第150話：新竜　作：光芒

☆TURN06（綾香）

「私のターン、ドロー」
（……これでは攻め手に欠けるわね。しょうがないか）
「バトルフェイズに移行するわ。スターダスト・シフルでオッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンを攻撃！」

　綾香がまず狙いを定めたのは攻撃表示のペンデュラム・ドラゴンだ。遊大は前のターンで攻撃力4000のシフルと相対しておきながら、攻撃力2500のペンデュラム・ドラゴンを守備表示にしていなかった。単に忘れたのか、それとも何か狙いがあるのか。どちらにせよ、ダメージを与えられるこの機会を見逃す綾香ではない。

「俺はオッドアイズ・ミラージュ・ドラゴンの効果を発動します！ Pゾーンにオッドアイズカードがある場合、フィールドのオッドアイズの破壊を1度だけ無効にします！ 対象はオッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンです！」
「させない！ その効果にチェーンしてスターダスト・シフルの効果を発動！ 相手がモンスターの効果を発動した時、その発動を無効にする。そしてフィールドのカード1枚を選んで破壊するわ！」
「だったら俺は更にその効果にチェーンしてオッドアイズ・ペルソナ・ドラゴンの効果を発動します！」

チェーン3（遊大）：オッドアイズ・ペルソナ・ドラゴン
チェーン2（綾香）：聖珖神竜 スターダスト・シフル
チェーン1（遊大）：オッドアイズ・ミラージュ・ドラゴン

「チェーン3のペルソナ・ドラゴンの効果でスターダスト・シフルの効果を無効にします！」
「チェーン2のシフルの効果はペルソナ・ドラゴンの効果で無効になる。そしてチェーン1のミラージュ・ドラゴンの効果でペンデュラム・ドラゴンは破壊されない」
（ペルソナ・ドラゴン……やっぱり厄介ね）

　効果でEXデッキから特殊召喚されたモンスターの効果をそのターンの終了時まで無効にするこのモンスターはS召喚を主軸とする綾香からしてみれば決して見過ごせるモンスターではなかった。しかし、このターンでできることはもうない。

「でもペンデュラム・ドラゴンとの戦闘は成立する！ スターダスト・シフルでオッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンを攻撃！ 超新星撃！！」

聖珖神竜 スターダスト・シフル　ATK4000　VS　オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン　ATK2500

遊大　LP3600→LP2100

「ミラージュ・ドラゴンの効果でペンデュラム・ドラゴンは破壊されません！」
「でも1500のダメージを受けてまでペンデュラム・ドラゴンを守る価値はあったのかしら？ 守りだけならペルソナ・ドラゴンやミラージュ・ドラゴンだけでも成立するはずよ？」
「そもそも守備表示にしておけば俺はダメージも受けませんでした。ですが、このダメージには価値があると思っています」
「……価値ね。いいわ、だったら傷ついてまで守ったそのペンデュラム・ドラゴンがどんな価値を見せてくれるのか。証明してちょうだい！ 私はバトルフェイズを終了。メインフェイズ2に移るわ。カードを1枚セットしてターンエンドよ」


遊大　LP2100　手札0枚
デッキ：22　モンスター：4（オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン、オッドアイズ・ペルソナ・ドラゴン、EMドクロバット・ジョーカー、オッドアイズ・ミラージュ・ドラゴン）魔法・罠：0　墓地：3　Pゾーン：青6（EMオッドアイズ・ミノタウロス）/赤0（オッドアイズ・ファンタズマ・ドラゴン）除外：10　EXデッキ：15（2）
綾香　LP1500　手札1枚
デッキ：18　モンスター：1（聖珖神竜 スターダスト・シフル）魔法・罠：1　墓地：17　Pゾーン：青/赤　除外：2　EXデッキ：10（5）


☆TURN07（遊大）

（……今はまだ凌げるかもしれない。でも、いつかジリ貧になる。シフルを抱えてる時点で星乃先輩の方が優勢であることは間違いない。そんな俺がここで引くべきカードは……あれだけだ）

　遊大のデッキにはこの局面を切り抜けられる唯一の手段がある。だが、そのカードの効果を確実に通すために、遊大は自ら傷を負う必要があったのだ。

「俺のターン―――ドローっ！！……俺はオッドアイズ・ペルソナ・ドラゴンの効果を発動します！ EXデッキから特殊召喚されたモンスター1体の効果をターン終了時まで無効にします！ 対象はもちろんスターダスト・シフルです！」
「ペルソナ・ドラゴンの効果にチェーンしてスターダスト・シフルの効果を発動！ モンスター効果の発動を無効にし、フィールドのカード1枚を破壊するわ！」
「スターダスト・シフルの効果にチェーンしてミラージュ・ドラゴンの効果を発動します！ Pゾーンにオッドアイズカードが存在する場合、フィールドのオッドアイズ1体に1ターンに1度の破壊耐性を与えます！ 対象はオッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンです！」
「その効果に更にチェーン！ 罠カード、無限泡影を発動！ フィールドのモンスター1体の効果を無効にするわ！ 対象はミラージュ・ドラゴンよ！」

