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04:ゴミ溜めの地下街 作:ほーがん
第4話「ゴミ溜めの地下街」
ーああ、わが主君よ、もう一度この世界に絶対なる力を誇示し、混沌と破壊をお見せ下さい。
祭壇に向かって祈る男。それを後ろから見つめる者が居た。
「・・・いくら祈ったって意味はないぞ。大事なのは行動に移す事だ。」
忠告にも聞こえる独り言を呟いたその人物は、歩き出そうと背を向ける。
「聞こえているぞ、リチャード。」
その時、祈りをやめた男が背後から言い放った。
「俺は間違ったこと言ってないぜ。主君へ近づくには実際に動くのが一番だからな。」
祭壇を後にしたその人物は、端末を取り出すとニヤリと笑う。
「さーて、あの賞金稼ぎはどこまでやってくれるかな。」
一方、ユーガ。
「魔法カード、《武装融合》発動!!!」
カケルの場に表示されるカード。それを見たユーガが呟く。
「融合・・・それがお前の本当の戦術か。」
得意げな顔でカケルは叫ぶ。
「その通り!!このカードは自分フィールド・手札の「イモータル・ブレイバー」とユニオンモンスターを融合させるぜ!!俺はフィールドの《I・Bマイデン》と《B・Aブレード・ダイナソー》、そして手札の《B・Aシールド・バット(☆4/風/機械/ユニオン/1800・100)》を融合!!」
ヒーローロボット、刃の恐竜、そして手札より飛び出した盾の翼を持つ蝙蝠は、その姿を変形させて行く。
「紅蓮の勇者よ!太古の刃と疾風の盾を手に、新たなる戦士と生まれ変われ!!」
姿を変え、進化した勇者がフィールドへ降り立つ。
「武装融合!!レベル8、《I・B(インフィニティ・ブレイバー)ドラゴン・マイデン(☆8/風/機械/融合/2800・2400)》!!!」
竜を象った装甲に、大剣と盾を持った勇者がユーガの場を威圧した。
「攻撃力2800か・・・。」
カケルはユーガの場を指差し言い放つ。
「正義の鉄槌が、お前の野望を打ち砕く!!《I・Bドラゴン・マイデン》の効果発動!!1ターンに1度、相手フィールドのエクストラデッキから特殊召喚されたモンスター1体を破壊できる!!お前のシンクロモンスター《アライブナイト・シェリー・レイ》を破壊するぜ!!」
勇者が剣を振るう。その刃から飛ばされた衝撃波が白銀の姫騎士を吹き飛ばした。
「これではユーガの場はがら空き。攻撃力2800のダイレクトアタックを喰らったら・・・。」
そのロボットを見上げ、リンカは息を飲む。
「さぁ進化した勇者の一撃、その身を持って味わいな!!バトル!!《I・Bドラゴン・マイデン》でダイレクトアタック!!!『縦・一文字斬り』!!!」
大剣を構え、勇者は飛び上がる。上空で太陽の光と重なった刃が、直下のユーガを捉えた。
「ユーガ!!!」
叫ぶリンカ。自由落下で加速する勇者の一撃。その刹那、ユーガの墓地が光る。
「俺は墓地の《アライブナイト・ケリウス》の効果発動。自分フィールドの「アライブナイト」が破壊されたターンのバトルフェイズにレベル5以上のモンスターが直接攻撃をしてきた時、墓地からこのモンスターを守備表示で特殊召喚できる。」
復活した盾持ちの騎士はユーガの頭上へと飛び出す。その瞬間、到達した勇者の刃が騎士の盾と激しく打ち合う。
「へっ、そう簡単には倒れねぇってか!?だけど、攻撃は続行だぜ!!《I・Bドラゴン・マイデン》、そのままその盾を切り裂け!!」
勇者の手に力が入る。限界まで耐えた騎士の盾に亀裂が走り、その身体ごと粉々に砕け散った。空中に散らばる甲冑の欠片が日の光を反射する。その煌めきの中で両者は睨み合い、一瞬の静寂と輝きの中、カケルが先に口を開いた。
