第九話：未知なる疾風の竜　作：KOUBOU（旧名：光芒）

「……は？」

　結衣の口からはそんな間の抜けた言葉しか出てこなかった。確かに今の自分のフィールドは万全のものとは言い難い。確かに不意のミラドーラによってドラガイトが無力化されてしまっているとはいえ、遊舞のターンのスタンバイフェイズに帰還するシフやキーフを駆使すればレベル８もしくは１０のＳ召喚が行える。
　最もＳ召喚できるのは魚族のＳモンスターに限られるが、ここで出せるＳモンスターはいずれも相手に対する妨害が可能だ。そのため、遊舞からしてみれば実に厄介な盤面と言っていいだろう。
　しかし、そんな結衣の１ターン目を見て遊舞が発したのが結衣に幻滅した、という発言だった。

「……どういう意味でしょうか」
「どういう意味って、言葉通りの意味だよ。アタシ、ゆいゆいもっと強いと思ってたもん☆」

　そう言って悪戯っぽく小顔を傾ける遊舞。彼女は意図しているのかそれとも純粋に言っているのか。どちらにしても言われた結衣からしてみれば気分のいいものではない。

「……期待を裏切ってしまったようで、それに関しては申し訳ありません。でもその自分の発言、すぐに後悔することになりますよ？」
「後悔しないよ。だって、このデュエル。アタシが勝つからさ」



☆TURN02（遊舞）

（……風の天翼ミラドーラ。属性は共通しているけど【ふわんだりぃず】に入るカードじゃない。彼女のデッキはあの時とは違う）

　遊大は自分の胸騒ぎが杞憂だと思いたかった。しかし、そういう杞憂ほど案外起こってしまうものである。

「アタシのターン、ドロー。スタンバイフェイズに発動する効果、あるよね☆ じゃあこのアタシのドローフェイズに発動しちゃおっと。増殖するG☆」

《増殖するG》
効果モンスター
星２/地属性/昆虫族/攻 500/守 200
このカード名の効果は１ターンに１度しか使用できない。
(1)：自分・相手ターンに、このカードを手札から墓地へ送って発動できる。このターン中、以下の効果を適用する。
●相手がモンスターを特殊召喚する度に、自分は１枚ドローする。

「……このタイミングで使いますか」
「今引いちゃった☆」
「……よくあることです。ではスタンバイフェイズ、除外されてるシフおよびキーフの効果を発動します」

チェーン２（結衣）：ゴーティスの朧キーフ
チェーン１（結衣）：ゴーティスの妖精シフ

「チェーン２。除外されているキーフを特殊召喚します」
「キーフの特殊召喚に成功したから、アタシは１枚ドローするよ」
「そしてチェーン１、同じく除外されているシフを特殊召喚します」
「おまけでもう１枚ドロー☆ ラッキー、２枚も引けちゃった」

　遊舞の手札はミラドーラと増殖するＧを差し引いても６枚。結衣がシフの効果を発動した場合、さらにもう１枚のドローを許す形になる。しかし、ドローを嫌がれば遊舞に好き放題展開される恐れがあり、こちらが対処しようものなら遊舞のドローを許し、そのドロー次第では切り返される恐れがある。どちらに転んでもリスクはある。

「まずは戦うための舞台を整えないとね☆ アタシは手札からフィールド魔法《霞の谷の神風》を発動するよ！」

《霞の谷の神風》
フィールド魔法
自分フィールド上に表側表示で存在する風属性モンスターが手札に戻った場合、自分のデッキからレベル４以下の風属性モンスター１体を特殊召喚する事ができる。
この効果は１ターンに１度しか使用できない。

「さらに……魔法カード発動。《封印の黄金棺》」

《封印の黄金櫃》
通常魔法（制限カード）
(1)：デッキからカード１枚を選んで除外する。このカードの発動後２回目の自分スタンバイフェイズに、この効果で除外したカードを手札に加える。

