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18:月華の黒薔薇 作:ほーがん
第18話「月華の黒薔薇」
「主君の遺産?なんだそれは。」
リチャードの問いに、ヘラルドが反応する。
「最終決戦の時、主君は自身の持つ4体の下僕を散り散りに封印した。それが主君の遺産。きっと、もしもの事を考えて我々に力を残して下さったのだろう。」
「へぇ〜。なら直接くれりゃいいものを。そうすりゃ、わざわざ探す手間も省けたってもんだぜ。」
その言葉を聞き、ヘラルドはリチャードを睨む。
「主君には何か考えがあったのだ。主君に意見を申すなど、貴様は身の程を知れ。」
「その辺にしときなよヘラルド。無事に私が見つけて来てあげたんだしさぁ。」
笑みを浮かべながら助け舟を出すルナ。ヘラルドは彼女を一瞥すると、視線を壁に移した。
ルナは溜め息を付きながら、教会の長椅子に小さな腰を落とす。
「はぁ〜、でも疲れた。結構大変だったんだよ、一人で探すの。」
「まぁ、俺達は常に人員不足だし、そこは仕方ないさ。」
ジェイミーがなだめるように言う。その横でリチャードがぼやいた。
「へっ、分かってんなら勝手にどっか行くなっての。せっかく捕らえた鍵が居なくなったのは一大事だぞ。」
「リチャードの言う通りだ。鍵の捜索は何よりも優先すべき事項。あのヨシトが記憶に掛けたロックの解除法も探さねばならん。」
腕を組み、険しい表情を浮かべるヘラルド。その言葉に疑問をもったリチャードが訊ねる。
「記憶にロック?それはどういうことだ。」
「てめぇが居ない間に色々あったんだよ。鍵の記憶にはロックが掛かってた。ヨシトの仕業でな。だから、俺達はどうにもできなかったんだよ。」
リチャードがジェイミーを睨む。
「それで鍵はどこに行ったの?」
今度はルナが訊ねた。
「さぁな。少なくとも裏切り者のASの所だろ。奴らがどこに住み着いてるのか知らねーけど。」
リチャードから返って来た返答に、ルナは「なるほど」と頷く。
「ふーん、ASがねぇ。あいつらまだここに来るんだ。」
「ああ。これが証拠だよ。」
そう言ってリチャードは穴の開いた天井を指差す。その指先に視線を合わせたルナは苦笑いを浮かべた。
「あらら。また修復が大変ね。頑張って、殿方。」
「チッ。あいつらなまじ身体改造されてる分、タフでめんどくせぇ。どうにかなんねぇのか?」
ヘラルドは横目でルナを見つめながら言う。
「そのための遺産、だ。」
「うーん、このまま皆に配ってもいいんだけどぉ、なーんかそれじゃ物足りないよねぇ。」
悪戯っぽく笑うルナ。ジェイミーは溜め息を付いた。
「やれやれ、始まった。」
「そのもったいぶる癖、どうにかしたほうがいいぜ、ルナ。」
リチャードに咎められたルナはプクッと頬を膨らます。
「ぶー。いいじゃない、何事も楽しんだもん勝ちだよ。」
「それで楽しいのはお前だけだろう?」
今回ばかりは、ジェイミーの意見にリチャードも賛成して頷く。
「でもでもぉ・・・」
ダダをこねるように足をばたつかせるルナ。
その時。
「居るなら出て来い、マサカー共!!今度こそ粛正してやる!!」
教会の外から響いた少女の声。それを耳にしたリチャードが頭を抱える。
「はぁ、またASか。しつこい連中め。」
しかし、ルナは違った。
「・・・そうだ!せっかくだし、あの娘相手にお披露目会っていうのはどう?」
「ふん、俗な考えだ。主君の遺産に対して無礼だぞ。」
咎めるヘラルド。だが、ジェイミーは違った。
「ほう、早速その力をお目にかけられるのか。」
「そう考えりゃ、悪くねぇかもな。」
リチャードもそれに同調する。ヘラルドは不機嫌そうに呟いた。
「ふん、俗物共め。私は反対したからな。」
「カタい事言わなーい!さぁて、久々に張り切っちゃおうかな?フフッ」
そう言って立ち上がったルナは、悠々と扉へ向かい、取っ手を掴むと思い切り開放した。
「なっ、お前は、ルナ!!戻ってきていたのか!!」
「そ!驚いた?」
ASの少女は、ニコっと笑うルナを睨みつけるとディスクを構えた。
「マサカーは全て、私達の手でこの世界から追放する!!それが私達のけじめだ!!」
「へぇー、偉い偉い!高い志は大事だよね!」
しびれを切らした少女は叫んだ。
「黙れ!!とっととディスクを構えろ!!私と戦え!!」
「まぁまぁ、楽しくやろうよ。ねっ?」
ルナのディスクが展開され、ライフポイントが表示される。後ろからその様子を見つめるリチャードは呟いた。
「主君の遺産、か。一体どんなもんか、見せてもらおうじゃねぇか。」
そして、ルナは満面の笑顔で高らかに宣言する。
『デュエル!!(LP4000 VS LP4000)』
先に動いたの少女だった。
「(四幹部のルナ。一体どんなデュエルを仕掛けて来る・・・。)先攻は貰う!私は手札から《絶海の狩人(グレートブルー・ハンター)(☆3/水/海竜/2000・200)》を召喚!そして、その効果を発動!」
少女の場に長い首を持つ海のハンターが出現する。
「このモンスターの召喚に成功した時、このモンスター自身を破壊する!!」
ハンターは唸り声を上げると、手に持つ矛を自分の身体に突き刺し、砕け散った。
「あれま、消えちゃった。」
