EP18　デュエル甲子園への活路　作：ター坊

「風峰プロ…」
「それに…クイーン・フォース。これは一体どういう…」
「ようこそ、チャレンジャー」
遊路は立ち上がり、やや芝居がかった口調で３人に近寄る。
「じゃあ宿題発表の前に改めてメンバー紹介といこうか。先週見たから知ってるとは思うけど、直に話すのは初めてだろ？」
「はい」
「じゃあ左からな」
遊路はベンチに控えるチーム-クイーン・フォースの紹介を始めた。
「クイーン・フォースのリーダー、虹宮詩音(にじのみや しおん)。高校３年だけど女王様気質でワガママ…」
「あ゛あっ！？」
不機嫌そうに足組をしている詩音はキツい目付きで遊路を睨み付ける。
「とまぁ見ての通り礼儀知らずだが根は優しい奴だ」
「…フンッ」
遊路がそう付け足すと詩音はガムを取り出してクチャクチャ噛み始める。
「その隣が苗小飛(ミャオ シャオフェイ)」
「ニーハオ！シャオって呼んで欲しいアルヨ」
シャオはボリューミーなツインテールを揺らして跳ねるように挨拶する。
「見ての通り元気が有り余るくらいある奴だ。それで最後が魅空心愛(みそら ここあ)」
「よろしく…お願いします」
威圧的な詩音、ハイテンションなシャオとはまた異なり、だいぶ大人しい女の子である。
「さくっとメンバー紹介も終わったし始めるか。…改めて聞くが宿題はやって来たな？」
遊路の出した宿題。それを聞いて遊季都、梓、盛雄は気が引き締まる。
「…それなりの答えを見つけたようだな。じゃあまずは盛雄から」
「へぇ！？オイラからか…」
「はっはっはっ。あまり油断するなよ。…さて、じゃあどうぞ」
「…オイラは正直、足を引っ張るかもって怖ぇだ。けど、オイラの為に一生懸命協力してくれた赤崎くんと白朧院さんに応えるために甲子園に出たいだ」
「ふむ…ありがとう。次は梓」
「はい。私は他の誰でもない白朧院梓としてデュエル甲子園を勝ち抜きます」
「ん？白朧院梓として？」
「…私は他の大人達からはハクロウ・コーポレーションの社長令嬢という色眼鏡で見られてきました。確かに私は父のおかげで有名かもしれません。ですが今回のデュエル甲子園では父の立場や名声に頼ることなく、私の、…いいえ私達の力だけで出場し、勝ち抜きたいと考えています」
「なるほど、そういう事か…。最後は遊季都」
「はい。…僕は小さい頃に出た大会で過ちを犯しました」
「過ち？」
「不正をしたと言われ、反則負けになりました。小さかった僕は恐くて誰にも抗えず、やってもいないことを認めてしまい、今の今まで苦しむ事になりました」
「…」
「だから僕は今度のデュエル甲子園では誰に何と言われようと自分は正しいと貫きます。そして優勝することでもう過去の僕は違うんだと昔の僕を知ってる人達に伝えようと思います！」
３人はまっすぐな瞳で遊路に訴えかける。遊路はすこし目を閉じ、考えると語り始める。
「…仲間を思う気持ち、自分で羽ばたこうとする志(こころざし)、昔の自分を正す決意…。まぁ一時審査は合格だな」
「え？一時審査？」
意外な単語に遊季達はキョトンとする。
「人は戦う理由があるからこそ戦える。それにお前達は名誉だとか金なんかにはそんなに興味がない、純粋なデュエリストであることが良く分かった」
「ありがとうごz」
「だが！」
「え？」
「想いを口で言うは易し、だ。そこで今度はお前達の実力を見せて貰おうか」
遊路はニヤリと笑う。
「二次審査は俺の自慢のチーム、クイーン・フォースの面々とデュエルしてもらう。そのデュエr」
「はぁ！？」
遊路の説明中に割って入ったのはクイーン・フォースの一人、詩音だった。
「何考えてんだよ！アタシらこれから素人チームと戦わなきゃいけねぇの！？」
「ああ。お前達は去年のデュエル甲子園の覇者だしな。良い刺激になるだろう」
「ざけんなし。こんな休みの朝に呼び出しといてこれなんて話になんねぇ。アタシ帰るわ」
その女の子が不機嫌そうにドスドスと足早に去ろうとすると
「良いのかなー？」
遊路が意味深な問いかけをする。
「はぁ？」
「参加してくれなきゃ恥ずかしいあーんな事やこーんな事とか言っちゃいそうだなー」
「何言って…」
「例えば去年の合宿での胆試しのレクリエーションで怖くなってマジ泣きしながら帰ってきた、とか」
「なっ！？」
「今年の健康診断の時の予防接種で痛いのやだーって仮病使ったとか、普段穿いてるパンt」
「ふざけんな、ク ズコーチ！！」
ペラペラ暴露される自分の恥に詩音は我慢できず引き返して遊路に掴みかかる。
「じゃあ、やるか？」
「…ちっ。分かったよ、やりゃ良いんだろ」
詩音は不機嫌そうにプイっと向いた。
「じゃあ詩音も納得したし、対戦カードを決めるか」
遊路はポケットからカードを６枚取り出し、それを３枚ずつに分けて両チームに渡す。
「アタシ達には『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』、『クリアウィング・シンクロ・ドラゴン』、『スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン』…何さこれ」
「僕達には『Ｎｏ.３９希望皇ホープ』、『スターダスト・ドラゴン』、『Ｅ・ＨＥＲＯゴッド・ネオス』…」
「１０数える内に誰が何を持つか決めてくれ。じゅう、きゅう…」
「えっ！そんな急に」
遊季都達は慌ててカードを手にする。
「…いち、そこまで。それじゃあ手に持ったカードを全員見せるんだ」
自分が手にしたカードを各々掲げる。

