第137話：決戦・4　作：光芒

「……どういうつもりだ？ 私を止めて、天都 遊希の世界を守る……？ 片腹痛いわ！」

　そう言って、遊厳は嘲笑する。しかし、遊大の目に曇りはなかった。彼の眼は一点を見据えていた。

「俺はあなたのように実態をこの目で見たことがない。新聞やテレビのニュース、メディアで報じられることしか知らない。だからあなたからの救いを待っている人がいることも、あなたが現状を憂う気持ちに同意できないこともありません。ですが……遊希さんの世界はどうなるんですか？」
「天都 遊希の世界だと？」

　確かに、遊希を実験材料にして彼女をこの星において絶対の存在である精霊に変えてしまえば、その力に逆らえるものはそうは現れないだろう。だが、仮にそれで世界が平和になり、未来が紡がれたとしても。人ではなく、世界を守るための一装置になってしまった遊希に人としての未来は、人生は存在しなくなると言っていい。平和になった世界を、未来を遊希は過ごすことができなくなってしまうのだ。

「例え世界が救われても、そこに遊希さんはいない。遊希さんの世界が終わってしまう。俺はそれを認めない」
「ほう……つまりお前は一人の人間の幸福のために75億の幸福を捨てると言うのか？」
「いえ。俺は……遊希さんも、世界の人々も不幸せにはしません」





―――あなたが75億の命を幸福に導くのであれば、俺は……75億と1人の命を幸福に導いてみせる！！ もちろん、遊希さんの未来も……俺が守ります！！―――





「た、高海くん……あなた……」
「くくっ……あっはっはっは！！ そうか、お前と私は血の繋がりもなければお前は人間ですらない。だが、狂乱の度合いは親子と言っても差し支えないものだな！！」

　狂乱。自分が正常ではないことは互いに理解していた。希望を追い求めた挙句に狂ってしまった遊厳と、希望を追い求めるが故にどこまでも純粋で真っすぐな遊大。自分たちは正常のつもりでも、他から見ればそれは異常と思われても仕方がない。この一点において二人はまさに親子であった。

「だが、お前の希望は消え去る。このバトルフェイズにおいてな！ バトル！」

　遊厳のフィールドには貫通ダメージを倍にするカオス・MAXとそのカオス・MAXの効果をコピーしたクリスタル・ベルが存在する。そのため遊大のフィールドの邪眼神トークンを攻撃された時点で遊大の敗北が確定する。

「終わりだ。そして、絶望しろ。ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴンで邪眼神トークンを攻撃。“混沌のマキシマム・バースト”」

ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン　ATK4000　VS　邪眼神トークン　DEF0

「墓地のネクロ・ガードナーの効果を発動！ このカードをゲームから除外し、一度だけ相手モンスター1体の攻撃を無効にします！」

　墓地から現れた真紅の戦士の影がカオス・MAXの攻撃を打ち消した。遊厳が最初のターンに発動した手札断殺で墓地へ送られたカードの1枚であった。

「そうだ、お前はここでそのカードを使わなければならない。だが、もう攻撃は防げん。クリスタル・ベルで邪眼神トークンを攻撃！ “クリスタル・テンペスト” カオス・MAXの効果と名を得ているため、貫通ダメージは倍になる！」

WW-クリスタル・ベル（ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン）ATK2800　VS　邪眼神トークン　DEF0

遊大　LP8000→LP2400

「っ……！！」
「このターンでの決着は敵わずか。まあいいだろう。ナチュル・エクストリオでオッドアイズ・ペルソナ・ドラゴンを攻撃。“エクストリオ・プレス”」

ナチュル・エクストリオ　ATK2800　VS　オッドアイズ・ペルソナ・ドラゴン　DEF2400

　ナチュル・エクストリオの巨体がペルソナ・ドラゴンを踏み潰す。しかし、オッドアイズが破壊されたことでPゾーンのアークペンデュラムが咆哮する。

「オッドアイズが破壊されたことで、Pゾーンのアークペンデュラムの効果が発動！ デッキ・手札・墓地からオッドアイズモンスター1体を特殊召喚する！ オッドアイズ・ミラージュ・ドラゴンを守備表示で特殊召喚！」