驚く様子を見せるルナ。しかし、少女は真剣な眼差しで叫ぶ。
「この瞬間、《絶海の狩人》の効果発動!このカードが破壊された場合、デッキから「絶海」カード1枚を手札に加える!」
「はーん、なるほどね。」
少女のデッキからカードが迫り出す。関心したようにルナは笑った。
「私が加えるのはこのカード!魔法カード《絶海融合(グレートブルー・フュージョン)》!!そして、このカードをそのまま発動!!」
表示される魔法カード。少女はさらに手札にカードを取り出す。
「私は手札の《絶海の蛇竜(グレードブルー・サーペント(☆4/水/海竜/1600・1400)》を墓地に送り、《絶海の狩人》を墓地から除外!そしてこの2体を融合する!!」
手札から飛び出した巨大な海蛇は、同じく墓地から飛び出た狩人と混ざり合う。
「海底を這い回る大蛇よ!豪壮たる矛を持つ狩人よ!極蒼に染まる渦潮に溶け込み、新たなる海の脅威となれ!融合召喚!!」
凄まじい水しぶきを上げ、その怪物は姿を現す。
「出でよ!レベル7!《絶海支配者(グレートブルー・ルーラー)タイラント・ガルグイユ(☆7/水/海竜/融合/2400・2200)》!!」
蒼く輝く鱗に身を包んだ絶海の暴君は、咆哮を上げ少女の前に降り立った。
「おぉ、融合召喚決まったね!案外やるじゃん!」
笑顔で拍手するルナを、少女は気味悪そうに見つめる。
「わ、私は《絶海支配者タイラント・ガルグイユ》の効果発動!このカードの融合召喚に成功した時、デッキから「絶海」魔法・罠カード1枚を手札に加える!私は罠カード《絶海の防壁風》を手札に加え、場にセットする!」
「そうそう、伏せカードも忘れずにね!」
何をしようとルナの調子は変わらない。少女はそんな彼女を睨みつけながら、言葉を紡ぐ。
「私はこれでターンエンドだ!!さぁ、かかってこい!!この手で叩き潰してやる!!」
そんな発言を気にも留めず、ルナはデッキに手を伸ばした。
「さてさて!じゃあ、私のターンだね。ドロー!ふーん、なるほどなるほど・・・」
自分の手札を見つめ、ぼそぼそと呟くルナ。しばらくの間を挟み、ルナはようやく動き出した。
「よーし!私は手札から《フレグランス・スナイパー(☆4/風/植物/ペンデュラム/1700・1700)》を召喚!」
ルナの前に銃口に花を挿した狙撃手が現れる。
「くっ、ペンデュラムカード・・・!!」
少女の反応に、ルナは笑う。
「もう、そんな顔しないでよ。君達だって使ってたんだから。私は《フレグランス・スナイパー》の効果発動!1ターンに1度、手札を1枚捨てる事で、相手フィールドのカード1枚を破壊する!私が選ぶのは《絶海支配者タイラント・ガルグイユ》!」
狙撃手はロングレンジの銃を構え、狙いを定めた。しかし、透かさず少女が叫ぶ。
「舐めるな!私はリバースカードを発動!罠カード《絶海の防壁風》!このターン、自分フィールドの「絶海」モンスターは戦闘・効果では破壊されない!」
少女の場で罠カードが開く。それに反応し、狙撃手は引き金から手を離した。
「あーあ、残念。しょうがないなぁ、私はカードを1枚セットしてターンエンド!」
少女は怪訝な目でルナを見つめた。
「あのA・A・Mの幹部だったルナが、この程度の実力な筈が無い・・・!!私のターン、ドロー!」
カードを引いた少女は、直ぐさま宣言する。
「私は墓地の《絶海融合》の効果発動!500ライフ払うことで、このカードを手札に戻す!(LP4000→3500)」
墓地から迫り出したカードを、少女は手札に加える。そして別のカードを取り出すとルナに見せつけた。
「私は手札から《絶海の大蛸(グレートブルー・オクトパス)(☆4/水/水/1200・700)》を召喚!そして、その効果を発動!1ターンに1度、墓地からレベル4以下の「絶海」モンスター1体を特殊召喚できる!蘇れ、《絶海の蛇竜》!!」
青い大蛸の腕に捕まり、海の大蛇が復活を遂げる。
「舐めた真似をするならば、もう容赦はしない!私は《絶海融合》を発動!フィールドの《絶海の大蛸》と《絶海の蛇竜》を融合!」
再び、少女の場で渦潮がしぶきを上げる。
「また融合かぁ。今度はどんなのを見せてくれるのかな?」
相変わらずのルナを尻目に、少女は高らかに言う。
「八つの触手操りし青き魔物よ!海底を這い回る大蛇よ!強大なる海のうねりに混ざり、神秘の力を呼び起こさん!融合召喚!来い、レベル6!《絶海支配者・チェーンソーシャーク(☆6/水/魚/融合/2500・300)》!!」
渦巻く波の中から登場したのは、回転刃のノコギリを持つ巨大な鮫。轟音と波しぶきを引き連れ、絶海の暴れ者はフィールドを威圧した。
「おお!鮫だ鮫!かっこいいー!」
キャッキャとはしゃぐルナ。少女はとうとう怒りのままに叫んだ。
「私を舐めているのか貴様!!その傲り高ぶった態度、今直ぐへし折ってやる!!バトルだ!!《絶海支配者・チェーンソーシャーク》で《フレグランス・スナイパー》を攻撃!!」
駆動音を轟かせ、回転刃のノコギリ鮫は一気の狙撃手へと迫り、その身体を真っ二つに叩き切った。
「おっとっと、やられちゃった。(LP4000→3200)」
わざとらしくふらつくルナ。少女は得意げに笑う。
「ふっ、飄々として居られるのも今のうちだ!《絶海支配者・チェーンソーシャーク》の効果発動!このカードが戦闘で相手モンスターを破壊した時、そのモンスターの攻撃力分のダメージを相手に与える!!」
