第149話：神竜　作：光芒

☆TURN04（綾香）

（……なんとか持ちこたえることができた。まさか高海君がここまで攻めてくるなんて）

　ここに来て落ち着きを見せている遊大に対し、綾香の方は遊大の思わぬ攻勢に戸惑いを隠せずにいた。今までの遊大であれば、チョウホウとショウフクを出された時点で手詰まりとなり、切り返すことなどできていなかった。
　だが、彼のデッキの主属性である闇属性のモンスターの効果を封じ、キーカードであるアークペンデュラムをデッキバウンスしてもそれを立て直すだけのカードをわずか1ターンで引き当ててくる。姿形こそ髪の色や瞳の色が大きく変わったくらいであるが、今の彼はまず間違いなく遊希が持つような「必要なカードをその都度手札に引き込める」といった一種の才能が開花していた。

（今の高海君は自信に満ち溢れている。まるで遊希を相手しているみたい……だったらこっちも本腰を入れて取り組まなきゃいけないわね！）
「私のターン、ドローよ！ 私は魔法カード、竜星の輝跡を発動。墓地のチョウホウ、ショウフク、ガイザーの3体をデッキに戻して2枚ドローするわ！」

　チョウホウ、ショウフク、ガイザーはいずれもSモンスターであるため、メインデッキには1枚のカードも戻っていない。そのため禁止カードである《強欲な壺》と同じ2枚ドローのようなものであった。

（このカードは……）
「私はフィールドのセフィラシウゴを対象に手札のチューナーモンスター、亡龍の戦慄-デストルドーの効果を発動するわ！」

綾香　LP3000→LP1500

「デストルドーを特殊召喚し、デストルドーのレベルをセフィラシウゴのレベル分下げる！」

亡龍の戦慄-デストルドー　星7→星1

「レベル6のセフィラシウゴに、レベル1となったデストルドーをチューニング！ もう一度力を貸して、邪竜星-ガイザー！ そしてガイザーの効果を発動！ ガイザー自身とアークペンデュラムを破壊するわ！」

　アークペンデュラムを破壊するためとはいえ、ライフを半分削ってまでS召喚したガイザーをこうもあっさり手放す綾香。だが、エヴァや千夏、詩織は綾香のこのプレイングに見覚えがあった。彼女がガイザーを自ら手放す時、それは更に強大な力を秘めたモンスターのS召喚に繋げる時とわかっているのだから。

「破壊されたガイザーの効果を発動！ デッキから幻竜族モンスター1体を特殊召喚するわ！ 私はレベル7のチューナーモンスター《タツノオトシオヤ》を特殊召喚！ このカードは幻竜族モンスターの効果でしか特殊召喚できないカードよ」

《タツノオトシオヤ》
チューナー・効果モンスター
星7/水属性/幻竜族/攻2100/守1400
このカードは幻竜族モンスターの効果でしか特殊召喚できない。
「タツノオトシオヤ」の効果は1ターンに3度まで使用できる。
(1)：自分メインフェイズに発動できる。このカードのレベルを1つ下げ、自分フィールドに「タツノコトークン」（幻竜族・水・星1・攻300/守200）1体を特殊召喚する。

「レベル7のチューナーモンスター……」
「タツノオトシオヤの効果を発動！ このカードのレベルを1つ下げることで、レベル1のタツノコトークン1体を特殊召喚するわ。そしてこの効果は1ターンに3度まで使用できる！ 私はこの効果を3度使用し、3体のトークンを特殊召喚！」

タツノオトシオヤ　星7→星4
タツノコトークン　星1×3

「この動き……」
「間違いないわね」
「綾香サン、本気デス！」

　三人の脳裏にはあるモンスターの姿が浮かんでいた。かつて綾香と深い契りを結び、共に戦ったあのモンスターの。

「私はレベル1のタツノコトークンに、レベル4となったタツノオトシオヤをチューニング！ “飽くなき速さを求めるものよ。今次元の壁を突き破り、新たな境地へと到達せよ！” シンクロ召喚！ 駆け抜けよ、シンクロチューナー！ 《アクセル・シンクロン》！」

《アクセル・シンクロン》
シンクロ・チューナー・効果モンスター
星5/闇属性/機械族/攻500/守2100
チューナー＋チューナー以外のモンスター1体以上
自分は「アクセル・シンクロン」を1ターンに1度しかS召喚できない。
(1)：1ターンに1度、デッキから「シンクロン」モンスター1体を墓地へ送り、以下の効果から1つを選択して発動できる。
●墓地へ送ったそのモンスターのレベル分だけ、このカードのレベルを上げる。
●墓地へ送ったそのモンスターのレベル分だけ、このカードのレベルを下げる。
(2)：相手メインフェイズに発動できる。このカードを含む自分フィールドのモンスターをS素材としてS召喚する。

「アクセル・シンクロンの効果を発動。デッキから「シンクロン」モンスターを墓地に送ることでこのカードのレベルを変更できる。私はデッキから《ジェット・シンクロン》を墓地に送り、ジェット・シンクロンのレベル分このカードのレベルを下げるわ！」

