第129話：伝心　作：光芒

「現れよ！ 我が未来を描くサーキット！」

　その言葉と同時に終末の騎士とデストルドー、2体のモンスターが天空に現れた不思議な物体に吸い込まれていく。遊希の思考はそこで硬直した。何故ならば、彼女が見たことも聞いたこともない世界がそこには広がっていたからだ。

「アローヘッド確認。召喚条件はチューナーモンスターを含むモンスター2体。私はチューナーモンスターであるデストルドーと終末の騎士を……“リンクマーカー”にセット！ サーキットコンバイン！！」





―――リンク召喚！！―――






「目覚めよ！ 《水晶機巧-ハリファイバー》！！」

　現れたのは【水晶機巧】の名を持った1体のモンスター。しかし、水晶機巧にそのようなモンスターが存在していたなど遊希は当然知らなかった。そして何より彼女が驚いたのはそのモンスターの分類および召喚方法だ。

「リンク……召喚……？」

《水晶機巧-ハリファイバー》
リンク・効果モンスター
リンク2/水属性/機械族/攻1500
【リンクマーカー：左下/右下】
チューナー1体以上を含むモンスター2体
このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
(1)：このカードがリンク召喚に成功した場合に発動できる。手札・デッキからレベル3以下のチューナー1体を守備表示で特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターは、このターン効果を発動できない。
(2)：相手のメインフェイズ及びバトルフェイズにフィールドのこのカードを除外して発動できる。EXデッキからSモンスターのチューナー1体をS召喚扱いで特殊召喚する。

　リンク召喚、という未知の召喚法で特殊召喚された水晶機巧-ハリファイバーなるモンスターは遊希と遊厳のフィールドの間に存在する空間の遊希から見て左側のゾーンへと現れる。そしてそのハリファイバーの身体から向かった左下と右下のモンスターゾーンが赤く輝いていた。

「……すいません。ご質問いいでしょうか」
「何かな？」
「デュエルの時にこのようなことを聞く無礼をお許しください。リンク召喚とは……？」
「知らないのも無理はない。よもや世界で初めてリンク召喚を披露する相手が君になるとは思わなかったよ。リンク召喚……それはI2社と海馬コーポレーションが極秘で進めていた新たなモンスターの召喚方法。そして新しいマスタールールの導入と共にお披露目される予定のモンスターだよ」

　現行のルールはマスタールール3。以前の改訂では先攻を取ったプレイヤーのドローが禁止されていた。しかし、その後継となるマスタールール4では以下の要素が追加されるのだ。

・EXゾーンの新設（EXデッキから特殊召喚される融合、シンクロ、エクシーズ、リンク、そして表側表示のペンデュラムモンスターはそのゾーンへと特殊召喚される）
・EXゾーンは原則一人のデュエリストに一か所のみ使用可能
・Pゾーンは廃止。魔法・罠ゾーンの左端と右端に統合。

「……ご説明ありがとうございます。なるほど、EXデッキに頼っているデッキやペンデュラム召喚に依存したデッキはデュエルのあり方を大きく変えざるを得ないということですか」
「ああ。だが、その問題もこのリンクモンスターが解決する。リンクモンスターのカードの枠に赤い矢印があるのがわかるだろう。これはリンクマーカーと言って、リンクモンスターの示すマーカーに先にEXデッキからモンスターを特殊召喚することができるのだよ」
「……なるほど、そのハリファイバーというモンスターのリンクマーカーは左下と右下に向いている。EXゾーンに特殊召喚することで、ハリファイバーの左下と右下にEXデッキからモンスターを出すことができるのですね」

　飲み込みが早くて助かる、と遊厳は感嘆の言葉を漏らす。少なくとも遊希でなければ簡潔な説明では終わらなかっただろうから。ちなみにリンクモンスターはレベルと守備力を持たない。そのためシンクロやエクシーズの素材にすることはできず、守備表示にもならないという特徴を持っていた。

「……ですが、私のデッキはEXデッキを駆使せずとも戦えるデッキです。ルールが変わり、リンクモンスターに頼らなかったとしても。私は負けません」
「大層な自信だね。最も……君にターンが回れば、の話だが」
「えっ？」
「私はリンク召喚に成功したハリファイバーの効果を発動する。デッキからレベル3以下のチューナー1体を特殊召喚する。私はデッキからレベル3の《BF-隠れ蓑のスチーム》を特殊召喚する」

