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05:別次元の力 作:ほーがん
第5話「別次元の力」
ユーガとリンカは新たな仲間、賞金稼ぎのカケルと共に次なる目的地『ダストポリタン』を目指していた。
「しっかしあれだな・・・・。」
歩きながらカケルが横目でリンカを見つめる。
「ん、なんだ?」
保存食の合成肉を頬張りながら、リンカは口を開く。
「お前、さっきから食ってばっかだな。」
「お前ではない。私はリンカだ。」
ユーガはカケルに言う。
「急がなければいけない。・・・このままでは命に関わる。」
軽くなったバックパックをカケルに見せるユーガ。そしてカケルと同じように、ユーガもリンカを見つめた。
「なんだ二人とも。言いたい事があるならはっきり言ったらどうだ。」
もぐもぐと口を動かしながら喋るリンカ。カケルはユーガの急ぐ理由を察したのか、納得したように頷いた。
「ああ、なるほど。これは一大事ってわけだな。」
キョトンとするリンカ。ユーガとカケルは前に向き直り、沈黙を守りながら歩くことにした。
太陽の光はすでに空の頂上へと登り、もし時計が残っていたなら正午あたりを指している時間だった。目の前に広がるのは瓦礫と僅かに形を残した廃墟たち。そして、儚くも健気に咲く足下の雑草。
カケルは手に持ったコンパスを確認しながら進む。街とは呼べど、それは瓦礫や廃墟の集合体にしか過ぎない。かつての街を記した地図は無意味に過ぎず、衛星を通したナビゲーションシステムなど、もはやロストテクノロジーだ。文明が滅びてしまったこの世界を旅をする上で、最も頼れるのは元々自然界に備わっているもの、”方角”だった。
「・・・」
沈黙の中、三人は歩く。聞こえるのは砂利を踏む足音と、後ろから響く咀嚼音。そして、空中を移動しながらヒューヒューと鳴く風の声だけだ。
新たなメンバーを迎えて旅を再開してから、ひたすらに歩いていた。目的地は地下街、ということは当然地上から見える場所ではない。単純に目的地が目に映らない、その事実はユーガを不安にさせていた。
「おい、カケル。まだなのか。」
カケルはコンパスから視線を移すことなく答える。
「まぁ、もう少し待てって。」
自信有り気なカケルの声を聞き、ユーガは渋々黙り込む。
「っはぁ。食べた食べた。やはり満腹になるまで食べる以上の幸せは無いな。」
そんなユーガを余所に、リンカは合成肉の最後の欠片を飲み込み、満足そうに言った。
「・・・。」
溜め息を付くユーガ。その時、前を歩くカケルが立ち止まる。
「おっ、来たか。おい二人とも、これを良く見てな。」
そう言ってカケルはコンパスを見せた。その針はいくら動かしても、一方向に固定されたまま動かない。
「なんだ、故障したのか。」
リンカの言葉にカケルはニヤリと笑う。
「まぁ、見てなって。」
その時。静止していた針は突然回転を始めた。狂ったように回り出したその針は、もはや肉眼で捉えられないほどのスピードに加速して行く。
「これは一体・・・。」
ユーガは呟く。カケルは二人に説明した。
「さっき言っただろ、ダストポリタンは元々軍事施設。侵入した敵を撹乱する為に、周辺の磁場を歪める装置が備わってるのさ。」
「つまり、これは・・・」
言いかけたユーガの代わりに、カケルは直下の地面を指差した。
「・・・そう、ダストポリタンはこの真下だ。」
三人の間を風が吹き抜ける。その時、リンカが疑問を口にした。
「で、入り口はどこだ。」
その言葉にカケルは沈黙する。
「・・・あー、ええと。」
「おい、カケル。」
ユーガは不安そうに言う。カケルは頭を抱えた。
「いや、前に来た事はあるんだけど、あっれ・・・前はどっから入ったっけ・・・?」
その様子を見たユーガはジトっとした目でカケルを見つめた。
「まさか、忘れたのか。」
溜め息を付いたリンカは肩を竦めながら言った。
「呆れた。案内すると言ったのは貴様だぞ、カケル。」
「ま、待って!今思い出すから・・・。」
頭を抱えたまま唸るカケル。リンカは近くの瓦礫にドサっと腰を降ろした。
「全く、無駄足になったな。どうするユー・・・」
その時。
「ん、なんだ・・・?」
リンカの座っている瓦礫が徐々に傾き始めた。
「どうしたリンカ。」
次の瞬間、リンカは腰を掛けていた瓦礫と共に突如として落下した。
「お、おいユーガ・・・!!」
ユーガが手を伸ばすより先にリンカの姿が消える。
「リンカ!!」
「こ、こいつは・・・」
カケルはリンカが落下した場所を見て言う。
「排気口の穴か・・・!上に被せられていた金網が腐食してやがる。あいつが上に乗ったことで千切れたのか・・・。」
ユーガはその穴に向かって叫ぶ。
「おい!リンカ!無事か!!」
暗い穴の中でユーガの声が反響する。しかし、返事はない。
「くっ・・・行くぞカケル。」
ユーガはその穴に片足を掛けた。
「こ、こっから入るのか?少なくとも前に来た時は、こんな所から入った覚えないぞ。」
ユーガは真剣な目でカケルに詰め寄る。
「俺はリンカと約束をした。決して食事では困らせないと。・・・俺には仲間との約束を果たす責務がある。お前も俺の仲間なら共に来て欲しい。」
「・・・分かった。まぁどっちみち入り口が見つかんねぇ以上、こっから入るしかねぇしな。」
覚悟を決めたカケルは排気口の縁に足を掛けた。
「行くぞ。」
「おう!」
そして二人は同時に排気口の中へ飛び降りた。
急降下する二人。落下しながらカケルが言う。
「おい、ユーガ!これどうやって着地するんだ!!」
「決まっている。来い!我が切り札!《アライブナイト・ジャックス・レイ》!」
ユーガはデッキからカードを取り出し、ディスクの上にセットした。その瞬間、二人の下に白銀の騎士が出現する。
「なるほど、まぁそれが一番だな!」
白銀の騎士は左腕で落下するユーガを抱える。ユーガは叫んだ。
「ジャックス・レイに掴まれ、カケル!」
「おうよ!」
カケルは白銀の騎士の首にしっかりと掴まった。
「頼む、ジャックス・レイ!」
その言葉に白銀の騎士は頷くと、排気口の壁にその剣を突き刺した。
