炎魅子vs久遠 禍々しき魔神の恐怖！⑦　作：はにわ改

　
ーー炎魅子のエース、『爆晶竜（バーニング・フレア・ドラゴン）』の効果が決まった。
『爆晶竜』自身を除く、合計５体のモンスターを１度に葬った究極の一撃。
しかも破壊したモンスター１体につき５００ポイントのダメージを与えるため、合計２５００ポイントのダメージが久遠を襲う。
久遠のライフは３２００から７００へ。
観客席でそれを見たシェリルとメリッサ、そしてアルフレッドがその破壊力に舌を巻く。

『“爆晶竜”ーーか。
エミコ・・・あんな切り札を持っていたとはな』

『ワォ・・・驚いた。
前の大会では使わなかったよね？』

『ああ。
私も勝ちはしたが、あのエミコの効果ダメージには苦しめられた。
だが、それでなお、全力は見せていなかったというわけか』

シェリルとメリッサが母国の言葉で交わし合う。
シェリルは去年の大会で、炎魅子と戦っているようだが、この『爆晶竜』の存在は初めて知ったようだ。

『だが・・・惜しいな。
もし今の一撃でライフを０に出来ていれば、エミコは勝っていたーー』

『う～ん、ちょっと足りなかったねー。
でもエミコも凄い！
あたし、今日はいいもの見ちゃったな』

炎魅子を賞賛しつつも、どこか過去形で物を語る二人。
その意味の為すところ。
アルフレッドは口を閉ざしたままながらも理解していた。

（何故だ・・・？
エミコは知っていながら、あんなことをしたのかーー？）

アルフレッドはこのデュエルの行く末を見極めつつも、理解出来ない事があった。
それは炎魅子の意志。
炎魅子も『知っていたはず』なのだ、と。
久遠を相手に迂闊な行動は、そく敗北を招く事をーー。





ーーそしてデュエル場。

『爆晶竜』の凄まじい一撃で、辺り一面が炎と煙に包まれていたが、それがようやく晴れてきた。
炎魅子の視界に、ライフを７００にまで削られながら整然と立つ久遠の姿が浮かび上がる。
久遠は髪を手で掻き上げると、姉と同じ柔らかくきらびやかな線が宙に模様を描いた。

「ーー気は済んだ？炎魅子」

細く開いた瞼から、鋭い眼差しが炎魅子を睨み返してくる。
それを受けた炎魅子は何故か小さく笑みを見せた。

「ーーこの瞬間、破壊された『イビル・ゲイザー』、墓地の『イビル・リッチ』と『イビル・ブルーム』、更に『ベルフェゴール』に装備されていた『イビル・クライシス』の効果が発動！
私は『イビル・ゲイザー』、『イビル・リッチ』、『イビル・ブルーム』、『イビル・クライシス』の順にチェーンを組み、それを逆順処理する！」

『爆晶竜』がもたらした圧倒的な破壊。
しかしそれが、久遠の４チェーンによるコンボを誘発させる。

「まず『イビル・クライシス』！
このカードを装備していた悪魔族モンスターが破壊される事によってこのカードが墓地へ送られた時、
私の墓地の悪魔族モンスター１体を相手の場に特殊召喚し、墓地のこのカードを手札に戻す！」

『ベルフェゴール』に装備されていた『イビル・クライシス』。
２つ目の効果が解放される。

「私は墓地の『イビル・バイター』を炎魅子の場に特殊召喚し、『イビル・クライシス』を手札に戻す！」

久遠は『イビル・クライシス』を手札に戻すが、その代償として自分の墓地にいた『イビル・バイター』を炎魅子のフィールドに特殊召喚する。
炎魅子のフィールドに現れたモンスターは、黒い鱗を持つコブラのような１つ目の蛇。
レベルは１で、守備力は１２００。

「ーー次に！
『イビル・ブルーム』の効果！
このカードを素材としたシンクロ・モンスターが破壊された時、墓地のこのカードを私の場に守備表示で特殊召喚する！」

『ベルゼブブ』のシンクロ素材となった『イビル・ブルーム』が再び不気味な花を咲かせる。
レベル７、守備力は１８００。

「そして『イビル・リッチ』！
私の場の悪魔族モンスターが破壊された時！
『イビル・リッチ』を除外することで、破壊されたモンスター１体を選択して、私の場に復活させる！」

