第95話：護心　作：光芒

　【剣闘獣】はその名の通り、古代ローマにおいて実在したグラディエーターをモチーフにしたカテゴリーであり、融合召喚を主軸に置いたデッキである。
しかし、剣闘獣というデッキは融合召喚で展開するデッキでありながら、融合魔法を必要とせずに融合召喚が行えるということと、戦闘を行ったバトルフェイズの終了時にそのカードをデッキに戻して別の剣闘獣を特殊召喚することができる。
　そのために必要な手段さえ揃えば1ターンに複数回の融合召喚を行うことも可能なデッキであるのだ。流石に古いカードであるため、素のステータスや効果においては新鋭のカードに劣るのは否めないが、テクニカルなプレイングが求められる分一度機能させてしまえば瞬く間にアドバンテージを稼ぐことのできるデッキである。

「私は“レスキューラビット”を召喚します」


※レスキューラビット
効果モンスター
星4/地属性/獣族/攻300/守100
「レスキューラビット」の効果は1ターンに1度しか使用できない。このカードはデッキから特殊召喚できない。
(1)：フィールドのこのカードを除外して発動できる。デッキからレベル4以下の同名の通常モンスター2体を特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターはエンドフェイズに破壊される。


「そしてレスキューラビットをゲームから除外して効果を発動します。デッキからレベル4・通常モンスターの“剣闘獣アンダル”2体を特殊召喚します」


※剣闘獣アンダル
通常モンスター
星4/地属性/獣戦士族/攻1900/守1500
高い攻撃力で敵を追いつめる、隻眼の戦闘グマ。恐るべきスピードと重さを誇る自慢のパンチを受けて倒れぬ者はいない。


「剣闘獣が3体……やはりそうくるか」
「お嬢様は私が何を狙っているのかわかるようですね。最も止められなければ無意味なことですが……私は剣闘獣アウグストルとして扱うプリズマーとアンダル2体をデッキに戻して融合召喚を行います。“古き剣闘士の魂を宿す者よ。尊厳ある者の下へ集い、その力を捧げよ”融合召喚。現れよ、“剣闘獣アンダバタエ”」


※剣闘獣アンダバタエ
融合・効果モンスター
星8/闇属性/獣戦士族/攻1000/守2800
「剣闘獣アウグストル」＋「剣闘獣」モンスター×2
自分フィールドの上記カードをデッキに戻した場合のみ、EXデッキから特殊召喚できる（「融合」は必要としない）。
(1)：このカードが上記の方法で特殊召喚に成功した場合に発動できる。EXデッキからレベル7以下の「剣闘獣」融合モンスター1体を召喚条件を無視して特殊召喚する。
(2)：このカードが戦闘を行ったバトルフェイズ終了時にこのカードを持ち主のEXデッキに戻して発動できる。デッキから「剣闘獣」モンスター2体を特殊召喚する。


「レベル8だけど攻撃力1000……融合素材に3体使うわりにしょぼいステータスだな」
「国広様、アンダバタエの融合素材である剣闘獣アウグストルの名の由来をご存じでございましょうか」
「アウグストルの？」

　唐突なダンの問いかけに首を傾げる陸。世界史の成績が良ければ、悩むような問題ではないのだが、少なくとも遊大や仁に比べて学業が得意とはお世辞にも言えない陸であった。　

「アウグストルの由来はローマ帝国初代皇帝であるオクタヴィアヌスが授かった称号・アウグストスから来ております。8月の英語読みAugustの由来であり、ラテン語で尊厳ある者の意味を持っております」
「へっ、だったらどうだってんだよ」
「戦線において軍を率いる将軍であればいざ知らず、尊厳ある者―――つまり皇帝は自ら戦線に立つ必要はないということです。自身の条件で特殊召喚に成功したアンダバタエの効果を発動、エクストラデッキからレベル7以下の剣闘獣融合モンスター1体を召喚条件を無視して特殊召喚します」
「なっ……！？」
「私が特殊召喚するのはレベル6の“剣闘獣ガイザレス”です。出でよ、天空を支配せし戦士・ガイザレス！」


※剣闘獣ガイザレス
融合・効果モンスター
星6/闇属性/鳥獣族/攻2400/守1500
「剣闘獣ベストロウリィ」＋「剣闘獣」モンスター
自分フィールドの上記カードをデッキに戻した場合のみ、EXデッキから特殊召喚できる（「融合」は必要としない）。
(1)：このカードが特殊召喚に成功した時、フィールドのカードを2枚まで対象として発動できる。そのカードを破壊する。
(2)：このカードが戦闘を行ったバトルフェイズ終了時にこのカードを持ち主のEXデッキに戻して発動できる。デッキから「剣闘獣ベストロウリィ」以外の「剣闘獣」モンスター2体を特殊召喚する。


