第七十二話：切れない因縁　作：KOUBOU（旧名：光芒）

「……風の噂では聞いていたが、随分と様相が変わったものだな。高海 遊大」

　ベアトリスにチームの生徒たちを連れてきてもらうよう頼んだ遊大は一足早くセントラル校のデュエルフィールドへと向かった。そこに立っていたのは遊大と同年代の男子高校生。まるで獲物を見定める狩人のような鋭い眼光は、一年前のデュエルの時と大きく変わった遊大を捉えていた。

「まあ、色々あったからね。背も伸びるし、髪の色だって変わるよ」
「……見た目だけではない。デュエリストとしての能力も一年前とは比較にならないくらい成長している。貴様に何があったのかを問いただしたいものだが、生憎俺は平和的な方法を知らない」
「平和的、か。君に一番似合わない言葉だね。天海くん」

　遊大と対峙する少年の名は天海 刃弥（あまみ じんや）。デュエルアカデミア・イースト校に在籍する２年生であり、昨年の学校対抗戦では遊大と大将戦を戦った腕利きのデュエリストである。デュエル当時はまだその才能を開花させていなかった遊大をそのタクティクスで終始圧倒していたが、最終的には遊大に逆転負けを喫していた。

「そうだな。だが、力を増したのは俺も同じだ。貴様もデュエリストであれば、俺が何を望むかはわかるだろう？」

　遊大は刃弥が何を望んでいるかはわかっていた。わかっているからこそ、確認しておきたいこともある。

「……妹さんは？ いつもなら彼女が君を抑えてくれるはずだけど」

　刃弥には双子の妹である有紗（ありさ）がいる。何かと暴走しがちな兄を抑えるストッパーとして有紗は常に彼と行動を共にしているはずなのだが。

「あいつは置いてきた。今頃イースト校の寮で俺のことを血眼になって探していることだろう」
「……ちゃんと連絡してあげた方がいいよ？」
「知るか。俺のデュエリストとしての渇望はあいつにも止められん」

　数日後、刃弥の居場所を知った有紗が号泣しながら刃弥をタコ殴りにするのだが、それはまた別の話である。

「わかった。天海くんとのそのデュエル、受けるよ」
「そう言うと思っていた。さあ、カードの剣を抜け」
「ストップ。せっかくのデュエルなんだから、後進のために役立てない？」

　遊大がそう言って振り返ると、彼の後方にはベアトリスに引率された遊舞たちセントラル校の代表たちやユニオンの面々がデュエルフィールドに入ってくる。遊大からしてみれば、刃弥とのデュエルを大舞台に臨む下級生たちのためのエキシビジョンにしたいという思惑があったのだ。

「む……」
「天海先輩！？ なんでここにいるんですか？」

　刃弥の姿を見て大声を上げたのは爽。彼女からしてみれば、同じイースト校の直属の上級生にあたるのだから無理もないだろう。

「なんだ、俺がここにいることがおかしいのか青崎」
「だって天海先輩バスに乗ってなかったですよね？」
「ああ、あのバスは新入生や応援団、引率の教師用だからな。だから新幹線を使い自費でここに来た」
「そ、そこまでして……」
「あん先輩有名な人ね？」
「うん、デュエルにめっちゃ厳しくてね……負けたら何されるか……」

　そう言って項垂れる爽。現代的なアカデミアであってもそこは学校。上級生には頭が上がらないのが道理である。デュエルに一切の妥協をしない刃弥の姿は想像するに易く、爽たちイースト校の生徒が厳しく鍛えられているのが見て取れた。

「さて、ギャラリーも揃ったところだし。そろそろ始めようか」
「フン、いいだろう」

　そう言って遊大はデュエルフィールドで刃弥と対峙しては、デュエルディスクを展開。デッキをセッティングする。刃弥からしてみれば、自分たちのデュエルを見せ物扱いされるのは気に入らなそうだが、それでも遊大相手にリベンジする機会となっては背に腹は代えられない。

「……この一年で貴様がどれだけ強くなったのか。それを見せてみろ」
「思えばあの時は、俺の実力で勝ったとは言い切れなかった。だから今回は後輩たちの手前、実力で勝ってみせるよ」

　一年越しの因縁の火蓋が切って落とされた。