「ぐっ・・・!」
二人の身体に衝撃が走る。凄まじい轟音と火花を散らしながら剣は壁に食い込んだ。
「間に合うか・・・。」
排気口の下に光が見え始めた。剣を支える騎士の右手が震える。壁を切り裂きながらも、落下は止まらない。
「頼むぜ、ジャックス・レイ!!」
カケルが叫ぶ。いよいよ着地点が見えて来た。カケルの声に応えるように騎士はより深く剣を突き刺した。それと同時に急激に落下速度が落ちる。
床面が目の前に迫る。瞬時に剣を壁から引き抜いた白銀の騎士は、その床面に思い切り剣を突き刺した。騎士が床に足を着けた衝撃が二人の身体に伝わる。
「ぐっ・・・間に合ったか。」
「はぁ・・・はぁ・・・すっげぇスリルだったぜ・・・。」
騎士は二人を降ろすと、剣を仕舞い込んだ。
「ありがとう、ジャックス・レイ。」
礼を口にしたユーガはディスクからカードを取り、デッキに仕舞った。それと同時にソリッドヴィジョンが消える。
カケルは衝撃によって舞った埃を払いながら、排気口の壁を見つめた。
「・・・ん、なんだこの傷。」
その声にユーガも壁を見た。その壁にはジャックス・レイが付けた傷の他に、獣が爪で引っ掻いたような跡があった。それを見たユーガは思う。
「これは・・・ナイトメアエッジの爪跡。なるほど、どうやらリンカも俺と同じ考えに至ったようだ。」
「どういうことだ?」
カケルの疑問にユーガが答える。
「つまり、リンカは無事だと言う事だ。」
それを聞いたカケルは安堵する。
「そうか・・・良かった。安心したぜ。」
「行こう。リンカはすぐ近くに居るはずだ。」
排気口から出る二人。そこから先には開けた場所が広がっていた。
「驚いた。これだけの人が集まる場所があるとは。」
それはユーガの予想以上だった。テーブルや床に布を広げ、様々な人々が商売を行っている。それ以外にもひしめくように大勢の人間が集まっていた。
「地上からじゃ想像できないだろ?これが、地下”街”と言われる所以さ。」
歩きながらユーガは物珍しそうに周りを見渡す。売られている物はカケルの言った通り、食料品や衣類など生活の根底を支える物が多いようだ。
「これだけの物品がこの世に残っていたとは・・・。」
カケルにも、表情を中々表に出さないユーガが高揚しているのが分かった。
「何も売ってるのはこれだけじゃないぜ。機械や乗り物の類いだって・・・」
言いかけたカケルの表情がこわばる。
「・・・それに、ああいうのだって売ってる場所さ。」
その視線の先。ユーガはそれを目で追いかけた。
そこに”あった”のは首に鎖を繋がれた幼い少女。みすぼらしい麻の布を身体に巻き、床の上に膝を抱え座っている。
「あれは・・・。」
カケルは苦い顔をしながら口を開く。
「この地下街じゃ人身売買なんて、何年も前から続く当たり前の商売だ。・・・奴隷は高く売れる。それが女なら尚更だ。」
言葉を口にしながらカケルの拳が震える。それは、彼の正義感が自身の無力さに震えているのだとユーガには分かった。
「・・・。」
ユーガは無言で歩き出すと、その少女に近づいた。
「お、おい。ユーガ。」
カケルは声を掛けたが、ユーガは足を止めなかった。
「・・・君、名前は。」
目線を合わせるようにしゃがみ込んだユーガは、その少女に問う。
「・・・。」
少女は敵を見る獣のようにユーガを睨む。その目はユーガにとって、かつての自分を彷彿とさせた。
「・・・17番。」
その時、少女が呟いた。
「自分・・・名前・・・17番・・・。」
途切れ途切れに単語を繋げる少女。ユーガは、それが少女にとっての精一杯の自己紹介だと気づいた。
「なんだ、こいつを買うのか。こいつはうちの目玉商品だ。若い女は貴重だからな、安くとは行かないぞ。」
その少女の持ち主なのだろう。隣に座る中年の男は、少女の首に繋いだ鎖を手に握りながら言った。それを聞いたユーガは男を睨みつけると、ディスクを展開しようとした。その時、後ろからカケルがユーガを抑える。
「おい、ユーガ。騒ぎを起こすな。・・・認めたくはないけど、これがこの街の常識なんだ。」
カケルに引っ張られ、奴隷商人から離れるユーガ。ユーガはカケルに向かって言った。
「常識だと。カケル、お前の正義はそんな物に屈服するのか。あれが人間のやる正しい事だとでも言うのか。」
その言葉はカケルの心に刺さる。
「・・・俺だってあんなの認めない。今すぐこの手でぶちのめしてやりたいさ。でも、俺一人の力じゃ出来ない事だってある。そうだろ、ユーガ?お前だって一人で戦えないと分かっているから、仲間を集めようとしてる、そうじゃないのか。」
それは正論だった。今あそこで暴れた所で何も変わらないのは明白な事実だ。
「・・・っ。」
無力だった。ユーガは歯を食いしばり、拳を固めた。
その時。
「な、なんだ?」
突如、前方から響いた爆発音。そして、叫び声が聞こえた。
「くたばれ!!《超強化恐竜ナイトメアエッジ・テリジノン》でダイレクトアタック!!!」
その声を聞いたユーガは、カケルに言う。
「あの声は・・・!行くぞ、カケル。」
走り出す二人。そして、その爆発の中心に探していた人物は居た。
「ふん・・・どうした・・・!!この程度か・・・下衆共が・・・!!」
そこに立っていたのは、三人の男を打ち倒したリンカの姿だった。
「リンカ、無事か。」
ユーガの声にリンカは気づく。
「・・・ユーガ、カケル。遅かったな。」
その様子を見たカケルはリンカに問う。
「おい、こいつは一体何があった?」
リンカは展開したディスクを仕舞いながら二人に歩み寄った。
「あの男達が突然襲って来た。どうやら、私を奴隷として売る為に捕まえようとしたらしいな。・・・まるで手応えの無い雑魚共だったが。」
その言葉に、ユーガは倒れた男達を睨む。
「・・・そうか。まぁ、無事なら良かった。見た所、怪我もないようだな。」
リンカは不敵に笑う。
「私を誰だと思っている。お前を残り100ポイントまで追いつめた女だぞ。」
それを聞き、ユーガは安堵の溜め息を付いた。
しかし、その時。
「ほう、元気な女じゃないか。ますます欲しくなる。」
三人の前方から声が響く。リンカは声の方向へ叫んだ。