「デッキから《嵐征竜－テンペスト》を除外しちゃうね☆」

《嵐征竜－テンペスト》
効果モンスター（制限カード）
星７/風属性/ドラゴン族/攻2400/守2200
このカード名の(1)～(4)の効果は１ターンに１度、いずれか１つしか使用できない。
(1)：手札からこのカードと風属性モンスター１体を墓地へ捨てて発動できる。デッキからドラゴン族モンスター１体を手札に加える。
(2)：ドラゴン族か風属性のモンスターを自分の手札・墓地から２体除外して発動できる。このカードを手札・墓地から特殊召喚する。
(3)：このカードが特殊召喚されている場合、相手エンドフェイズに発動する。このカードを手札に戻す。
(4)：このカードが除外された場合に発動できる。デッキからドラゴン族・風属性モンスター１体を手札に加える。

（テンペストにミラドーラ……共通するのは風属性・ドラゴン族。そうなると【ドラグニティ】もしくは【ドラゴンリンク】？ でもそうなると霞の谷の神風が噛み合わない……いったい彼女のデッキは……？）

　遊舞の使用カードから彼女のデッキを可能な限り探ろうとする結衣。しかし、その努力が無駄なものだったと結衣はすぐに思い知らされた。

「アタシが手札に加えるのは……」





―――《ゲイルアイズ・ブリーズ・ドラゴン》―――





「……えっ？」

　遊舞のデッキからは結衣が見たことも聞いたこともないカードが彼女の手に加わった。そして、動揺した結衣は気付かなかった。先ほどまで笑顔が混じっていた遊舞の顔からその笑みが消滅したことに。

「そして、今手札に加えた《ゲイルアイズ・ブリーズ・ドラゴン》を召喚」

《ゲイルアイズ・ブリーズ・ドラゴン》
効果モンスター（オリジナルカード）
星1/風属性/ドラゴン族/攻0/守0
このカード名のカードの効果はそれぞれ１ターンに１度までしか発動できない。
(1)：自分・相手のメインフェイズにこのカードを手札に戻して発動できる。自分のデッキまたは手札からレベル３以下の「ゲイルアイズ」Ｐモンスター１体を特殊召喚する。
(2)：このカードが「ゲイルアイズ」カードによって手札に戻った場合に発動できる。相手フィールドに表側表示で存在するカード１枚の効果をこのターンの終了時まで無効にする。

「そしてブリーズ・ドラゴンの効果を発動。このカードを手札に戻すことでデッキまたは手札からレベル３以下のゲイルアイズＰモンスター１体を選んで特殊召喚するよ」
（セルフバウンス……！ そのための霞の谷の神風！？）
「私はブリーズ・ドラゴンの効果にチェーンしてゴーティスの妖精シフの効果を発動！」

チェーン2（結衣）：ゴーティスの妖精シフ
チェーン1（遊舞）：ゲイルアイズ・ブリーズ・ドラゴン

「チェーン2のゴーティスの妖精シフの効果！ レベル６のイーノックとレベル２のキーフに、レベル２のチューナーモンスター、シフをチューニング！ "最果ての星海に揺蕩う大いなる存在よ。今その姿を下界に現わせ！” シンクロ召喚！《最果てのゴーティス》！」

《最果てのゴーティス》
シンクロ・効果モンスター
星10/水属性/魚族/攻 ?/守 0
魚族チューナー１体以上＋チューナー以外のモンスター１体以上
(1)：このカードの元々の攻撃力は、除外状態のモンスターの数×５００になる。
(2)：相手ターンに、このカードがＳ召喚した場合に発動できる。フィールドのカードを全て除外する。
(3)：このカードがモンスターゾーンから除外された次のターンのスタンバイフェイズに発動できる。除外状態のこのカードを特殊召喚する。

「増殖するGの効果で１枚ドローするよ。チェーン１のブリーズ・ドラゴンの効果でこのカードを手札に戻し、デッキからレベル３の《ゲイルアイズ・ガストウィンド・ドラゴン》を特殊召喚」

《ゲイルアイズ・ガストウィンド・ドラゴン》
ペンデュラム・効果モンスター（オリジナルカード）
星3/風属性/ドラゴン族/攻1000/守1500
【Pスケール：青9/赤9】
このカード名の(2)のＰ効果は１ターンに１度しか使用できない。
(1)：自分はドラゴン族モンスターしかＰ召喚できない。この効果は無効化されない。
(2)：Ｐゾーンのこのカードが効果で破壊された場合に発動できる。ＥＸデッキに表側表示で存在するこのカードを手札に加える。
【モンスター効果】
このカード名のカードの効果はそれぞれ１ターンに１度までしか発動できない。
(1)：このカードの召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。自分のデッキからフィールドに同名カードが表側表示で存在しない「ゲイルアイズ」魔法・罠カード１枚を選んで手札に加える。
(2)：このカードが「ゲイルアイズ」カードによって手札に戻った場合に発動できる。自分のデッキから「ゲイルアイズ」Ｐモンスター１体を選んで手札に加える。