《BF-隠れ蓑のスチーム》
チューナー・効果モンスター（制限カード）
星3/闇属性/鳥獣族/攻800/守1200
「BF-隠れ蓑のスチーム」の(2)の効果はデュエル中に1度しか使用できない。
(1)：表側表示のこのカードがフィールドから離れた場合に発動する。自分フィールドに「スチーム・トークン」（水族・風・星1・攻/守100）1体を特殊召喚する。
(2)：このカードが墓地に存在する場合、自分フィールドのモンスター1体をリリースして発動できる。このカードを墓地から特殊召喚する。この効果で特殊召喚したこのカードをS素材とする場合、他のS素材モンスターは全て「BF」モンスターでなければならない。

「そして私は更にリンク召喚を行う！ 私はリンク2のハリファイバーとスチームをリンクマーカーにセット！ サーキットコンバイン！」
「リンク召喚には、リンクモンスター自身も素材に使えるんですね」
「そうだ。そしてより上のリンクマーカーを持つモンスターの素材に代用することもできる。現れよ、リンク3《アークロード・パラディオン》」

《アークロード・パラディオン》
リンク・効果モンスター
リンク3/光属性/サイバース族/攻2000
【リンクマーカー：上/左下/右下】
リンクモンスターを含む効果モンスター2体以上
(1)：このカードの攻撃力は、このカードのリンク先のモンスターの元々の攻撃力分アップする。
(2)：このカードのリンク先のモンスターは攻撃できない。
(3)：1ターンに1度、このカードのリンク先の自分の、「パラディオン」モンスターまたは「星遺物」モンスター1体をリリースし、相手フィールドの表側表示のカード1枚を対象として発動できる。そのカードの効果をターン終了時まで無効にする。この効果は相手ターンでも発動できる。

（【パラディオン】？ こっちはテーマすら聞いたことのないカード。そして【サイバース族】という新しい種族……一体どれだけ未知のカードをあなたは）
「墓地に送られた隠れ蓑のスチームの効果。フィールドにスチーム・トークン1体を特殊召喚する。そして私はアークロード・パラディオン1体でリンク召喚！ 現れよ、リンク1《マギアス・パラディオン》」

《マギアス・パラディオン》
リンク・効果モンスター
リンク1/光属性/魔法使い族/攻100
【リンクマーカー：下】
「マギアス・パラディオン」以外の「パラディオン」モンスター1体
このカード名の(3)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1)：このカードの攻撃力は、このカードのリンク先のモンスターの元々の攻撃力分アップする。
(2)：このカードのリンク先のモンスターは攻撃できない。
(3)：このカードのリンク先に効果モンスターが特殊召喚された場合に発動できる。デッキから「パラディオン」モンスター1体を手札に加える。

「そしてリンク召喚の素材にはトークンも利用できる。私はレベル1のスチーム・トークンをリンクマーカーにセット。リンク1の《リンクリボー》をリンク召喚」

　現れたのはデュエルモンスターズを代表するマスコットモンスター《クリボー》の名を持つ青い球体形のモンスター。そのモンスターは普通のクリボーに加えてやたらと近未来テイストの見た目をしていた。

《リンクリボー》
リンク・効果モンスター
リンク1/闇属性/サイバース族/攻300
【リンクマーカー：下】
レベル1モンスター1体
このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1)：相手モンスターの攻撃宣言時、このカードをリリースして発動できる。その相手モンスターの攻撃力はターン終了時まで0になる。
(2)：このカードが墓地に存在する場合、自分フィールドのレベル1モンスター1体をリリースして発動できる。このカードを墓地から特殊召喚する。この効果は相手ターンでも発動できる。

　マギアス・パラディオンのリンクマーカーは下方向に向いている。よってその場所にEXデッキのリンクリボーがリンク召喚されることになるのだ。

「リンク先に効果モンスターが特殊召喚されたことでマギアス・パラディオンの効果が発動。デッキからパラディオンモンスター1体を手札に加える。私は《星辰のパラディオン》を手札に加える。パラディオンモンスターはリンク先のモンスターの攻撃力を自身の攻撃力に加算する」

マギアス・パラディオン　ATK100→ATK400

「そして墓地の隠れ蓑のスチームの効果。リンクリボーをリリースし、墓地から自身を特殊召喚。そしてマギアス・パラディオンとスチームでリンク召喚。リンク2《ヴェルスパーダ・パラディオン》」