「この瞬間、《I・Bドラゴン・マイデン》の効果発動!このカードが相手モンスターを戦闘破壊した時、そのモンスターの攻撃力・守備力のどちらか高い方の数値分、相手にダメージを与える!!」
地面に降り立った勇者は間髪入れず、左手に持った盾でユーガの身体を突き飛ばす。
「・・・っ。(LP2400→300)」
後方で見守っていたリンカの隣を通り過ぎ、ユーガは衝撃による慣性で瓦礫の山に激突した。
「お、おい!ユーガ!」
砂埃が立ち籠める瓦礫の方へリンカが駆け寄る。カケルはその様子に冷や汗を掻いた。
「っべ・・・ちょっとやり過ぎたか・・・?」
リンカがたどり着く前に、砂埃の中から人影が現れる。
「・・・少し、痛かったぞ。」
ユーガは被った埃を手で払いながら、カケルの前へと歩いた。
「じょ、丈夫だなユーガ・・・。」
怪我もなく戻ってきたユーガを見て、リンカは困惑しながら呟く。
「なんとも無いのか・・・?まぁ、怪我してないならいいんだけど・・・って!なんで俺は敵の心配をしてんだよ!」
自分につっこむカケルを見ながら、ユーガは言った。
「これで俺のライフは残った。それは俺がまだ戦えると言う事だ。もう何も無いなら、ターンを渡して貰おうか。」
それを聞き、カケルはユーガの方へ向き直る。
「っく、偉そうに。まぁ残りライフ300で抗う気持ちが残ってるのは褒めてやるよ!俺はターンエンドだ!!」
ユーガはデッキへと手を伸ばした。
「(抗うだと?違うな。普通に考えれば、僅かに見える300のライフポイント。しかし、それはユーガにとって・・・。)」
そう思いながら、リンカは息を飲む。体験した身だからこそ分かる。ユーガはこのターンで決着を付けると。
「俺のターン、ドロー。」
引いたカードを確認するユーガ。その瞳に映るのは信じる仲間の姿。そしてその姿は、ユーガの頭の中で切り札へと続く回路を辿った。
「・・・俺は手札からチューナーモンスター《アライブナイト・エリー(☆3/光/戦士/チューナー/1000・1000)》を召喚。」
少女の騎士は短剣を手に、フィールドへ出現する。
「またチューナーか!さぁ、今度は何をする気だ!?」
カケルの声に答えるように、少女の騎士は短剣をフィールドに投げた。
「《アライブナイト・エリー》の効果発動。このモンスターの召喚に成功した時、墓地からレベル4以下の「アライブナイト」を特殊召喚できる。今一度蘇れ、《アライブナイト・ケリウス》。」
短剣がフィールドに穴を開ける。その穴から盾持ちの騎士が復活を遂げた。
「そして俺は、レベル4の《アライブナイト・ケリウス》にレベル3の《アライブナイト・エリー》をチューニング・・・!」
空中へと飛び上がった2体の騎士。その内の1体は光の輪となり、仲間の甲冑を包み込む。
「眩き光の甲冑よ!鋼の闘志をその身に宿し、闇を切り裂く星となれ!シンクロ召喚!!」
弾け飛ぶ光の粒。その煌めきの中から、新たな戦士が誕生する。
「輝け!《アライブナイト・ジャックス・レイ(☆7/光/戦士/シンクロ/2500・2000)》!!」
白銀の騎士は、輝く光の剣を手にユーガの前へ降り立った。
「新たなシンクロモンスターか・・・。その気合の入りようを見ると、どうやらこれがお前の切り札みたいだな。」
カケルの言葉にユーガは静かに返す。
「そうだ。これが俺の切り札。生き抜く為の力だ。《アライブナイト・ジャックス・レイ》の効果発動・・・!」
ユーガの声と同時に、白銀の騎士はその剣を掲げる。
「自分のライフポイントが1000以下の場合、4000から今のライフポイントを引いた数値分その攻撃力がアップする!(ATK2500→6200)」