「Ｓ召喚に成功した最果てのゴーティスの効果を発動します。相手ターンにＳ召喚に成功した場合、フィールドのカードを全て除外します」
「……最果てのゴーティスの効果だね。でも、ダメ。ゲイルアイズの効果で手札に戻ったブリーズ・ドラゴンのもう一つの効果、特殊召喚に成功したガストウィンド・ドラゴン、そして霞の谷の神風の効果を発動」

チェーン4（遊舞）：霞の谷の神風
チェーン3（遊舞）：ゲイルアイズ・ガストウィンド・ドラゴン
チェーン2（遊舞）：ゲイルアイズ・ブリーズ・ドラゴン
チェーン1（結衣）：最果てのゴーティス

「チェーン４の霞の谷の神風の効果を発動。デッキからレベル３の《ゲイルアイズ・ウォールウィンド・ドラゴン》を特殊召喚」

《ゲイルアイズ・ウォールウィンド・ドラゴン》
ペンデュラム・効果モンスター（オリジナルカード）
星3/風属性/ドラゴン族/攻1500/守1000
【Pスケール：青2/赤2】
このカード名の(2)のＰ効果は１ターンに１度しか使用できない。
(1)：自分は風属性モンスターしかＰ召喚できない。この効果は無効化されない。
(2)：Ｐゾーンのこのカードが効果で破壊された場合に発動できる。ＥＸデッキに表側表示で存在するこのカードを手札に加える。
【モンスター効果】
このカード名のカードの効果はそれぞれ１ターンに１度までしか発動できない。
(1)：このカードの召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。自分のデッキから同名カード以外の「ゲイルアイズ」モンスター１体を選んで手札に加える。
(2)：このカードが「ゲイルアイズ」カードによって手札に戻った場合に発動できる。自分のデッキから「ゲイルアイズ」魔法・罠カード１枚を選んで手札に加える。

「チェーン３、特殊召喚に成功したガストウィンド・ドラゴンの効果。デッキからフィールドに同名カードが存在しないゲイルアイズ魔法・罠カード１枚を選んで手札に加える。アタシが手札に加えるのは永続魔法《ゲイルアイズ・トレード・ウィンド》。そして、チェーン２のブリーズ・ドラゴンの効果。このカードがゲイルアイズの効果で手札に戻った場合、相手フィールドに表側表示で存在するカードの効果１枚をターン終了時まで無効にする。無効にするのはもちろん、最果てのゴーティス」
「っ……！」

　最果てのゴーティスの攻撃力は除外状態のモンスターの種類×５００の数値になる。しかし、その効果を無効にされてしまったため、最果てのゴーティスの攻撃力は０なのだ。

最果てのゴーティス　ＡＴＫ０（効果無効）

（しくじった。セットした《ゴーティス・チェイン》を使っておけば最果てのゴーティスの効果は通せたのに……）
「そして特殊召喚に成功したウォールウィンド・ドラゴンの効果。デッキから同名カード以外のゲイルアイズモンスター１体を選んで手札に加える。アタシが手札に加えるのはレベル５の《ゲイルアイズ・ハリケーン・ドラゴン》。そしてアタシはさっき手札に加えたトレード・ウィンドを発動」

《ゲイルアイズ・トレード・ウィンド》
永続魔法（オリジナルカード）
このカード名のカードは１ターンに１度までしか発動できず、このカード名の(2)の効果は１ターンに１度までしか発動できない。
(1)：このカードの発動時の効果処理として、自分のデッキからレベル３以下の「ゲイルアイズ」モンスター１体を手札に加えることができる。
(2)：自分フィールドに存在する「ゲイルアイズ」モンスター１体を手札に戻し、このカードを墓地へ送って発動できる。自分はデッキからカードを２枚ドローする。

