第97話：敬意　作：光芒

「“月下に舞う猫よ。天空を制する戦士よ。禁忌の力によって一つとなり、飢えた牙持つ毒竜となって生まれ変われ！” 超融合！ “スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン”！！」


※スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン
融合・効果モンスター
星8/闇属性/ドラゴン族/攻2800/守2000
トークン以外のフィールドの闇属性モンスター×2
(1)：このカードが融合召喚に成功した場合に発動できる。相手フィールドの特殊召喚されたモンスター1体を選び、その攻撃力分だけこのカードの攻撃力をターン終了時までアップする。
(2)：1ターンに1度、相手フィールドのレベル5以上のモンスター1体を対象として発動できる。ターン終了時まで、このカードはそのモンスターと同名カードとして扱い、同じ効果を得る。
(3)：融合召喚したこのカードが破壊された場合に発動できる。相手フィールドの特殊召喚されたモンスターを全て破壊する。


「スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン……それが狙いでしたか」

　陸のフィールドには守備力3500の超重武者ビッグベン-Kと戦闘では破壊されない超重武者ワカ-O2が、留奈のフィールドには同じように戦闘で破壊できない月光舞猫姫が存在する。
　ヘラクレイノスの無効効果は確かに強力だが、剣闘獣の共通効果を持たないために他の融合モンスターに変化することができないため、実質腐っているようなものであった。そのためダンは戦闘破壊できない3体を除去するためにきっと効果で破壊できるガイザレスの融合召喚を狙ってくる―――それを留奈は読んでいた。
　それを読んだ上で、普段はデッキに入れていない超融合とスターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴンの2枚をこのデュエルのためだけに入れていたのだ。

「ガイザレスは闇属性。スターヴ・ヴェノムの融合素材はフィールドのトークン以外の闇属性モンスター2体だからな！」

　闇という属性はその汎用性から光属性同様デッキを選ばず幅広く採用される属性である。スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴンの融合素材はフィールドのトークンを除く闇属性モンスター2体という条件であり、こちら側も闇属性モンスターを用意すれば超融合で相手の闇属性モンスターを融合素材にすることで除去しつつ、このモンスターの融合召喚へと繋げられるのだ。
　ガイザレスの融合素材に指定されているベストロウリィは風属性であるが、ガイザレスになるとその属性は闇属性に変わっている。そのため、スターヴ・ヴェノムの融合素材に使用することが可能であり、戦闘を行わずに融合素材にしてしまうことで、剣闘獣モンスターの共通効果を発動させず、かつダンのフィールドのモンスターを一掃するにまで至ったのである。

「ですが、ガイザレスの効果は無効になったわけではありません。よってビッグベン-Kは破壊させて頂きます！」

　消えたガイザレスの幻影が浮かび上がり、その幻影が放った一撃がビッグベン-Kを粉砕する。それでもこれでダンのフィールドががら空きになったのも事実だ。

「すまん、陸！」
「大丈夫だよ留奈ちゃん！ ナイス超融合だぜ！」
（パートナーのことを思いつつ、デュエルの流れを変える。今までのお嬢様にはまずできなかったこと……この、ダン・ガーン。見違えましたぞ。ですが……）
「お見事でございます。ですが、今は私のターン故……こういうこともできるのです。魔法カード、ブラック・ホールを発動します」

　しかし、そう易々と終わらないのがダンというデュエリストの真骨頂であろう。発動した魔法カード、ブラック・ホールによってスターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴンとワカ-O2が、黒い渦に吸い込まれるようにして消えてしまった。

「っ！？」
「……融合召喚されたスターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴンには破壊された場合に発動できる効果がありますが、フィールドにモンスターはいないため無意味ですね。私はこれでターンエンドです」


陸　LP7900　手札3枚
デッキ：32　モンスター：0　魔法・罠：0　墓地：4　Pゾーン：青/赤　除外：0　エクストラ：15（0）

留奈　LP3200　手札0枚
デッキ：31　モンスター：0　魔法・罠：0　墓地：9　Pゾーン：青5（月光虎）/赤　除外：1　エクストラ：13（0）

ダン　LP6900　手札2枚
デッキ：32　モンスター：0　魔法・罠：0　墓地：5　Pゾーン：青/赤　除外：1　エクストラ：13（0）


「せっかく融合召喚したスターヴ・ヴェノムが……」
「でもガイザレスを融合素材にしたことで剣闘獣の展開を遅くできたのは事実よ。後は……」
「留奈さんと国広さんが、がら空きのフィールドからどこまでモンスターを揃えられるかということですね」


