第155話：星竜・3　作：光芒

☆TURN03（遊大）

「俺のターン、ドロー！」

　ドローカードを見た遊大は蒼く輝く覇王星竜に視線を向ける。遊希が精霊となったカードであるためか、実情以上に美しく、強大なものに見えた。覇王星竜の姿を見ているだけで胸の高鳴りを覚え、身体が熱くなるのがわかる。

（覇王星竜ドラグリステル・フォトン・ドラゴン。俺がきっかけで生まれたカードとはいえ、隙が無い。高いレベルで完成されている。でも、カードである以上弱点はあるはず……）

　覇王星竜は戦闘において対モンスター3体への攻撃と自身と相手モンスターを除外してその攻撃力分のバーンダメージを与える効果を持ち、防御効果としては墓地のフォトンまたはギャラクシーカードを除外して効果の発動を無効にし、その無効にしたカードと同じ種類の発動を封じる効果を持っている。戦闘に関する効果はバトルフェイズ以外には発動できないが、パーミッション効果は厄介極まりない。

（……パーミッション効果は1ターンに1度。そして封じるのは発動を無効にしたカードと同じ種類のカード……そうだ。これなら！）

　覇王星龍の無効効果は確かに強力である。だが、覇王星竜1体で全てが止められるわけではないのだ。

「俺はPゾーンの相克の魔術師のP効果を発動します！ ランク7のオッドアイズ・アブソリュート・ドラゴンにそのランク分のレベルを与えます！」
「させないわ。その効果にチェーンして覇王星竜ドラグリステル・フォトン・ドラゴンの効果を発動！ 墓地の銀河眼の光子竜をゲームから除外し、その発動を無効にする！」

　Pゾーンの相克の魔術師は魔法カードとして扱う。そのため、遊大はこのターンあらゆる魔法カードの発動を封じられる。

「そしてその覇王星竜の効果にチェーンして輝光竜フォトン・ブラスト・ドラゴンの効果を発動するわ！」

チェーン3（遊希）：輝光竜フォトン・ブラスト・ドラゴン
チェーン2（遊希）：覇王星竜ドラグリステル・フォトン・ドラゴン
チェーン1（遊大）：相克の魔術師

「チェーン3のフォトン・ブラスト・ドラゴンの効果！ オーバーレイユニットを1つ取り除き、除外されている銀河眼の光子竜を自分フィールドに特殊召喚する！ そしてチェーン2の覇王星竜の効果で相克の魔術師の効果は無効になるわ」
「チェーン1の相克の魔術師のP効果は無効になります。これで俺は“覇王烈竜”のエクシーズ召喚はできなくなりました。そして俺のモンスターカードの効果は阻害されない！」
（念のために発動してしまったけど、やはり囮だったようね）

　遊大の狙いは切り札であり、一発逆転が可能な覇王烈竜オッドアイズ・レイジング・ドラゴンのX召喚―――などではなかった。相克の魔術師のP効果を発動したのも、覇王烈竜の存在をちらつかせながら覇王星竜の効果を空撃ちさせること。覇王星竜の複数種類のカードに対して同時に対応することができない、という弱点を突くため。

「俺はEXデッキからレベル7のオッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンをペンデュラム召喚！ そしてオッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンを対象に手札のチューナーモンスター、貴竜の魔術師の効果を発動！ ペンデュラム・ドラゴンのレベルを3つ下げて自身を手札から特殊召喚する！」

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン　星7→星4

「貴竜の魔術師のレベルは3……レベル6か7のシンクロ召喚ができる」
「俺はレベル4となったオッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンにレベル3のチューナーモンスター、貴竜の魔術師をチューニング！ “赤き彗星の力をその身に宿した竜よ。その二色の眼に映りし敵を殲滅せよ！” シンクロ召喚！ 燃え盛れ！ オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン！！」

　貴竜の魔術師はドラゴン族SモンスターのS召喚にしか使用できず、オッドアイズ以外をS素材にした場合はメインデッキの一番下に戻ってしまう。しかし、S素材になったのはペンデュラム・ドラゴンであるため、貴竜の魔術師も共にEXデッキに加わった。

「特殊召喚に成功したメテオバーストの効果を発動。Pゾーンの相克の魔術師を特殊召喚します！」
「これでレベル7のモンスターが3体……」
「俺はレベル7のメテオバーストと相克の魔術師でオーバーレイ！ 2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築。エクシーズ召喚！！ “漆黒の身体に秘めた魂が求めるのは破壊。その瞳に移る全てを撃ち滅ぼせ！” 撃滅龍 ダーク・アームド！」