《ヴェルスパーダ・パラディオン》
リンク・効果モンスター
リンク2/光属性/戦士族/攻500
【リンクマーカー：左/下】
「パラディオン」モンスターを含む効果モンスター2体
このカード名の(3)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1)：このカードの攻撃力は、このカードのリンク先のモンスターの元々の攻撃力分アップする。
(2)：このカードのリンク先のモンスターは攻撃できない。
(3)：1ターンに1度、このカードのリンク先に効果モンスターが特殊召喚された場合、このカード以外の自分または相手のメインモンスターゾーンのモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターの位置を、他のメインモンスターゾーンに移動する（そのモンスターから見て相手のフィールドには移動できない）。

「リンク素材として墓地に送られたスチームの効果。フィールドにトークンを特殊召喚。そして星辰のパラディオンはリンクモンスターのリンク先に特殊召喚できる」

《星辰のパラディオン》
効果モンスター
星4/風属性/ドラゴン族/攻600/守2000
このカード名の、(1)の方法による特殊召喚は1ターンに1度しかできず、(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1)：このカードはリンクモンスターのリンク先となる自分フィールドに手札から守備表示で特殊召喚できる。
(2)：このカードがリンクモンスターのリンク先への召喚・特殊召喚に成功した場合、「星辰のパラディオン」以外の自分の墓地の「パラディオン」カード1枚を対象として発動できる。そのカードを手札に加える。

「リンクモンスターのリンク先に特殊召喚された星辰のパラディオンの効果を発動。墓地のアークロード・パラディオンを手札に加える。最もリンクモンスターは手札に戻らないため、EXデッキに戻るがね」
「既に召喚権を使っているのにこんなにモンスターを……」
「まだ終わらない。むしろこれからが本番だ。私は墓地の嵐征竜-テンペストの効果を発動。墓地のエクリプス・ワイバーンとライトパルサー・ドラゴンを除外し、このカードを墓地から特殊召喚。そして除外されたエクリプス・ワイバーンの効果。除外されていたレッドアイズ・ダークネスメタルドラゴンを手札に加える。そしてレベル4以下のドラゴン族モンスターである星辰のパラディオンでリンク召喚。リンク1の《守護竜エルピィ》をリンク召喚する」

　パラディオンに続いて現れたのは【守護竜】というモンスター。ドラゴン族のモンスターであるが、こちらもやはり見たことのないモンスターだった。

《守護竜エルピィ》
リンク・効果モンスター
リンク1/闇属性/ドラゴン族/攻1000
【リンクマーカー：左】
レベル4以下のドラゴン族モンスター1体
自分は「守護竜エルピィ」を1ターンに1度しか特殊召喚できず、その(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1)：このカードがモンスターゾーンに存在する限り、自分はドラゴン族モンスターしか特殊召喚できない。
(2)：自分メインフェイズに発動できる。2体以上のリンクモンスターのリンク先となる自分フィールドに、手札・デッキからドラゴン族モンスター1体を特殊召喚する。

「リンク先に効果モンスターが特殊召喚されたヴェルスパーダ・パラディオンの効果を発動。エルピィを別のモンスターゾーンに移動する。ヴェルスパーダ・パラディオンの右下のゾーンにエルピィを移動」

　これにより、ヴェルスパーダ・パラディオンの真下のモンスターゾーンが空く。これで遊厳は更にEXデッキからモンスターを特殊召喚できるようになるのだ。

「そしてエルピィの効果を発動。2体以上のリンクモンスターのリンク先となる自分フィールドに手札・デッキからドラゴン族1体を特殊召喚する」

　ヴェルスパーダ・パラディオンのリンクマーカーと守護竜エルピィのリンクマーカーは同じモンスターゾーンを指している。よってエルピィの「2体以上のリンクモンスターのリンク先という条件を満たしていた。

「手札からレッドアイズ・ダークネスメタルドラゴンを特殊召喚する。そしてヴェルスパーダ・パラディオンとリンクリボーをリンクマーカーにセット。リンク3の《スリーバーストショット・ドラゴン》をリンク召喚」