☆TURN10（陸）


「陸、すまない……けっかてきにおまえのモンスターまで……」
「いいっていいって！ まだまだデュエルはこれからだよ！ 俺のターン、ドロー！」

　ライフと手札の数を除けば、デュエル開始時とほぼ同じ状態に戻ったフィールド。一応留奈のPゾーンには月光虎があるが、そのカードの効果も手札に融合カードが無ければ活かすことができないのが現状であった。

「俺は超重武者ダイ-8を召喚！ 召喚に成功したダイ-8の効果でこいつを表側守備表示にするぜ！」

超重武者ダイ-8　DEF1800

「そしてダイ-8の更なる効果だ！ 俺の墓地に魔法・罠カードが存在しない時、こいつを表側攻撃表示にすることでデッキから超重武者装留1枚を手札に加える！ 俺が手札に加えるのは超重武者装留ダブル・ホーンだ！」
「ダブル・ホーンは装備したモンスターに2回攻撃を可能にするカードでしたね。ですが攻撃力1200のモンスターにそのようなカードを装備したところで……」
「それでもなにもしないよりかはマシだと思うぜ？ 俺はダイ-8にダブル・ホーンを装備し、バトルフェイズに移行する！ ダイ-8でダイレクトアタックだ！」

超重武者ダイ-8　ATK1200×2

ダン　LP6900→4500

「確かに与えたダメージは上級モンスターの攻撃力クラスかもしれない。だからと言ってそれに胡坐をかけるもんじゃないと思うけどな」
「残りライフは4500もありますが、4500しかないと言っても差し支えませんね」

　ダンは留奈のデッキの爆発力を知っている。召喚条件こそ難しいが、月光の融合モンスターは条件次第で複数回攻撃が可能になるため、4500という残りライフでも余裕とは胸を張って言うことができないのだ。
　それでも留奈の現在の手札は0枚。次のドローで融合召喚ができるようになるか、と言えばまた別の要素が必要になってくるというものだった。

（次の留奈ちゃんのドロー次第だな。いくらゼロにリセットしたところでモンスターを出せなきゃジリ貧だ。でもこればっかりは……）

　陸がどれだけ祈ろうとも、留奈のデッキトップが変わることなどありえない。見ているだけというものは楽なようで、とても辛いのだ。

「俺はこれでターンエンドだ」


陸　LP7900　手札2枚
デッキ：30　モンスター：1（超重武者ダイ-8）魔法・罠：1（超重武者装留ダブル・ホーン）墓地：4　Pゾーン：青/赤　除外：0　エクストラ：15（0）

留奈　LP3200　手札0枚
デッキ：31　モンスター：0　魔法・罠：0　墓地：9　Pゾーン：青5（月光虎）/赤　除外：1　エクストラ：13（0）

ダン　LP4500　手札2枚
デッキ：32　モンスター：0　魔法・罠：0　墓地：5　Pゾーン：青/赤　除外：1　エクストラ：13（0）


☆TURN11（留奈）


「わたしのターン、ドローだ！」

　留奈としてはここで是が非ともモンスターを引いておきたかった。しかし、彼女が引いたカードはモンスターではない別のカード。
　彼女はこのデュエルのためにデッキを通常とは異なるものに改造しており、バトルロイヤルルールでありながら、実質的にパートナーである陸をサポートするカードを多く入れた結果、モンスターや融合魔法といったカードを引きにくくなってしまっていたのだ。他者を思いやったつもりが、結果的に自分の首を絞める。なんという本末転倒さであろうか、と思わず留奈は内心自嘲するほどであった。

「……わたしはこれでターンエンドだ」


陸　LP7900　手札2枚
デッキ：30　モンスター：1（超重武者ダイ-8）魔法・罠：1（超重武者装留ダブル・ホーン）墓地：4　Pゾーン：青/赤　除外：0　エクストラ：15（0）

留奈　LP3200　手札1枚
デッキ：30　モンスター：0　魔法・罠：0　墓地：9　Pゾーン：青5（月光虎）/赤　除外：1　エクストラ：13（0）

ダン　LP4500　手札2枚
デッキ：32　モンスター：0　魔法・罠：0　墓地：5　Pゾーン：青/赤　除外：1　エクストラ：13（0）


☆TURN12（ダン）


「私のターン、ドローです。お嬢様、手札が悪いようでいらっしゃいますね」
「……だったらどうした」
「お嬢様のフィールドにモンスターが存在しない。そのおかげでこのカードの効果を最大限に発揮することができるからです。私は“剣闘獣セクトル”を召喚します」