怒り狂った鮫は、その場でのたうち回ると、尾びれでルナに衝撃を与えた。
「おおう、ちょっと痛いかも。(LP3200→1500)」
その様子を見たリチャードがぼやく。
「おいおい。ルナの奴・・・」
少女はルナを指差した。
「これで貴様のフィールドにモンスターは居ない!!次の一撃で終わりだ!!」
しかし、ルナは笑って返す。
「フフッ、そうは行かないんだな〜。私は破壊された《フレグランス・スナイパー》の効果発動!このカードが破壊された場合、デッキからレベル4以下の「フレグランス」モンスターを特殊召喚できる!私は《フレグランス・ボマー(☆4/風/植物/ペンデュラム/1600・200)》を守備表示で特殊召喚!」
導火線の付いた種子を手に持ったモンスターが、ルナの場に膝を付いた。
「どう?これでまだ止めは刺せないでしょ?」
笑顔でそう口にするルナ。しかし、少女はその行為を嘲った。
「ふははは、馬鹿め!!そんな壁モンスター無いも同じだ!!私の《絶海支配者タイラント・ガルグイユ》は守備表示モンスターを攻撃した時、貫通ダメージを与える効果を持つ!!」
「え!?そ、そうなの!?」
驚くルナに対し、少女は叫ぶ。
「終わりだ、消え去れマサカーよ!!《絶海支配者タイラント・ガルグイユ》で守備表示の《フレグランス・ボマー》を攻撃!!」
「わわっ!ちょ、ちょっと待ってぇ!」
焦るルナ。絶海の怪物はその牙を剥き、眼前に迫った。
しかし。
「・・・なーんて、言うと思った?」
偽りの仮面が剥がれ落ちる。ルナの場でカードが開いた。
「罠カード発動!!《虐殺の予兆》!!自分フィールドのペンデュラムモンスターが攻撃対象となった時に発動できる!!そのペンデュラムモンスターを破壊し、自分は相手フィールドの特殊召喚されたモンスターの数だけドローする!!まずは《フレグランス・ボマー》を破壊!!」
ルナの場のモンスターが消える、少女は困惑した。
「な、何っ!?」
「そしてぇ!!私は君のフィールドの特殊召喚モンスターの数だけ、つまり2枚のカードをドロォー!!さらに、このバトルフェイズを強制終了する!!」
急変したルナの態度に戸惑う少女は、その気迫に押される。
「どうしたの!?んん!?もう何もないならターンエンドして欲しいなぁ!?」
「くっ・・・ターンエンドだ。」
険しい表情でターンを渡した少女とは裏腹に、ルナは高笑いしながらデッキに手を伸ばした。
「私のタァーン、ドロー!!あっははは!!さぁて、行こっかなぁ!!」
手札のカードを2枚取り出し、ルナはそれを見せつけた。
「私はスケール2の《フレグランス・クラッシャー(☆4/風/植物/ペンデュラム/2000・1000)》と、スケール5の《フレグランス・トリガーハッピー(☆4/風/植物/ペンデュラム/1800・0)》でペンデュラムスケールをセッティング!!」
浮かび上がる2本の光の柱。少女の表情が曇る。
「つ、ついに来る、ペンデュラム召喚が・・・!」
「あははは!!ご名答!!これでレベル3と4のモンスターが同時に召喚可能になったよ!!さぁ無事成功しましたら、拍手喝采!!ペンデュラム召喚!!」
天空より飛び出る、2本の光の束。それは場に到達すると同時にモンスターの姿に変わった。
「エクストラデッキより、《フレグランス・スナイパー》と《フレグランス・ボマー》!!んふふ、決まったぁ!!」
一人でパチパチと手を叩くルナ。その異常な興奮状態に、少女は恐れを覚える。
「な、なんなんだ、この女は・・・。」
「ふぅ、いやぁ何度やっても気持ちいいものだねぇ、ペンデュラム召喚。それじゃ、もっと気持ちいい事しちゃおうかなぁ・・・!」
ルナは落ち着きを取り戻すと、胸に手を当てて言う。
「・・はぁ・・・主君よ。そのお力、お借りします。」
それを見たヘラルドが声を上げる。
「ついに使うのか、主君の遺産を!」
「ちっ、結局てめぇが一番見たがってるじゃねぇか。」
リチャードの呟きすら耳に入らないほど、ヘラルドはまじまじとデュエルを見つめている。
そして、ルナは力強く宣言した。
「・・・私はレベル4の《フレグランス・スナイパー》と《フレグランス・ボマー》でオーバーレイ!!」
場に出現した光の渦へ2体のモンスターが飛び込んだ。
「漆黒の闇より、卑賤なる愚民に鉄槌を下す呪痕の牙!!今、降臨せよ!!エクシーズ召喚!!!」
強大なる闇の中から、その力は姿を現す。
「現れよ!!ランク4!!《ダーク・リベリオン・カースド・ドラゴン(★4/闇/ドラゴン/エクシーズ/ペンデュラム/2500・2000)》!!!」
呪われし牙持つ竜は、黒翼を広げ世界を震撼させる。これこそが、”破壊の王”の力の鱗片。
「おお・・!!あれは正しく主君の遺産!!ああ、破壊の王は偉大なり!!」
その竜を拝むようにヘラルドは見つめる。そこまでは行かなくとも、リチャードとジェイミーも只ならぬ力を感じていた。
ルナは静かに息を吸うと、竜を見上げる。
「これが、主君の・・・破壊の王の・・・。私は《ダーク・リベリオン・カースド・ドラゴン》の効果発動!!1ターンに1度、オーバーレイユニットを1つ使う事で、相手フィールドの攻撃表示モンスターの攻撃力を全て0にする!!」