アクセル・シンクロン　星5→4

「そして通常召喚、炎竜星-シュンゲイ！ レベル4の炎竜星-シュンゲイに、レベル4のシンクロチューナー、アクセル・シンクロンをチューニング！ 限界を超えた速さの力を得て竜は天に昇る。光り輝く星となって再臨せよ！ シンクロ召喚！ もう一度力を貸して、輝竜星-ショウフク！ シュンゲイをS素材にしたモンスターの攻撃力・守備力は500ポイントアップする！」

輝竜星-ショウフク ATK2300/DEF2600→ATK2800/DEF3100

「そしてショウフクの効果を発動！ 素材にした竜星モンスターの属性の数だけ相手フィールドのカードをデッキに戻す。オッドアイズ・ファントム・ドラゴンをデッキに戻してもらうわ！」

　今の遊大のフィールドで最も攻撃力が高いのは2800のセイバー・ドラゴンであるが、ファントム・ドラゴンのバーンダメージはP召喚されていなければ発動することができない。そういった意味ではこのカードはデッキに戻しておきたいカードではあった。
　それにセイバー・ドラゴンはペンデュラムモンスターではないため、破壊された場合はそのまま墓地へと行く。そうなればアークペンデュラムの効果でも再活用は難しかった。

「ショウフクのもう一つの効果を発動！ フィールドのカードを1枚破壊して墓地のチューナー1体を蘇生する！ 私はセフィラの神託を破壊し、墓地のジェット・シンクロンを特殊召喚するわ！」

《ジェット・シンクロン》
チューナー・効果モンスター
星1/炎属性/機械族/攻500/守0
このカード名の(1)(2)の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない。
(1)：このカードがS素材として墓地へ送られた場合に発動できる。デッキから「ジャンク」モンスター1体を手札に加える。
(2)：このカードが墓地に存在する場合、手札を1枚墓地へ送って発動できる。
このカードを特殊召喚する。この効果で特殊召喚したこのカードは、フィールドから離れた場合に除外される。

「そしてレベル1のタツノコトークンにレベル1のジェット・シンクロンをチューニング！ 駆け抜けなさい、シンクロチューナー《フォーミュラ・シンクロン》！」

《フォーミュラ・シンクロン》
シンクロ・チューナー・効果モンスター
星2/光属性/機械族/攻200/守1500
チューナー＋チューナー以外のモンスター1体
(1)：このカードがS召喚に成功した時に発動できる。自分はデッキから1枚ドローする。
(2)：相手メインフェイズに発動できる。このカードを含む自分フィールドのモンスターをS素材としてS召喚する。

「シンクロ召喚に成功したフォーミュラ・シンクロンの効果を発動、デッキからカードを1枚ドローする。そして墓地のジェット・シンクロンの効果を発動！ 手札1枚を墓地へ送ることで、このカードを墓地から特殊召喚する！ レベル1のタツノコトークンにレベル1のジェット・シンクロンをチューニング！ “漆黒の翼に隠すは雨に濡れし小さき刃。雨中の空に鮮やかに舞い、全てを斬り裂け！”シンクロ召喚！《A BF-雨隠れのサヨ》！！」

《A BF-雨隠れのサヨ》
シンクロ・効果モンスター
星２/闇属性/鳥獣族/攻800/守100
チューナー＋チューナー以外のモンスター1体
(1)：「BF」モンスターを素材としてS召喚したこのカードはチューナーとして扱う。
(2)：このカードは1ターンに2度まで戦闘では破壊されない。

「A BF……いや、違う。星乃先輩のフィールドには……！！」

　綾香のフィールドにはレベル8のショウフク、レベル2のサヨ、そしてレベル2のSモンスターのチューナーであるフォーミュラ・シンクロンの3体が存在する。そのレベルの合計は―――12。

「高海君……私にこのモンスターを使わせるのは遊希とエヴァちゃんに続いて三人目。千夏や詩織相手にだって使ったことがないこのカードの力、あなたに見せてあげるわ！ 私はレベル8のシンクロモンスター、輝竜星-ショウフクとレベル2のシンクロモンスター、A BF-雨隠れのサヨに、レベル2のシンクロチューナー、フォーミュラ・シンクロンをチューニング！！」

　フォーミュラ・シンクロンの身体が金色に光り輝く2つのリングへと変化し、その命を10の星へと変えたショウフクとサヨがそれに合わさり1つとなる。遊大はこの一年で数多のデュエリストとデュエルを行ってきたが、Sモンスター3体を使用するレベル12のSモンスターのS召喚を見るのは初めてだった。





―――“白き星の竜に眠りし真の力が目覚める時、暗黒の天に星の輝きが満ち溢れる。古の天に輝きし星々よ！ 今眩き雨として降り注ぎ、神となりて生まれ変われ！”―――





―――リミットオーバー・アクセルシンクロ！！―――





―――光来せよ！《聖珖神竜 スターダスト・シフル》！！―――






　天空から光と共に綾香のフィールドに舞い降りたのは6枚の巨大な翼を持った白く美しいドラゴンであった。神々しいその光はあらゆる闇を祓い、世界を光に満たす。
　神の字をその名に宿すそのドラゴンこそがかつて綾香がその身に宿していた精霊・《閃珖竜 スターダスト》の力を最大限にまで高めたものであり、真の姿ともいえるもの。それが世界に星乃 綾香がただ一人だけ所持する《聖珖神竜 スターダスト・シフル》であった。