その数値を見たカケルは驚愕して騎士を見上げる。
「こ、攻撃力6200だとぉ!!?ま、マジかよ・・・!」
ユーガはカケルを睨んだ。
「行くぞ・・・!《アライブナイト・ジャックス・レイ》よ!!《I・Bドラゴン・マイデン》を切り裂け!!!」
駆け出した白銀の騎士。目にも留まらぬスピードで、一気に勇者の懐へ飛び込んだ。
「『閃爍のシャイニングスライサー』!!!」
その鋼鉄のボディは、光の剣の一閃に見事に切り裂かれた。
「ぐあぁぁっ!!!(LP3700→300)」
衝撃による爆風にカケルは吹き飛ばされる。地面に叩き付けられながらも、上体を起こしながら口を開いた。
「うぅ・・・けど、俺もライフは残ったぞ・・・。お前の言葉を借りるなら、『まだ戦える』ってことだろ・・・!?次のターンが来れば・・・」
その言葉に、ユーガは冷静に返す。
「いや、お前に次のターンは無い。手札の《アライブナイト・ウェイス(☆4/光/戦士/1700・1300)》の効果発動。自分フィールドの「アライブナイト」が相手モンスターを戦闘で破壊した時、このモンスターを手札から特殊召喚できる。」
白銀の騎士の隣に、新たな騎士が現れた。
「・・・へっ、そういうことかよ。俺の賞金稼ぎライフもここまでってか・・・。」
立ち上がりながら、カケルは諦観し小さく笑った。
「とどめだ。《アライブナイト・ウェイス》でダイレクトアタック。」
騎士はカケルの下へ駆け寄ると、その剣を振り下ろした。
「やるじゃねぇか・・・(LP300→0)」
一撃を受け、カケルは大の字になって倒れ込んだ。
『勝者:ユーガ』
ソリッドビジョンが消えると同時に、ユーガはカケルに詰め寄った。
「聞きたい事がある。俺が呪詛師とはどういう意味だ。」
だが、カケルは大の字のまま叫んだ。
「俺の負けだ・・・さぁ、煮るなり焼くなり好きにしろ!!それとも得意の呪詛に掛ける気か!?」
ユーガは溜め息を付くと、言葉を足した。
「・・・そんなことより、質問に答えろ。」
その目を見たカケルは、渋々と起き上がった。
「っ、俺はただ手配書にあった記述を言っただけだ。『邪悪なる呪詛集団”村”の生き残りを捕らえよ』ってな。」
改めて端末を取り出すカケル。それに表示された情報を見たユーガは、さらに質問を重ねた。
「デュエルの前、『俺の回線に通達が来た』と言ったな。通達とはどこからだ?」
その言葉を聞き、カケルは肩を竦めた。
「知らねーよ。俺みたいな賞金稼ぎってのは、いつどっから通達が来ても良いように自分の回線をオープンにしてんだ。通達主の名前は表示されるから分かるけど、そいつが何者かなんて管轄外だな。」
ユーガはカケルに訊ねる。
「お前、マサカーを知っているか。」
ユーガの言った単語を聞き、カケルは首を横に振る。
「いいや。なんだ、マサカーって。街の名前か?」
それを聞き、ユーガは少し安堵する。二人のやり取りを見ていたリンカが、横から耳打ちする。
「信用していいのか?本当は一味で、私達を騙そうとしているかもしれんぞ。」
ユーガはリンカに、カケルの方を見るように目線で促した。
「あれが嘘を付ける人間の顔だと思うか。」
二人の様子にカケルは怪訝な顔をする。
「ん、なんだよ!二人してこっち見て!言いたい事があるならはっきり言えよ!」
その顔を見たリンカは納得したように言う。
「あー・・・確かにな。」
ユーガは再び、カケルの方を向いた。
「断っておくが、俺は呪詛師ではない。俺が”村”という集団で暮らしていたのは事実だが、邪悪な呪詛など使った事も聞いた事もない。」
それを聞いたカケルが言う。
「じゃあ、手配書の内容が嘘だって言うのか?」