『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』→魅空心愛
『クリアウィング・シンクロ・ドラゴン』→苗小飛
『スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン』→虹宮詩音

『Ｎｏ.３９希望皇ホープ』→黒田盛雄
『スターダスト・ドラゴン』→白朧院梓
『Ｅ・ＨＥＲＯゴッド・ネオス』→赤崎遊季都

「良し。じゃあ同じ種類のカードを持つ者同士でデュエルして貰おう」
「え、じゃあ僕は…リーダーの虹宮さんと…」
「…フンッ」
「さて、遊季都、梓、盛雄」
「はい！」
「これからお前達の実力を見るわけだが、それで満足のいくデュエルだったらデュエル甲子園に出場できるよう話を通してあげよう」
「えっ！？本当ですか！？」
まさかの遊路の申し入れに遊季都達は目を輝かせる。
「手を抜くなよ？」
「…いいえ」
「ん？」
「たとえこれがデュエル甲子園出場を賭けたデュエルで無くても、僕達は全力で戦います！」
「その意気や良し！それじゃあ全員デュエルフィールドに着いて」
遊路の号令の元、各デュエリストが散り散りになる。



遊路の近くのデュエルフィールドでは盛雄と心愛が対面する。
「あの…よろしく…お願いします」
「う、うん…。よ、よろしくだぁ…」

その隣では遊季都と詩音が
「よろしくお願いします。虹宮さん」
「…先輩」
「え？」
「先輩付けるのが普通だろ！？」
「ひっ、ごめんなさい…」
「テメェ…速攻潰してやるよ…」

そのまた隣では梓とシャオが
「白朧院梓と申します。以後お見知りおきを…」
「…梓…アズサ… … あずにゃん！うん！あずにゃんに決定アル！」
「え！？あず…にゃん？」



「準備はできたな。それじゃあデュエル開始！」

カンッ！

ゴングと共にデュエルが始まった。
「あっ…」
ベンチに腰掛ける遊路はハッと思い出したが意味深な笑みを浮かべる。その隣に座る千春が遊路に訊ねる。
「どうかしましたか？」
「いや。遊季都達にアイツらの先週届かなかった新型の最終テストも兼ねてるって言うの忘れてたけど、まぁいいかなーって」


このデュエルフィールドは盛雄VS心愛。
「オイラのターン。オイラは『レスキューラビット』を召喚して効果発動！除外して『セイバー・ザウルス』２体を特殊召喚！２体の恐竜族モンスターでオーバーレイ！！エクシーズ召喚、『エヴォルカイザー・ラギア』！！カードを１枚伏せてターンエンドだぁ！」
盛雄は堅実な立ち上がりを見せる。
「私のターン、ドロー。…よし。私は『紫の魔女 ラベンダー』を召喚します。」
紫のラベンダーの装飾のドレスや魔女帽子を纏った若い魔女が現れる。
「ラギアで無効にしますか？」
「んん？あ、いや…」
「なら、続けさせていただきます。さらに私のフィールドに魔女が存在する事で『赤の魔女 ローズ』を特殊召喚します！」
今度は赤い薔薇を基調とした魔女が並び立つ。
「と、通すだ」
「…よし。ローズの特殊召喚に成功した事でデッキトップ３枚を確認して並び替えます」
心愛はデッキトップをめくりカードを眺めるとカードを並べ替えてデッキトップに戻す。
「そしてラギアを対象にしてローズの効果発動！デッキトップをめくり、魔女モンスターだった場合、ラギアを墓地に送ります」
「ええ！？」
そう、ラギアの泣き所はここである。モンスターは召喚無効でなんとかなるが、通した後には無力なのである。結果論ではあるが『エヴォルカイザー・ドルカ』であればまた違う展開だったかも知れない。
「デッキトップはこれです」