「なんだ!!また私に砕かれに来たか!!」
闇の中から、その声の主は姿を表す。周りで見ていた野次馬達は商人も含め、その姿が目に入ると怯えるように逃げ出した。
「いいねぇ。その叫び。中々高く売れそうだな。」
卑しい笑みを浮かべたその男は、ゆっくりとリンカに近づく。ユーガはリンカを後ろに下げ、男の前に出た。
「なんだ?男は買い手が付きにくいからな、用は無いぞ?」
透かさずユーガは返す。
「俺には用がある。貴様、何者だ。リンカをどうするつもりだ。」
男は笑って答える。
「俺か?俺はこのダストポリタンで商売をする奴隷商人の元締め、カポネだ。いいか、小僧。女ってのは生まれた時から売り物なんだ。男の玩具だ。それが若けりゃ尚更な。」
それを聞いたリンカが呟く。
「くたばれ下衆が・・・私は売り物ではない。」
ユーガが叫ぶ。
「リンカは渡さない!!貴様はここで俺が打ち砕く・・・!!!」
それを聞いた男は、周りに倒れているリンカに倒された商人たちを見て言った。
「ふっ、どうやら俺の下僕どもが世話になったみたいだな。いいだろう、この街の常識(ルール)ってのを教えてやる。小僧。お前が負けたその時は、二度と日の光を拝めないと思え。」
ディスクを構えるユーガ。臨戦態勢に入ったユーガにカケルは言う。
「おい、ユーガ!俺も一緒に戦うぜ!」
しかし、ユーガはカケルの方を振り向き言った。
「いや、カケルはリンカを頼む。口では強がっていても、連戦でかなり疲弊しているはずだ。」
リンカが小さくぼやく。
「見くびるな、ユーガ。だが・・・今はお前に預ける。」
カケルはユーガの目を見て頷いた。
「わかった。任せとけ。」
目の前の男、カポネは言い放った。
「さぁ、始めようか。小僧。自分がどれだけ小さい存在か、思い知るがいい。」
ユーガはカポネの方へ向き直る。そして、両者は叫んだ。
『デュエル!!(LP4000 VS LP4000)』
カポネはユーガに向かって言った。
「手札とは全ての資本。ドローの無い先攻は取らない主義だ。さぁ、小僧。始めるがいい。」
それを聞いたユーガは手札のカードを取り出す。
「・・・俺は手札から《アライブナイト・ギミー(☆3/光/戦士/1500・600》を召喚。」
ユーガの場に、身体に見合わない大きな甲冑を被った幼い剣士が現れる。
「そして、カードを2枚セット。ターンエンドだ。」
ターンが周り、カポネはディスクのデッキへ手を伸ばした。
「それで終わりか。大見得切った割には大した事ないなぁ。俺のターン、ドロー!俺は手札から《古代の機械獣戦士(☆4/地/機械/1600・1100)》を召喚!」
カポネの場に古の機械で構成された獣戦士が出現した。
「この瞬間、《古代の機械獣戦士》の効果発動!このカードの召喚に成功した時、デッキからレベル4以下の「アンティーク・ギア」1体を手札に加える!!」
デッキから迫り出したカードをカポネは見せつけた。
「俺はデッキから《古代の機械箱(☆4/地/機械/500・2000)》を手札に加える!そして、加わった《古代の機械箱》の効果発動!このカードがカード効果でデッキ・墓地から手札に加わった時、デッキから機械族・地属性の攻撃力または守備力が500のモンスターを追加で手札に加える!!」
場に機械仕掛けの箱が出現し、その中からカードを取り出す。
「俺は守備力500の《古代の機械騎士(☆4/地/機械/デュアル/1800・500)》を手札に加える!!そして俺はこのカードを発動させてもらう!!」
カポネは手札のカードをユーガに見せつけた。
「魔法カード《パワー・ボンド》・・・!!」
それを見たカケルが口を開く。
「あのカードは・・・まずい!!」
カポネは高らかに言う。
「このカードの効果により、俺は機械族の融合モンスターを融合召喚する!!手札の《古代の機械箱》と《古代の機械騎士》を融合!!」
手札より出でた2体のモンスターは、渦巻く闇の中へ溶け込んだ。
「古の力秘めし機械仕掛けの箱よ!歯車の身体持つ騎士よ!強大なる力うずまく闇に溶け込み、その姿を変えよ!!融合召喚!!」
そして、その闇のを突き破るようにそのモンスターは現れる。
「出でよ!!レベル8!!《古代の機械超兵士(☆8/地/機械/融合/2600・2600)》!!!」
両腕に機関銃を備えた超兵士は、不気味に光る瞳でユーガを見下ろした。
「融合モンスターか・・・。」
カポネは笑いながら言った。
「こいつは「アンティーク・ギア」2体を素材として融合召喚できるモンスターだ!!そして、《パワー・ボンド》の効果!!この効果で融合召喚した機械族モンスターは・・・」
その言葉に続けるようにカケルが呟く。
「攻撃力が倍になる・・・!」
古の超兵士は魔法の力を受け、凄まじいエネルギーを放ち始める。
「ふはははっ!!これで《古代の機械超兵士》の攻撃力は5200だぁ!!(ATK2600→5200)」
ユーガは超兵士を睨んだ。
「・・・」
リンカはカポネの場を見て言う。
「これで、奴のフィールドのモンスターの攻撃力の合計は6800。ユーガのモンスターでは耐えきれない・・・。」
カポネは叫んだ。
「小僧、教えてやろう!世の中とは強き者が全てを手に入れる!地位も名誉も財産も!弱い奴は這いつくばり、強い者にすがって生きるしかない!そう、奴隷としてな!!女ってのは弱い者の筆頭だ!!奴隷として生き、奴隷として死んで行く!!それこそが世の必然!!この街の常識(ルール)!!」
その叫びに対し、ユーガは静かに言う。
「喋る暇があるならば、さっさと進めたらどうだ、木偶。」
それを聞いたカポネは、気に食わないといった顔で言い放った。
「ちっ、バトルだ!!その鼻へし折ってやる!!《古代の機械獣戦士》で《アライブナイト・ギミー》を攻撃!!」
機械の獣戦士はサーベルを構えると、騎士の方へ飛び出した。そして、振り下ろされたサーベルに騎士の甲冑が砕かれる。
「・・・(LP4000→3900)破壊された《アライブナイト・ギミー》の効果発動。このカードが戦闘・効果で破壊された時、デッキからレベル4以下の「アライブナイト」を特殊召喚できる。俺は《アライブナイト・ケリウス(☆4/光/戦士/800・2100)》を守備表示で特殊召喚。」