「な、なんだと!!」
たじろぐ少女。ルナは叫んだ。
「『カースディック・ディスチャージ』!!!」
竜は翼を展開すると、凄まじい勢いで相手の力を奪い取って行く。
「私のモンスター達が・・・!」
「さらに魔法カード《狂乱の無差別殺戮》を発動!!自分のライフポイントが相手より低く、相手フィールドに2体以上の特殊召喚されたモンスターが存在する場合に発動できる!!自分フィールドの「マサカー」モンスター1体は、このターン相手フィールドのモンスター全てに攻撃できる!!」
新たに発動された魔法カード。しかし、少女は焦りつつも口を開く。
「くっ、貴様のフィールドのどこに「マサカー」モンスターが居る!?条件を満たさないカードは発動できないぞ!!」
その言葉に、ルナは笑って言った。
「ここにいるんだよ!!《ダーク・リベリオン・カースド・ドラゴン》は「マサカー」モンスターとして扱う事ができる!!」
「そんな!!」
少女の顔が段々と絶望に染まって行く。ルナは力を失った海の怪物達を指差した。
「これで終わり!!《ダーク・リベリオン・カースド・ドラゴン》で全てのモンスターに攻撃!!」
呪痕の竜は翼を広げると、その顎の逆鱗を突き立て、一気に加速した。
「『殺戮のライトニング・アグレッション』!!!」
砕け散る絶海の支配者。少女は衝撃の余波に吹き飛ばされた。
「うあああぁぁっ!!!(LP3500→0)」
『勝者:ルナ』
ディスクを仕舞い込むと、ルナはその場にへたり込んだ。
「は、はぁ。さすが、破壊の王の下僕。扱うだけですっごい疲れる・・・。」
「素晴らしい。実によく見つけてくれた、ルナ。」
拍手をしながらヘラルドが近づく。ルナは得意げに笑う。
「んふふ、もっと褒めてもいいんだよ?」
「さて、これでお披露目会は終了かな。」
ジェイミーとリチャードもヘラルドの後に続く。ルナは立ち上がってぱんぱんと膝を叩くと、ディスクの中から3枚のカードを取り出した。
「そうだね、それじゃ早速、贈呈式を執り行いまーす!」
「っせぇ、早くしろ。」
ぶっきらぼうに言い放つリチャードをルナは不機嫌そうに睨みながらも、主君の遺産たるカードを全員に渡した。
「こ、これが・・・主君の下僕!!」
「使うのが楽しみだな。」
その時、ふとルナは振り向き、言った。
「そうだ。ねぇ、あれ、なんかに利用できないかな?」
ルナの目線の先には倒れ込んだまま動かないASの少女の姿があった。
「なんかとは?」
ジェイミーの問いに、ルナはひらめいたように言う。
「例えば、私があれに成り済まして助けを呼ぶとか?」
「ほう、それで奴らのアジトを突き止めようってか。悪くねぇんじゃねえか?」
リチャードが肯定する。他の二人も納得したように頷いた。
「じゃあ、決まりね。・・・久々の変装、腕が衰えてないと良いけど。」
そう言うと、ルナは少女に近づくと、左腕のディスクのパネルをタッチした。
「救難信号発信!んで、着替えなくっちゃね。」
ルナは気を失っている少女の身体を引きずると、教会の中へ戻った。
「終わるまで入ってこないでよね!覗いたら許さないから!」
「だれが、てめぇのペッタンコなんか・・・。」
ぼそっと呟いたリチャードに、ルナは怒りの眼光を向ける。
「なんか言った?」
「んでもねぇよ、とっとと済ませろ。」
リチャードが喋り終えるよりも先に教会の扉が閉まる。その中からはルナの鼻歌が微かに聞こえていた。
一方、カケル達は。
「さようなら、私の砦。」
ナナはデュエルで荒れた本屋の中を見つめていた。ジェイミーが生きている事知ったナナは、姉の敵を討つためカケル達と同行する事を決めたのだった。
膝を折り、ナナは床に散らばった一冊の本を手に取る。
「・・・必ず、帰って来るからね。」
本を抱き締めるナナ。その手は不安に震えていたが、もはやここに立ち止まる訳にはいかない。姉の敵が健在である以上、彼女に選択肢は無かった。
「そろそろ、行けるか?」
後ろからカケルが声を掛ける。ナナは少しの間を置いて、小さく頷いた。
「さて、このオブ・・おぶびりりん・してい・・・を抜けるにはまだ時間が掛かりそうだな。」
「言えてないぞ、キジマ。オブリビオン・シティだ。」
先頭に立つキジマにカケルが突っ込む。
「私が案内するわ。広い街だけど、伊達に長年住んでないもの。」
ナナが案内役を買って出る。誰も異論は唱えなかった。
「”鍵が逃げた”・・・ユーガは一体どこへ・・・」
歩きながら、カケルは図らずも手に入れた情報について考えていた。
「なぁ、リンカ。ユーガはどこへ行ったんだろうな。」
「分からん。だが、マサカーの手から逃れた事は事実だろう。じゃなければ、デュエルを中断してまでジェイミーが帰る訳がない。」
神妙な顔でリンカは言葉を続けた。
「とにかく今は、このオブリビオン・シティを抜け、”赤の教会”に行くしかあるまい。それ以外に情報を掴む手は無いしな。」
「そうだな。」
頷くカケル。とにかく今は足を進めよう。それがユーガに近づく為にできることだ。
その決意と共に、カケルの一歩に力が入った。
しかし、その道のりは決して平坦ではない。この忘却都市は、ただで抜けさせてくれるほど甘くは無いのだった。
リンカは呟く。
「・・・しかし、今日は暑いな。」