ユーガは頷く。
「そうだ。つまり、その手配書をお前に送った人物は根拠の無い事を書き、俺や村を悪者に仕立て上げようとした。そういう事になる。」
困惑した様子でカケルは言った。
「なんの為にそんな事するんだよ?恨まれてるとかか?」
真剣な面持ちでユーガは答えた。
「恐らくはお前を騙す為だろう。相手が正義を掲げる賞金稼ぎだと分かった上で、俺を悪役にした。そこまでして俺を捕らえようとしている連中は1つしかない。」
「なんだよ、その連中って?」
ユーガは先ほどの単語をもう一度口にした。
「”マサカー”だ。」
その時、リンカが割って入る。
「ユーガ、せっかくだからこいつにお前の身の上話をしてやったらどうだ?」
その言葉にユーガが同調する。
「・・・ああ、そうだな。」
ユーガは話した。自分が村でどういう生活をしていたか。そして、その生活がどういう形で終わりを迎えたか。
「うぅ・・・ひっぐ・・・大変だったんだなぁ・・・辛かったなぁ・・・苦しかったなぁ・・・ひっぐ・・・」
その話を聞いていたカケルは段々と涙を浮かべ始め、終わる頃には号泣に変わっていた。
「お、おい。どうするんだこれ。」
さすがにこうなるとは予想して無かったのか、困惑しながらリンカが言う。
「・・・畜生、そのマサカーって連中・・・許せねぇ・・・ひっぐ・・・」
ユーガはひたすら号泣するカケルに向かって言った。
「俺は仲間を探している。共に戦ってくれる・・・」
言い切る前にカケルがユーガの手を掴む。
「戦う!!俺も戦うぜ・・・!!そんな連中、生かしておいたら正義の名が廃るからな・・・!!・・ひっぐ・・・」
「あ、ありがとう。」
溜め息を付いたリンカが口を開く。
「まぁ、これで仲間も増えて良かったな。あとは敵の情報集めがしたい所だが、当てはあるのかユーガ。」
それを聞いたユーガはカケルに言った。
「さっきの手配書だが、もう一度見せてくれ。」
「はい、どうぞ・・・」
カケルは涙を拭うと、端末をもう一度開いた。
「通達主の名前は・・・リチャード。聞いた事の無い名だな。それと・・・あった。これだ。」
ユーガは手配書に記された文を指差す。リンカとカケルはそれを覗き込んだ。
「俺を捕まえた時の引き渡しの場所が指定されている。『ダストポリタン』という場所らしい。ここに行けば何か分かるかもしれない。」
それを聞いたカケルは言った。
「『ダストポリタン』なら知ってるぜ。通称、”ゴミ溜めの地下街”。」
「地下街?地下に街があるのか?」
リンカの質問にカケルは答える。
「ああ。地下にあった軍事施設の跡地に人が住み着いてるんだ。色んな物も売ってたりするぜ。」
その言葉にユーガが素早く反応する。
「色んな物とは、食料もあるのか。」
「食料なんかは基本中の基本だから、結構いっぱい扱ってると思うけど。」
ユーガは立ち上がる。
「行くぞ。こうしては居られない。」
早速歩き出そうとしたユーガにリンカが言う。
「待て、行くって言ったって場所を知らないだろう。」
ユーガと同じように立ち上がったカケルが得意げに言う。
「場所なら俺が知ってるぜ!ここからもそう遠くない。行こうじゃねぇか、ユーガ!」
「ああ、急いだ方がいい。案内してくれ、カケル。」
カケルが先導して前を歩き出した。リンカはボソッと呟く。
「い、いつの間にか名前で呼び合っている・・・。まぁ、事が前に進んだわけだし、いいか。」
二人の後をリンカは追いかける。目指すは、通称”ゴミ溜めの地下街”『ダストポリタン』だ。
次回第5話「別次元の力」
ーああ、わが主君よ、もう一度この世界に絶対なる力を誇示し、混沌と破壊をお見せ下さい。
祭壇に向かって祈る男。それを後ろから見つめる者が居た。