《スリーバーストショット・ドラゴン》
リンク・効果モンスター
リンク3/闇属性/ドラゴン族/攻2400
【リンクマーカー：上/左/下】
トークン以外のモンスター2体以上
(1)：1ターンに１度、ダメージステップにモンスターの効果・魔法・罠カードが発動した時に発動できる。その発動を無効にする。
(2)：このカードが守備表示モンスターを攻撃した場合、その守備力を攻撃力が超えた分だけ戦闘ダメージを与える。
(3)：このカードをリリースし、自分の墓地のリンク2以下のモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。その後、手札からレベル4以下のドラゴン族モンスター1体を特殊召喚できる。この効果はこのカードが特殊召喚したターンには発動できない。

「永続魔法《星遺物の守護竜》を発動する」

《星遺物の守護竜》
永続魔法
このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。
(1)：このカードの発動時に、自分の墓地のレベル4以下のドラゴン族モンスター1体を対象にできる。
その場合、そのモンスターを手札に加えるか特殊召喚する。
(2)：1ターンに1度、自分フィールドのドラゴン族モンスター1体を対象として発動できる。その自分のモンスターの位置を、他の自分のメインモンスターゾーンに移動する。

「星遺物の守護竜の発動時の効果で、墓地のレベル4以下のドラゴン族1体を手札に加えるか特殊召喚する。私は墓地の星辰のパラディオンを特殊召喚。そして星辰のパラディオンでリンク1の《守護竜ピスティ》をリンク召喚」

《守護竜ピスティ》
リンク・効果モンスター
リンク1/闇属性/ドラゴン族/攻1000
【リンクマーカー：右】
レベル4以下のドラゴン族モンスター1体
自分は「守護竜ピスティ」を1ターンに1度しか特殊召喚できず、その(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1)：このカードがモンスターゾーンに存在する限り、自分はドラゴン族モンスターしか特殊召喚できない。
(2)：自分の墓地のモンスター及び除外されている自分のモンスターの中から、ドラゴン族モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを、2体以上のリンクモンスターのリンク先となる自分フィールドに特殊召喚する。

「スリーバーストショット・ドラゴンの下のゾーンにピスティを特殊召喚する。そして星遺物の守護竜のもう一つの効果を発動。ドラゴン族モンスターの位置を他のモンスターゾーンに移す。ピスティを隣のモンスターゾーンに移動」
（守護竜ピスティ……デザインからしてエルピィと似たような効果を持っていそうね。ということは……）

　スリーバーストショット・ドラゴンのリンクマーカーは真下に向いており、そのゾーンを挟むようにエルピィとピスティが並んだ。

「私は守護竜ピスティの効果を発動。墓地または除外されているドラゴン族モンスターをこのカードのリンク先に特殊召喚する。除外されているエクリプス・ワイバーンを特殊召喚」

《エクリプス・ワイバーン》
効果モンスター
星4/光属性/ドラゴン族/攻1600/守1000
(1)：このカードが墓地へ送られた場合に発動する。デッキから光属性または闇属性のドラゴン族・レベル7以上のモンスター1体を除外する。
(2)：墓地のこのカードが除外された場合に発動できる。このカードの(1)の効果で除外されているモンスターを手札に加える。

「そしてスリーバーストショット・ドラゴン、レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン、テンペスト、エクリプス・ワイバーンの4体をリンクマーカーにセット！ サーキットコンバイン！ リンク4《鎖龍蛇-スカルデット》をリンク召喚！」

《鎖龍蛇-スカルデット》
リンク・効果モンスター
リンク4/地属性/ドラゴン族/攻2800
【リンクマーカー：上/左下/下/右下】
カード名が異なるモンスター2体以上
(1)：このカードは、このカードのリンク素材としたモンスターの数によって以下の効果を得る。
●2体以上：このカードのリンク先にモンスターが召喚・特殊召喚された場合に発動する。そのモンスターの攻撃力・守備力は300アップする。
●3体以上：1ターンに1度、自分メインフェイズに発動できる。手札からモンスター1体を特殊召喚する。
●4体：このカードがリンク召喚に成功した時に発動できる。自分はデッキか4枚ドローし、その後手札を3枚選んで好きな順番でデッキの下に戻す。

　モンスター4体を素材にした大型のリンクモンスターが、今まで遊厳が使っていた方とは違う左側のEXゾーンにリンク召喚される。リンク素材などにEXゾーンのモンスターを使う場合、プレイヤーは左右好きな方のEXゾーンを選べるのだ。これにより、スカルデッドのEXゾーンは左下と真下が空くことになる。