　ダンのフィールドには深緑の鎧を纏った鳥の頭をした戦士が現れる。このモンスターこそ剣闘獣融合モンスターのエース格ともいえる剣闘獣ガイザレスであり、かつて剣闘獣が隆盛を欲しいままにした時にその強さの根幹を担っていた存在である。

「ガイザレスの特殊召喚に成功した時に効果が発動します。フィールドのカードを2枚まで対象とし、そのカードを破壊します。破壊するのはお嬢様のセットカード2枚です」

　ガイザレスの放った風の刃によって、留奈のフィールドのセットカードが破壊される。破壊されたのは幻獣の角と“神風のバリア-エア・フォース-”。剣闘獣はその性質から戦闘を行うことが多いモンスターであるが、攻撃を仕掛けてきたところを幻獣の角で返り討ちにする、もしくはエア・フォースでのバウンスを狙うがためにセットされていた。
　留奈なりにダンの得意戦術を理解した上で用意した対抗手段だったのだろう。それでも、まさかこれほどまであっさりとガイザレスを召喚してくるとは思わなかったようで、ダンの戦術は留奈の思惑より一枚も二枚も上手であったのだ。

「っ……」
「だが、ガイザレスの攻撃力は2400。ビッグベン-Kの守備力には及ばないし、月光舞猫姫は戦闘では破壊されない！」
「その通りでございます。ですのでこうさせて頂きます。私はレベル8の剣闘獣アンダバタエとレベル6の剣闘獣ガイザレスをエクストラデッキに戻し、このモンスターを融合召喚します」
「融合モンスター2体で融合！？」
「このモンスターはレベル5以上の剣闘獣モンスター2体をデッキに戻すことで融合召喚できるのです。“尊厳ある者よ。天空を支配せし戦士と一つとなり、全ての獣を支配する帝王となれ”融合召喚。現れよ！“剣闘獣総監（グラディアル・ビースト・テイマー）エーディトル”！」


※剣闘獣総監エーディトル
融合・効果モンスター
星8/闇属性/獣戦士族/攻2400/守3000
レベル5以上の「剣闘獣」モンスター×2
自分フィールドの上記カードをデッキに戻した場合のみ、EXデッキから特殊召喚できる（「融合」は必要としない）。このカードは融合素材にできない。
(1)：1ターンに1度、発動できる。EXデッキから「剣闘獣総監エーディトル」以外の「剣闘獣」融合モンスター1体を召喚条件を無視して特殊召喚する。
(2)：自分の「剣闘獣」モンスターが戦闘を行ったバトルフェイズ終了時にそのモンスター1体を持ち主のデッキ・EXデッキに戻して発動できる。デッキから「剣闘獣」モンスター1体を特殊召喚する。


「剣闘獣総監エーディトルの効果を発動します。1ターンに1度、エクストラデッキからエーディトル以外の剣闘獣モンスター1体を特殊召喚します。私が特殊召喚するのは先ほどエクストラデッキに戻したガイザレスです」

　エーディトルが手に持った槍を勢いよく大地へと叩きつける。するとそれに呼応するがの如く、天空よりエーディトルの融合素材となって消えたはずのガイザレスが再度舞い戻った。

「ガイザレスの除去効果にターン制限はありません。よってもう一度発動が可能です」
「なんだって！？」
「次はお二方のモンスターを破壊させて頂きます。ガイザレス、月光舞猫姫と超重武者ビッグベン-Kを破壊せよ！」

　かつてエーディトルやアンダバタエといったエクストラデッキから召喚条件を無視して剣闘獣融合モンスターを特殊召喚できるモンスターが存在しなかった時であってもガイザレスの効果は猛威を奮っていた。それこそその融合素材に指定されている“剣闘獣ベストロウリィ”が制限カードに指定されていたこともあったほどに。
　そんなモンスターを1ターンの内に複数回特殊召喚できてしまう。そのカード効果のインフレの加速ぶりには使用者であるダンですら辟易してしまうほどであった。だが、人に仕える者として、自分に課せられた主からの命を遂行するためであれば手段は選ばない。それは戦場から名家に身を移した今であってもそれは変わらなかった。

「思い通りにさせるかよ！ 俺はビッグベン-Kを対象に手札の“超重武者装留ファイヤー・アーマー”の効果を発動！」


※超重武者装留ファイヤー・アーマー
効果モンスター
星2/炎属性/機械族/攻800/守800
(1)：自分メインフェイズに自分フィールドの「超重武者」モンスター1体を対象として発動できる。
自分の手札・フィールドからこのモンスターを装備カード扱いとしてその自分のモンスターに装備する。装備モンスターのレベルは5になる。
(2)：このカードを手札から捨て、自分フィールドの守備表示の「超重武者」モンスター1体を対象として発動できる。ターン終了時まで、そのモンスターの守備力は800ダウンし、戦闘・効果では破壊されない。この効果は相手ターンでも発動できる。