ユーガの場に盾持ちの騎士が膝を付く。
「だからどうしたぁ!!《古代の機械超兵士》で《アライブナイト・ケリウス》を攻撃!!」
超兵士は腕の機銃を構えると、盾持ちの騎士に照準を合わせた。
「このモンスターが攻撃する時、相手はバトル終了まで魔法・罠カードを発動できない!!喰らえ!!」
掃射される無数の弾丸。その弾丸は騎士の盾を無惨に蜂の巣へと変えて行く。
「さらに!!《古代の機械超兵士》は守備表示モンスターを攻撃した場合、相手に貫通ダメージを与える!!」
打ち込まれた弾丸が爆発し、その爆風がユーガを襲う。
「・・・っ。(LP3900→LP800)」
ユーガは膝を付いた。リンカは心配そうに言う。
「ユーガ、大丈夫か。しっかりしろ。」
その声を聞き、ユーガはふらつきながらも立ち上がる。
「ああ・・・大丈夫だ。」
カポネは笑う。
「ふん。仕留め損なったが、まあいい。これで小僧のライフは800。風前の灯火ってやつだ。俺はカードを1枚セット。ターンエンドだ。」
カポネのターンが終わる。その時、カケルは怪訝な顔をして言った。
「なんでだ!《パワー・ボンド》の制約が発生しないだと!」
それを耳にしたカポネは答えた。
「ああ、忘れてたな。《パワー・ボンド》は使ったターンの終わりに、その融合モンスターの元々の攻撃力分のダメージを受ける制約がある。だが、そんな制約は踏み倒させてもらった!《古代の機械超兵士》がいる限り、自分が受ける魔法効果によるダメージは0になる!」
リンカはカポネを睨んだ。
「これで奴は《パワー・ボンド》による約束事を無視できるということか。私との約束を守るユーガとは正反対だな・・・。」
ユーガはデッキに手を伸ばした。
「俺のターン、ドロー。」
引いたカードを見たユーガは、そのカードをディスクに置いた。
「俺は手札からチューナーモンスター《アライブナイト・エリー(☆/光/戦士/チューナー/1000・1000)》を召喚。」
そのモンスターを見たカポネがニヤリと笑う。
「(チューナーか・・・なるほどな。)」
少女の騎士が登場すると共に、ユーガの墓地が光る。
「この瞬間、《アライブナイト・エリー》の効果発動。召喚成功時、墓地よりレベル4以下の「アライブナイト」を特殊召喚できる。蘇れ、《アライブナイト・ケリウス》。」
場に短剣で穴を開ける少女の騎士。その穴より、墓地の仲間が復活し守備表示で場に降りた。
「俺はレベル4の《アライブナイト・ケリウス》に・・・」
ユーガが言いかけたその時、カポネは高笑いしながら叫んだ。
「ふはははっ!!待ってたぜ、この時を!!罠カード発動、《グリザイユの牢獄》!!!」
カポネの場でカードが開く。それを見たユーガの動きが止まる。
「このカードは自分フィールドにアドバンス召喚、儀式召喚、融合召喚、いずれかの方法で召喚したモンスターが居る場合に発動できる!!お互いに、次の相手ターン終了時までシンクロ・エクシーズ召喚をする事はできず、フィールドのシンクロ・エクシーズモンスターは効果が無効となり攻撃できない!!」
ユーガは苦しい顔でその罠を睨んだ。その額に汗が伝う。
「あっははは!!その顔は傑作だな!!相手のやろうとした事を潰し、チャンスを奪う!!これほど気持ちのいいことはない!!」
カケルの額にも同じように汗が伝った。
「おい、これはかなりやべぇんじゃねぇか・・・?」
手札とフィールドを確認する。もはや、このターンに出来る事は無かった。ユーガは震える声で言う。
「・・・ターン、エンドだ。」
カポネは意気揚々とデッキに手を伸ばした。
「さぁ、仕入れの時だ!!俺のターン!!」
勢いよく引かれるカード。そのカードを見たカポネはニヤリと笑う。
「・・・ほう、そうか。試してみるのも悪くないなぁ・・・!!」
その様子にユーガは身構える。
「何が来る・・・。」
そして。カポネは手札から2枚のカードを取り出し、それを見せつけた。
「俺は!!スケール2の《古代の機械商人(☆2/地/機械/ペンデュラム/500・1000)》とスケール9の《古代の機械大蛇(☆7/地/機械/ペンデュラム/0・2700)》でペンデュラムスケールをセッティング!!!」
地下街の広場に、二本の光の柱が浮かび上がる。それを見たユーガは驚愕した。
「こ、これは・・・!!」
その時。突如として蘇る記憶。失われたヴィジョン。
『れは・・・スケール・・・・イレイズマサカー・・・・ペンデュラム・・・セッティング・・・』
ユーガはカポネを強く睨みつけた。歯を食いしばる口元から唸る声が漏れる。
「・・・ううぅぅうう・・・!!許さない・・・ペンデュラム・・・!!!」
そんなユーガを余所にカポネは高揚した声で言う。
「これでレベル3から8までのモンスターが同時に召喚可能となった!!見せてやる、世界を滅ぼした最強の召喚法を・・・!!ペンデュラム召喚!!!」
光の柱から飛び出るモンスター達。それと同時にユーガの怒号が谺する。
「うあああっ!!!俺は・・・・許さない!!!ペンデュラムゥゥゥ!!!」
次回 第6話「その時、何が起こったのか。」
ユーガとリンカは新たな仲間、賞金稼ぎのカケルと共に次なる目的地『ダストポリタン』を目指していた。
「しっかしあれだな・・・・。」
歩きながらカケルが横目でリンカを見つめる。
「ん、なんだ?」
保存食の合成肉を頬張りながら、リンカは口を開く。
「お前、さっきから食ってばっかだな。」
「お前ではない。私はリンカだ。」
ユーガはカケルに言う。
「急がなければいけない。・・・このままでは命に関わる。」
軽くなったバックパックをカケルに見せるユーガ。そしてカケルと同じように、ユーガもリンカを見つめた。
「なんだ二人とも。言いたい事があるならはっきり言ったらどうだ。」
もぐもぐと口を動かしながら喋るリンカ。カケルはユーガの急ぐ理由を察したのか、納得したように頷いた。
「ああ、なるほど。これは一大事ってわけだな。」
キョトンとするリンカ。ユーガとカケルは前に向き直り、沈黙を守りながら歩くことにした。