　X召喚されたのはランク7の撃滅龍 ダーク・アームド。制限カードである《ダーク・アームド・ドラゴン》が元となって生まれたこのXモンスターはオリジナルのダーク・アームド・ドラゴンに匹敵する破壊力を秘めたモンスターであった。

「バトルフェイズに移行します。撃滅龍 ダーク・アームドで輝光竜フォトン・ブラスト・ドラゴンを攻撃です！ “ダーク・アームド・クラッシャー”！」

撃滅龍 ダーク・アームド　ATK2800　VS　輝光竜フォトン・ブラスト・ドラゴン　DEF2500

「撃滅龍は効果発動後は攻撃できない。だから先にフォトン・ブラスト・ドラゴンを倒しておこう、という判断ね」
「そうすれば遊希さんのフィールドを一掃できますからね」
「……悪くはないけど、私がそこのケアをしていないとは思わないことね。李バスカードオープン。罠カード《光霊術-「聖」》を発動！」

《光霊術-「聖」》
通常罠
自分フィールド上の光属性モンスター1体をリリースし、ゲームから除外されているモンスター1体を選択して発動できる。相手は手札から罠カード1枚を見せてこのカードの効果を無効にできる。見せなかった場合、選択したモンスターを自分フィールド上に特殊召喚する。

「光霊術……！？」
「フォトン・ブラスト・ドラゴンをリリースして除外されているモンスター1体を対象として発動。高海くんはこの効果の発動を手札の罠カードを見せて無効にできるけど」
「わかってて尋ねないで下さいよ……俺の手札は0枚です」
「形式的なものよ、気を悪くしないでね。ということで除外されている銀河眼の光子竜を特殊召喚するわ。ダーク・アームドの攻撃対象がいなくなったことで戦闘の巻き戻しが発生するけど……」

　ダーク・アームドの攻撃力は2800。覇王星竜と2体の銀河眼の攻撃力は3000。そして覇王星竜と銀河眼には自身を除外する効果があり、Xモンスターのダーク・アームドにとっては天敵ともいえるモンスターである。

「ダーク・アームドの攻撃を中止します。そしてメインフェイズ2に移行します。オーバーレイユニットを1つ取り除き、ダーク・アームドの効果を発動します！ まずは光子竜を破壊します！ “ダーク・ジェノサイド・ブレイカー”！！」

　ダーク・アームドの放った漆黒の刃が光子竜を切り裂いた。そして破壊の龍は次なるターゲットを覇王星竜へと絞る。

「墓地の覇王門零を除外します。そしてダーク・アームドの効果にターン制限はありません！ オーバーレイユニットをもう1つ取り除き、ダーク・アームドの効果の効果を発動します！ 破壊するのは―――覇王星竜です！！」

　漆黒の凶刃が美しく蒼い光の竜を切り裂いた。ガラスや水晶が砕けて飛散するように覇王星竜は消えていく。遊希の化身ともいえる覇王星竜を破壊するのは何処か忍びなかったが、自分の勝利のためにその気持ちを押し殺した。

「っ……！」
「遊希さん……」
「大丈夫よ。ちょっと身体が痛んだけど……精霊じゃないカードの効果で破壊されたくらいで倒れる私じゃないから。覇王星竜は相手に破壊されることで自身をPゾーンに置くことができるけど……その効果は発動しないでおくわ」
「墓地の相克の魔術師をゲームから除外します。俺は……これでターンエンドです」
（なんだろう、さっきから胸が苦しい。身体が熱い……）


遊大　LP4200　手札0枚
デッキ：31　モンスター：3（オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン ORU:0、撃滅龍 ダーク・アームド ORU:0、オッドアイズ・ミラージュ・ドラゴン）魔法・罠：0　墓地：7　Pゾーン：青/赤8（オッドアイズ・アークペンデュラム・ドラゴン）除外：2　EXデッキ：12（2）
遊希　LP8000　手札2枚
デッキ：28　モンスター：1（銀河眼の光子竜）魔法・罠：0　墓地：8　Pゾーン：青/赤　除外：0　EXデッキ：14（1）


☆TURN04（遊希）

「私のターン、ドロー。覇王星竜の弱点を上手く突いての攻撃……さすがだったわ。私の眼は節穴ではなかったようね」
「でも……ライフを削ることはできませんでした。光霊術を見抜けなかった……俺の勇み足です」
「……光霊術は比較的マイナーなカードだからそう気を落とさないで。でも私もこのまま終わる気はない。高海くん、私はあなたの力でこの命を与えられた。そして私もあなたと同じになった。あなたと同じ“精霊”となった私の力、まだまだ見せてあげる！ 私は手札の《フォトン・オービタル》の効果を発動！」