「・・・いくら祈ったって意味はないぞ。大事なのは行動に移す事だ。」
忠告にも聞こえる独り言を呟いたその人物は、歩き出そうと背を向ける。
「聞こえているぞ、リチャード。」
その時、祈りをやめた男が背後から言い放った。
「俺は間違ったこと言ってないぜ。主君へ近づくには実際に動くのが一番だからな。」
祭壇を後にしたその人物は、端末を取り出すとニヤリと笑う。
「さーて、あの賞金稼ぎはどこまでやってくれるかな。」
一方、ユーガ。
「魔法カード、《武装融合》発動!!!」
カケルの場に表示されるカード。それを見たユーガが呟く。
「融合・・・それがお前の本当の戦術か。」
得意げな顔でカケルは叫ぶ。
「その通り!!このカードは自分フィールド・手札の「イモータル・ブレイバー」とユニオンモンスターを融合させるぜ!!俺はフィールドの《I・Bマイデン》と《B・Aブレード・ダイナソー》、そして手札の《B・Aシールド・バット(☆4/風/機械/ユニオン/1800・100)》を融合!!」
ヒーローロボット、刃の恐竜、そして手札より飛び出した盾の翼を持つ蝙蝠は、その姿を変形させて行く。
「紅蓮の勇者よ!太古の刃と疾風の盾を手に、新たなる戦士と生まれ変われ!!」
姿を変え、進化した勇者がフィールドへ降り立つ。
「武装融合!!レベル8、《I・B(インフィニティ・ブレイバー)ドラゴン・マイデン(☆8/風/機械/融合/2800・2400)》!!!」
竜を象った装甲に、大剣と盾を持った勇者がユーガの場を威圧した。
「攻撃力2800か・・・。」
カケルはユーガの場を指差し言い放つ。
「正義の鉄槌が、お前の野望を打ち砕く!!《I・Bドラゴン・マイデン》の効果発動!!1ターンに1度、相手フィールドのエクストラデッキから特殊召喚されたモンスター1体を破壊できる!!お前のシンクロモンスター《アライブナイト・シェリー・レイ》を破壊するぜ!!」
勇者が剣を振るう。その刃から飛ばされた衝撃波が白銀の姫騎士を吹き飛ばした。
「これではユーガの場はがら空き。攻撃力2800のダイレクトアタックを喰らったら・・・。」
そのロボットを見上げ、リンカは息を飲む。
「さぁ進化した勇者の一撃、その身を持って味わいな!!バトル!!《I・Bドラゴン・マイデン》でダイレクトアタック!!!『縦・一文字斬り』!!!」
大剣を構え、勇者は飛び上がる。上空で太陽の光と重なった刃が、直下のユーガを捉えた。
「ユーガ!!!」
叫ぶリンカ。自由落下で加速する勇者の一撃。その刹那、ユーガの墓地が光る。
「俺は墓地の《アライブナイト・ケリウス》の効果発動。自分フィールドの「アライブナイト」が破壊されたターンのバトルフェイズにレベル5以上のモンスターが直接攻撃をしてきた時、墓地からこのモンスターを守備表示で特殊召喚できる。」
復活した盾持ちの騎士はユーガの頭上へと飛び出す。その瞬間、到達した勇者の刃が騎士の盾と激しく打ち合う。
「へっ、そう簡単には倒れねぇってか!?だけど、攻撃は続行だぜ!!《I・Bドラゴン・マイデン》、そのままその盾を切り裂け!!」
勇者の手に力が入る。限界まで耐えた騎士の盾に亀裂が走り、その身体ごと粉々に砕け散った。空中に散らばる甲冑の欠片が日の光を反射する。その煌めきの中で両者は睨み合い、一瞬の静寂と輝きの中、カケルが先に口を開いた。
「この瞬間、《I・Bドラゴン・マイデン》の効果発動!このカードが相手モンスターを戦闘破壊した時、そのモンスターの攻撃力・守備力のどちらか高い方の数値分、相手にダメージを与える!!」
地面に降り立った勇者は間髪入れず、左手に持った盾でユーガの身体を突き飛ばす。