太陽の光はすでに空の頂上へと登り、もし時計が残っていたなら正午あたりを指している時間だった。目の前に広がるのは瓦礫と僅かに形を残した廃墟たち。そして、儚くも健気に咲く足下の雑草。
カケルは手に持ったコンパスを確認しながら進む。街とは呼べど、それは瓦礫や廃墟の集合体にしか過ぎない。かつての街を記した地図は無意味に過ぎず、衛星を通したナビゲーションシステムなど、もはやロストテクノロジーだ。文明が滅びてしまったこの世界を旅をする上で、最も頼れるのは元々自然界に備わっているもの、”方角”だった。
「・・・」
沈黙の中、三人は歩く。聞こえるのは砂利を踏む足音と、後ろから響く咀嚼音。そして、空中を移動しながらヒューヒューと鳴く風の声だけだ。
新たなメンバーを迎えて旅を再開してから、ひたすらに歩いていた。目的地は地下街、ということは当然地上から見える場所ではない。単純に目的地が目に映らない、その事実はユーガを不安にさせていた。
「おい、カケル。まだなのか。」
カケルはコンパスから視線を移すことなく答える。
「まぁ、もう少し待てって。」
自信有り気なカケルの声を聞き、ユーガは渋々黙り込む。
「っはぁ。食べた食べた。やはり満腹になるまで食べる以上の幸せは無いな。」
そんなユーガを余所に、リンカは合成肉の最後の欠片を飲み込み、満足そうに言った。
「・・・。」
溜め息を付くユーガ。その時、前を歩くカケルが立ち止まる。
「おっ、来たか。おい二人とも、これを良く見てな。」
そう言ってカケルはコンパスを見せた。その針はいくら動かしても、一方向に固定されたまま動かない。
「なんだ、故障したのか。」
リンカの言葉にカケルはニヤリと笑う。
「まぁ、見てなって。」
その時。静止していた針は突然回転を始めた。狂ったように回り出したその針は、もはや肉眼で捉えられないほどのスピードに加速して行く。
「これは一体・・・。」
ユーガは呟く。カケルは二人に説明した。
「さっき言っただろ、ダストポリタンは元々軍事施設。侵入した敵を撹乱する為に、周辺の磁場を歪める装置が備わってるのさ。」
「つまり、これは・・・」
言いかけたユーガの代わりに、カケルは直下の地面を指差した。
「・・・そう、ダストポリタンはこの真下だ。」
三人の間を風が吹き抜ける。その時、リンカが疑問を口にした。
「で、入り口はどこだ。」
その言葉にカケルは沈黙する。
「・・・あー、ええと。」
「おい、カケル。」
ユーガは不安そうに言う。カケルは頭を抱えた。
「いや、前に来た事はあるんだけど、あっれ・・・前はどっから入ったっけ・・・?」
その様子を見たユーガはジトっとした目でカケルを見つめた。
「まさか、忘れたのか。」
溜め息を付いたリンカは肩を竦めながら言った。
「呆れた。案内すると言ったのは貴様だぞ、カケル。」
「ま、待って!今思い出すから・・・。」
頭を抱えたまま唸るカケル。リンカは近くの瓦礫にドサっと腰を降ろした。
「全く、無駄足になったな。どうするユー・・・」
その時。
「ん、なんだ・・・?」
リンカの座っている瓦礫が徐々に傾き始めた。
「どうしたリンカ。」
次の瞬間、リンカは腰を掛けていた瓦礫と共に突如として落下した。
「お、おいユーガ・・・!!」
ユーガが手を伸ばすより先にリンカの姿が消える。
「リンカ!!」
「こ、こいつは・・・」
カケルはリンカが落下した場所を見て言う。
「排気口の穴か・・・!上に被せられていた金網が腐食してやがる。あいつが上に乗ったことで千切れたのか・・・。」
ユーガはその穴に向かって叫ぶ。
「おい!リンカ!無事か!!」
暗い穴の中でユーガの声が反響する。しかし、返事はない。
「くっ・・・行くぞカケル。」
ユーガはその穴に片足を掛けた。
「こ、こっから入るのか?少なくとも前に来た時は、こんな所から入った覚えないぞ。」
ユーガは真剣な目でカケルに詰め寄る。
「俺はリンカと約束をした。決して食事では困らせないと。・・・俺には仲間との約束を果たす責務がある。お前も俺の仲間なら共に来て欲しい。」
「・・・分かった。まぁどっちみち入り口が見つかんねぇ以上、こっから入るしかねぇしな。」
覚悟を決めたカケルは排気口の縁に足を掛けた。
「行くぞ。」
「おう!」
そして二人は同時に排気口の中へ飛び降りた。
急降下する二人。落下しながらカケルが言う。
「おい、ユーガ!これどうやって着地するんだ!!」
「決まっている。来い!我が切り札!《アライブナイト・ジャックス・レイ》!」
ユーガはデッキからカードを取り出し、ディスクの上にセットした。その瞬間、二人の下に白銀の騎士が出現する。
「なるほど、まぁそれが一番だな!」
白銀の騎士は左腕で落下するユーガを抱える。ユーガは叫んだ。
「ジャックス・レイに掴まれ、カケル!」
「おうよ!」
カケルは白銀の騎士の首にしっかりと掴まった。
「頼む、ジャックス・レイ!」
その言葉に白銀の騎士は頷くと、排気口の壁にその剣を突き刺した。
「ぐっ・・・!」
二人の身体に衝撃が走る。凄まじい轟音と火花を散らしながら剣は壁に食い込んだ。
「間に合うか・・・。」
排気口の下に光が見え始めた。剣を支える騎士の右手が震える。壁を切り裂きながらも、落下は止まらない。
「頼むぜ、ジャックス・レイ!!」
カケルが叫ぶ。いよいよ着地点が見えて来た。カケルの声に応えるように騎士はより深く剣を突き刺した。それと同時に急激に落下速度が落ちる。
床面が目の前に迫る。瞬時に剣を壁から引き抜いた白銀の騎士は、その床面に思い切り剣を突き刺した。騎士が床に足を着けた衝撃が二人の身体に伝わる。
「ぐっ・・・間に合ったか。」
「はぁ・・・はぁ・・・すっげぇスリルだったぜ・・・。」
騎士は二人を降ろすと、剣を仕舞い込んだ。
「ありがとう、ジャックス・レイ。」
礼を口にしたユーガはディスクからカードを取り、デッキに仕舞った。それと同時にソリッドヴィジョンが消える。
カケルは衝撃によって舞った埃を払いながら、排気口の壁を見つめた。
「・・・ん、なんだこの傷。」
