透矢vsシェリル 剣vs銃の対決！②　作：はにわ改

　
「ーー俺の先攻だ！」

あくまで練習、模擬デュエルという扱いではあるものの、
ワシントン・アカデミアの代表とそれを束ねるクリスが見守る、透矢と代表の１人・シェリルのデュエル。

先日、アルフレッドのデュエルを見てるから、世界大会代表の肩書きが伊達でないことは知っている。
透矢はそんな人間とデュエルできる緊張と、高揚感が合わさる事で、内に気合いの熱が自然と高まっていた。

そんなデュエルでまず最初の手札とした５枚。
先攻を握った透矢が素早く戦略を組み立てる。

「俺は手札から『三騎士 轟炎の剣』を攻撃表示で召喚！」

ーーメインフェイズ。
透矢が第一陣を務めるモンスターに選んだのは、
今の彼の高まりを象徴するような赤き炎の剣士。
中央の地面が窪んだ部分、透矢のデュエル・テーブルの前に、宙を浮くようにしてその姿を現した。

動きやすさを重視した軽装の鎧で、大剣を操る『轟炎の剣』。
赤紫の長い髪の毛が炎のように逆立つ、勇猛な女剣士である。

レベルは４、攻撃力は１７００だ。

「更に場に『轟炎の剣』が存在するとき、手札のこのモンスターを特殊召喚出来る！
来い、『轟火の魂（バーニング・クロス）』！」

更に透矢は、手札から条件を満たしたモンスターの特殊召喚を成功させた。
『轟炎の剣』の横に現れたのは、巨大な火の玉のようなモンスター。
赤紫の炎がその熱によって周囲の空間を揺らめかせる。

ただ能力自体は、レベルが１、攻撃力は５００という最下級モンスターでしかない。

「ーーへへ・・・『お姉さん』から『貰った』新しいカードだ！」

透矢が思わず嬉しそうに口にする。

ーー透矢と不思議な縁で結ばれた『お姉さん』。
彼のデッキの本来の持ち主である『お姉さん』は、理由も語らず彼に自らのデッキを託してから、
度々彼の『夢』にその姿を現している。
時には新たなカードを託し、それを活かすことで透矢は着々と力を付けてきている。

「『轟火の魂』の効果を発動！
『轟炎の剣』に装備カード扱いとして装備！」

この『轟火の魂』というカードも、最近『夢の中で貰ったカード』にすぎないはずが、現実にこうして手に持ち、使用している。
なんとも科学的に理解しがたい超常現象であるが、彼は不思議な幸運として受け入れてしまっている。

「『轟炎の剣』の攻撃力が５００ポイントアップだ！」

モンスターであるはずの『轟火の魂』は、装備魔法カードとして姿を変えて、『轟炎の剣』に装備された。
その炎を身に纏い、自らの力へと変える。
結果、『轟炎の剣』の攻撃力は２２００となった。

「ここからだ！
『轟炎の剣』が効果を発動するために手札に戻る場合、代わりに装備カード状態の『轟火の魂』を手札に戻すことが出来る！」

『轟炎の剣』には、自身を手札に戻すことで、デッキから別の『轟炎の剣』をサーチする効果がある。
サーチは強力なものの、場から『轟炎の剣』が消えてしまうのが弱点だが、『轟火の魂』がそれを補ってくれるようだ。

「俺は『轟火の魂』を手札に戻し、デッキから『轟炎の剣』をサーチ！」

かくして、透矢は場に『轟炎の剣』を残した状態で効果の発動に成功した。
ただし攻撃力は１７００に戻る。

ここまでの流れ、透矢の言葉を久遠が丁寧に訳し、シェリルは頷きながらちゃんと把握している。

「もう一度『轟火の魂』を出したいところだが、この特殊召喚は１ターンに１回しかできない。
俺はカードを１枚セットして、ターン・エンドだ」

『轟炎の剣』の背後にリバース・カードが置かれ、透矢のターンは終了。
ターンはシェリルへと移る。

『私のターン、ドロー』

当然だが英語でターン開始を宣言し、ドローするシェリル。
ここからは主に透矢が、刹那の翻訳に耳を傾ける番だ。

果たしてシェリルはどんな戦術を見せてくれるのか。
透矢の心で、高揚感が更に大きく鼓動する。

『手札から魔法カード、“テラ・フォーミング”を発動。
デッキからフィールド魔法カードを１枚、手札に加える』

「ふんふん・・・、おっと、フィールド魔法か」

冷めた調子で、静かな動きでカードを発動させたシェリル。

刹那の通訳が頼りの透矢。
当然だが母国の言葉を早い調子で話すシェリル。
刹那がいなければ、何も分からないだろう。

『デッキから、“決闘の荒野 ガンナーズ・ヘヴン”を手札に加え、そのまま発動』

手札に加えたのも束の間、それはすぐに発動された。
フィールド魔法・『決闘の荒野 ガンナーズ・ヘヴン』。
窪んだ地面、デュエル・フィールドが赤色の荒れた大地に姿を変える。