「・・・っ。(LP2400→300)」
後方で見守っていたリンカの隣を通り過ぎ、ユーガは衝撃による慣性で瓦礫の山に激突した。
「お、おい!ユーガ!」
砂埃が立ち籠める瓦礫の方へリンカが駆け寄る。カケルはその様子に冷や汗を掻いた。
「っべ・・・ちょっとやり過ぎたか・・・?」
リンカがたどり着く前に、砂埃の中から人影が現れる。
「・・・少し、痛かったぞ。」
ユーガは被った埃を手で払いながら、カケルの前へと歩いた。
「じょ、丈夫だなユーガ・・・。」
怪我もなく戻ってきたユーガを見て、リンカは困惑しながら呟く。
「なんとも無いのか・・・?まぁ、怪我してないならいいんだけど・・・って!なんで俺は敵の心配をしてんだよ!」
自分につっこむカケルを見ながら、ユーガは言った。
「これで俺のライフは残った。それは俺がまだ戦えると言う事だ。もう何も無いなら、ターンを渡して貰おうか。」
それを聞き、カケルはユーガの方へ向き直る。
「っく、偉そうに。まぁ残りライフ300で抗う気持ちが残ってるのは褒めてやるよ!俺はターンエンドだ!!」
ユーガはデッキへと手を伸ばした。
「(抗うだと?違うな。普通に考えれば、僅かに見える300のライフポイント。しかし、それはユーガにとって・・・。)」
そう思いながら、リンカは息を飲む。体験した身だからこそ分かる。ユーガはこのターンで決着を付けると。
「俺のターン、ドロー。」
引いたカードを確認するユーガ。その瞳に映るのは信じる仲間の姿。そしてその姿は、ユーガの頭の中で切り札へと続く回路を辿った。
「・・・俺は手札からチューナーモンスター《アライブナイト・エリー(☆3/光/戦士/チューナー/1000・1000)》を召喚。」
少女の騎士は短剣を手に、フィールドへ出現する。
「またチューナーか!さぁ、今度は何をする気だ!?」
カケルの声に答えるように、少女の騎士は短剣をフィールドに投げた。
「《アライブナイト・エリー》の効果発動。このモンスターの召喚に成功した時、墓地からレベル4以下の「アライブナイト」を特殊召喚できる。今一度蘇れ、《アライブナイト・ケリウス》。」
短剣がフィールドに穴を開ける。その穴から盾持ちの騎士が復活を遂げた。
「そして俺は、レベル4の《アライブナイト・ケリウス》にレベル3の《アライブナイト・エリー》をチューニング・・・!」
空中へと飛び上がった2体の騎士。その内の1体は光の輪となり、仲間の甲冑を包み込む。
「眩き光の甲冑よ!鋼の闘志をその身に宿し、闇を切り裂く星となれ!シンクロ召喚!!」
弾け飛ぶ光の粒。その煌めきの中から、新たな戦士が誕生する。
「輝け!《アライブナイト・ジャックス・レイ(☆7/光/戦士/シンクロ/2500・2000)》!!」
白銀の騎士は、輝く光の剣を手にユーガの前へ降り立った。
「新たなシンクロモンスターか・・・。その気合の入りようを見ると、どうやらこれがお前の切り札みたいだな。」
カケルの言葉にユーガは静かに返す。
「そうだ。これが俺の切り札。生き抜く為の力だ。《アライブナイト・ジャックス・レイ》の効果発動・・・!」
ユーガの声と同時に、白銀の騎士はその剣を掲げる。
「自分のライフポイントが1000以下の場合、4000から今のライフポイントを引いた数値分その攻撃力がアップする!(ATK2500→6200)」
その数値を見たカケルは驚愕して騎士を見上げる。
「こ、攻撃力6200だとぉ!!?ま、マジかよ・・・!」
ユーガはカケルを睨んだ。
「行くぞ・・・!《アライブナイト・ジャックス・レイ》よ!!《I・Bドラゴン・マイデン》を切り裂け!!!」
駆け出した白銀の騎士。目にも留まらぬスピードで、一気に勇者の懐へ飛び込んだ。