《聖珖神竜 スターダスト・シフル》
シンクロ・効果モンスター
星12/光属性/ドラゴン族/攻4000/守4000
Sモンスターのチューナー＋チューナー以外のSモンスター2体以上
このカードはS召喚でしか特殊召喚できない。
(1)：自分フィールドのカードはそれぞれ1ターンに1度だけ戦闘・効果では破壊されない。
(2)：1ターンに1度、相手がモンスターの効果を発動した時に発動できる。その効果を無効にし、フィールドのカード1枚を選んで破壊する。
(3)：墓地のこのカードを除外し、自分の墓地のレベル8以下の「スターダスト」モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。



「聖珖神竜 スターダスト・シフル……」

　遊大の身体には無意識のうちに身震いが走っていた。人間から人間の姿を持つ精霊になった今だからこそわかる。この聖珖神竜なるモンスターからは自分と限りなく近い波動を感じているからだ。

（……精霊ではない。精霊だった、と言うべきかな。相対しているだけで全身がぎゅっと締め付けられるような。でも……怖くはない）
「バトルよ！ 聖珖神竜 スターダスト・シフルでオッドアイズ・セイバー・ドラゴンを攻撃！―――“超新星撃（シューティング・ノヴァ・ブラスト）”！！」

聖珖神竜 スターダスト・シフル　ATK4000　VS　オッドアイズ・セイバー・ドラゴン　ATK2800

　セイバー・ドラゴンは剣の鱗を閃かせては防御態勢を取ろうとするが、シフルの放った圧倒的な光の力の前では焼け石に水。断末魔の叫びと共に光となって消えていった。

遊大　LP4800→LP3600

「っ……！」
（とても1200のダメージとは思えない圧力……これも、精霊の力……）
（確かに強いけど、やっぱりちょっと攻撃性に欠ける気がする。これで2回くらい攻撃できたらいいんだけど……そんなカードがあったら手に入れたいわね）
「バトルフェイズを終了してメインフェイズ2に移る。私はこれでターンエンドよ」


遊大　LP3600　手札0枚
デッキ：23　モンスター：1（オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン）魔法・罠：0　墓地：3　Pゾーン：青6（EMオッドアイズ・ミノタウロス）/赤　除外：10　EXデッキ：15（4）
綾香　LP1500　手札1枚
デッキ：19　モンスター：1（聖珖神竜 スターダスト・シフル）魔法・罠：0　墓地：17　Pゾーン：青/赤　除外：2　EXデッキ：10（5）


「さすがの高海君もスターダスト・シフルを前には厳しいでしょうね。結構追い込んでいるけど」
「……いえ、そうとも限りませんヨ？」
「えっ？」
「はい。私は綾香さんやエヴァさんのような直感は持っていませんが……高海君の眼はまだ死んでいません。ここからどうやってシフルを倒しにいくか……考えている眼です」
「みんなよくわかるわね……でも、私がもし高海君の立場だったら、きっと今の高海君と同じ気持ちかもしれないわね！」


☆TURN05（遊大）

「俺のターン、ドロー！ 俺は手札のスケール0、オッドアイズ・ファンタズマ・ドラゴンをPゾーンにセットします！」
「ここに来てスケール0……本当に悪運が強いのね」
「おかげ様でその悪運に助けられています。これで俺はレベル1からレベル5までのモンスターをペンデュラム召喚できるようになりました！ 俺はEXデッキからレベル5のペルソナ・ドラゴン、レベル4のドクロバット・ジョーカー、レベル3のミラージュ・ドラゴンを守備表示でペンデュラム召喚！」

　本音を言えば、このターンでスターダスト・シフルを倒して綾香のライフを0にしてしまいたい。だが、勝ちを急いで下手な手を打てばそれが命取りになる恐れも十二分にあった。もし遊希にこの守勢を臆病と思われたとしても、遊大はこの戦法を取っただろう。最後に笑うために。

「……不本意ですが、これでターンエンドです」
（スターダスト・シフルはモンスターの効果を無効にしてこっちのカード1枚を破壊し、星乃先輩のフィールドのカード全てに1度の破壊耐性を与える。破壊では倒せない……どうにかして破壊以外の方法を導かないと）


遊大　LP3600　手札0枚
デッキ：22　モンスター：4（オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン、オッドアイズ・ペルソナ・ドラゴン、EMドクロバット・ジョーカー、オッドアイズ・ミラージュ・ドラゴン）魔法・罠：0　墓地：3　Pゾーン：青6（EMオッドアイズ・ミノタウロス）/赤0（オッドアイズ・ファンタズマ・ドラゴン）除外：10　EXデッキ：15（2）
綾香　LP1500　手札1枚
デッキ：19　モンスター：1（聖珖神竜 スターダスト・シフル）魔法・罠：0　墓地：17　Pゾーン：青/赤　除外：2　EXデッキ：10（5）