《フォトン・オービタル》
効果モンスター
星4/光属性/機械族/攻500/守2000
このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1)：自分メインフェイズに自分フィールドの「フォトン」モンスターまたは「ギャラクシー」モンスター1体を対象として発動できる。自分の手札・フィールドからこのモンスターを攻撃力500アップの装備カード扱いとしてその自分のモンスターに装備する。装備モンスターは戦闘では破壊されない。
(2)：装備されているこのカードを墓地へ送って発動できる。デッキから「フォトン・オービタル」以外の「フォトン」モンスターまたは「ギャラクシー」モンスター1体を手札に加える。

「このカードを攻撃力500アップの装備カード扱いとして光子竜に装備する。そしてこのカードを装備したモンスターは戦闘では破壊されない」

銀河眼の光子竜（＋フォトン・オービタル）ATK3000→ATK3500

「光子竜に装備されているフォトン・オービタルの効果を発動。このカードを墓地へ送ってデッキからフォトンまたはギャラクシーモンスター1体を手札に加える。私が手札に加えるのは2体目の銀河の魔導師。そして銀河の魔導師を召喚。銀河の魔導師の効果を発動。このカードをリリースし、デッキからギャラクシーカード1枚を手札に加える。手札に加えるのは魔法カード《銀河零式》。装備魔法、銀河零式を発動！」

《銀河零式（ギャラクシー・ゼロ）》
装備魔法
「銀河零式」は1ターンに1枚しか発動できない。
(1)：自分の墓地の「フォトン」モンスターまたは「ギャラクシー」モンスター1体を対象としてこのカードを発動できる。そのモンスターを攻撃表示で特殊召喚し、このカードを装備する。装備モンスターは攻撃できず、効果も発動できない。
(2)：装備モンスターがバトルフェイズに戦闘・効果で破壊される場合、代わりにこのカードを破壊できる。
(3)：表側表示のこのカードがフィールドから離れた場合に発動する。このカードを装備していたモンスターの攻撃力は0になる。

「墓地の銀河眼の光子竜1体を攻撃表示で特殊召喚し、このカードを装備する。このカードを装備したモンスターは攻撃できず、効果も発動できない」
「ですが……フィールドには光子竜と光属性のドラゴン族1体が……」
「私はフィールドの光子竜2体をリリース！ EXデッキから舞い戻りなさい！ 覇王星竜ドラグリステル・フォトン・ドラゴン！！」

　蒼き光の竜が遊希のフィールドに再度舞い戻った。Pモンスターであるために破壊された場合はEXデッキに送られるのだが、ペンデュラム召喚が行えない代わりに手札・墓地・EXデッキから条件を満たせば特殊召喚することができる。そのため遊希の手に銀河眼の光子竜が1体でも存在すれば、何処からでも現れるのだ。

「覇王星竜……こんなにも早く蘇るなんて……！」
「バトルよ。覇王星竜ドラグリステル・フォトン・ドラゴンでオッドアイズ・ミラージュ・ドラゴンに攻撃！ 覇王星断・銀河竜閃！！」

覇王星竜ドラグリステル・フォトン・ドラゴン　ATK3000　VS　オッドアイズ・ミラージュ・ドラゴン　DEF800

「オッドアイズ・ミラージュ・ドラゴンの効果を発動します！ Pゾーンにオッドアイズカードが存在する場合、オッドアイズの破壊を1度だけ無効にします！」
「無駄よ！ ミラージュ・ドラゴンの効果にチェーンして覇王星竜の効果を発動！」

チェーン2（遊希）：覇王星竜ドラグリステル・フォトン・ドラゴン
チェーン1（遊大）：オッドアイズ・ミラージュ・ドラゴン

「チェーン2の覇王星竜の効果！ 墓地の銀河の魔導師をゲームから除外し、その発動を無効にする！ そして高海くんはこのターン、あらゆるモンスターの効果を発動できない！」

　覇王星竜の斬撃がミラージュ・ドラゴンを切り裂いた。守備表示のためダメージこそ発生しないが、ミラージュ・ドラゴンを撃破された衝撃は確実に遊大の身体へと伝わってくる。

「ぐっ……！！ 破壊されたミラージュ・ドラゴンの効果を発動！ デッキから2体目のオッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンを守備表示で特殊召喚します！」
「2体目のオッドアイズ……まあいいわ、2回目の攻撃よ！ 撃滅龍 ダーク・アームドを切り刻みなさい！ 覇王星断・銀河竜閃！！」