チェーン4（綾香）：無限泡影
チェーン3（遊大）：オッドアイズ・ミラージュ・ドラゴン
チェーン2（綾香）：聖珖神竜 スターダスト・シフル
チェーン1（遊大）：オッドアイズ・ペルソナ・ドラゴン

「チェーン4の無限泡影の効果でチェーン3のミラージュ・ドラゴンの効果は無効！ そしてチェーン2のスターダスト・シフルの効果でチェーン1のペルソナ・ドラゴンの効果の発動が無効になるわ！」
「っ……！」
「そしてスターダスト・シフルの効果でペルソナ・ドラゴンを破壊するわ！ “珖波動反撃（ソニック・シャイン・リバース）！」

　スターダスト・シフルの右手に現れた魔法陣から放たれた光がペルソナ・ドラゴンを貫く。Sモンスターの天敵ともいえるペルソナ・ドラゴンは、守備力も2400と上級モンスターの攻撃力ほどあるため、下級モンスターの攻撃では倒せない。しかし、そのペルソナ・ドラゴンさえ破壊してしまえば遊大の守備は瓦解する。
　そうすれば次のターン以降、ミラージュ・ドラゴンの効果をスターダスト・シフルで無効にしたうえでオッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンを破壊し、他のモンスターでミラージュ・ドラゴンやドクロバット・ジョーカーのような壁モンスターを破壊すればそれで決まる。

「……スターダスト・シフルの効果を使いましたね？」

　最も、綾香の目論見は簡単に覆されてしまったのだが。

「星乃先輩、俺にとって厄介なのはスターダスト・シフルのモンスターの効果の発動を無効にする効果です。ですが、先輩はその効果をもう発動しました」
「……まさか、ペルソナ・ドラゴンの効果は囮？」
「俺は手札の―――！！」









―――《超天新龍オッドアイズ・レボリューション・ドラゴン》の効果を発動します！！―――










《超天新龍オッドアイズ・レボリューション・ドラゴン》
特殊召喚・ペンデュラム・効果モンスター
星12/光属性/ドラゴン族/攻？/守？
【Pスケール：青12/赤12】
(1)：自分はドラゴン族モンスターしかP召喚できない。この効果は無効化されない。
(2)：自分の墓地のドラゴン族の融合・S・Xモンスター1体を対象として発動できる。このカードを破壊し、そのモンスターを特殊召喚する。
【モンスター効果】
このカードは通常召喚できない。手札からのP召喚、または自分フィールドのドラゴン族の融合・S・Xモンスターを1体ずつリリースした場合のみ特殊召喚できる。
(1)：このカードを手札から捨て、500LPを払って発動できる。デッキからレベル8以下のドラゴン族Pモンスター1体を手札に加える。
(2)：このカードの攻撃力・守備力は相手のLPの半分の数値分アップする。
(3)：1ターンに1度、LPを半分払って発動できる。このカード以外のお互いのフィールド・墓地のカードを全て持ち主のデッキに戻す。



「超天新龍！？」
「このカードを手札から捨てて、ライフを500支払って発動します！」

遊大　LP2100→LP1600

「デッキからレベル8以下のドラゴン族Pモンスター1体を手札に加えます。俺が手札に加えるのはレベル4の《覇王眷竜ダークヴルム》です」
「ドラゴン族Pモンスターをサーチ？ そんな効果をいまさら通してどうするつもり？」
「レボリューション・ドラゴンの効果はそれだけではありません。ライフを半分支払うことでこのカード以外のお互いのフィールド、墓地のカードを全て持ち主のデッキに戻します」
「でもそれは墓地で発動する効果じゃない。あくまでそのモンスターがフィールドに存在していなければいけな……」

　かつて綾香は遊希から聞いていた。遊大に宿っている精霊が具現化したカードを、そしてその中に1体だけ墓地のモンスターの効果を自身の効果として発動できるモンスターがいることを。

「俺は闇属性・Pモンスターのオッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンとEMドクロバット・ジョーカーをリリース！ このモンスターは2体の闇属性・PモンスターをリリースすることでEXデッキから特殊召喚できます！ “その毒は全てを幻惑する。その魂は何物をも魅了する美しき花。紫毒の魔竜よ、あらゆるものを惑わし崩せ！” 融合召喚！ 覇王眷竜スターヴ・ヴェノム！！」

　紫毒を纏いし覇王の眷属、覇王眷竜スターヴ・ヴェノムが妖艶な咆哮をあげる。覇王龍ズァークの覚醒により、精霊たちの意志は遊大の中で一つとなった。そのためこのモンスターを融合召喚しても遊大の姿は紫苑のものには変わらず、遊大のままであった。