　ナチュル・エクストリオは魔法・罠カードの発動を墓地のカード1枚を除外した後にデッキトップ1枚を墓地に送ることで無効にして破壊することができる。しかし、それは「カードの発動」に対する効果のため、Pゾーンに既に表側表示で存在しているアークペンデュラムのP効果を止めることができないのだ。

「オッドアイズ・ミラージュ・ドラゴンの効果を発動！ 俺のPゾーンにオッドアイズモンスターが存在する時、フィールドのオッドアイズモンスター1体に破壊耐性を与える！ 対象はミラージュ・ドラゴン！」
「……何処までもオッドアイズを守るか。星態龍で邪眼神トークンを攻撃。“スター・デストロイ”」

星態龍　ATK3200　VS　邪眼神トークン　DEF0

（このターンを凌いだ。流石ね、高海くん）
「バトルフェイズを終了。私はカードを1枚セットし、これでターンエンドだ。ターン終了に伴い、ビシバールキンの効果無効が解ける。」

究極幻神アルティミトル・ビシバールキン　ATK6000


遊厳　LP6000　手札1枚
デッキ：24　モンスター：5（究極幻神アルティミトル・ビシバールキン、ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン、星態龍、ナチュル・エクストリオ、WW-クリスタル・ベル）魔法・罠：3（冥界の宝札、連撃の帝王）墓地：15　Pゾーン：青/赤　除外：6　EXデッキ：1（0）
遊大　LP2400　手札5枚
デッキ：33　モンスター：1（オッドアイズ・ミラージュ・ドラゴン）魔法・罠：1（天空の虹彩）墓地：10　Pゾーン：青/赤8（オッドアイズ・アークペンデュラム・ドラゴン）除外：0　EXデッキ：7（3）


☆TURN04（遊大）


「俺のターン、ドロー！」

　遊厳のフィールドのモンスターはいずれも強力無比なモンスターである。しかし、真っ先に遊大が対処すべきモンスターは決まっていた。ノーコストで魔法・罠の発動を止めることのできるナチュル・エクストリオだ。

（ナチュル・エクストリオは魔法・罠カードの発動を封じる。それはPゾーンで魔法カードとして扱われるPモンスターのセッティングを封じるということ。ビシバールキンやカオス・MAXも厄介だけど……まずはこのカードをまずは処理する）
「俺は墓地のグローアップ・バルブの効果を発動！ デッキトップ1枚を墓地へ送り、このカードを墓地から特殊召喚します！」

　ミラージュ・ドラゴンのレベルは3で、グローアップ・バルブはレベル1のチューナー。この組み合わせではレベル4のS召喚が行えるが、遊大のEXデッキにそれに合うレベルのモンスターなど入っていなかった。

「俺は……ミラージュ・ドラゴンとグローアップ・バルブをリリース！」
「2体をリリース……アドバンス召喚だと？」
「現れよ！ レベル8《オッドアイズ・アドバンス・ドラゴン》！！」

《オッドアイズ・アドバンス・ドラゴン》
効果モンスター
星8/闇属性/ドラゴン族/攻3000/守2500
このカードはレベル5以上のモンスター1体をリリースしてアドバンス召喚できる。
このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1)：このカードがアドバンス召喚に成功した場合に発動できる。相手フィールドのモンスター1体を選んで破壊し、そのモンスターの元々の攻撃力分のダメージを相手に与える。
(2)：このカードが戦闘でモンスターを破壊した時に発動できる。自分の手札・墓地から「オッドアイズ・アドバンス・ドラゴン」以外のレベル5以上のモンスター1体を選んで守備表示で特殊召喚する。

「アドバンス召喚に成功したオッドアイズ・アドバンス・ドラゴンの効果を発動！ 相手フィールドのモンスター1体を選んで破壊し、そのモンスターの元々の攻撃力分のダメージを相手に与える！ ナチュル・エクストリオを破壊しろ、オッドアイズ・アドバンス・ドラゴン！」

　新たなオッドアイズであるオッドアイズ・アドバンス・ドラゴンの放った火球がエクストリオを粉砕する。エクストリオの弱点である対モンスター性能を突かれた形になってしまった。

