度、このカードが相手モンスターと戦闘を行うダメージ計算時に発動する。このカードの攻撃力はターン終了時まで倍になる。
(2)：1ターンに1度、相手が魔法・罠カードの効果を発動した時、自分フィールドの魔法・罠カード1枚を墓地へ送って発動できる。その発動を無効にする。


「これで決める、バトル！」
「バトル！？ まだペンデュラム召喚ができるのに……」
「ゴッドアイズ・ファントム・ドラゴンでクリスタル・ベルを攻撃！ “神眼の息吹（ゴッドアイズ・ブレス）”！！」

ゴッドアイズ・ファントム・ドラゴン　ATK3000　VS　WW-クリスタル・ベル　ATK2800

「ゴッドアイズ・ファントム・ドラゴンの効果を発動！ このカードが相手モンスターと戦闘を行うダメージ計算時にこのカードの攻撃力をターン終了時まで倍にする！」

ゴッドアイズ・ファントム・ドラゴン　ATK3000→ATK6000

「攻撃力6000！？」

ゴッドアイズ・ファントム・ドラゴン　ATK6000　VS　WW-クリスタル・ベル　ATK2800

美鈴　LP6000→LP2800

「っ……ですがそのモンスターだけでは私のライフは……！」
「PゾーンのゴッドアイズのP効果！」
（P効果……）
「1ターンに1度、自分のドラゴン族Pモンスターが相手モンスターを攻撃したダメージステップ終了時に発動！ そのモンスターはもう一度続けて攻撃できる！ “神眼の息吹・第ニ撃（ゴッドアイズ・ブレス・セカンド）”！！」

ゴッドアイズ・ファントム・ドラゴン　ATK3000

（っ……やはり、届きませんか。さすがです。遊大さん）

美鈴　LP2800→0





＊





「……お見事です。もはや私程度では相手になりませんか」
「そんなことないよ、孫さんのコンボは見事だった」

　実際遊大のライフが1800まで削られており、スノウ・ベルの効果が無効になっていなければ、クリスタルウィングを突破することができなかっただろう。しかし、紙一重の戦いを制することができるということはそれがそのデュエリストの強さを証明することでもある。その紙一重を制するだけの強さを美鈴は遊大からこのデュエルで感じ取った。

「お優しいのですね、遊大さんは。天都先輩が好きになる気持ちがよくわかります。あら、明日は夜から冷え込むそうですね。ホワイトクリスマス……イブというのでしょうか。風邪をひかないよう気を付けて下さいね」
「そっか……もうこんな時間。そろそろ戻ろうか。孫さんも風邪をひいちゃうかもしれないからね」
「……」

　冷える身体を震わせ、遊大が踵を返して屋内に戻ろうとした時であった。遊大の後ろから美鈴が抱き着いたのは。

「……孫さん？」
「……ごめんなさい。困っていた私を助けてくれた時から、ずっとあなたをお慕いしていました。でも遊大さんの気持ちが私の方へ向かないことはわかっているんです。私は遊大さんと天都先輩のことを応援したいです。したいんですが……」
「……」
「あの、遊大さん」
「……何？」
「今、この瞬間だけ……私をあなたの一番にしてください」

　このやり取りを見たら遊希は何と思ってしまうだろうか。しかし、女性と一緒にいる時に他の女性の話をしてしまうことが禁忌であることはさすがの遊大もわかっていた。遊大は内心で遊希に平身低頭で謝りつつ、美鈴の方を向き直った。

「孫さん、いや美鈴。あなたと一緒に色々なことを学べて、強くなってよかった」
「はい」
「……俺はあなたの気持ちに応えてあげることはできませんが。これからも……俺の親友として、仲間として。一緒に切磋琢磨していってくれませんか？」
「……はいっ！」

　恋破れた一人の少女の眼には涙はない。彼女の顔には未来に進むための希望に満ち溢れていた。






＊





「プレゼントよし。スーツよし」

　そして遊希とのデュエル当日。遊大はレンタルしたシックなダークスーツとコートを身に纏っていた。姿見の前でおかしなところがないか確認する遊大に仁と陸は目を白黒させていた。

「随分とめかしこんでいるな。気合が伝わってくるぞ」
「なんかさ……黒のスーツにコートで決めてる遊大見てるとなんか笑えてくるんだけど」
「なんで！？ 俺そんなに変？」
「変というか普段とのギャップがなぁ……」
「でも似合ってると思うぜ！ 天都先輩相手は緊張するかもしれないけど、いつものお前を前面にどーんとぶつかっていけ！」
「……仁、陸。ありがとう。じゃあ行ってくるね」

　そう言って遊大は覇王烈竜の姿へと変化して飛び立った。遊希との待ち合わせ場所は都心の高級ホテルの屋上。日時は―――12月24日の午後7時。遊大と遊希の未来を賭けた戦いの火蓋が切って落とされる。