その声にユーガも壁を見た。その壁にはジャックス・レイが付けた傷の他に、獣が爪で引っ掻いたような跡があった。それを見たユーガは思う。
「これは・・・ナイトメアエッジの爪跡。なるほど、どうやらリンカも俺と同じ考えに至ったようだ。」
「どういうことだ?」
カケルの疑問にユーガが答える。
「つまり、リンカは無事だと言う事だ。」
それを聞いたカケルは安堵する。
「そうか・・・良かった。安心したぜ。」
「行こう。リンカはすぐ近くに居るはずだ。」
排気口から出る二人。そこから先には開けた場所が広がっていた。
「驚いた。これだけの人が集まる場所があるとは。」
それはユーガの予想以上だった。テーブルや床に布を広げ、様々な人々が商売を行っている。それ以外にもひしめくように大勢の人間が集まっていた。
「地上からじゃ想像できないだろ?これが、地下”街”と言われる所以さ。」
歩きながらユーガは物珍しそうに周りを見渡す。売られている物はカケルの言った通り、食料品や衣類など生活の根底を支える物が多いようだ。
「これだけの物品がこの世に残っていたとは・・・。」
カケルにも、表情を中々表に出さないユーガが高揚しているのが分かった。
「何も売ってるのはこれだけじゃないぜ。機械や乗り物の類いだって・・・」
言いかけたカケルの表情がこわばる。
「・・・それに、ああいうのだって売ってる場所さ。」
その視線の先。ユーガはそれを目で追いかけた。
そこに”あった”のは首に鎖を繋がれた幼い少女。みすぼらしい麻の布を身体に巻き、床の上に膝を抱え座っている。
「あれは・・・。」
カケルは苦い顔をしながら口を開く。
「この地下街じゃ人身売買なんて、何年も前から続く当たり前の商売だ。・・・奴隷は高く売れる。それが女なら尚更だ。」
言葉を口にしながらカケルの拳が震える。それは、彼の正義感が自身の無力さに震えているのだとユーガには分かった。
「・・・。」
ユーガは無言で歩き出すと、その少女に近づいた。
「お、おい。ユーガ。」
カケルは声を掛けたが、ユーガは足を止めなかった。
「・・・君、名前は。」
目線を合わせるようにしゃがみ込んだユーガは、その少女に問う。
「・・・。」
少女は敵を見る獣のようにユーガを睨む。その目はユーガにとって、かつての自分を彷彿とさせた。
「・・・17番。」
その時、少女が呟いた。
「自分・・・名前・・・17番・・・。」
途切れ途切れに単語を繋げる少女。ユーガは、それが少女にとっての精一杯の自己紹介だと気づいた。
「なんだ、こいつを買うのか。こいつはうちの目玉商品だ。若い女は貴重だからな、安くとは行かないぞ。」
その少女の持ち主なのだろう。隣に座る中年の男は、少女の首に繋いだ鎖を手に握りながら言った。それを聞いたユーガは男を睨みつけると、ディスクを展開しようとした。その時、後ろからカケルがユーガを抑える。
「おい、ユーガ。騒ぎを起こすな。・・・認めたくはないけど、これがこの街の常識なんだ。」
カケルに引っ張られ、奴隷商人から離れるユーガ。ユーガはカケルに向かって言った。
「常識だと。カケル、お前の正義はそんな物に屈服するのか。あれが人間のやる正しい事だとでも言うのか。」
その言葉はカケルの心に刺さる。
「・・・俺だってあんなの認めない。今すぐこの手でぶちのめしてやりたいさ。でも、俺一人の力じゃ出来ない事だってある。そうだろ、ユーガ?お前だって一人で戦えないと分かっているから、仲間を集めようとしてる、そうじゃないのか。」
それは正論だった。今あそこで暴れた所で何も変わらないのは明白な事実だ。
「・・・っ。」
無力だった。ユーガは歯を食いしばり、拳を固めた。
その時。
「な、なんだ?」
突如、前方から響いた爆発音。そして、叫び声が聞こえた。
「くたばれ!!《超強化恐竜ナイトメアエッジ・テリジノン》でダイレクトアタック!!!」
その声を聞いたユーガは、カケルに言う。
「あの声は・・・!行くぞ、カケル。」
走り出す二人。そして、その爆発の中心に探していた人物は居た。
「ふん・・・どうした・・・!!この程度か・・・下衆共が・・・!!」
そこに立っていたのは、三人の男を打ち倒したリンカの姿だった。
「リンカ、無事か。」
ユーガの声にリンカは気づく。
「・・・ユーガ、カケル。遅かったな。」
その様子を見たカケルはリンカに問う。
「おい、こいつは一体何があった?」
リンカは展開したディスクを仕舞いながら二人に歩み寄った。
「あの男達が突然襲って来た。どうやら、私を奴隷として売る為に捕まえようとしたらしいな。・・・まるで手応えの無い雑魚共だったが。」
その言葉に、ユーガは倒れた男達を睨む。
「・・・そうか。まぁ、無事なら良かった。見た所、怪我もないようだな。」
リンカは不敵に笑う。
「私を誰だと思っている。お前を残り100ポイントまで追いつめた女だぞ。」
それを聞き、ユーガは安堵の溜め息を付いた。
しかし、その時。
「ほう、元気な女じゃないか。ますます欲しくなる。」
三人の前方から声が響く。リンカは声の方向へ叫んだ。
「なんだ!!また私に砕かれに来たか!!」
闇の中から、その声の主は姿を表す。周りで見ていた野次馬達は商人も含め、その姿が目に入ると怯えるように逃げ出した。
「いいねぇ。その叫び。中々高く売れそうだな。」
卑しい笑みを浮かべたその男は、ゆっくりとリンカに近づく。ユーガはリンカを後ろに下げ、男の前に出た。
「なんだ?男は買い手が付きにくいからな、用は無いぞ?」
透かさずユーガは返す。
「俺には用がある。貴様、何者だ。リンカをどうするつもりだ。」
男は笑って答える。
「俺か?俺はこのダストポリタンで商売をする奴隷商人の元締め、カポネだ。いいか、小僧。女ってのは生まれた時から売り物なんだ。男の玩具だ。それが若けりゃ尚更な。」
それを聞いたリンカが呟く。
「くたばれ下衆が・・・私は売り物ではない。」
ユーガが叫ぶ。
「リンカは渡さない!!貴様はここで俺が打ち砕く・・・!!!」
それを聞いた男は、周りに倒れているリンカに倒された商人たちを見て言った。