「へへ・・・復活かい」

「甦れ、『ベルゼブブ』！」

『イビル・リッチ』は魔法カード『混濁なる者との契約』で『ベルフェゴール』の素材として墓地へ送られたモンスター。
何気ない墓地送りに、こんな意味が隠されている。

かくして久遠の場に破壊されたはずの『ベルゼブブ』がその醜悪な姿を晒し、羽音が不協和音を奏でる。

レベル８、攻撃力３０００。
巨悪なる魔神、その力に衰えはない。

「最後、『イビル・ゲイザー』！
このカードが相手のフィールドで破壊された時、私の場に特殊召喚される！」

チェーンの締めくくり、『イビル・ゲイザー』。
炎魅子の場で破壊される事により、その効果を発動。
本来の持ち主である久遠の場に特殊召喚される。
無数の触手を生やした眼球のモンスター。
レベル７、攻撃力２６００。

「ーーまだよ！
『イビル・ゲイザー』がこの効果で特殊召喚された時、相手の悪魔族モンスターのコントロールを得る！」

「コントロール奪取！？」

「私は『イビル・バイター』を選択し、そのコントロールをもらうわ！」

『イビル・クライシス』の代償として炎魅子の場に特殊召喚されたはずの『イビル・バイター』。
それすらも久遠の戦略の布石に過ぎない。
『イビル・ゲイザー』の巨大な目が光を発すると、『イビル・バイター』はその導きに従うように、本来の主・久遠のフィールドへ戻る。

以上でチェーン処理は終了。
破壊し尽くしたはずなのに、久遠の場には再び４体のモンスターが並んだ。
これが久遠のデッキの力なのか。

「あっははは！
さすが、やるじゃないか、久遠！

ーーでもね、あたしだってまだこれで終わりじゃないぜ？」

「へぇ？」

「手札から魔法カード、『ヘルフレイム・クライム』発動！」

しかし炎魅子もこうなることは想定済みだったのか。
即座に手札の魔法カードを発動させた。

「自分フィールド上に存在するバーニング・カウンターを任意の数取り除き、更にあたしの場の炎属性・ドラゴン族モンスター１体を選択！
このターン、そのモンスターのみが攻撃可能になり、取り除いたバーニング・カウンターの数まで攻撃出来るよ！」

「ふ～ん、『爆晶竜』の効果と２段構え、か。
さすがじゃない、炎魅子」

「だろ？

・・・なんて、実はお前の『ベルフェゴール』でドローさせてもらったカードなんだけどな」

「何よ、それじゃああたしのお陰じゃない」

「そーゆうこと！」

「・・・ぷっ」

「くく・・・」

『ーーあははははっ！』

ーー突然、声を合わせて笑う二人。
何が可笑しいのか、会話を聞いていない観客たちにそれが伝わることはない。

「ふん、良いわよ、炎魅子。
かかってらっしゃい。
あたしがあなたの運ゲーコンボなんて、全て否定して上げる」

「けっ！
言ってくれるじゃねぇか。

ーーあたしは『爆晶竜』の『バーニング・カウンター』を３つ取り除き、『爆晶竜』を選択！
このターン、『爆晶竜』は３回の攻撃が可能になるよ！」

『爆晶竜』の５つのカウンターの内、３つが取り除かれる。
それにより、『爆晶竜』の攻撃の態勢は整った。

「ただし、この効果を受けたモンスターは相手に戦闘ダメージは与えられない。
その代わり戦闘で相手モンスターを破壊する度に５００ポイントのダメージを与えるよ！」

「ふぅん・・・あくまで効果ダメージだけで私のライフを削り切ろうってコト。
炎魅子ならではの戦術、っていったところかしら？」

余裕の久遠の態度。
だが久遠の残りライフはたった７００。
『ヘルフレイム・クライム』の効果を受けた『爆晶竜』で２体のモンスターを連続攻撃で破壊すれば、それだけで１０００ポイントのダメージを与えられる。
すなわち炎魅子はこの攻撃を通せば、勝利が確定するのだ。

「ーーんじゃ行くよ、久遠！
『爆晶竜』で先ずは『イビル・バイター』を攻撃！
『ヘル・クリメイション』！！」

ーーバトルフェイズ。
炎魅子の攻撃宣言が下される。
『爆晶竜』の攻撃がこのデュエルの終止符と成りうるのか。
久遠は迫り来る攻撃を前にしながらも、不敵な笑みを見せたまま。
まるでこの『遊び』を愉しむかのようにーー。