※剣闘獣セクトル
効果モンスター
星4/風属性/爬虫類族/攻400/守300
「剣闘獣」と名のついたモンスターの効果によって特殊召喚に成功したこのカードが戦闘を行ったバトルフェイズ終了時、デッキから「剣闘獣セクトル」以外の「剣闘獣」と名のついたモンスター2体を特殊召喚する。


「剣闘獣セクトル？ 攻撃力400のモンスターでなにができるというんだ」
「確かにこのモンスターの攻撃力は低く、剣闘獣モンスターの効果で特殊召喚されていない以上弱小モンスターと言われてもしょうがないでしょう。ですが、その弱点をこのカードが補います。フィールドに剣闘獣モンスターが存在することにより、このカードは手札から特殊召喚できます。“スレイブタイガー”を特殊召喚します」


※スレイブタイガー
効果モンスター
星3/地属性/獣族/攻600/守300
(1)：自分フィールドに「剣闘獣」モンスターが存在する場合、このカードは手札から特殊召喚できる。
(2)：このカードをリリースし、自分フィールドの「剣闘獣」モンスター1体を対象として発動できる。その自分の「剣闘獣」モンスターを持ち主のデッキに戻し、デッキから「剣闘獣」モンスター1体を特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターは「剣闘獣」モンスターの効果で特殊召喚した扱いとなる。


「スレイブタイガー……マジか、ここでそいつを出すとはな」
「どうやら国広様はお気づきのようですね。スレイブタイガーの効果を発動します。このカードをリリースし、自分フィールドの剣闘獣モンスター1体を対象として発動します。私はセクトルをデッキに戻し、デッキから剣闘獣モンスター1体を特殊召喚します。そしてこの効果で特殊召喚したモンスターは剣闘獣モンスターの効果で特殊召喚した扱いになります。この効果によって私は今デッキに戻したセクトルを特殊召喚します」
「剣闘獣の効果でセクトルを特殊召喚……そういうことか」
「バトルフェイズに移ります。私はセクトルでお嬢様にダイレクトアタックです」

剣闘獣セクトル　ATK400

留奈　LP2800

「そしてバトルフェイズを終了。この瞬間、セクトルの効果で私は剣闘獣モンスター2体をデッキより特殊召喚します。出でよ、剣闘獣アウグストル！ 剣闘獣ダリウス！」

　セクトルの肩についた楕円形の鎧からはまるでラッパのようなけたたましい音が響く。その進軍ラッパに導かれるように現れたのはレベル8のアウグストルとレベル4のダリウスだ。アウグストルと剣闘獣モンスター2体が同時にフィールドに現れることが何を意味しているかを陸と留奈はすぐに理解した。

「剣闘獣モンスターの効果で特殊召喚に成功したダリウスの効果を発動します。墓地の剣闘獣モンスター1体を効果を無効にして特殊召喚します」
「墓地の剣闘獣……」
「私が蘇生するのは剣闘獣ガイザレスです。超融合で墓地に送られましたが、正規の方法で融合召喚しているため、召喚制限は満たしています」

　ダリウスの効果で特殊召喚に成功したため、ガイザレスの破壊効果は発動しない。それでもターン初めにはモンスターが1体も存在しなかったダンのフィールドには剣闘獣モンスターが4体も存在する状態となっていた。バトルフェイズを既に終えているとはいえ、最上級から下級まで剣闘獣が居並ぶ姿は威圧感に満ち溢れていた。

「メインフェイズ2に移行します。私は手札から魔法カード“烏合の行進”を発動します」


※烏合の行進
通常魔法
自分フィールド上に獣族・獣戦士族・鳥獣族のいずれかのモンスターが存在する場合、その種族1種類につき1枚デッキからカードをドローする。このカードを発動するターン、自分は他の魔法・罠カードの効果を発動できない。


「私のフィールドには獣戦士族のダリウスと鳥獣族のアウグストル、ガイザレスが存在します。よってデッキからカードを2枚ドローします」
「3枚の手札からモンスター4体に、2枚ドローか……留奈ちゃんの師匠ってだけはあるな」
「お褒めの言葉を頂きありがとうございます。ですが、これではまだ終わりません。私はフィールドのアウグストル、ガイザレス、セクトルの3体をデッキに戻し、剣闘獣アンダバタエを守備表示で融合召喚します。融合召喚に成功したアンダバタエの効果で私はエクストラデッキからガイザレスを特殊召喚します。特殊召喚に成功したガイザレスの効果でお嬢様の月光虎と国広様のダイ-8を破壊させて頂きます」