遊厳　LP6000→LP3200

「ぐっ……」
「これでPゾーンへのセッティングも行えるようになった！ 俺はPゾーンにスケール4のオッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンをセッティング！ そしてフィールド魔法、天空の虹彩の効果を発動！ Pゾーンのペンデュラム・ドラゴンを破壊し、デッキから2枚目のオッドアイズ・ファントム・ドラゴンを手札に加える！ そしてオッドアイズモンスターが破壊されたことでアークペンデュラムのP効果が発動！ デッキから《オッドアイズ・ランサー・ドラゴン》を特殊召喚！」

《オッドアイズ・ランサー・ドラゴン》
効果モンスター
星8/光属性/ドラゴン族/攻3000/守2000
(1)：自分フィールドのPモンスターが戦闘・効果で破壊された場合、自分フィールドのモンスター1体をリリースして発動できる。このカードを手札から特殊召喚する。
(2)：このカードが攻撃する場合、相手はダメージステップ終了時まで魔法・罠カードを発動できない。
(3)：自分フィールドの「オッドアイズ」カードが戦闘・効果で破壊される場合、
代わりに自分の手札・モンスターゾーン・Pゾーンの「オッドアイズ」カード1枚を破壊できる。

「そして天空の虹彩の効果で手札に加えたファントム・ドラゴンをPゾーンにセッティング。俺のPスケールは4から8！ よって俺はEXデッキからレベル5のオッドアイズ・ペルソナ・ドラゴンとレベル7のオッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンをペンデュラム召喚！」

　遊大のフィールドには4体のオッドアイズが並ぶ。それによりフィールドのモンスターの総数が9体となるため、ビシバールキンの攻撃力は9000にまで上昇する。

究極幻神アルティミトル・ビシバールキン　ATK6000→ATK9000

「これで決める！ オッドアイズ・ペルソナ・ドラゴンの効果を発動！ EXデッキから特殊召喚された表側表示モンスター1体の効果を無効にする！ 対象はもちろんビシバールキン！」
「この効果が通れば、ビシバールキンの攻撃力は0！ オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンで攻撃すれば……！」
「させるものか！ リバースカードオープン！ ビシバールキンを対象に罠カード《スキル・プリスナー》を発動！」

《スキル・プリスナー》
通常罠
自分フィールド上のカード1枚を選択して発動できる。このターン、選択したカードを対象として発動したモンスター効果を無効にする。
また、墓地のこのカードをゲームから除外し、自分フィールド上のカード１枚を選択して発動できる。このターン、選択したカードを対象として発動したモンスター効果を無効にする。この効果はこのカードが墓地へ送られたターンには発動できない。

チェーン2（遊厳）：スキル・プリスナー
チェーン1（遊大）：オッドアイズ・ペルソナ・ドラゴン

「ビシバールキンがチェーン2のスキル・プリスナーの対象になったことでオッドアイズ・ペルソナ・ドラゴンの発動したモンスター効果は無効になる。よってビシバールキンの攻撃力・守備力は元のままだ」
「……メインフェイズ1を終了。バトルフェイズに移ります！ オッドアイズ・ランサー・ドラゴンでブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴンを攻撃！」

オッドアイズ・ランサー・ドラゴン　ATK3000　VS　ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン　ATK4000

「攻撃力の劣るモンスターで攻撃とは……」
「劣っていない。Pゾーンのオッドアイズ・ファントム・ドラゴンのP効果を発動！ 1ターンに1度、もう片方の自分のPゾーンにオッドアイズカードが存在する場合、戦闘を行う表側表示モンスターの攻撃力を1200ポイントアップさせる！」

オッドアイズ・ランサー・ドラゴン　ATK3000→ATK4200

「ランサー・ドラゴンの攻撃力がカオス・MAXを上回っただと！？」
「刺し穿ち、突き穿て！ “神槍のストライク・バースト”！！」

オッドアイズ・ランサー・ドラゴン　ATK4200　VS　ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン　ATK4000