次回第19話「清潔を手に入れろ!」
「主君の遺産?なんだそれは。」
リチャードの問いに、ヘラルドが反応する。
「最終決戦の時、主君は自身の持つ4体の下僕を散り散りに封印した。それが主君の遺産。きっと、もしもの事を考えて我々に力を残して下さったのだろう。」
「へぇ〜。なら直接くれりゃいいものを。そうすりゃ、わざわざ探す手間も省けたってもんだぜ。」
その言葉を聞き、ヘラルドはリチャードを睨む。
「主君には何か考えがあったのだ。主君に意見を申すなど、貴様は身の程を知れ。」
「その辺にしときなよヘラルド。無事に私が見つけて来てあげたんだしさぁ。」
笑みを浮かべながら助け舟を出すルナ。ヘラルドは彼女を一瞥すると、視線を壁に移した。
ルナは溜め息を付きながら、教会の長椅子に小さな腰を落とす。
「はぁ〜、でも疲れた。結構大変だったんだよ、一人で探すの。」
「まぁ、俺達は常に人員不足だし、そこは仕方ないさ。」
ジェイミーがなだめるように言う。その横でリチャードがぼやいた。
「へっ、分かってんなら勝手にどっか行くなっての。せっかく捕らえた鍵が居なくなったのは一大事だぞ。」
「リチャードの言う通りだ。鍵の捜索は何よりも優先すべき事項。あのヨシトが記憶に掛けたロックの解除法も探さねばならん。」
腕を組み、険しい表情を浮かべるヘラルド。その言葉に疑問をもったリチャードが訊ねる。
「記憶にロック?それはどういうことだ。」
「てめぇが居ない間に色々あったんだよ。鍵の記憶にはロックが掛かってた。ヨシトの仕業でな。だから、俺達はどうにもできなかったんだよ。」
リチャードがジェイミーを睨む。
「それで鍵はどこに行ったの?」
今度はルナが訊ねた。
「さぁな。少なくとも裏切り者のASの所だろ。奴らがどこに住み着いてるのか知らねーけど。」
リチャードから返って来た返答に、ルナは「なるほど」と頷く。
「ふーん、ASがねぇ。あいつらまだここに来るんだ。」
「ああ。これが証拠だよ。」
そう言ってリチャードは穴の開いた天井を指差す。その指先に視線を合わせたルナは苦笑いを浮かべた。
「あらら。また修復が大変ね。頑張って、殿方。」
「チッ。あいつらなまじ身体改造されてる分、タフでめんどくせぇ。どうにかなんねぇのか?」
ヘラルドは横目でルナを見つめながら言う。
「そのための遺産、だ。」
「うーん、このまま皆に配ってもいいんだけどぉ、なーんかそれじゃ物足りないよねぇ。」
悪戯っぽく笑うルナ。ジェイミーは溜め息を付いた。
「やれやれ、始まった。」
「そのもったいぶる癖、どうにかしたほうがいいぜ、ルナ。」
リチャードに咎められたルナはプクッと頬を膨らます。
「ぶー。いいじゃない、何事も楽しんだもん勝ちだよ。」
「それで楽しいのはお前だけだろう?」
今回ばかりは、ジェイミーの意見にリチャードも賛成して頷く。
「でもでもぉ・・・」
ダダをこねるように足をばたつかせるルナ。
その時。
「居るなら出て来い、マサカー共!!今度こそ粛正してやる!!」
教会の外から響いた少女の声。それを耳にしたリチャードが頭を抱える。
「はぁ、またASか。しつこい連中め。」
しかし、ルナは違った。
「・・・そうだ!せっかくだし、あの娘相手にお披露目会っていうのはどう?」
「ふん、俗な考えだ。主君の遺産に対して無礼だぞ。」
咎めるヘラルド。だが、ジェイミーは違った。
「ほう、早速その力をお目にかけられるのか。」
「そう考えりゃ、悪くねぇかもな。」
リチャードもそれに同調する。ヘラルドは不機嫌そうに呟いた。
「ふん、俗物共め。私は反対したからな。」
「カタい事言わなーい!さぁて、久々に張り切っちゃおうかな?フフッ」
そう言って立ち上がったルナは、悠々と扉へ向かい、取っ手を掴むと思い切り開放した。
「なっ、お前は、ルナ!!戻ってきていたのか!!」
「そ!驚いた?」
ASの少女は、ニコっと笑うルナを睨みつけるとディスクを構えた。
「マサカーは全て、私達の手でこの世界から追放する!!それが私達のけじめだ!!」
「へぇー、偉い偉い!高い志は大事だよね!」
しびれを切らした少女は叫んだ。
「黙れ!!とっととディスクを構えろ!!私と戦え!!」
「まぁまぁ、楽しくやろうよ。ねっ?」
ルナのディスクが展開され、ライフポイントが表示される。後ろからその様子を見つめるリチャードは呟いた。
「主君の遺産、か。一体どんなもんか、見せてもらおうじゃねぇか。」
そして、ルナは満面の笑顔で高らかに宣言する。
『デュエル!!(LP4000 VS LP4000)』
先に動いたの少女だった。
「(四幹部のルナ。一体どんなデュエルを仕掛けて来る・・・。)先攻は貰う!私は手札から《絶海の狩人(グレートブルー・ハンター)(☆3/水/海竜/2000・200)》を召喚!そして、その効果を発動!」
少女の場に長い首を持つ海のハンターが出現する。
「このモンスターの召喚に成功した時、このモンスター自身を破壊する!!」
ハンターは唸り声を上げると、手に持つ矛を自分の身体に突き刺し、砕け散った。
「あれま、消えちゃった。」
驚く様子を見せるルナ。しかし、少女は真剣な眼差しで叫ぶ。
「この瞬間、《絶海の狩人》の効果発動!このカードが破壊された場合、デッキから「絶海」カード1枚を手札に加える!」
