間章 生徒会長 神楽坂刹那③　作：はにわ

　
「ーー私は生徒会で書記を務めます朝霧 地影（あさぎり ちかげ）と申します。
以後、お見知りおきを」

「あ、どうも・・・」

生徒会・書記を名乗る地影なる女子生徒。
眼鏡の奥から睨むような視線が、透矢を少し後ずらせる。

「如何にここがデュエル・アカデミアとはいえ、こんなところでデュエルとは感心しませんね。
そのお陰でこんな騒ぎになっているんですよ」

「あ、すいません・・・」

「あ、と、透矢お兄ちゃんは、わ、私の事、助けようと・・・それで、その・・・」

つぶらな瞳が発するその叱咤に、透矢は素直に非を認めるが、千鶴がそこへ割ってはいる。
しかし地影の睨みが怖いのか、気が弱い千鶴の声はどもってしまった。

「まぁ、いいじゃねぇか！
話を聞くと、あの流石がその子をいじめてて、そこの少年が止めに入った、ってことじゃないか！
見てみぬふりするような奴より、ずっと立派だよ！」

「ま、まぁ・・・確かに。
流石くんはデュエルの実力は中々という話ですが、素行の悪さも問題にはなっていました」

「だろ？
そいつは悪くないよ！」

「いや、私はたとえどんな理由があろうと、アカデミアのキャンバスでデュエルなど・・・もが？！」

「あーうるさい！
地影はちょっと細かいんだよ。
あ、刹那！
ギャラリーは大体散らせたよ」

「ええ。ありがとう、炎魅子」

すると透矢を庇うものがもう一人現れた。
男のような口調で地影をあっさり制したその女子生徒に、刹那はその名を呼びながら微笑む。
炎魅子と呼ばれたその生徒が、今度は透矢の前に出る。
男の透矢よりも頭一つ高い背が、彼を見下ろしてくる。

「よぉ、転入生！
あたしはここの生徒会、副会長、紅月 炎魅子（こうづき えみこ）ってんだ。
よろしく頼むよ、王子様」

「生徒会・・・副、会長？」

握手を求めるように手を差し出しながら、八重歯を伺わせながら豪快な笑顔を見せる炎魅子。
透矢も最初は量はかるように、ゆっくりと握手を交わしたが、その単語を聞いてまた目の色を変える。

「副会長、ってことはひょっとしてあんたも強いのか？」

「あったりまえさ！
なんなら今からやってみるかい？」

「本当か！？」

「あんたのデュエル、熱かったからねぇ。
あたしとどっちが熱いか決めようじゃないか」

ウマが合うのか、握った手を上に上げて、まるで腕相撲のように握り変える二人。

「あら、ずるいわ、炎魅子。
私もたまにはデュエルしてみたいわ」

「・・・水花も」

そこへ便乗する刹那。
そして刹那に寄り添う小さな女の子も、人差し指をくわえながらおずおずと意思を示す。

「ーーおほんっ！んんっ、んんっ！」

しかしそこへ地影の大きな咳払い。
それを聞いた刹那と炎魅子の動きが止まり、笑顔が引きつる。
水花は、不思議そうに周囲を見るばかり。

「・・・というのは冗談。
そうよね、炎魅子？」

「ちっ・・・わぁーったよ」

「まったく！」

刹那はわざとらしく態度を入れ替え、炎魅子は不満そうに透矢から離れる。
地影はこめかみを強くさすりながら、込み上げる怒りを押さえた。

「それじゃあ、私たちもそろそろ解散しましょう。
いつまでもキャンバスに陣取っていては邪魔だもの」

「そっか。
ま、デュエルなんていつでも出来るしな！
近いうちに絶対やろうぜ！」

「近いうちに・・・そうね」

解散を促す刹那に、透矢は一瞬残念そうにしたが、すぐに納得して笑顔を見せる。

すると刹那がなにかを含んだような笑みを浮かべるが、透矢には特に気にかからなかったようだ。

「それじゃ、みんな。
校舎に入りましょう。
あ、地影。
悪いけど、透矢くんを職員室に」

「分かりました」

「それじゃあまたね、透矢くん。
それとあなたも」

「またな、会長さん！」

「は、はい！
お、お疲れさまですぅ！」

刹那の声に透矢は普通に返事するが、千鶴は声が裏返っていた。
すると刹那は上品な笑顔を見せつつ踵を返し、水花を引き連れ校舎へと先に向かう。
炎魅子も透矢に軽く言葉を交わし、刹那の後を追った。
地影は刹那の言葉通り、透矢の元で留まる。