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第十三話・3 作:KOUBOU(旧名:光芒)
「わー、予想はできてたけど【ラビュリンス】デッキでよく見るモンスターが動いてるよ」
「まさに現代最先端の技術ならではというものですね」
ネットワークの中とはいえ、まるで実体があるかのように見えることに遊舞たちも驚きを隠せない。更にこの技術の凄さはこれだけに留まらない。
「さて、ここに着いた貴女たちにはですが……」
「あなたたちの誰か、もしくは2対2のデュエルだね☆」
遊舞と結衣に問いかけてきたアリアスに対し、遊舞は身を乗り出して駆け寄る。それを見たアリアス、アリアンナ、アリアーヌの3人はえっ、と驚いた様子を見せる。データでしかない彼女たちであるが、こうして目の前の人間の行動にリアクションを取ることもできるのだ。
「申し訳ありませんが、ここで私共が貴女方とデュエルをすることはできません」
「えーっ、なんで?」
「私たちの主様が……挑戦者を待ってる」
「あの人この迷宮の主なのに自分が戦いたがってるんだよねー!」
「つまり主命を帯びているので戦えないと?」
「左様でございます。しかし、私共の役目は皆様をこうして出迎えるだけではありません。こちらをご覧くださいませ」
そう言うとアリアスたちの後ろに3つの扉が現れた。傍から見れば3つとも同じ模様、同じ素材でできた扉でありその違いはわからない。
「この扉の何処から入られましても皆様方は次のステージへ進むことができます」
「えっ、どこに入っても同じところに行くの? じゃあ3つもある必要ないんじゃない?」
「えへへっ、そんなことはないよー!」
「この3つの扉は……皆の決意を示す扉……です」
「そう。この3つのうち、中央の扉に入ればそのまま次のステージへと進むことができます。右の扉は、あなたたちが持っているデッキのうち、メインデッキのカードをカード総数の半分まで、任意のカードに変えることができます。そして左の扉は、デッキそのものの変更が可能です」
決意を示す、というアリアンナの言葉の意味を結衣はおおよそ理解した。今のデッキのまま試験を進めたいのであれば、そのまま中央の扉を選べばいいだろう。しかし、ここまで使ってみてデッキの内容が気に入らない、デッキそのものを変えたい場合は左右の扉から入るように、ということだろう。
「マジで!? じゃあアタシは左の扉に行こうかな☆」
「待って下さい、あまりに話が上手すぎます。これでは皆さん左に行ってしまうはずです。何か代償があるんでしょう?」
「はい。まず右の扉ですが……この扉に入るとデッキの改造ができる代わりに初期ライフが6000になります。そして左の扉に入ればデッキを変えることができますが、今持っているデッキの中に入っているモンスターのうち、最も多い種族を擁するテーマのデッキしか選ぶことができません。そして、左の扉に入った場合は初期ライフが4000になるのです」
アリアスの発言をまとめるとこのようになる。
中央の扉:次ステージでも同じデッキを継続して使用、初期ライフは8000
右の扉:メインデッキのカードをデッキ総数の半分の数まで変更可能だが、初期ライフが6000に減少
左の扉:デッキそのもの変更が可能だが、選ぶことができるのは今使用しているデッキの中に入っているモンスターの中で最も数の多い種族と同じテーマのデッキ+初期ライフが4000に減少
デッキを強くしたければ、左右どちらかの扉を選べばいい。しかし、それをするとデュエルをする上で最重要事項ともいえるライフが減らされてしまうのだ。相手も同じならともかく、中央の扉から入った生徒とのデュエルとなれば、デュエル開始時点でライフに倍の差がついていることになる。
彼女たちの言う"決意”とはこういう状況下においても自分のデュエルができるか、ということを求めているのだ。
「なるほど。そういうことですか……」
不慣れ(結衣は例外であるが)なデッキを使ってのデュエルということもあるため簡単に決められることではない。結衣は自分がどうするべきか、をすぐに決められずにいた。
「ゆいゆい」
「……なんですか。あなたはどうす―――」
「アタシ、先行くね☆」