「『閃爍のシャイニングスライサー』!!!」
その鋼鉄のボディは、光の剣の一閃に見事に切り裂かれた。
「ぐあぁぁっ!!!(LP3700→300)」
衝撃による爆風にカケルは吹き飛ばされる。地面に叩き付けられながらも、上体を起こしながら口を開いた。
「うぅ・・・けど、俺もライフは残ったぞ・・・。お前の言葉を借りるなら、『まだ戦える』ってことだろ・・・!?次のターンが来れば・・・」
その言葉に、ユーガは冷静に返す。
「いや、お前に次のターンは無い。手札の《アライブナイト・ウェイス(☆4/光/戦士/1700・1300)》の効果発動。自分フィールドの「アライブナイト」が相手モンスターを戦闘で破壊した時、このモンスターを手札から特殊召喚できる。」
白銀の騎士の隣に、新たな騎士が現れた。
「・・・へっ、そういうことかよ。俺の賞金稼ぎライフもここまでってか・・・。」
立ち上がりながら、カケルは諦観し小さく笑った。
「とどめだ。《アライブナイト・ウェイス》でダイレクトアタック。」
騎士はカケルの下へ駆け寄ると、その剣を振り下ろした。
「やるじゃねぇか・・・(LP300→0)」
一撃を受け、カケルは大の字になって倒れ込んだ。
『勝者:ユーガ』
ソリッドビジョンが消えると同時に、ユーガはカケルに詰め寄った。
「聞きたい事がある。俺が呪詛師とはどういう意味だ。」
だが、カケルは大の字のまま叫んだ。
「俺の負けだ・・・さぁ、煮るなり焼くなり好きにしろ!!それとも得意の呪詛に掛ける気か!?」
ユーガは溜め息を付くと、言葉を足した。
「・・・そんなことより、質問に答えろ。」
その目を見たカケルは、渋々と起き上がった。
「っ、俺はただ手配書にあった記述を言っただけだ。『邪悪なる呪詛集団”村”の生き残りを捕らえよ』ってな。」
改めて端末を取り出すカケル。それに表示された情報を見たユーガは、さらに質問を重ねた。
「デュエルの前、『俺の回線に通達が来た』と言ったな。通達とはどこからだ?」
その言葉を聞き、カケルは肩を竦めた。
「知らねーよ。俺みたいな賞金稼ぎってのは、いつどっから通達が来ても良いように自分の回線をオープンにしてんだ。通達主の名前は表示されるから分かるけど、そいつが何者かなんて管轄外だな。」
ユーガはカケルに訊ねる。
「お前、マサカーを知っているか。」
ユーガの言った単語を聞き、カケルは首を横に振る。
「いいや。なんだ、マサカーって。街の名前か?」
それを聞き、ユーガは少し安堵する。二人のやり取りを見ていたリンカが、横から耳打ちする。
「信用していいのか?本当は一味で、私達を騙そうとしているかもしれんぞ。」
ユーガはリンカに、カケルの方を見るように目線で促した。
「あれが嘘を付ける人間の顔だと思うか。」
二人の様子にカケルは怪訝な顔をする。
「ん、なんだよ!二人してこっち見て!言いたい事があるならはっきり言えよ!」
その顔を見たリンカは納得したように言う。
「あー・・・確かにな。」
ユーガは再び、カケルの方を向いた。
「断っておくが、俺は呪詛師ではない。俺が”村”という集団で暮らしていたのは事実だが、邪悪な呪詛など使った事も聞いた事もない。」
それを聞いたカケルが言う。
「じゃあ、手配書の内容が嘘だって言うのか?」
ユーガは頷く。
「そうだ。つまり、その手配書をお前に送った人物は根拠の無い事を書き、俺や村を悪者に仕立て上げようとした。そういう事になる。」
困惑した様子でカケルは言った。
「なんの為にそんな事するんだよ?恨まれてるとかか?」
真剣な面持ちでユーガは答えた。