覇王星竜ドラグリステル・フォトン・ドラゴン　ATK3000　VS　撃滅龍 ダーク・アームド　ATK2800

遊大　LP4200→LP4000

「そして3回目！ オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴンを攻撃！ そしてアブソリュートを対象に覇王星竜の効果を発動！ 覇王星竜とアブソリュートをゲームから除外！」
「また……！？」
「さっきも味わったから説明は要らないわね？ アブソリュートの攻撃力分のダメージを受けなさい！ 覇王星撃・龍皇波！」

遊大　LP4000→LP1200

「うわああっ！！」

　覇王星竜の放った衝撃波によって大きく吹き飛ばされた遊大。幾度となく地面に叩きつけられては全身を強打する。強力な精霊の一撃は精霊であっても容赦なく傷つけるのだろうか。それでも遊大は諦めず立ち上がる。ここで倒れてしまっていては、遊希を―――愛する人を守ることなど絶対に不可能だから。

「バトルフェイズ終了時に覇王星竜とアブソリュートはフィールドに戻るわ。メインフェイズ2……」

　この時、遊希は遊大の身体に起こっていた異変を察知した。起き上がった遊大の顔はまるで熱を帯びたかのように赤く染まっており、彼の全身にもぼんやりと真っ赤な炎のようなオーラが現れていたのだ。もちろん遊大には覇王烈竜の力が宿っている。しかし、このオーラは覇王烈竜のそれとは明らかに違うものであった。

「高海くん、大丈夫！？」
「……はい、大丈夫ですよ。ちょっと身体が熱い気がしますけど」
「もしかして熱が……私が待たせてしまったから！？」
「さすがにそんなにヤワじゃないですよ。俺、精霊ですから。それよりもデュエルを続けて下さい。まだ俺のライフは残っていますから！」
「……メインフェイズ2。私はこれでターンエンドよ」

　遊希は一抹の不安を感じながらターンを終えた。口はではああは言っているが、遊大の身には明らかに何かしらの異変が起きているのは火を見るよりも明らかであった。

（あれ……俺、どうしちゃったんだろう。このデュエルの前までは何にもなかったのに……）


遊大　LP1200　手札0枚
デッキ：30　モンスター：2（オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン ORU:0、オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン）魔法・罠：0　墓地：8　Pゾーン：青/赤8（オッドアイズ・アークペンデュラム・ドラゴン）除外：2　EXデッキ：12（3）
遊希　LP8000　手札2枚
デッキ：26　モンスター：1（覇王星竜ドラグリステル・フォトン・ドラゴン）魔法・罠：0　墓地：10　Pゾーン：青/赤　除外：1　EXデッキ：14（0）


☆TURN05（遊大）

「はぁ……はぁ……」

　まるで重病の人間が如く息も絶え絶えな遊大。まるで自分の中で何か別の命が脈動しているような、そんな錯覚を覚える。

（覇王星竜ドラグリステル・フォトン・ドラゴン……あのモンスターを見ていると、凄く身体が熱くなる。まるであのモンスターに、あの精霊に呼応するかのように……）
「俺の……ターン！！」
「高海くん、やめて。今のあなたは正常じゃない！ このままあなたが苦しむのを私は見たくなんて……！」
（ああ、遊希さんにあんな不安そうな顔をさせてしまっている。好きな人に、愛する人に、あんな顔をさせるなんて……俺……）

　愛する人の涙ほど見たくないものはない。もし神がこの世界に存在し、その神が遊大に遊希を守れるかどうかという試練を与えていたとすれば。これは間違いなくそのうちの一つなのだろう。そしてこの試練を乗り越えてこそ、精霊として、デュエリストとして本当に完全なものに近づけるのかもしれない。

「俺は……まだ、終わらない！ これが、最後のドローです！！」

　遊大は真紅に染まった右手で、カードをドローした。ドローしたカードは遊大がデッキに入れた覚えのないカードである。しかし、遊大はこのカードのことを知っていた。

（……そうか。俺は……覇王烈竜じゃなかったんだ。俺も……遊希さんと同じだったんだ）
「俺はこのカードをPゾーンにセッティングします！ スケール0―――！！」















―――《覇王星竜ドラグリステル・ペンデュラム・ドラゴン》！！―――














　空いていたPゾーンに「0」の数字と共に現れたのは、遊希の覇王星竜ドラグリステル・フォトン・ドラゴンに酷似した名前を持つもの。それはまるで宝石のルビーを思わせるような紅い輝きを持った美しくも鮮やかな竜であった。

















●後書き
年内に終わらせると言っておきながら年内に完結させられないという。
次回更新は年明け三が日のいずれかになると思います。そして次回の更新で最終話となります。この小説を読んで頂いた皆様、今年もありがとうございました。よいお年をお迎えください。