「覇王眷竜スターヴ・ヴェノムの効果を発動します！ 墓地の超天新龍オッドアイズ・レボリューション・ドラゴンの効果と名前を得る！」

覇王眷竜スターヴ・ヴェノム＝超天新龍オッドアイズ・レボリューション・ドラゴン

　覇王眷竜スターヴ・ヴェノムの身体に墓地で眠るレボリューション・ドラゴンの姿が重なった。

「超天新龍オッドアイズ・レボリューション・ドラゴンの攻撃力・守備力は相手のライフを半分の数値アップします！」

覇王眷竜スターヴ・ヴェノム（超天新龍オッドアイズ・レボリューション・ドラゴン）ATK2800/DEF2000→ATK3750/DEF2750

「そしてレボリューション・ドラゴンの効果を得たスターヴ・ヴェノムのもう一つの効果！ ライフを半分支払い、このカード以外の互いのフィールド、墓地のカードを全て持ち主のデッキに戻します！！―――“新龍撃咆”！！」

遊大　LP1600→LP800

「っ！？」

　超天新龍となったスターヴ・ヴェノムの身体がまるで世界を作り変えるかのように、激しく輝いた。そして互いのフィールドからはスターヴ・ヴェノム以外の一切のカードが消え去っていた。

「……さすがね。やっぱり遊希が認めるだけあるわ」
「……ありがとうございます」
「うん、高海君なら……あなたなら遊希を任せられるかな？ さあ、来て！」
「はい、バトルフェイズに移行します！ 覇王眷竜スターヴ・ヴェノムでダイレクトアタック！！ “新龍超天絶波”！！」

覇王眷竜スターヴ・ヴェノム（超天新龍オッドアイズ・レボリューション・ドラゴン）ATK3750

綾香　LP1500→LP0





＊





「負けたわ、完敗よ。今のあなたならきっと遊希にだって勝てる」
「しかし、遊希さんはデュエルの日までに新しい精霊の力を身につけてきます」
「そうかもしれないわね。あの子はああ見えてかなりの努力家だから。ねえ、高海君に約束してほしいことがあるの」
「俺に……」

　綾香は遊希の色々なところを知っている。血縁の者が一人もいない今、綾香が一番彼女にとって身近な存在であり、彼女の素顔を知っている人間であると言っていいだろう。

「あの子、遊希は……傍から見れば綺麗で凛々しくてしっかり者で、この学校のみんなが遊希を慕っていて、憧れている。でも、生徒会の一員として一緒にやってきた高海君ならわかるよね？ 遊希は気弱で、泣き虫で、ポンコツで……」
「……こんなことを俺が言っていいかはわかりませんが、放っておけなくなりますよね」
「そうなの！ だから……あの子と一緒にいてあげる人には……！！ あの子を支えてほしいの！」

　例えるならば遊希はダイヤモンドのような存在だ。美しい見た目に傷のつかない完璧な存在。だが、ダイヤモンドは傷こそつきにくいが、上から思い切り叩けばあっさり割れてしまう。

「俺は皆さんほど遊希さんのことは知らないと思います。ですが、俺は一人の精霊として、一人の人間として―――この命が続く限り、遊希さんのことを大切に、そして守り抜きます」
「高海君……っ！！」

　遊大の言葉に両手で顔を覆った綾香の下にエヴァ、千夏、詩織の三人が駆け寄る。三人も綾香と同じく、遊希の幸福を願っていた。彼女たちもまた遊希の境遇を知っているからこそ、彼女には幸せになって貰いたかったのだ。

「綾香サン！」
「エヴァちゃん、よかった。よかった……遊希、幸せになれるって」
「ちょっと、まだ決まったわけじゃないわよ」
「そもそも高海君の年齢だとまだ法律では……」

　精霊である遊大にこの国の法律が適用されるか否か。いつの間にか四人の興味はそちらに移っていた。





＊





「そうか、ついに決心したか」
「まさかお前がこの手のネタで動くとはな！ 恋愛の先輩として相談に乗るぜ！」

　部屋に戻った遊大は、綾香とのデュエルの経緯を陸と仁に説明した。二人はただのルームメイトとして彼の決断を支持した。生徒会のメンバーだけではなく、陸や仁も協力してくれる。自分一人では心許ないことであっても、自分と共に戦ってくれる仲間がいる、自分のことを応援してくれる人がいる。志を共にしてくれる存在の有無が大きかった。
　その日の深夜、遊大のスマートフォンが揺れた。届いたメールにはある人物からのメッセージが入っていた。草木も眠る丑三つ時、凍えるような寒さの夜。月と星だけが眺めているセントラル校の屋上にそのメッセージの主はいた。






「……こんな時間に、風邪ひくよ？」
「覚悟の上です。防寒対策はばっちりですから」

　そういう問題ではないのだが、と言い出せる空気ではない。美しい黒髪を月の光に煌めかせながら孫 美鈴は微笑んだ。

「メール、見て頂いたんですね。話は聞いています」
「うん……俺は自分の意志を正直にあの人に伝えるよ」
「ええ、遊大さんの気持ちはわかっています。そして私の願いが叶わないことも。遊大さんが星乃先輩相手にデュエルをして、決意を新たにした。だったら……私にもその機会を下さい。私に……あなたを諦める機会を」

　そう言って美鈴はデュエルディスクを構える。綾香が遊大の決意に応えたように、今度は遊大が美鈴の決意に応える番だった。