「ど、どんな効果なんだ・・・？」

『ひゅうーっ！
シェリルお得意の“ガンナーズ・ヘヴン”、キタキターっ！
イカす『決闘デュエル』が始まるよーっ！』

透矢が変わったフィールドを眺めているのを余所に、観戦するメリッサが大声をあげて喜んでいる。
もちろん透矢には何を言っているのかは分からない。

『更に手札からガンナー・モンスター、“ステップ・リオーネ”を攻撃表示で召喚』

「ガンナー、モンスター・・・？」

無表情のまま、召喚されたシェリルのモンスター。
テンガロンハットを被り、赤土に汚れたシャツと解れた短パン、厚底のブーツを履いた少女。
その両手には銃口が長く伸びた二挺の拳銃が握られていて、それを器用に手の中で回転させている。

そう、これはまるで西部劇の映画などで見るガンマンの姿そのものだと、透矢は一目見てそう思った。

レベルは３、攻撃力は１２００と、それほど能力は高くない。

『“ステップ・リオーネ”の効果により、このカードに“バレット・カウンター”が６個乗せられる』

「バレット・カウンター・・・？」

召喚時に、『ステップ・リオーネ』に乗せられる『バレット・カウンター』。
その演出として、『ステップ・リオーネ』が二挺の拳銃に弾を込めている。

『更にフィールド魔法“ガンナーズ・ヘヴン”の効果が発動。
互いのプレイヤーは、相手フィールド上にモンスターが一体以上存在する時に、
メインフェイズ１でモンスターを召喚・特殊召喚した場合、即バトルフェイズへ移行する』

「バトルフェイズに・・・移行？」

刹那の訳を聞いて、例にない効果に怪訝な面持ちになる透矢。
だがその効果に従って、何の前触れもなくいきなりメインフェイズ１は終了し、自動的にバトルフェイズへと移行した。

『そして相手と自分フィールド上のモンスターを一体ずつ選択し、バトルを行う』

「強制・・・、なのか？」

『場にいるモンスターは、私の“ステップ・リオーネ”とあなたの“轟炎の剣”のみ。
この２体でバトル！』

バトルフェイズへ移行し、更に強制されるバトル。
本来ならプレイヤーの意思によって行われるはずが、自動的に進むこの状況に透矢は戸惑う。

『“ガンナー・モンスター”が戦闘を行うとき、“バレット・カウンター”
が１個以上乗っていれば、１つを取り除く』

「で、でも攻撃力は俺の『轟炎の剣』の方が上だぞ？」

強制されるバトル。
『ステップ・リオーネ』の攻撃力は１２００で、『轟炎の剣』は１７００。
自分のカードの効果で強制バトルを行い、そのバトルでこのまま負けてしまったら、完全な自爆である。

『“ステップ・リオーネ”の効果発動！
戦闘時に“バレット・カウンター”を２つ取り除く事で、攻撃力を２倍にする！』

「２倍だとっ！？」

『ステップ・リオーネ』の二挺拳銃は飾りではない。
その能力により、『ステップ・リオーネ』の攻撃力は１２００から、一気に２４００へと急上昇する。
但し、代償として『バレット・カウンター』は計３個取り除かれ、残りも３個となった。

『ーー“Ｄｏｂｕｌｅ Ｓｔｅｐ Ｆｉｒｅ”！』

軽快なステップを踏みながら、二挺拳銃のトリガーに指を走らせる『ステップ・リオーネ』。
大剣を構える『轟炎の剣』に付け入る隙を与えず、その弾丸が彼女の身体を撃ち抜いた。
『轟炎の剣』は戦闘破壊された事になる。

「く・・・っ！」

『“ステップ・リオーネ”の効果を使用したターン、相手がその戦闘で受けるダメージは０。
だが、“ガンナーズ・ヘヴン”の効果を発動！』

「またフィールド魔法か！」

『この強制バトルによって、モンスターを破壊されたプレイヤーは、８００ポイントのダメージを受ける！』

「何っ！？
効果ダメージか！」

更なる『ガンナーズ・ヘヴン』の積み重なる効果。
『轟炎の剣』を倒された透矢のライフは３２００へと減らされた。

『その後、バトルフェイズは終了される。
カードを２枚セットして、ターンを終了』

「な・・・なんだ、この戦術はーー。
今までに見たことない戦い方だぜ」

『ステップ・リオーネ』が召喚されてから、矢継ぎ早に事は進み、あっという間に自分のモンスターを破壊され、ダメージまで受けた。

「早いとこ、ルールを把握しねぇと、あっという間に持っていかれちまいそうだなーー。
へへっ、でもこういう新しい事だらけ、ってのもワクワクするぜ！」

シェリルの『ガンナーズ・ヘヴン』がもたらす、通常とは違うバトルのルール。
透矢はそれに大いに圧倒されながらも、楽しめそうだ、と強く感じていた。

「（透矢くん・・・油断しないで。
シェリルのデュエルはここからよーーっ！）」

刹那はあくまで通訳。
助言は当然の事、余計な口出しはしないと誓っている。
だがせめて透矢が実力を大いに発揮してくれるのを祈るばかりだ。

死力を尽くしても、勝てるとは限らない。
それがシェリルの実力なのだからーー。