「鎖龍蛇-スカルデットはリンク素材にしたモンスターの数だけ効果を得るモンスター。最大数の4体を素材にしたことで3つの効果を全て発動できる。墓地に送られたエクリプス・ワイバーンの強制効果、そしてそれにチェーンする形でスカルデットの効果を任意効果を発動！」

チェーン2（遊厳）：鎖龍蛇-スカルデット
チェーン1（遊厳）：エクリプス・ワイバーン

「チェーン2のスカルデットが4体を素材にした時の効果。デッキからカードを4枚ドローし、その後手札3枚を選んで好きな順番でデッキボトムに戻す。そしてチェーン1のエクリプス・ワイバーンの効果で《破滅竜ガンドラX》をゲームから除外する。そしてスカルデットの2つ目の効果。手札のモンスター1体を特殊召喚する。《闇黒の魔王ディアボロス》を特殊召喚」

《闇黒の魔王ディアボロス》
効果モンスター
星8/闇属性/ドラゴン族/攻3000/守2000
このカード名の(1)(3)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
(1)：このカードが手札・墓地に存在し、自分フィールドの闇属性モンスターがリリースされた場合に発動できる。このカードを特殊召喚する。
(2)：このカードがモンスターゾーンに存在する限り、相手はこのカードをリリースできず、効果の対象にもできない。
(3)：自分フィールドの闇属性モンスター1体をリリースして発動できる。相手は手札を1枚選んでデッキの一番上または一番下に戻す。

「っ、次々と強力なモンスターを……」
「さて、下準備はこんなものかな。それでは本番に移るとしようか」
「本番……？」
「魔法カード、龍の鏡を発動！ フィールドのエルピィとピスティ、墓地のテンペスト、エクリプス・ワイバーン、星辰のパラディオンの5体のドラゴン族を除外し融合！ 現れよ！ F・G・D！」

　ドラゴン族5体を融合素材に求めるF・G・D。攻撃力5000の禁じられしドラゴンがスカルデッドの右下のゾーンに現れる。

「スカルデッドの3つ目の効果を発動。このカードのリンク先に召喚・特殊召喚されたモンスターの攻守を300ずつアップさせる」

F・G・D　ATK5000/DEF5000→ATK5300/DEF5300

「攻撃力5300……」
「除外されたテンペストとエクリプス・ワイバーンの効果を発動」

チェーン2（遊厳）：嵐征竜-テンペスト
チェーン1（遊厳）：エクリプス・ワイバーン

「除外されたテンペストの効果、デッキから風属性・ドラゴン族の星辰のパラディオンを手札に加える。そしてエクリプス・ワイバーンの効果で除外されていた破滅竜ガンドラXを手札に加える。そして魔法カード、死者蘇生を発動し、レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴンを墓地から特殊召喚。特殊召喚するゾーンはスカルデッドの左下ゾーン。よってレッドアイズ・ダークネスメタルドラゴンの攻守も300ずつ上昇」

レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン　ATK2800/DEF2400→ATK3100/DEF2700

「そしてこれがこのデュエル最後のリンク召喚だ。スカルデッドとディアボロスをリンクマーカーにセット！ サーキットコンバイン！ 再び降臨せよ！ アークロード・パラディオン！ アークロード・パラディオンの攻撃力は自身のリンク先に存在するモンスターの攻撃力分アップする！」

　アークロード・パラディオンのリンクマーカーは上・左下・右下に向いており、そのうち左下にはレッドアイズが、右下にはF・G・Dが存在している。よってアークロード・パラディオンはこの2体の攻撃力を自身の元々の攻撃力に加えることができるのだ。

アークロード・パラディオン　ATK2000（＋3100）→ATK5100（＋5300）→ATK10400

「攻撃力……10400！？ そんな……だってあなたの手札には……」
「ようやく私の狙い、そして君の置かれている状況を理解したようだね。墓地から蘇生されたレッドアイズ・ダークネスメタルドラゴンは一度フィールドを離れているため再度効果を発動できる。そして私の手札にはエクリプス・ワイバーンの効果で除外されていたこのカードが加わっている。相手に一度もターンを渡さずに終わってしまうのはデュエルとしてどうかとは思うが……それも君が相手だからだ。天都 遊希。君が―――強すぎるのがいけないのだよ」

