第114話：忍者　作：光芒

「林檎！」

　アリアとエレジーの2体を特殊召喚し、攻防一体の構えを早々に作り上げた林檎であったが、香織の切り札である天照大神によってあっさりそれを打ち破られてしまった。
　林檎のデッキの弱点の一つが切り返しの弱さにあった。幻奏モンスターは特殊召喚されることで真価を発揮するため、その手段を一度使ってしまえば再度特殊召喚をすることが難しいのである。
　そんな中、紫苑は審判にタイムの申し出をした。このルールにおいては、一回の対戦に二度までこうして5分間の中断を申し入れることが認められている。とはいってもその間にできるのは間を取ることやチームによる作戦会議などであり、サイドチェンジなどデッキの中身を入れ替えたりすることはできないのだが。

「あはは……さすがに天照大神は読めなかったわ」
「使いこなすには相当の技量が存在するモンスターよ、無理もないわ。でも焦る必要はない」
「……どういうこと？」
「天照大神を入れているということは彼女のデッキは【スピリット】の中でも上級モンスターに特化した差し詰め【上級スピリット】。上級以上のモンスターを駆使するにはどうしても切り離せないものがあるわ」
「切り離せない……なるほど。そう考えるとまだ私が確実に不利じゃないね。ありがと、紫苑」

　そう言って二人はハイタッチを交わし、タイムを終了させる。なんてことのない雑談であったが、この雑談一つで流れが変わることもあるのだから、雑談と侮ってはいけないのだ。

（天照大神をはじめとした最上級モンスターを使うにはリリースするモンスターが必要。そんなモンスターを都合よく毎ターン用意できるデッキなんてそうはない。だったらその間に攻め込むだけ……まあこのターンを凌がなきゃいけないんだけどさ）


☆TURN05（香織）

「私のターン、どろーです。私は手札より魔法かーど、増援を発動致します。でっきより戦士族もんすたーの《天帝従騎イデア》を手札に加えます。そしてイデアを召喚致します」

《天帝従騎イデア》
効果モンスター
星1/光属性/戦士族/攻800/守1000
「天帝従騎イデア」の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
(1)：このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「天帝従騎イデア」以外の攻撃力800/守備力1000のモンスター1体を守備表示で特殊召喚する。このターン、自分はエクストラデッキからモンスターを特殊召喚できない。
(2)：このカードが墓地へ送られた場合、除外されている自分の「帝王」魔法・罠カード1枚を対象として発動できる。そのカードを手札に加える。

「イデアの効果。でっきよりイデア以外の攻撃力800で守備力1000のもんすたーである《冥帝従騎エイドス》を特殊召喚致します」

《冥帝従騎エイドス》
効果モンスター
星2/闇属性/魔法使い族/攻800/守1000
「冥帝従騎エイドス」の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1)：このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合に発動する。このターン、自分は通常召喚に加えて1度だけ、自分メインフェイズにアドバンス召喚できる。
(2)：墓地のこのカードを除外し、「冥帝従騎エイドス」以外の自分の墓地の攻撃力800/守備力1000のモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを守備表示で特殊召喚する。このターン、自分はエクストラデッキからモンスターを特殊召喚できない。

「イデアとエイドス……思いきしアドバンス召喚の流れだね」
「私はイデアとエイドスをりりーす。手札より《火之迦具土》をあどばんす召喚致します」

《火之迦具土（ヒノカグツチ）》
スピリットモンスター
星8/炎属性/炎族/攻2800/守2900
このカードは特殊召喚できない。
召喚・リバースしたターンのエンドフェイズ時に持ち主の手札に戻る。また、このカードが相手ライフに戦闘ダメージを与えた時に発動する。次のターンのドローフェイズのドロー前に相手は手札を全て捨てる。

「火之迦具土！？」

　火之迦具土は天照大神が登場するまでスピリットモンスター最大の攻撃力を誇っていたモンスターであり、戦闘ダメージを与えた次のターンのドロー前に相手の手札を全て捨てさせる効果を持っている。このモンスターの攻撃を受けてしまえば文字通り、林檎のフィールドおよび手札が焼け野原にされてしまう。それだけは避けたかった。

「ではめいんふぇいず1を……」
「待った！ そのメインフェイズ終了時に私はリバースカードを発動するわ！永続罠、リビングデッドの呼び声を発動！ 墓地のマイスタリン・シューベルトを特殊召喚するわ！」
「このたいみんぐでもんすたーを？ ですがシューベルトの攻撃力は火之迦具土よりも下です」
「マイスタリン・シューベルトの効果を発動！ 互いの墓地からカードを3枚まで除外することでこのカードの攻撃力を除外したカードの数×200ポイントアップさせる！ 私は藪北さんの墓地のスケープ・ゴースト、イデア、エイドスの3体を除外！」

幻奏の音姫マイスタリン・シューベルト　ATK2400→ATK3000

「攻撃力3000……これでは返り討ちにあってしまいます。ばとるふぇいずに入りますが、何もせずめいんふぇいず2へと移ります……たーんえんどでございます。このえんどふぇいずに火之迦具土は手札に戻ります」


香織　LP8000　手札3枚
デッキ：31　モンスター：0　魔法・罠：0　墓地：1　Pゾーン：青/赤　除外：5　EXデッキ：0（0）
林檎　LP7800　手札3枚
デッキ：31　モンスター：1（幻奏の音姫マイスタリン・シューベルト）魔法・罠：2（リビングデッドの呼び声）墓地：1　Pゾーン：青/赤　除外：3　EXデッキ：14（0）