「恐らくはお前を騙す為だろう。相手が正義を掲げる賞金稼ぎだと分かった上で、俺を悪役にした。そこまでして俺を捕らえようとしている連中は1つしかない。」
「なんだよ、その連中って?」
ユーガは先ほどの単語をもう一度口にした。
「”マサカー”だ。」
その時、リンカが割って入る。
「ユーガ、せっかくだからこいつにお前の身の上話をしてやったらどうだ?」
その言葉にユーガが同調する。
「・・・ああ、そうだな。」
ユーガは話した。自分が村でどういう生活をしていたか。そして、その生活がどういう形で終わりを迎えたか。
「うぅ・・・ひっぐ・・・大変だったんだなぁ・・・辛かったなぁ・・・苦しかったなぁ・・・ひっぐ・・・」
その話を聞いていたカケルは段々と涙を浮かべ始め、終わる頃には号泣に変わっていた。
「お、おい。どうするんだこれ。」
さすがにこうなるとは予想して無かったのか、困惑しながらリンカが言う。
「・・・畜生、そのマサカーって連中・・・許せねぇ・・・ひっぐ・・・」
ユーガはひたすら号泣するカケルに向かって言った。
「俺は仲間を探している。共に戦ってくれる・・・」
言い切る前にカケルがユーガの手を掴む。
「戦う!!俺も戦うぜ・・・!!そんな連中、生かしておいたら正義の名が廃るからな・・・!!・・ひっぐ・・・」
「あ、ありがとう。」
溜め息を付いたリンカが口を開く。
「まぁ、これで仲間も増えて良かったな。あとは敵の情報集めがしたい所だが、当てはあるのかユーガ。」
それを聞いたユーガはカケルに言った。
「さっきの手配書だが、もう一度見せてくれ。」
「はい、どうぞ・・・」
カケルは涙を拭うと、端末をもう一度開いた。
「通達主の名前は・・・リチャード。聞いた事の無い名だな。それと・・・あった。これだ。」
ユーガは手配書に記された文を指差す。リンカとカケルはそれを覗き込んだ。
「俺を捕まえた時の引き渡しの場所が指定されている。『ダストポリタン』という場所らしい。ここに行けば何か分かるかもしれない。」
それを聞いたカケルは言った。
「『ダストポリタン』なら知ってるぜ。通称、”ゴミ溜めの地下街”。」
「地下街?地下に街があるのか?」
リンカの質問にカケルは答える。
「ああ。地下にあった軍事施設の跡地に人が住み着いてるんだ。色んな物も売ってたりするぜ。」
その言葉にユーガが素早く反応する。
「色んな物とは、食料もあるのか。」
「食料なんかは基本中の基本だから、結構いっぱい扱ってると思うけど。」
ユーガは立ち上がる。
「行くぞ。こうしては居られない。」
早速歩き出そうとしたユーガにリンカが言う。
「待て、行くって言ったって場所を知らないだろう。」
ユーガと同じように立ち上がったカケルが得意げに言う。
「場所なら俺が知ってるぜ!ここからもそう遠くない。行こうじゃねぇか、ユーガ!」
「ああ、急いだ方がいい。案内してくれ、カケル。」
カケルが先導して前を歩き出した。リンカはボソッと呟く。
「い、いつの間にか名前で呼び合っている・・・。まぁ、事が前に進んだわけだし、いいか。」
二人の後をリンカは追いかける。目指すは、通称”ゴミ溜めの地下街”『ダストポリタン』だ。
次回第5話「別次元の力」
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涙もろいカケルを仲間に加えて次の街へ。しかし次回のお話のタイトルから不穏な印象が…! (2016-02-02 09:38)
逆転の切り札と呼ぶにふさわしいモンスターを目指しました。やはり脳筋は強い・・・。
新たなメンバーを迎えて旅は進みますが、次回は一波乱あるかもしれません・・・。お楽しみに。 (2016-02-03 20:50)