「このカードを手札から捨てることで、俺のフィールドの守備表示の超重武者モンスター1体を守備力を800下げる代わりにそのターンの間、あらゆる破壊から守る！ これでビッグベン-Kは破壊されないぜ！」

超重武者ビッグベン-K　DEF3500→2700

「防御札を用意してございましたか。お見事でございます。さて、お嬢様はご自分のモンスターを守る手段はありますか？」
「……わたしには、ない」
「ではガイザレスの効果で月光舞猫姫を破壊させて頂きます」

　ガイザレスの力によって守られていない月光舞猫姫が破壊される。戦闘破壊耐性を持つ月光舞猫姫であるが、効果破壊耐性は持ち合わせていない。故にガイザレス対策には効果破壊耐性を持ち、攻撃力でも上回る月光舞豹姫を召喚したかったのが留奈の本音だ。最も融合素材にその月光舞猫姫を要求するために、おいそれと出すことのできないモンスターなのであるが。

「ではバトルフェイズに移らせて頂きます。剣闘獣ガイザレス、剣闘獣総監エーディトルでお嬢様にダイレクトアタックです」

剣闘獣ガイザレス　ATK2400

留奈　LP8000→5600

剣闘獣総監エーディトル　ATK2400

留奈　LP5600→3200

「うわああっ！！」
「留奈ちゃん！」

　2体の剣闘獣モンスターの攻撃によって、あっという間にライフが半分を切る留奈。バトルロイヤルルールにおいて、常道とされる戦法が一人の相手を集中攻撃することである。ダンにとってはあくまで留奈しか眼中になく、留奈さえ倒してしまえばこのデュエルの勝敗は関係ないも同然であったのだ。
　それでもエーディトルとガイザレスは強力な効果を持つ分、攻撃力が抑えられているのが留奈にとっては不幸中の幸いと言えた。しかし、剣闘獣というモンスターの性質上、そう簡単に次のターンで返り討ちにできるかといえばその限りではない。

「バトルフェイズ終了時に戦闘を行ったガイザレスの効果を発動します。ガイザレスをデッキに戻し、融合素材に指定されている剣闘獣ベストロウリィ以外の剣闘獣モンスター2体を特殊召喚致します」

　ガイザレスは特殊召喚時の効果こそ強力であるのだが、攻撃力は上級モンスターの平均的な数値しかない。そのため効果破壊耐性を持つモンスターを立てられると身動きが取れなくなるという弱点があった。しかし、どのような形であれ戦闘さえ行えば自身の効果によってその低めな攻撃力を晒さずに済み、かつ次の展開へと繋げられるという利点もある。

「私がデッキから特殊召喚するのは“剣闘獣ラクエル”と“剣闘獣ダリウス”でございます。そして剣闘獣の効果によって特殊召喚に成功したラクエルとダリウスの効果が発動します」


※剣闘獣ラクエル
効果モンスター
星4/炎属性/獣戦士族/攻1800/守400
このカードが「剣闘獣」と名のついたモンスターの効果によって特殊召喚に成功した場合、このカードの元々の攻撃力は2100になる。
このカードが戦闘を行ったバトルフェイズ終了時にこのカードをデッキに戻す事で、デッキから「剣闘獣ラクエル」以外の「剣闘獣」と名のついたモンスター1体を特殊召喚する。


※剣闘獣ダリウス
効果モンスター
星4/地属性/獣戦士族/攻1700/守300
このカードが「剣闘獣」と名のついたモンスターの効果によって特殊召喚に成功した時、自分の墓地の「剣闘獣」と名のついたモンスター1体を選択して特殊召喚できる。
この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化され、このカードがフィールド上から離れた時、デッキに戻す。
このカードが戦闘を行ったバトルフェイズ終了時にこのカードをデッキに戻す事で、デッキから「剣闘獣ダリウス」以外の「剣闘獣」と名のついたモンスター1体を特殊召喚する。