ﾍﾟﾗｯ『白の魔女 リリー』

ローズの薔薇の杖から放たれる火球がラギアを焼き尽くす。
「ああ…」
「めくったカードはデッキの一番下へ。続いてラベンダーの効果を発動します。デッキトップチェック」

ﾍﾟﾗｯ『魔女の魔法暴走(マジカルドジ)』

「罠カードのため、デッキから『緑の魔女 クローバー』を特殊召喚します！その後、デッキトップ３枚を確認して入れ替えます」
心愛はデッキをめくると心なしか口許を綻ばせる。
「来た…。私はこの順番でデッキトップに。クローバーの効果を発動。カードの種類、モンスターを宣言します。デッキトップチェック」

ﾍﾟﾗｯ『青の魔女 オルタンシア』

「めくったオルタンシアをデッキの一番下に戻して２枚ドローします」
「うぅ…」
デッキトップ操作とそれによる効果の連続適用に盛雄は翻弄される。




一方、ここは梓VSシャオ
「先攻をもらいます！私は『ＲＴＧ ハンター・ファング』を召喚します！さらに攻撃力を１０００ダウンさせる事で手札からチューナーモンスター『ＲＴＧ スクラップ・ゾンビ』を特殊召喚！」
「アイヤー、シンクロデッキ アルか」
早々にシンクロ召喚の段取りを終える梓にシャオはまだ危機感を持っていない。
「私はレベル３、ハンター・ファングにレベル１、スクラップ・ゾンビをチューニング！シンクロ召喚！レベル４、シンクロチューナー『ＲＴＧ クリアライト・マジシャン』！！さらに墓地に送られたハンター・ファングとスクラップ・ゾンビの効果でデッキから『ＲＴＧ シェル・ビートル』と『ＲＴＧ タンク・ライノ』を手札に加えます。カードを２枚セットしてターンエンド」
クリアライト・マジシャンはモンスター効果を無効にする効果もあるので大抵の状況は止められる布陣であった。…大抵は。
「シャオのターン、ドロー！シャオのパワー見るヨロシ。永続魔法『魔導装剣(グラディ・マギア)-覇王の鋸(タイラント･ファング)』を発動アルネ！」
シャオのフィールドに黒く光る鋸のような片刃の剣が現れる。
「さらにもう１枚『魔導装剣-隼の爪(シャープ・ファルコン)』！！」
鍔に隼のレリーフが付いた細身のレイピアがフィールドに刺さる。そしてシャオは耳を疑う事を口走る。
「さて、バトルフェイズ アル！」
「えっ！？」
梓は何の冗談かと思った。モンスターがいないのにバトルフェイズとはどういう事なのかと。しかし、シャオは満面の笑みで応える。
「あずにゃん甘いアルヨ？シャオはシャオでクリアライト・マジシャンを攻撃アル♪ほぅっ！！」
シャオはそう言うとフィールドに刺さる覇王の鋸と隼の爪を携え、高く飛び上がってクリアライト・マジシャンに斬りかかる。
「そんなまさか！！」

苗小飛 ATK 2700 VS ＲＴＧ クリアライト・マジシャン ATK 1400

梓:LP 8000→6700

クリアライト・マジシャンはシャオの両断で破壊される。
「覇王の鋸で戦闘ダメージを与えた事であずにゃんに４００の追加ダメージ アル」

梓:LP 6700→6300

「さらに隼の爪の効果でシャオは追加攻撃できるネ！」
「くっ！」
正直、梓はシャオのカードの効果を完全に掴む事ができない程困惑していたが、それでも最善のプレーを心掛ける。
「私は相手モンスターの直接攻撃宣言時に『ＲＴＧ シェル・ビートル』を」
「残念アル！シャオはモンスターじゃないから発動条件は満たせないネ！よって、ダイレクトアタッーク！！」

苗小飛 ATK 2700 直接攻撃

「さらに４００の追加ダメージ♪」

梓:LP 6300→3600→3200

シャオの真横一文字の斬撃が決まる。まぁソリッドビジョンなので当然肉体的ダメージはないが。
「魔導装剣…。全く常識が通用しませんわ…」
交えたこともない前代未聞の効果に梓の手札を握る手はやや震えていた。