千鶴の決意　作：はにわ

　
ーー翌日。
金曜日の定期デュエル。
観客席に腰を下ろす透矢と真希の表情は浮かない。

「千鶴ちゃん・・・なんで、何も話してくれないんだろ」

「・・・さあな」

「今までこんなことなかったのに」

トイレに席をはずしている千鶴。

その間、透矢と真希は虚ろな表情で千鶴を案じていた。

ーーあの昼食後の透矢と千鶴との出来事のあと。
気分の不調を訴えた千鶴は、そのまま早退することなった。
もちろん、透矢と真希は授業が終わった後で何を差し置いても、真っ先に千鶴の見舞いに向かったが、千鶴は会ってはくれなかった。
当然メールや電話をしてもなしのつぶてである。

そして翌日の今日。
千鶴は透矢と真希を置いて、一人アカデミアに登校。
１年の教室に乗り込んだ二人に対しても、『何でもない』、『心配しないで』と精気を失ったような表情で繰り返すばかり。

今まで何かがあれば真っ先に自分たちに話し、頼ってくれた千鶴。
特に引っ越して離れていた透矢とは違い、真希はこれまでずっと千鶴とそんな風に過ごしてきたわけだから、より戸惑いが大きい。

「ーーねぇ、なんか心当たりないの、透矢？」

「・・・」

「昨日、千鶴ちゃんが早退したことを教えてくれたの透矢だよ。
あのとき、あんたも授業に遅れてきたけど、ひょっとして何かあったの？」

ーー実は透矢は昼食後に千鶴と会っていた事を真希に話していない。
隠しているわけではなく、透矢自身、何故千鶴が急に様子がおかしくなったのかが理解できず、
自分なりに考えをまとめてから話そう、と思っていたのだ。

ーーしかしいくら考えても分からない。
だからこの機に真希に話して意見を聞こうーーと、そう思った時。

「ーーあら、真希。
まだこんなところにいたの？」

「え？
刹那？」

「会長さん」

「こんにちは、透矢くん」

不意に姿を見せたのは刹那。
珍しく一人である。

「それより真希？
次はあなたの番でしょ？
早く行かないと、ペナルティとられちゃうわよ」

「え？
・・・あ、ホントだ。
ぼーっとしてて忘れてた。
ありがと、刹那！」

「早く行きなさい」

「うん。
じゃ、また後でね、透矢」

「あ、ああ・・・」

デュエル試験。
真希の番であると、わざわざ知らせに来てくれた刹那。
真希は慌てて駆け出し、デュエル場へと向かう。
そして、真希が座っていた場所に、代わりに腰を下ろした刹那。

「一緒に見ていい？透矢くん」

「全然構わないよ」

「そ、よかった。
今日は注目の対戦が組まれているから、是非透矢くんと見たかったの」

「注目の対戦？」

「ふふ・・・」

思わせ振りに言いながら笑う刹那。
透矢は首を傾げる。

「・・・そう言えば千鶴のやつ、遅いな？
ひょっとして、また気分でも悪くなったんじゃーー」

「あら、鳴瀬さんもこれからデュエルのはずよ」

「え？
そ、そうなのか？
でも俺たちにはトイレに行く、ってーー」

「くすくす・・・」

笑う刹那。
刹那がこういう風に笑うときは、何か裏がある。
透矢も刹那とよく会っているせいか、何となくではあるがそういうことが分かってきたようだ。

「実はね、透矢くん。
朝、鳴瀬さんが私のところに来たの」

「え、千鶴が？！」

「私にお願いがある、ってね」

「お願い・・・会長さんに？」

「いつもしどろもどろな話し方だったのにね、今日は思い詰めた表情ではっきりと言っていたわ」

「会長さん、それでお願いって？」

「ん～、あそこ見て、透矢くん」

「はぐらかすなよ、会長さん！
千鶴の頼みって？」

「いいから。
あそこ見てみて？」

「む・・・っ」

話し途中にある方向を指差す刹那。

二度促されて、仕方なく目を遣る透矢。
すると透矢は目を疑った。

いくつかに区分けされたデュエル場。
その１つに佇む二人の姿。

それは間違いなく千鶴と真希の姿なのであったーー。