「ふっ、どうやら俺の下僕どもが世話になったみたいだな。いいだろう、この街の常識(ルール)ってのを教えてやる。小僧。お前が負けたその時は、二度と日の光を拝めないと思え。」
ディスクを構えるユーガ。臨戦態勢に入ったユーガにカケルは言う。
「おい、ユーガ!俺も一緒に戦うぜ!」
しかし、ユーガはカケルの方を振り向き言った。
「いや、カケルはリンカを頼む。口では強がっていても、連戦でかなり疲弊しているはずだ。」
リンカが小さくぼやく。
「見くびるな、ユーガ。だが・・・今はお前に預ける。」
カケルはユーガの目を見て頷いた。
「わかった。任せとけ。」
目の前の男、カポネは言い放った。
「さぁ、始めようか。小僧。自分がどれだけ小さい存在か、思い知るがいい。」
ユーガはカポネの方へ向き直る。そして、両者は叫んだ。
『デュエル!!(LP4000 VS LP4000)』
カポネはユーガに向かって言った。
「手札とは全ての資本。ドローの無い先攻は取らない主義だ。さぁ、小僧。始めるがいい。」
それを聞いたユーガは手札のカードを取り出す。
「・・・俺は手札から《アライブナイト・ギミー(☆3/光/戦士/1500・600》を召喚。」
ユーガの場に、身体に見合わない大きな甲冑を被った幼い剣士が現れる。
「そして、カードを2枚セット。ターンエンドだ。」
ターンが周り、カポネはディスクのデッキへ手を伸ばした。
「それで終わりか。大見得切った割には大した事ないなぁ。俺のターン、ドロー!俺は手札から《古代の機械獣戦士(☆4/地/機械/1600・1100)》を召喚!」
カポネの場に古の機械で構成された獣戦士が出現した。
「この瞬間、《古代の機械獣戦士》の効果発動!このカードの召喚に成功した時、デッキからレベル4以下の「アンティーク・ギア」1体を手札に加える!!」
デッキから迫り出したカードをカポネは見せつけた。
「俺はデッキから《古代の機械箱(☆4/地/機械/500・2000)》を手札に加える!そして、加わった《古代の機械箱》の効果発動!このカードがカード効果でデッキ・墓地から手札に加わった時、デッキから機械族・地属性の攻撃力または守備力が500のモンスターを追加で手札に加える!!」
場に機械仕掛けの箱が出現し、その中からカードを取り出す。
「俺は守備力500の《古代の機械騎士(☆4/地/機械/デュアル/1800・500)》を手札に加える!!そして俺はこのカードを発動させてもらう!!」
カポネは手札のカードをユーガに見せつけた。
「魔法カード《パワー・ボンド》・・・!!」
それを見たカケルが口を開く。
「あのカードは・・・まずい!!」
カポネは高らかに言う。
「このカードの効果により、俺は機械族の融合モンスターを融合召喚する!!手札の《古代の機械箱》と《古代の機械騎士》を融合!!」
手札より出でた2体のモンスターは、渦巻く闇の中へ溶け込んだ。
「古の力秘めし機械仕掛けの箱よ!歯車の身体持つ騎士よ!強大なる力うずまく闇に溶け込み、その姿を変えよ!!融合召喚!!」
そして、その闇のを突き破るようにそのモンスターは現れる。
「出でよ!!レベル8!!《古代の機械超兵士(☆8/地/機械/融合/2600・2600)》!!!」
両腕に機関銃を備えた超兵士は、不気味に光る瞳でユーガを見下ろした。
「融合モンスターか・・・。」
カポネは笑いながら言った。
「こいつは「アンティーク・ギア」2体を素材として融合召喚できるモンスターだ!!そして、《パワー・ボンド》の効果!!この効果で融合召喚した機械族モンスターは・・・」
その言葉に続けるようにカケルが呟く。
「攻撃力が倍になる・・・!」
古の超兵士は魔法の力を受け、凄まじいエネルギーを放ち始める。
「ふはははっ!!これで《古代の機械超兵士》の攻撃力は5200だぁ!!(ATK2600→5200)」
ユーガは超兵士を睨んだ。
「・・・」
リンカはカポネの場を見て言う。
「これで、奴のフィールドのモンスターの攻撃力の合計は6800。ユーガのモンスターでは耐えきれない・・・。」
カポネは叫んだ。
「小僧、教えてやろう!世の中とは強き者が全てを手に入れる!地位も名誉も財産も!弱い奴は這いつくばり、強い者にすがって生きるしかない!そう、奴隷としてな!!女ってのは弱い者の筆頭だ!!奴隷として生き、奴隷として死んで行く!!それこそが世の必然!!この街の常識(ルール)!!」
その叫びに対し、ユーガは静かに言う。
「喋る暇があるならば、さっさと進めたらどうだ、木偶。」
それを聞いたカポネは、気に食わないといった顔で言い放った。
「ちっ、バトルだ!!その鼻へし折ってやる!!《古代の機械獣戦士》で《アライブナイト・ギミー》を攻撃!!」
機械の獣戦士はサーベルを構えると、騎士の方へ飛び出した。そして、振り下ろされたサーベルに騎士の甲冑が砕かれる。
「・・・(LP4000→3900)破壊された《アライブナイト・ギミー》の効果発動。このカードが戦闘・効果で破壊された時、デッキからレベル4以下の「アライブナイト」を特殊召喚できる。俺は《アライブナイト・ケリウス(☆4/光/戦士/800・2100)》を守備表示で特殊召喚。」
ユーガの場に盾持ちの騎士が膝を付く。
「だからどうしたぁ!!《古代の機械超兵士》で《アライブナイト・ケリウス》を攻撃!!」
超兵士は腕の機銃を構えると、盾持ちの騎士に照準を合わせた。
「このモンスターが攻撃する時、相手はバトル終了まで魔法・罠カードを発動できない!!喰らえ!!」
掃射される無数の弾丸。その弾丸は騎士の盾を無惨に蜂の巣へと変えて行く。
「さらに!!《古代の機械超兵士》は守備表示モンスターを攻撃した場合、相手に貫通ダメージを与える!!」
打ち込まれた弾丸が爆発し、その爆風がユーガを襲う。
「・・・っ。(LP3900→LP800)」
ユーガは膝を付いた。リンカは心配そうに言う。
「ユーガ、大丈夫か。しっかりしろ。」
その声を聞き、ユーガはふらつきながらも立ち上がる。
「ああ・・・大丈夫だ。」
カポネは笑う。
「ふん。仕留め損なったが、まあいい。これで小僧のライフは800。風前の灯火ってやつだ。俺はカードを1枚セット。ターンエンドだ。」
