世界大会開幕！vsイギリス校！②　作：はにわ改

　
ーー地影が緊張によるプレッシャー
を感じさせない『完璧』な流れを生み出した。
相手の動きの常に一手先を読み、起点となる部分をカウンター罠カードで潰す。
そうして序盤から中盤にかけては積極的には動かず、着実に小さなポイントを稼ぐ。
相手にも焦りがあったのだろうか、手札全てを使って勝負に出るが、地影はそれを凌ぎ、同時にそこで勝負は決まった。
最後は溜め込んだ余力を一気に使い、フィールドを制圧した。

「ーーフィニッシュ！
『ガイア・プレート』で直接攻撃！」

地影のフィールドを埋め尽くす巨大な岩石モンスターたち。
対して相手の手札・フィールドは共に枯れている。
地影の猛攻を凌ぐ術などあるはずも無かった。
ーー直接攻撃が決まり、相手のライフを０にする。
先鋒戦、決着は付いたーー。

『決まったぁああーーっ！！
先鋒戦、勝者は日本校代表！
“チカゲ アサギリ”選手だぁあああ！！』

司会者が声を轟かせ、同時に観客たちが歓声と共に拍手を送る。
途中、観客たちも思わず唸る見事な地影の立ち回り。
地影の『良さ』が出た一戦であった。
日本側の先勝。
１回戦突破に向けて幸先の良い一勝であると同時に、勝ち抜きに王手をかけた。

「ーーさっすがちーちゃん！
頼りになるねぇ！」

「ちーちゃん言うな！

ーーふぅ、まぁでも何とか役目は果たせました」

戻ってきた地影をまず炎魅子が明るく迎えると、地影は緊張から解き放たれたように穏やかに笑った。
透矢たちもそんな地影を優しく迎え、健闘を称える。

「ーー真希さん、次、頑張って下さい」

「う・・・うんっ！」

地影が真希に声を掛ける。
真希は左胸に手を当てて深呼吸すると、それに頷いた。

「（あたしが勝てばーー１回戦、突破だ！）」

自然とデッキを握った指に力が入る。
その手の平には汗が滲んでいた。
自分が勝てば１回戦突破。
ーー決めたい。
これから大会を戦う上でも自分で決めてしまいたい。
真希の心の中にはそんな強い思いが、緊張を跳ね除けようするぐらいに大きくなっていった。

『ーーでは続いて副将戦、行くぜぇえ！
副将、デュエルの舞台へと上がってくれぇえい！』

「（来た・・・っ！）」

真希にとって遂にこの時が来た。
高鳴る動悸を必死に抑え込む。
もはや逃げ道などない。
これから自分も地影が少し前まで立っていたあの場所に立ち、日本校の勝利を懸けてデュエルをする。

しかし震える足が中々、前には踏み出してはくれなかった。

「ーー真希」

するとそんな真希の肩を背後から誰かが叩く。
ーー刹那だった。

「ーー大丈夫。
真希の実力は私がよく知ってる。
いつも通りに戦えばきっと勝てる」

「刹那・・・っ！」

「頑張って、真希」

刹那の心強いエール。
透矢ももう片方の肩を叩き、頷きかける。
掛けるべき言葉は刹那と同じ。
そして透矢と刹那が息を合わせたように、優しくその肩を押し出すと、
真希は頷きながら戦いの場へと足を進めていった。
短い階段を踏み外さないよう、一歩一歩踏み締め、
そして対戦相手と向き合う。

続けてデュエル・ディスクを腕にはめ込むと、自らの汗に滲んだデッキを力強くセットした。

真希は改めて周りの観客席を見渡した。

ーー豆粒のような数多の観客たち。
今、この瞬間だけはその人たちの目は自分のデュエルに向いている。
ならば例え負けても恥ずかしいデュエルは出来ない。
透矢や舞に言われた通り、全力で自分のデュエルを行うーー。

真希は大きく息を吸い込んでから１度息を止めると、それを一気に吐き出しながら前を見据えた。

『ーーそれでは二人とも、準備は出来たかぁあっ！？

ーーそれじゃ１回戦、第２試合、始めちゃってくれぇえい！』

『ーーデュエル！』

ーー合図が掛かり始められた１回戦、第２試合。
真希の後攻で始まるこのデュエル。
真希は震えた手で最初の手札となる５枚を手に持ち、その内容を把握する。

ーー見慣れたカードたち。
普段ならば即、いくつかのコンボ・パターンが頭に浮かぶが、
今日はそれがやや鈍い。
加えて耳を裂くような大歓声が、集中力を阻害する。

『ーー俺のターン！

・・・カードを２枚セット！
更にモンスターを１枚セットして、ターンを終了！』

先攻であるイギリス代表・副将の男子生徒。
地影の話では彼は去年も出場しているという。
つまりこういった場でのデュエルでは、少しではあるが彼に一日の長がある。
１ターン目から目立った動きはせずに相手にターンを渡す。
彼が負けたらチームの負けも決まってしまうだけに、少なからず緊張はしているだろうが、己のスタイル通りに動いた。

「あ、あたしのターン・・・ど、ドロー！」

真希のターン、ドロー・カード。
手札は６枚。
真希は遅々とした思考を何とか手繰り、戦略を組み立てていった。

「め、メイン！
あたしは手札からフィールド魔法、『ハーピィの狩場』を発動！」

ややあってから真希が動く。
発動したフィールド魔法・『ハーピィの狩場』。
このカードはフィールド上の鳥獣族モンスターの攻守を２００ポイント上げ、更に『ハーピィ・レディ』を召喚または特殊召喚する度に、フィールドの魔法・罠カードを破壊できる。
『ハーピィ』デッキを操る真希にとって、最大限の威力を発揮するカードなのだ。

ーーしかし。

『リバース・カード、オープン！
“屍（かばね）の呪い”を発動！』

「え・・・っ！？」

『手札の“アンデット”モンスター１枚を相手に見せて発動！
相手の魔法カードの発動と効果を無効にして破壊する！』

だが敵はそれを許さなかった。
カウンター罠、『屍の呪い』が発動し、手札に１枚きりの『ハーピィの狩場』がその効果を適用する事なく発動されてしまう。
真希の表情が歪んだ。

『その後、互いのプレイヤーはデッキからモンスターカード１枚を墓地に送ることが出来る』

『屍の呪い』の追加効果により、男子生徒はデッキから選んだモンスターを１枚墓地に送る。
彼のデッキはやはり『アンデット』デッキ。
ゾンビや霊魂といった呪われた存在を操るデッキであり、墓地にモンスターが溜まれば溜まるほどその力は増していく。

一方で真希もデッキからモンスターを墓地に送る事が許され、真希はデッキから墓地に送るモンスターを選ぶ。

ーー出鼻を挫かれた格好の真希。
果たして躓くことなく、デュエルを立て直せるか。

「（ーー繋がった）」

真希は墓地に送るべきモンスターを選び、頷いた。
同時に彼女の中である『ルート』が繋がったのだ。

緊張とプレッシャーの中で、真希がその実力を観客に、そして他校の代表に知らしめるーー。