遊厳　LP3200→LP3000

「続いてオッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンでWW-クリスタル・ベルを攻撃！」
「ファントム・ドラゴンの効果は1度だけ……このままではダメージを受けてしまうわ！」

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン　ATK2500　VS　WW-クリスタル・ベル　ATK2800

「自分のPモンスターが相手モンスターと戦闘を行うダメージステップ時、手札のEMオッドアイズ・ディゾルヴァーの効果を発動！ このカードを手札から特殊召喚します！ そしてこのターン、そのPモンスターは戦闘では破壊されない！」

遊大　LP2400→LP2100

「何だと！？」
「オッドアイズ・アドバンス・ドラゴンでWW-クリスタル・ベルを攻撃！ “虹彩のアドバンス・バースト”！」

オッドアイズ・アドバンス・ドラゴン　ATK3000　VS　WW-クリスタル・ベル　ATK2800

遊厳　LP3000→LP2800

「……ふん。よもやここまで覆してくるとはな」
「星態龍は仕留め損ねたか。最も、ビシバールキンは残させない。バトルフェイズを終了し、メインフェイズ2に移ります。俺はオッドアイズ・ディゾルヴァーの効果を発動！ オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンと自身を墓地に送って融合モンスター1体を融合召喚する！」
「融合召喚だと……？」
「“二色の眼の竜よ。二色の眼持ちし魔術師と一つとなりて、旋風の竜として新生せよ！” 融合召喚！ オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン！ オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴンの効果を発動！ フィールドのカード1枚を持ち主の手札に戻す！ 対象はもちろん究極幻神アルティミトル・ビシバールキン！！」
「ビシバールキンをバウンス……か」

　ビシバールキンに備わっているのは効果破壊耐性のみ。そのため破壊以外の除去に対する耐性は全く持ち合わせていないのだ。

「ボルテックス・ドラゴンの効果にチェーンしてビシバールキンの効果を発動！」

チェーン2（遊厳）：究極幻神アルティミトル・ビシバールキン
チェーン1（遊大）：オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン

「ビシバールキンの効果！ 自身の攻撃権を放棄する代わりに互いのフィールドの可能な限り邪眼神トークンを特殊召喚する！ 私のフィールドに邪眼神トークンを3体特殊召喚！」
「俺のフィールドには1体トークンが特殊召喚される。そしてチェーン1のボルテックスの効果！ 消えてもらおうか、邪神」

　ボルテックスの巻き起こした旋風に巻き込まれていく形でビシバールキンが消える。カオス・MAXもクリスタル・ベルも失った遊厳のコンボはこれで破綻。星態龍の攻撃力は現状オッドアイズたちを上回ってはいるが、Pゾーンのファントム・ドラゴンやアークペンデュラム、モンスターゾーンのランサー・ドラゴンの効果で攻撃を耐えれば次の遊大のターンで一気に攻め込むことができるのだ。

「……」
（ビシバールキンが消えてライフの差も少ない……これで高海くんが圧倒的有利。お願い、高海くん……どうか、このデュエル……）
「……まさかお前がここまでやるとは思わなかったよ。これもひとえに誰かを想う力というものがさせているのだろうか」
「……義父さん。俺はこのデュエルであなたを倒そうだなんて思っていません。あなたが自分の考えを改めて遊希さんを助けてくれれば俺はそれで……」
「改めて、か……」





―――改めるのは貴様の方だ、遊大！！―――





「義父さん……？」
「まさかお前相手にこのカードを使う時が来るとは思わなかった。私のデッキの切り札が……ビシバールキンとは思わないことだな。ビシバールキンも所詮は更に上位の存在に繋げるだけのものに過ぎないというのに」
「ビシバールキンを上回るカード……？ そんなカードが……」
「私は永続罠、連撃の帝王の効果を発動。このターン、私はアドバンス召喚を行える。最もリリースするのは……」










―――お前のモンスターだがな！！―――











　次の瞬間、遊大のフィールドのアドバンス・ドラゴン、ランサー・ドラゴン、ボルテックス・ドラゴンの3体のオッドアイズの姿が消える。そして現れたのは黄金に輝く球体形の巨大なモンスターだった。