　入れ替わり立ち替わり登場する剣闘獣たちによって、留奈と陸のフィールドのカードが次々と破壊されていく。その様は竜巻が街を飲み込んでいくかのように、蝗が田畑を本能のままに食い荒らすかのように、一切の容赦も感じられるものではなかった。
　しかし、ここでダンが一切の手加減をしないのも留奈と陸を一人前のデュエリストと認めていることの証でもあった。もし本当に相手が自分より格下であれば、その相手に全力を出したところで周囲からは自分よりも下の者にしか強く出られないと見られかねないからだ。
　傭兵時代はどこの国の軍にも属さず、一日を生きるために武器を手に取り、多くの命を奪ってきたダン。しかし、今と違って生活に困窮していたその時であっても、彼は武器を持たず、戦意のない人々を手にかけることはしなかった。そんな彼が自らの持てるポテンシャルを最大限に発揮することが相手に対する最大の敬意なのである。

「私はレベル8のアンダバタエとレベル6のガイザレスをエクストラデッキに戻し、再び剣闘獣総監エーディトルを守備表示で融合召喚します。そしてエーディトルの効果でエクストラデッキよりヘラクレイノスを召喚条件を無視して攻撃表示で特殊召喚します」

剣闘獣総監エーディトル　DEF3000

「私はこれでターンエンドです」
（……ここまで来てあのカードを引けませんか。運がありませんね、私も）


陸　LP7900　手札2枚
デッキ：30　モンスター：0　魔法・罠：0　墓地：6　Pゾーン：青/赤　除外：0　エクストラ：15（0）

留奈　LP2800　手札1枚
デッキ：30　モンスター：0　魔法・罠：0　墓地：9　Pゾーン：青/赤　除外：1　エクストラ：13（1）

ダン　LP4500　手札2枚
デッキ：29　モンスター：3（剣闘獣総監エーディトル、剣闘獣ヘラクレイノス、剣闘獣ダリウス）魔法・罠：0　墓地：6　Pゾーン：青/赤　除外：1　エクストラ：13（0）


☆TURN13（陸）


「俺のターン、ドロー！ 確かにエーディトルとヘラクレイノスの布陣は厄介だが、またまた返させて貰うぜ！ 俺の墓地に魔法・罠カードが存在しない時、こいつは特殊召喚できる！ チューナーモンスター、超重武者ホラガ-Eを特殊召喚だ！ そしてこいつをリリース！」
「カードの発動がないとなると……アドバンス召喚ですか」
「こいつは超重武者モンスター1体をリリースしてアドバンス召喚できる！ 来い！“超重輝将ヒス-E”！」


※超重輝将ヒス-E
ペンデュラム・効果モンスター
星8/地属性/機械族/攻1800/守2800
【Pスケール：青1/赤1】
(1)：自分は「超重武者」モンスターしかP召喚できない。この効果は無効化されない。
(2)：1ターンに1度、自分フィールドの
「超重武者」モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターのレベルを1つ上げる。
【モンスター効果】
このカードはルール上「超重武者」カードとしても扱う。このカードは「超重武者」モンスター1体をリリースしてアドバンス召喚できる。
(1)：このカードが召喚・特殊召喚に成功した時に発動できる。このカードの表示形式を変更する。
(2)：このカードは表側守備表示のままで攻撃できる。その場合、このカードは守備力を攻撃力として扱いダメージ計算を行う。


「ヒス-Eの召喚・特殊召喚に成功した時、ヒス-Eの1つ目の効果を発動できる！ そしてそいつにチェーンして墓地のホラガ-Eの効果を発動！」


チェーン2（陸）：超重武者ホラガ-E
チェーン1（陸）：超重輝将ヒス-E


「チェーン2、墓地に魔法・罠が存在しないことでアドバンス召喚するために墓地に送られたホラガ-Eを特殊召喚！ そしてチェーン1のヒス-Eの効果でヒス-Eは守備表示になる！」

超重輝将ヒス-E　DEF2800

「俺はまだまだ諦めない！ 俺はレベル8のヒス-Eに、レベル2のチューナーモンスター、ホラガ-Eをチューニング！“天より追われし荒ぶる神よ！ 神剣をその手に握り、魔に蹂躙されし大地へ降臨せよ！”シンクロ召喚！ 目覚めろ！ 超重荒神スサノ-O！！」
（陸がここにきてスサノ-Oのシンクロ召喚を……あいつはまだあきらめていない。ならば、わたしは―――陸にすべてをたくす）

　留奈は悲壮な覚悟をもって手札のカードを見つめていた。