☆TURN06（林檎）

（よし、スピリットモンスターに仕事をさせなかった。これで相手のフィールドはがら空き。決めるなら今よ！！）
「私のターン、ドロー！ もう1枚のリバースカードも発動するわ！ 永続罠《奇跡の光臨》を発動！」

《奇跡の光臨》
永続罠
(1)：除外されている自分の天使族モンスター1体を対象としてこのカードを発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。このカードがフィールドから離れた時にそのモンスターは破壊される。そのモンスターが破壊された時にこのカードは破壊される。

「奇跡の光臨は除外されている天使族モンスター1体を対象として発動。そのモンスターを特殊召喚するわ！ 特殊召喚するのは除外されているエレジーよ！」
「天照大神の効果を逆手に取られましたか……」
「特殊召喚されたエレジーの効果で、私のフィールドの幻奏モンスターの攻撃力は300ポイントアップする！」

幻奏の音姫マイスタリン・シューベルト　ATK3000→ATK3300
幻奏の音女エレジー　ATK2000→ATK2300

「そして手札から幻奏の音女ソナタを特殊召喚！ ソナタの効果で更に幻奏モンスターの攻撃力・守備力は500ポイントアップする！」

幻奏の音姫マイスタリン・シューベルト　ATK3300/DEF2000→ATK3800/DEF2500
幻奏の音女エレジー　ATK2800/DEF1200→ATK2800/DEF1700
幻奏の音女ソナタ　ATK1200/DEF1000→ATK2000/DEF1500　

「なんという……」
「色々と驚かされたけど、これで終わりよ！ ソナタ、エレジー、マイスタリン・シューベルトでダイレクトアタック！」

幻奏の音女ソナタ　ATK2000

香織　LP8000→LP6000

幻奏の音女エレジー　ATK2800

香織　LP6000→LP3200

幻奏の音姫マイスタリン・シューベルト　ATK3800

香織　LP3200→LP0





「あうう……やはり私には荷が重すぎました。皆さま、後はお頼みします」

　敗れた香織はまるで漫画の登場人物のようによよよ、と萎れた花のように下がっていく。そんな彼女に代わってデュエルフィールドに躍り出たのは口に黒い布を巻き、首から赤いスカーフを棚引かせた女子生徒であった。

「茶道部次鋒は某、風間 千代（かざま ちよ）でござる！ 香織殿を倒すとはお主中々の手練れと見るが、某のデッキで茶道部の危機を救ってみせる！ 忍！！」
「……」
「……」

　次鋒として現れた千代の姿を見た紫苑と林檎は見るまでもなく彼女の使うデッキの内容がわかってしまった気がした。しかし、見た目から判断するのは早すぎる。見た目や口調から思い込みで使用デッキを決めつけてしまうのはあまりに早計であると言わざるを得ないのだ。

（きっと違う。きっと違うはず……）
「えっと、相手のライフを0にした私はこのままエンドフェイズに移るんだよね。えっと、バトルフェイズを終了してターンエンド」


千代　LP8000　手札5枚
デッキ：35　モンスター：0　魔法・罠：0　墓地：0　Pゾーン：青/赤　除外：0　EXデッキ：15（0）
林檎　LP7800　手札3枚
デッキ：30　モンスター：3（幻奏の音姫マイスタリン・シューベルト、幻奏の音女エレジー、幻奏の音女ソナタ）魔法・罠：2（リビングデッドの呼び声、奇跡の光臨）墓地：1　Pゾーン：青/赤　除外：2　EXデッキ：14（0）
　

☆TURN01（千代）

「某のターンでござる！ 某は手札より魔法カード、増援を発動！ デッキよりレベル4以下の戦士族モンスター1体を手札に加えるでござる！ 某が手札に加えるのは……！」
「……《忍者マスター HANZO》？」
「なっ、何故それを！！ もしやお主は読心の術を使えるというのか！！」

　あまりに期待通りすぎる千代のリアクションに、もはや笑う気すら起きない林檎であった。しかし、もし千代のデッキが【忍者】であるとしたらそれはそれで侮れないデッキであることには変わりなかった。

「……某は忍者マスター HANZOを手札に加えるでござる。そしてHANZOを召喚！」

《忍者マスター HANZO》
効果モンスター
星4/闇属性/戦士族/攻1800/守1000
このカードが召喚に成功した時、デッキから「忍法」と名のついたカード1枚を手札に加える事ができる。
また、このカードが反転召喚・特殊召喚に成功した時、デッキから「忍者マスター HANZO」以外の「忍者」と名のついたモンスター1体を手札に加える事ができる。

「召喚に成功したHANZOの効果！ デッキより《忍法 超変化の術》を手札に加えるでござる。某はカードを2枚セットしてターンエンドでござる！ ふふふ、どんな手を使ったかは知らんが、某を忍と見抜いたその慧眼……相手にとって不足なし！ さあ、かかってくるでござる！」


千代　LP8000　手札3枚
デッキ：33　モンスター：1　魔法・罠：2　墓地：1　Pゾーン：青/赤　除外：0　EXデッキ：15（0）
林檎　LP7800　手札3枚
デッキ：30　モンスター：3（幻奏の音姫マイスタリン・シューベルト、幻奏の音女エレジー、幻奏の音女ソナタ）魔法・罠：2（リビングデッドの呼び声、奇跡の光臨）墓地：1　Pゾーン：青/赤　除外：2　EXデッキ：14（0）