そう言って遊舞は迷わず左の扉に手をかけた。
「ひ、左を選ぶんですか!?」
「うん。【ワーム】には悪いけど、さすがにバランスがね……爬虫類族のテーマかぁ、あんま多くないんだよなぁ」
「あの、ライフが4000になるんですよ?」
「……そだね。でも大丈夫じゃないかな。ライフなんて0になんなきゃいいんだから☆」
そう言ってニッコリ笑顔で手を振りながら左の扉を開けて進む遊舞。こんな状況下においても尻込みする素振りすら見せないあたり、遊舞は強い心臓の持ち主なのか、それとも呆れるほどのバカなのか。そんな彼女の姿を見た結衣は、小さく息を吐く。
「私は右の扉を選びます」
結衣は右の扉を選び、その先を進む。進んだ先には1台のパソコンが置いてあった。どうやらこの機械でカードを入れ替えるのだろう。
(……【水精鱗】を強くするには【海皇】の力が必須。入っていないカードを入れましょう)
さすがに以前使っていただけあってデッキの強みは理解している。【海皇】のカードの割合を増やし、更に《深海のディーヴァ》など相性のいいカードを加える。EXデッキを変えることができないのは残念だが、元々【海皇水精鱗】はメインデッキのモンスターだけでも十分に戦えるデッキである。そのため、EXデッキのカードはオマケのようなもの。そんなデッキ事情も結衣の背中を押した。
「これでいいでしょう、さて……できれば遊舞さんとは当たりたくないですが」
デッキを改造し、扉を抜けた結衣は次のステージへの進出条件を確認する。1ステージ目は4ポイントを集めることが条件であり、対人デュエルでの勝利で2ポイント、NPCの試練クリアで1ポイント得ることができた。
第2ステージのクリアに必要な合計ポイントは6。増えてはいるものの、対人戦1勝につき3ポイント、NPCとのデュエルに勝利で2ポイント、NPCの試練クリアで1ポイントとポイントを稼ぐ手段も増えていた。
(今回は6ポイントですか。しかし、さっきアリアスが言っていたことを考えると今このステージ2にいるのは私を除いて3人で、うち1人は遊舞さん。手っ取り早いのは対人で3勝ですが、今の人数を考えるとまずはNPCを探した方が……)
そんな結衣の前に短めのスカートをひらめかせ、白銀の城の召使い アリアンナが現れる。彼女の腕には小型ではあるが、デュエルディスクが付いている。彼女たちはデュエルを禁止されていると言っていたが、それはあくまでステージ1のゴール地点でのこと。このステージ2では彼女たちを含めた白銀の城の召使いたちとデュエルをすることになるのだ。
(負ける訳にはいきません!)
*
「遊大さん、早くもステージ2に進み始めている生徒がいるようですね」
試験開始から数時間後。モニターをじっと見つめている遊大に美鈴が話しかける。生徒会のメンバーたちはこの試験を見守る監督役を他の教師たちと務めていた。
「さすがに早いね。そして4人のうち二人はやっぱり遊舞さんと結衣さんか」
「……結衣さんは当然ですが、あの方も相当ですね」
美鈴はやはりと言ってはなんだが、遊希という相思相愛の相手がいる遊大に対して異様に距離が近い遊舞にあまり良い感情を持っていない。それでも彼女はこの学校の未来を担う1年生。故に個人的な好き嫌いで判断しないように、と遊大が窘める日々が続いていた。
「でもそんな遊舞さんと結衣さんよりも早くステージ2に二人もダークホースだね。そのうちの一人は美鈴さんがよく知っているみたいだけど」
「……留学生委員ですからね。ただ、彼はちょっと言動が……その、幼げなのが珠に瑕ですが」
画面に映し出されたのは一人の男子生徒。灰色の髪に白い肌、真紅の眼。まるで何かのファンタジー世界から出てきた容貌の生徒は次々とNPCを打ち破り、ポイントを重ねて行く。
「女子生徒のエースが結衣さんと遊舞さんなら、男子生徒のエースは彼かな? おっと、もうゴールまで……俺もそろそろ準備しないと」
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13 | 第二十三話・3 | 84 | 0 | 2025-01-17 | - | |
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