カポネのターンが終わる。その時、カケルは怪訝な顔をして言った。
「なんでだ!《パワー・ボンド》の制約が発生しないだと!」
それを耳にしたカポネは答えた。
「ああ、忘れてたな。《パワー・ボンド》は使ったターンの終わりに、その融合モンスターの元々の攻撃力分のダメージを受ける制約がある。だが、そんな制約は踏み倒させてもらった!《古代の機械超兵士》がいる限り、自分が受ける魔法効果によるダメージは0になる!」
リンカはカポネを睨んだ。
「これで奴は《パワー・ボンド》による約束事を無視できるということか。私との約束を守るユーガとは正反対だな・・・。」
ユーガはデッキに手を伸ばした。
「俺のターン、ドロー。」
引いたカードを見たユーガは、そのカードをディスクに置いた。
「俺は手札からチューナーモンスター《アライブナイト・エリー(☆/光/戦士/チューナー/1000・1000)》を召喚。」
そのモンスターを見たカポネがニヤリと笑う。
「(チューナーか・・・なるほどな。)」
少女の騎士が登場すると共に、ユーガの墓地が光る。
「この瞬間、《アライブナイト・エリー》の効果発動。召喚成功時、墓地よりレベル4以下の「アライブナイト」を特殊召喚できる。蘇れ、《アライブナイト・ケリウス》。」
場に短剣で穴を開ける少女の騎士。その穴より、墓地の仲間が復活し守備表示で場に降りた。
「俺はレベル4の《アライブナイト・ケリウス》に・・・」
ユーガが言いかけたその時、カポネは高笑いしながら叫んだ。
「ふはははっ!!待ってたぜ、この時を!!罠カード発動、《グリザイユの牢獄》!!!」
カポネの場でカードが開く。それを見たユーガの動きが止まる。
「このカードは自分フィールドにアドバンス召喚、儀式召喚、融合召喚、いずれかの方法で召喚したモンスターが居る場合に発動できる!!お互いに、次の相手ターン終了時までシンクロ・エクシーズ召喚をする事はできず、フィールドのシンクロ・エクシーズモンスターは効果が無効となり攻撃できない!!」
ユーガは苦しい顔でその罠を睨んだ。その額に汗が伝う。
「あっははは!!その顔は傑作だな!!相手のやろうとした事を潰し、チャンスを奪う!!これほど気持ちのいいことはない!!」
カケルの額にも同じように汗が伝った。
「おい、これはかなりやべぇんじゃねぇか・・・?」
手札とフィールドを確認する。もはや、このターンに出来る事は無かった。ユーガは震える声で言う。
「・・・ターン、エンドだ。」
カポネは意気揚々とデッキに手を伸ばした。
「さぁ、仕入れの時だ!!俺のターン!!」
勢いよく引かれるカード。そのカードを見たカポネはニヤリと笑う。
「・・・ほう、そうか。試してみるのも悪くないなぁ・・・!!」
その様子にユーガは身構える。
「何が来る・・・。」
そして。カポネは手札から2枚のカードを取り出し、それを見せつけた。
「俺は!!スケール2の《古代の機械商人(☆2/地/機械/ペンデュラム/500・1000)》とスケール9の《古代の機械大蛇(☆7/地/機械/ペンデュラム/0・2700)》でペンデュラムスケールをセッティング!!!」
地下街の広場に、二本の光の柱が浮かび上がる。それを見たユーガは驚愕した。
「こ、これは・・・!!」
その時。突如として蘇る記憶。失われたヴィジョン。
『れは・・・スケール・・・・イレイズマサカー・・・・ペンデュラム・・・セッティング・・・』
ユーガはカポネを強く睨みつけた。歯を食いしばる口元から唸る声が漏れる。
「・・・ううぅぅうう・・・!!許さない・・・ペンデュラム・・・!!!」
そんなユーガを余所にカポネは高揚した声で言う。
「これでレベル3から8までのモンスターが同時に召喚可能となった!!見せてやる、世界を滅ぼした最強の召喚法を・・・!!ペンデュラム召喚!!!」
光の柱から飛び出るモンスター達。それと同時にユーガの怒号が谺する。
「うあああっ!!!俺は・・・・許さない!!!ペンデュラムゥゥゥ!!!」
次回 第6話「その時、何が起こったのか。」
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81 | 02:デッド・オア・アライブ | 1119 | 3 | 2016-01-27 | - | |
62 | 03:賞金稼ぎ・カケル | 1033 | 2 | 2016-01-28 | - | |
65 | 04:ゴミ溜めの地下街 | 1020 | 2 | 2016-02-02 | - | |
99 | 05:別次元の力 | 989 | 3 | 2016-02-03 | - | |
90 | 06:その時、何が起こったのか。 | 1009 | 3 | 2016-02-05 | - | |
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Amazonのアソシエイトとして、管理人は適格販売により収入を得ています。
そして物語の鍵を握るペンデュラム召喚が登場し、豹変する(?)ユーガ。
次回、何が起きるのか? (2016-02-03 23:01)
何かとポンコツ属性がついているリンカちゃん。何でだろう…勝ってるのにポンコツ感が…。
今更ながらナイトメアエッジってどっかで聞いたことあると思ったら私のオリカにもいたでござるw (2016-02-04 00:39)
>ター坊さん
地下街の治安や文化を表現する為に出しましたが、なるほどそういう需要もあるのか。某同人ゲームで奴隷と生活する内容の物がネットで話題となったりしているので、結構ニーズがあるのかもしれないですね。
次回は豹変したユーガがどうデュエルを変えて行くのか、お楽しみに。
>ギガプラントさん
ファイブディーズも初期は結構殺伐としてましたね。個人的には初期ゴッズは鼻毛の人が印象深いです。
リンカがポンコツになってしまったのは、気付いたらなってました。不可抗力です!ww
ナイトメアエッジ、確認しました。・・・被っちゃってますね。こんな偶然があるとは。 (2016-02-05 03:27)