「はーん、なるほどね。」
少女のデッキからカードが迫り出す。関心したようにルナは笑った。
「私が加えるのはこのカード!魔法カード《絶海融合(グレートブルー・フュージョン)》!!そして、このカードをそのまま発動!!」
表示される魔法カード。少女はさらに手札にカードを取り出す。
「私は手札の《絶海の蛇竜(グレードブルー・サーペント(☆4/水/海竜/1600・1400)》を墓地に送り、《絶海の狩人》を墓地から除外!そしてこの2体を融合する!!」
手札から飛び出した巨大な海蛇は、同じく墓地から飛び出た狩人と混ざり合う。
「海底を這い回る大蛇よ!豪壮たる矛を持つ狩人よ!極蒼に染まる渦潮に溶け込み、新たなる海の脅威となれ!融合召喚!!」
凄まじい水しぶきを上げ、その怪物は姿を現す。
「出でよ!レベル7!《絶海支配者(グレートブルー・ルーラー)タイラント・ガルグイユ(☆7/水/海竜/融合/2400・2200)》!!」
蒼く輝く鱗に身を包んだ絶海の暴君は、咆哮を上げ少女の前に降り立った。
「おぉ、融合召喚決まったね!案外やるじゃん!」
笑顔で拍手するルナを、少女は気味悪そうに見つめる。
「わ、私は《絶海支配者タイラント・ガルグイユ》の効果発動!このカードの融合召喚に成功した時、デッキから「絶海」魔法・罠カード1枚を手札に加える!私は罠カード《絶海の防壁風》を手札に加え、場にセットする!」
「そうそう、伏せカードも忘れずにね!」
何をしようとルナの調子は変わらない。少女はそんな彼女を睨みつけながら、言葉を紡ぐ。
「私はこれでターンエンドだ!!さぁ、かかってこい!!この手で叩き潰してやる!!」
そんな発言を気にも留めず、ルナはデッキに手を伸ばした。
「さてさて!じゃあ、私のターンだね。ドロー!ふーん、なるほどなるほど・・・」
自分の手札を見つめ、ぼそぼそと呟くルナ。しばらくの間を挟み、ルナはようやく動き出した。
「よーし!私は手札から《フレグランス・スナイパー(☆4/風/植物/ペンデュラム/1700・1700)》を召喚!」
ルナの前に銃口に花を挿した狙撃手が現れる。
「くっ、ペンデュラムカード・・・!!」
少女の反応に、ルナは笑う。
「もう、そんな顔しないでよ。君達だって使ってたんだから。私は《フレグランス・スナイパー》の効果発動!1ターンに1度、手札を1枚捨てる事で、相手フィールドのカード1枚を破壊する!私が選ぶのは《絶海支配者タイラント・ガルグイユ》!」
狙撃手はロングレンジの銃を構え、狙いを定めた。しかし、透かさず少女が叫ぶ。
「舐めるな!私はリバースカードを発動!罠カード《絶海の防壁風》!このターン、自分フィールドの「絶海」モンスターは戦闘・効果では破壊されない!」
少女の場で罠カードが開く。それに反応し、狙撃手は引き金から手を離した。
「あーあ、残念。しょうがないなぁ、私はカードを1枚セットしてターンエンド!」
少女は怪訝な目でルナを見つめた。
「あのA・A・Mの幹部だったルナが、この程度の実力な筈が無い・・・!!私のターン、ドロー!」
カードを引いた少女は、直ぐさま宣言する。
「私は墓地の《絶海融合》の効果発動!500ライフ払うことで、このカードを手札に戻す!(LP4000→3500)」
墓地から迫り出したカードを、少女は手札に加える。そして別のカードを取り出すとルナに見せつけた。
「私は手札から《絶海の大蛸(グレートブルー・オクトパス)(☆4/水/水/1200・700)》を召喚!そして、その効果を発動!1ターンに1度、墓地からレベル4以下の「絶海」モンスター1体を特殊召喚できる!蘇れ、《絶海の蛇竜》!!」
青い大蛸の腕に捕まり、海の大蛇が復活を遂げる。
「舐めた真似をするならば、もう容赦はしない!私は《絶海融合》を発動!フィールドの《絶海の大蛸》と《絶海の蛇竜》を融合!」
再び、少女の場で渦潮がしぶきを上げる。
「また融合かぁ。今度はどんなのを見せてくれるのかな?」
相変わらずのルナを尻目に、少女は高らかに言う。
「八つの触手操りし青き魔物よ!海底を這い回る大蛇よ!強大なる海のうねりに混ざり、神秘の力を呼び起こさん!融合召喚!来い、レベル6!《絶海支配者・チェーンソーシャーク(☆6/水/魚/融合/2500・300)》!!」
渦巻く波の中から登場したのは、回転刃のノコギリを持つ巨大な鮫。轟音と波しぶきを引き連れ、絶海の暴れ者はフィールドを威圧した。
「おお!鮫だ鮫!かっこいいー!」
キャッキャとはしゃぐルナ。少女はとうとう怒りのままに叫んだ。
「私を舐めているのか貴様!!その傲り高ぶった態度、今直ぐへし折ってやる!!バトルだ!!《絶海支配者・チェーンソーシャーク》で《フレグランス・スナイパー》を攻撃!!」
駆動音を轟かせ、回転刃のノコギリ鮫は一気の狙撃手へと迫り、その身体を真っ二つに叩き切った。
「おっとっと、やられちゃった。(LP4000→3200)」
わざとらしくふらつくルナ。少女は得意げに笑う。
「ふっ、飄々として居られるのも今のうちだ!《絶海支配者・チェーンソーシャーク》の効果発動!このカードが戦闘で相手モンスターを破壊した時、そのモンスターの攻撃力分のダメージを相手に与える!!」
怒り狂った鮫は、その場でのたうち回ると、尾びれでルナに衝撃を与えた。
