謎の少女に誘われて　作：はにわ改

　
ーークリスの好意をありがたく受けて、街を案内してもらうことになった透矢・真希・千鶴にアルフレッドを加えた一行。
クリスの自家用オープンカーに乗り、街案内がてらドライブを楽しんだ。
名所観光、またお土産を買う時にお勧めなお店の紹介。

ーー時には街並みを自分の足で歩くと、人も環境も違うこの地にやはり少なからず透矢たちは緊張していた。
特に千鶴は万が一にもはぐれないよう、透矢と真希に張り付き、慎重に歩いているようだった。
それでもクリス・アルフレッドのサポートもあってか、緊張しながらも透矢たちは異国の街並みを楽しんだようである。


ーーそうして再び車で移動し、一行がやって来たのは、球場を思わせる半球状の巨大なドーム。
このドームこそが、明朝より開催される大会の場なのだ。

「すんげぇ・・・」

「お、大きいね、お兄ちゃん・・・」

「あたしたち、こんなとこでデュエルするの・・・？」

思わず圧倒させられる透矢たち。

今まで何気なくこなしてきたデュエルを、こんな巨大なドームの中心で行おうというのか。

「観客も・・・来るんですか？」

「当たり前だ。
大会の主宰やスポンサーを始め、関係各方面の有力者やプロ組織の関係者。
更に抽選で特別に招待された一般の客で観客席は埋め尽くされるわ」

クリスの答えに、訊いた真希の腰が引ける。
これだけの規模のドームを埋め尽くす大観衆が見つめる中、デュエルを行う自分の姿を想像し、膝さえも震え始めた。

「ーーなあ、アルフレッド。
お前は去年もここでデュエルしたんだよな？」

「ああ」

「やっぱり緊張したか？」

「そりゃあね。
ーーでもデュエルが始まってしまえば、それに集中出来たからね」

「そっか！」

「それに相手も世界大会の代表に選ばれるようなデュエリストさ。
集中しないで戦えるような相手じゃないからな」

「だよな。
そうだよな！
ひゃあーっ！
すげぇ、こりゃ燃えないわけにはいかないってな！」

「はははっ！」

真希の横では、透矢とアルフレッドが言葉を交わしあっている。
いつも透矢の事を『デュエル馬鹿』、『デュエル脳』と罵っている真希だが、
今ではある意味で純粋なその部分がうらやましくも思えたのだった。

ーーそれからしばらく球場の周りを見て回る一行。
普段はプロデュエリストの競技場としても使われるというこの球場の周囲には、色々な出店が見られる。
透矢はあまり離れすぎないように、というクリスの言葉を無視して、抑えきれない気持ちに任せるように周囲を飛び回った。

ーーそんな時だ。
明日の大会についての電子掲示板を眺めていた時の事である。

不意に少女の笑い声が彼の耳に入り、聞こえてきた方角に目を向けた。
すると物陰から身体を半分だけ出して、こちらを伺う少女の姿が透矢の目に入る。

しかもその少女はーー。

「ーー水花？」

間違いない。
水花の姿を確かに捉える透矢。

だが水花はホテルにいるはずで、なぜこんなところにいるのか？
しかも一人でーー？

『フフフ・・・』

また笑い声を響かせる水花。
そして物陰に完全に姿を隠して、透矢の方から見えなくなってしまう。
無意識に透矢は駆け出し、その場所へ近付いた。

「ありゃ？」

だが水花が隠れた物陰には、誰もいない。
まるでかき消えてしまったかのように。
透矢は首を傾げながらも辺りを見回してみる。

『フフフ・・・』

するとまた聞こえてくる笑い声。
透矢がまたその方向に目を遣ると、別の物陰に水花の姿が一瞬見えて、またすぐに隠れてしまう。

「お、おい、水花！
一人で歩いちゃ危ねぇぞ！」

透矢は水花の身を案じ、走ってその後を追う。
追いかけては消え、そして笑い声を頼りにまた追う、という不思議な行動を繰り返しながらーー。