　強い力を制するためには、より強い力を―――。遊厳はデュエリストとして、そしてこの国際機関の支部長として過ごすことでそれを痛いほど実感させられていた。

「レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴンの効果。手札より破滅竜ガンドラXを特殊召喚。そして特殊召喚に成功したガンドラXの効果を発動」


《破滅竜ガンドラX》
効果モンスター
星8/闇属性/ドラゴン族/攻0/守0
(1)：このカードが手札からの召喚・特殊召喚に成功した時に発動できる。このカード以外のフィールドのモンスターを全て破壊し、破壊したモンスターの内、攻撃力が一番高いモンスターの攻撃力分のダメージを相手に与える。このカードの攻撃力は、この効果で相手に与えたダメージと同じ数値になる。
(2)：自分エンドフェイズに発動する。自分のLPを半分にする。


「破滅竜ガンドラX以外のフィールドのモンスターを全て破壊する。そして破壊したモンスターの中で最も攻撃力の高いモンスターの攻撃力分のダメージを相手に与える。攻撃力が最も高いのは、もちろんアークロード・パラディオン。その攻撃力は……10400」

　ガンドラXの全身から放たれる真紅の光が周囲の命を奪っていく。そして溢れ出した奔流は遊希をも包み込んでいった。










（この私が……相手に一太刀をも浴びせることなく……負ける？ そんな……私がここで負けたら……彼が、高海くんが……）










　破滅の光に飲み込まれた遊希の全身を激しい痛みが襲う。精霊の力を身に纏っていても突き刺さるこの痛み。失われていく意識の中で、遊希の眼に映ったのは笑みを浮かべる遊大の顔だった。






（……ごめんね、高海くん。私……あなたを助けてあげられなかった……）






遊希　LP8000→LP0






＊






「っ！……やはりまだ試作段階にあるからか、衝撃が大きすぎたようだな」

　デュエル終了と同時に新しいフィールドを作り出していた機械が爆発する。リンクモンスターの力が強すぎたからなのだろうか。どちらにせよこのままではろくにデュエルをすることができないのもまた事実であった。

「これが完成するまでは正式リリースは難しいな。そんな不完全なフィールドでデュエルをさせてしまったこと、済まないと思っている……聞こえていないか」

　敗れた遊希は気を失ったためか精霊の力が消えて元の姿に戻っていた。しかし、着ていた黒のスーツはデュエルの衝撃か所々焼け焦げており、装備していたデュエルディスクは壊れ、その中に入っていた星龍皇のカードはあちこちに散乱していた。遊厳はそれらのカードを全て拾い集めると、遊希の壊れたデュエルディスクに戻し、そして失神した彼女を抱え上げた。
　10代の少女のこの華奢な身体にどれだけ強大な力を秘めて彼女は今日この時まで生きてきたのだろうか。そう思うと遊厳は胸が締め付けられるようだった。


「今まで辛かっただろう。だが、その辛さからももうすぐ解放される。君は―――この世界のため、この星の未来を守るために必要な存在なのだよ」










＊










「っ！？」

　遊希と遊厳のデュエルに幕が降ろされたと同時刻。遊希の意識が途切れるのと入れ替わる形で病室の遊大が目を覚ました。遊大は付けられていた呼吸器と点滴を引き剥がすと、ベッドから勢いよく飛び降りる。真っ暗な部屋で彼は自分の脳裏に映し出されていた光景を思い出していた。意識を失っていた遊大であるが、彼の脳裏には全てが映っていた。
　遊厳と遊希のデュエルの経過、遊希が敗れ、遊厳に連れていかれたこと、そして。自分の素性まで―――あの時に明らかになっていたこと全てが精霊の力の影響か、遊希の気づかぬうちに遊大へと伝わっていたのだ。

「遊希さん……遊希さん！！」

　遊大は入院着から部屋の隅に掛けられていたセントラル校の制服に着替える。そして枕元に置かれていたデュエルディスクとデッキを手にすると、病室の窓を突き破っては外へと飛び降りた。彼の病室が8階建ての5階であるにも関わらず。それでも「遊希を助ける」という一心で衝動的に動く遊大がその程度で止まることはなかった。
　普通の人間であれば良くても足を骨折、高い確率で死に至るシチュエーション。だが、そんな中でも遊大の身体には傷一つ見られなかった。そして彼は無我夢中で夜の街中を走っていった。