「トレード・ウィンド発動時の効果。デッキからレベル３以下のゲイルアイズモンスター１体を手札に加える。２体目のガストウィンド・ドラゴンを手札に加えるよ。そしてトレード・ウィンドの２つ目の効果。フィールドのゲイルアイズ１体を手札に戻し、このカードを墓地へ送ることでアタシはデッキからカードを２枚ドローする」
（ちょっと、どれだけドローするのよ……？）

　増殖するGの効果も相まり、無尽蔵とは行かなくてもどんどん増えていく遊舞の手札。モンスターと永続魔法によるサーチとドロー、そしてセルフバウンス。わからないながらも朧げに見えてきた遊舞のデッキの形であるが、確実に言えることは彼女がデッキを回す様を自分はまじまじと見ることしかできないということだった。

「ゲイルアイズカードによって手札に戻ったガストウィンド・ドラゴンの効果。デッキからレベル５以下のゲイルアイズＰモンスター１体を手札に加える。アタシが加えるのは《ゲイルアイズ・サイクロン・ドラゴン》。そして、ハリケーン・ドラゴンとサイクロン・ドラゴンをＰゾーンにセッティング！！」

《ゲイルアイズ・サイクロン・ドラゴン》
ペンデュラム・効果モンスター（オリジナルカード）
星5/風属性/ドラゴン族/攻2000/守2000
【Pスケール：青2/赤2】
このカード名の(2)のＰ効果は１ターンに１度しか使用できない。
(1)：自分はドラゴン族モンスターしかＰ召喚できない。この効果は無効化されない。
(2)：もう片方の自分のＰゾーンに「ゲイルアイズ」Ｐモンスターが存在する場合、自分・相手のメインフェイズに発動できる。このターンの終了時まで相手は墓地のカードの効果を発動できない。
【モンスター効果】
このカード名のモンスター効果はそれぞれ１ターンに１度までしか使用できない。
(1)：Ｐゾーンのこのカードが自分の手札に戻った場合に発動できる。このカードを手札から特殊召喚する。
(2)：このカードが(1)の効果で特殊召喚に成功した場合に発動できる。このカードがフィールドに存在する限り、自分フィールドに存在する「ゲイルアイズ」モンスターが戦闘を行う場合、相手は魔法・罠・効果モンスターの効果を発動できない。

《ゲイルアイズ・ハリケーン・ドラゴン》
ペンデュラム・効果モンスター（オリジナルカード）
星5/風属性/ドラゴン族/攻2000/守2000
【Pスケール：青9/赤9】
このカード名の(2)のＰ効果は１ターンに１度しか使用できない。
(1)：自分は風属性モンスターしかＰ召喚できない。この効果は無効化されない。
(2)：もう片方の自分のＰゾーンに「ゲイルアイズ」Ｐモンスターが存在する場合、自分・相手のメインフェイズに発動できる。このターンの終了時まで相手は手札のカードの効果を発動できない。
【モンスター効果】
このカード名のモンスター効果はそれぞれ１ターンに１度までしか使用できない。
(1)：Ｐゾーンのこのカードが自分の手札に戻った場合に発動できる。このカードを手札から特殊召喚する。
(2)：このカードが(1)の効果で特殊召喚に成功した場合に発動できる。このカードがフィールドに存在する限り、自分フィールドに表側表示で存在する「ゲイルアイズ」モンスターの攻撃力・守備力は５００ポイントアップする。

「サイクロン・ドラゴンのスケールは２、ハリケーン・ドラゴンのスケールは９。よってレベル３から８までのモンスターをアタシはペンデュラム召喚できる。まあ、この２体がＰゾーンに存在する限りあたしは風属性・ドラゴン族しかＰ召喚できないけど。でも、それで十分」

　遊舞はそう言って右手を天にかざす。その上空では２体のゲイルアイズたちによって天空に巨大な円盤が描かれる。

（来る……！）



―――揺れろ魂のペンデュラム！ 天空に描け光のアーク！ ペンデュラム召喚！ 来て、アタシの相棒―――





―――《ゲイルアイズ・テンペスト・ドラゴン》！！―――





　遊舞のフィールドに舞い降りたのはこれまで現れたどのゲイルアイズよりも強力な風をまとった翠風の竜だった。