イギリス校大将・エリザ、出る　作：はにわ改

　
ーー対イギリス校・副将戦。
勝てば１回戦突破というプレッシャーと、数万の観客が見つめる中で、真希はその初陣をやり遂げた。
勝利をその手にーー。

『ーーき、決まったぁぁああ！
何と日本代表、マキ・チトセ選手！
後攻１ターン目で勝負を決めてしまったぞぉおおおっ？！』

正に瞬く間の出来事。
司会もこの事態は予想していなかったか、口調に驚きが滲み出ている。
観客も歓声の中に感嘆、驚嘆の声を漏らす者もいる。
まさか開幕早々にワンターン・キルが決まるとは、司会も観客も夢にも思ってなかったのだろう。
そしてそれは真希と対戦した相手も同じ思いである。

「（勝った・・・んだよね？）」

ただし今回真希がやって見せた一連の動きは、過去に何度となく練習し、実戦でも幾度も現れたコンボパターンの一つでしかない。
しかし今回は極度の緊張の中で、慣れたはずのコンボを繋げるだけでも真希は必死だった。
故に決着が付いて、司会が自分の勝ちを宣言してなお、終わった事が実感できないでいた。

「（ーー勝ったんだ・・・やったんだ、あたし！）」

手札を全て使いきり、場に１体だけ残ったミサギの背中を目にして、徐々に自分は成し遂げたのだという事を感じ入り、嬉しさが込み上げてくる。
次の瞬間、彼女は思わず右手を上げてその気持ちを表現した。
観客もそれに合わせるように拍手と喝采を送る。


「ーーお疲れ！
さすが、真希ちゃん！
本当にワンターン・キル決めるなんて、魅せてくれるねぇ！」

「真希さん、お疲れでした。
初参戦なのに、淀みないカード捌き、お見事です」

真希が舞台から降りてくると、まず炎魅子と地影が明るく出迎えてくれる。
ひとまず肩の荷を下ろせた真希は、疲れたような笑顔で応える。

「真希、やったな！」

「透矢・・・！」

手を上げて近づいてきた透矢。
自然と自分の手も上がり、頭上で粋の良い乾いた音を鳴らす。
二人の間にそれ以上の言葉はいらなかった。
真希もようやく心から嬉しさを現す。

「真希、おめでとう」

「刹那・・・うん、ありがと」

次に刹那がそんな二人の横から近付き、声を掛けてくる。

「どう、感想は」

「感想？
う～ん、正直デュエルを楽しむ余裕は無かったけどーー」

感想、と訊かれて困ったように頬をかく真希。

「でも何ていうか・・・自信にはなったかも」

「そう」

「うん。
・・・ありがとね、刹那」

「ふふ。
お礼を言うのはこっちよ。
真希も、地影も。
二人のお陰でまずは１回戦、突破ね」

「よっしゃあ！
幸先いいぜ、こりゃあ！」

穏やかに笑い合う真希と刹那。
炎魅子は地影の首に腕を回してはしゃいでいる。
その炎魅子の言うとおり、日本代表は幸先の良い一歩を踏み出した。

「（・・・ふむ、千歳真希。
やはりこの子も代え難い戦力となりそうだなーー）」

生徒たちが喜ぶ様を温かく見守りながらも、その実、冷ややかに真希の力を分析していたクロエ。
彼女はこの大会とは違う意味で真希を頼もしく思っているのだった。



「ーー済まない、エリザ。
不甲斐ない結果になってしまった」

一方、イギリス校陣営では、
真希に負けた生徒が腕を組んで試合を見守っていたエリザに、無念と悔いを露にしながら、自らの敗戦を謝罪する。
だがエリザは特に怒る様子は見せていない。

「ーー仕方ありませんわ。
相手が悪かっただけの事です。
気にしないで下さいまし」

「で、でも、何とか勝ってエリザに繋げたかったのにーー」

「そう、自分を責める事はありません。
あなたたちには来年もきっとまたチャンスが巡ってきます。
それまでにまた精進なさいませ」

「俺たちに・・・って、エリザも来年出場するんだろ？」

「あ、ああ・・・そうですわね。
わたくしとした事が失念しましたわ」

負けてしまった二人を優しく気遣っているエリザ。
その二人は少しは気が和らぎつつも、全く今回の敗戦を気にしてすらいないエリザの素振りに、若干の違和感を抱いてもいた。

「さて・・・結果には関係ありませんが、大将戦、楽しませて頂きますわ」

そして前に出るエリザ。

既にこの１回戦は決着が付いているが、エリザはある思いからこの大将戦に気迫を内に秘めていた。


『さぁあて、観客のみんなぁ！
第１試合、勝負自体は２勝を上げた日本代表の勝利が決まったわけだが！
大将戦もしっかりやるから安心してくれぇい！』

司会からそんな声が響き、透矢が少し驚く。

「お、やっぱり勝負は付いていても、最後までやるんだな？」

「ええ。
今回みたいなケースの場合、折角大将の位置にいる代表が、デュエルもせずに退場、では味気ないでしょ？
だから勝負が付いていようと、最後までやるみたいなの」

「へへん～、俺としてはむしろ望むところだけどな？」

「あんたはいいわよね・・・勝負ついてるんだし、気楽にやれるんだからさ」

前にこういう話は軽く聞いて知ってはいた透矢が、刹那の説明を聞いて嬉しそうにする。
そんな透矢を真希は冷ややかに見つめる。

「んで、相手はあのエリザ、かーー」

既にデュエル場へと上がって、静かに対戦相手を待つ様子のエリザ。
昨日危ないところを助けてくれたエリザ。
もしデュエル出来たらーーという言葉がその通りになり、透矢がその相手として舞台に立つ。

「こう言っては何ですが・・・エリザベートさんは明らかにワンランク上のデュエリストです。
遊戦名くん、気をつけて下さい」

「ま、気を抜きすぎてボコられないように気を付けな？
ていうか、どうせならこの勝負も勝って全勝突破と行こうぜ！」

「はい、やってやりますよ！」

仲間の声援を受けて、いよいよ透矢が舞台に上がる。
そして１日振りにお互い、顔合わせた二人。
エリザがまず透矢に向かって微笑みかけた。

「ーートーヤ。
昨日の縁は今日の伏線だったみたいですわね。
君とデュエルが出来て嬉しいですわ」

「そりゃこっちもさ！

てか・・・昨日はありがとな！
お陰でこうして無事にここに立ててるよ」

「ふふ、お礼ならこのデュエルで返して頂ければいいですわ。

デュエルを・・・楽しみましょう、トーヤ」

「ああ！
全力で行くぜ！」

お互いに距離が離れているから少し大きめの声を上げての会話。
それでも歓声がそれをかき消し、二人以外にそれが聞こえることはない。

『それでは大将の二人、準備はいいかぁ？！』

司会の声が掛かり、二人はディスクを腕にはめて、デッキをセットする。
透矢は気合いに満ちた前のめりの姿勢で、エリザは腕を軽く組んだ姿勢でリラックスした構えだ。

『では第１試合、大将戦！
デュエェェエル、スタァアアアッッッツ！』

『ーーデュエル！』

始まる大将戦。
ある意味消化試合にも似たこのデュエル。
そんな中で二人の全力が真っ向からぶつかろうとしていたーー。