チェーン2（ダン）：剣闘獣ラクエル
チェーン1（ダン）：剣闘獣ダリウス


「チェーン2のラクエルの効果でラクエルの元々の攻撃力が2100になります」

剣闘獣ラクエル　ATK2100

「そしてチェーン1のダリウスの効果で墓地の剣闘獣モンスター1体を特殊召喚します。墓地のアウグストルを特殊召喚します」


※剣闘獣アウグストル
効果モンスター
星8/闇属性/鳥獣族/攻2600/守1000
(1)：このカードが「剣闘獣」モンスターの効果で特殊召喚に成功した時に発動できる。手札から「剣闘獣」モンスター1体を守備表示で特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターはエンドフェイズに持ち主のデッキに戻る。
(2)：このカードが戦闘を行ったバトルフェイズ終了時にこのカードを持ち主のデッキに戻して発動できる。デッキから「剣闘獣アウグストル」以外の「剣闘獣」モンスター1体を特殊召喚する。


「アウグストルは剣闘獣モンスターの効果によって特殊召喚に成功した場合、手札から剣闘獣モンスター1体を守備表示で特殊召喚できますが……ダリウスの効果で特殊召喚されたため効果が無効化されております。ですが、問題はありません」
「フィールドにはラクエルと2体の剣闘獣……そういうことか」
「私は剣闘獣ラクエルとアウグストル、ダリウスをデッキに戻し、融合召喚を行います。“灼熱の炎纏いし闘士よ。古の戦士の魂と一つとなり、天地にその名轟かす英雄となれ”。融合召喚、“剣闘獣ヘラクレイノス”」


※剣闘獣ヘラクレイノス
融合・効果モンスター
星8/炎属性/獣戦士族/攻3000/守2800
「剣闘獣ラクエル」＋「剣闘獣」と名のついたモンスター×2
自分フィールド上の上記のカードをデッキに戻した場合のみ、エクストラデッキから特殊召喚できる（「融合」魔法カードは必要としない）。
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、手札を1枚捨てる事で、魔法・罠カードの発動を無効にし破壊する。


「ヘラクレイノスは手札1枚をコストに魔法・罠カードの発動を無効にして破壊します。こちらの効果にも回数制限はございません。私はこれでターンエンドです」
「この瞬間、俺のビッグベン-Kの守備力は元に戻る」

超重武者ビッグベン-K　DEF2700→3500


陸　LP7900　手札3枚
デッキ：34　モンスター：1（超重武者ビッグベン-K）魔法・罠：0　墓地：2　Pゾーン：青/赤　除外：0　エクストラ：15（0）

留奈　LP3200　手札2枚
デッキ：33　モンスター：0　魔法・罠：0　墓地：6　Pゾーン：青/赤　除外：0　エクストラ：14（0）

ダン　LP8000　手札3枚
デッキ：34　モンスター：2（剣闘獣総監エーディトル、剣闘獣ヘラクレイノス）魔法・罠：0　墓地：2　Pゾーン：青/赤　除外：1　エクストラ：13（0）


☆TURN04（陸）


「俺のターン、ドロー！」

　ファイヤー・アーマーの効果によってガイザレスの脅威からビッグベン-Kを守ることができた陸。ビッグベン-Kの守備力であれば、厄介な効果を持つヘラクレイノスとエーディトルをいずれも戦闘破壊することができる。
　最も陸にとっては逐一エクストラデッキから剣闘獣融合モンスターを呼び出すエーディトルの方が厄介な相手であり、息をするようにガイザレスを出してくるモンスターをそのまま放置するようなことはしない。これが自分一人でするデュエルであれば悩むことは無いだろう。しかし、今の陸の隣には留奈がいる。
　厳密に言えばタッグを組んでいないため留奈は陸にとっては敵でもある。しかし、留奈を守るためにこのデュエルに首を突っ込んだ以上、エーディトルを倒しつつ次の留奈のターンで留奈が防御手段を用意できなかった場合のことを考えなければならないのだ。

（留奈ちゃんを守りつつ、デュエルに勝つ……正直言えばめっちゃキツいけどやらなきゃいけないのが辛いところだな。でも、俺にはその覚悟がある！）
「俺は超重武者ジシャ-Qを召喚！そしてジシャ-Qの効果を発動！ 手札からレベル4以下の超重武者モンスター1体を特殊召喚し、こいつを守備表示に変更させる！ 俺が特殊召喚するのは超重武者ワカ-O2だ！」

超重武者ジシャ-Q　DEF1900

超重武者ワカ-O2　DEF2000

（……超重武者装留チュウサイがあれば、盤石だったんだけどな。贅沢は言ってらんないな）
「バトルだ！ 超重武者ビッグベン-Kで剣闘獣総監エーディトルを攻撃！ “超重・大太刀斬”！！」

超重武者ビッグベン-K　DEF3500　VS　剣闘獣総監エーディトル　ATK2400

ダン　LP8000→6900

「むっ……」

　振り下ろされた巨大な太刀が剣闘獣の長たるものを切り潰す。その一撃には紛れもなく、陸の覚悟が現れていた。