「おおう、ちょっと痛いかも。(LP3200→1500)」
その様子を見たリチャードがぼやく。
「おいおい。ルナの奴・・・」
少女はルナを指差した。
「これで貴様のフィールドにモンスターは居ない!!次の一撃で終わりだ!!」
しかし、ルナは笑って返す。
「フフッ、そうは行かないんだな〜。私は破壊された《フレグランス・スナイパー》の効果発動!このカードが破壊された場合、デッキからレベル4以下の「フレグランス」モンスターを特殊召喚できる!私は《フレグランス・ボマー(☆4/風/植物/ペンデュラム/1600・200)》を守備表示で特殊召喚!」
導火線の付いた種子を手に持ったモンスターが、ルナの場に膝を付いた。
「どう?これでまだ止めは刺せないでしょ?」
笑顔でそう口にするルナ。しかし、少女はその行為を嘲った。
「ふははは、馬鹿め!!そんな壁モンスター無いも同じだ!!私の《絶海支配者タイラント・ガルグイユ》は守備表示モンスターを攻撃した時、貫通ダメージを与える効果を持つ!!」
「え!?そ、そうなの!?」
驚くルナに対し、少女は叫ぶ。
「終わりだ、消え去れマサカーよ!!《絶海支配者タイラント・ガルグイユ》で守備表示の《フレグランス・ボマー》を攻撃!!」
「わわっ!ちょ、ちょっと待ってぇ!」
焦るルナ。絶海の怪物はその牙を剥き、眼前に迫った。
しかし。
「・・・なーんて、言うと思った?」
偽りの仮面が剥がれ落ちる。ルナの場でカードが開いた。
「罠カード発動!!《虐殺の予兆》!!自分フィールドのペンデュラムモンスターが攻撃対象となった時に発動できる!!そのペンデュラムモンスターを破壊し、自分は相手フィールドの特殊召喚されたモンスターの数だけドローする!!まずは《フレグランス・ボマー》を破壊!!」
ルナの場のモンスターが消える、少女は困惑した。
「な、何っ!?」
「そしてぇ!!私は君のフィールドの特殊召喚モンスターの数だけ、つまり2枚のカードをドロォー!!さらに、このバトルフェイズを強制終了する!!」
急変したルナの態度に戸惑う少女は、その気迫に押される。
「どうしたの!?んん!?もう何もないならターンエンドして欲しいなぁ!?」
「くっ・・・ターンエンドだ。」
険しい表情でターンを渡した少女とは裏腹に、ルナは高笑いしながらデッキに手を伸ばした。
「私のタァーン、ドロー!!あっははは!!さぁて、行こっかなぁ!!」
手札のカードを2枚取り出し、ルナはそれを見せつけた。
「私はスケール2の《フレグランス・クラッシャー(☆4/風/植物/ペンデュラム/2000・1000)》と、スケール5の《フレグランス・トリガーハッピー(☆4/風/植物/ペンデュラム/1800・0)》でペンデュラムスケールをセッティング!!」
浮かび上がる2本の光の柱。少女の表情が曇る。
「つ、ついに来る、ペンデュラム召喚が・・・!」
「あははは!!ご名答!!これでレベル3と4のモンスターが同時に召喚可能になったよ!!さぁ無事成功しましたら、拍手喝采!!ペンデュラム召喚!!」
天空より飛び出る、2本の光の束。それは場に到達すると同時にモンスターの姿に変わった。
「エクストラデッキより、《フレグランス・スナイパー》と《フレグランス・ボマー》!!んふふ、決まったぁ!!」
一人でパチパチと手を叩くルナ。その異常な興奮状態に、少女は恐れを覚える。
「な、なんなんだ、この女は・・・。」
「ふぅ、いやぁ何度やっても気持ちいいものだねぇ、ペンデュラム召喚。それじゃ、もっと気持ちいい事しちゃおうかなぁ・・・!」
ルナは落ち着きを取り戻すと、胸に手を当てて言う。
「・・はぁ・・・主君よ。そのお力、お借りします。」
それを見たヘラルドが声を上げる。
「ついに使うのか、主君の遺産を!」
「ちっ、結局てめぇが一番見たがってるじゃねぇか。」
リチャードの呟きすら耳に入らないほど、ヘラルドはまじまじとデュエルを見つめている。
そして、ルナは力強く宣言した。
「・・・私はレベル4の《フレグランス・スナイパー》と《フレグランス・ボマー》でオーバーレイ!!」
場に出現した光の渦へ2体のモンスターが飛び込んだ。
「漆黒の闇より、卑賤なる愚民に鉄槌を下す呪痕の牙!!今、降臨せよ!!エクシーズ召喚!!!」
強大なる闇の中から、その力は姿を現す。
「現れよ!!ランク4!!《ダーク・リベリオン・カースド・ドラゴン(★4/闇/ドラゴン/エクシーズ/ペンデュラム/2500・2000)》!!!」
呪われし牙持つ竜は、黒翼を広げ世界を震撼させる。これこそが、”破壊の王”の力の鱗片。
「おお・・!!あれは正しく主君の遺産!!ああ、破壊の王は偉大なり!!」
その竜を拝むようにヘラルドは見つめる。そこまでは行かなくとも、リチャードとジェイミーも只ならぬ力を感じていた。
ルナは静かに息を吸うと、竜を見上げる。
「これが、主君の・・・破壊の王の・・・。私は《ダーク・リベリオン・カースド・ドラゴン》の効果発動!!1ターンに1度、オーバーレイユニットを1つ使う事で、相手フィールドの攻撃表示モンスターの攻撃力を全て0にする!!」
「な、なんだと!!」
たじろぐ少女。ルナは叫んだ。
「『カースディック・ディスチャージ』!!!」
竜は翼を展開すると、凄まじい勢いで相手の力を奪い取って行く。
「私のモンスター達が・・・!」
「さらに魔法カード《狂乱の無差別殺戮》を発動!!自分のライフポイントが相手より低く、相手フィールドに2体以上の特殊召喚されたモンスターが存在する場合に発動できる!!自分フィールドの「マサカー」モンスター1体は、このターン相手フィールドのモンスター全てに攻撃できる!!」
新たに発動された魔法カード。しかし、少女は焦りつつも口を開く。
「くっ、貴様のフィールドのどこに「マサカー」モンスターが居る!?条件を満たさないカードは発動できないぞ!!」
その言葉に、ルナは笑って言った。
「ここにいるんだよ!!《ダーク・リベリオン・カースド・ドラゴン》は「マサカー」モンスターとして扱う事ができる!!」
「そんな!!」
少女の顔が段々と絶望に染まって行く。ルナは力を失った海の怪物達を指差した。
「これで終わり!!《ダーク・リベリオン・カースド・ドラゴン》で全てのモンスターに攻撃!!」
呪痕の竜は翼を広げると、その顎の逆鱗を突き立て、一気に加速した。
「『殺戮のライトニング・アグレッション』!!!」
砕け散る絶海の支配者。少女は衝撃の余波に吹き飛ばされた。
「うあああぁぁっ!!!(LP3500→0)」
『勝者:ルナ』
ディスクを仕舞い込むと、ルナはその場にへたり込んだ。
「は、はぁ。さすが、破壊の王の下僕。扱うだけですっごい疲れる・・・。」
「素晴らしい。実によく見つけてくれた、ルナ。」
拍手をしながらヘラルドが近づく。ルナは得意げに笑う。
「んふふ、もっと褒めてもいいんだよ?」
「さて、これでお披露目会は終了かな。」
ジェイミーとリチャードもヘラルドの後に続く。ルナは立ち上がってぱんぱんと膝を叩くと、ディスクの中から3枚のカードを取り出した。
「そうだね、それじゃ早速、贈呈式を執り行いまーす!」
「っせぇ、早くしろ。」
ぶっきらぼうに言い放つリチャードをルナは不機嫌そうに睨みながらも、主君の遺産たるカードを全員に渡した。
「こ、これが・・・主君の下僕!!」
「使うのが楽しみだな。」
その時、ふとルナは振り向き、言った。
「そうだ。ねぇ、あれ、なんかに利用できないかな?」
ルナの目線の先には倒れ込んだまま動かないASの少女の姿があった。
「なんかとは?」
ジェイミーの問いに、ルナはひらめいたように言う。
「例えば、私があれに成り済まして助けを呼ぶとか?」
「ほう、それで奴らのアジトを突き止めようってか。悪くねぇんじゃねえか?」
リチャードが肯定する。他の二人も納得したように頷いた。
「じゃあ、決まりね。・・・久々の変装、腕が衰えてないと良いけど。」
そう言うと、ルナは少女に近づくと、左腕のディスクのパネルをタッチした。
「救難信号発信!んで、着替えなくっちゃね。」
ルナは気を失っている少女の身体を引きずると、教会の中へ戻った。
「終わるまで入ってこないでよね!覗いたら許さないから!」
「だれが、てめぇのペッタンコなんか・・・。」
ぼそっと呟いたリチャードに、ルナは怒りの眼光を向ける。
「なんか言った?」
「んでもねぇよ、とっとと済ませろ。」
リチャードが喋り終えるよりも先に教会の扉が閉まる。その中からはルナの鼻歌が微かに聞こえていた。
一方、カケル達は。
「さようなら、私の砦。」
ナナはデュエルで荒れた本屋の中を見つめていた。ジェイミーが生きている事知ったナナは、姉の敵を討つためカケル達と同行する事を決めたのだった。
膝を折り、ナナは床に散らばった一冊の本を手に取る。
「・・・必ず、帰って来るからね。」
本を抱き締めるナナ。その手は不安に震えていたが、もはやここに立ち止まる訳にはいかない。姉の敵が健在である以上、彼女に選択肢は無かった。
「そろそろ、行けるか?」
後ろからカケルが声を掛ける。ナナは少しの間を置いて、小さく頷いた。
「さて、このオブ・・おぶびりりん・してい・・・を抜けるにはまだ時間が掛かりそうだな。」
「言えてないぞ、キジマ。オブリビオン・シティだ。」
先頭に立つキジマにカケルが突っ込む。
「私が案内するわ。広い街だけど、伊達に長年住んでないもの。」
ナナが案内役を買って出る。誰も異論は唱えなかった。
「”鍵が逃げた”・・・ユーガは一体どこへ・・・」
歩きながら、カケルは図らずも手に入れた情報について考えていた。
「なぁ、リンカ。ユーガはどこへ行ったんだろうな。」
「分からん。だが、マサカーの手から逃れた事は事実だろう。じゃなければ、デュエルを中断してまでジェイミーが帰る訳がない。」
神妙な顔でリンカは言葉を続けた。
「とにかく今は、このオブリビオン・シティを抜け、”赤の教会”に行くしかあるまい。それ以外に情報を掴む手は無いしな。」
「そうだな。」
頷くカケル。とにかく今は足を進めよう。それがユーガに近づく為にできることだ。
その決意と共に、カケルの一歩に力が入った。
しかし、その道のりは決して平坦ではない。この忘却都市は、ただで抜けさせてくれるほど甘くは無いのだった。
リンカは呟く。
「・・・しかし、今日は暑いな。」
次回第19話「清潔を手に入れろ!」
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