間章 生徒会長 神楽坂刹那②　作：はにわ

　
「さっきのデュエル、良かった。
特に最後のターンのカードの繋ぎ（コンボ）・・・、そしてそのための伏線。
あれは普段から慣らしておかなければ、中々出来ることではないわ」

「そ、そうか・・・？」

「それにあのコンボはパターンの１つでしかないわね？
きっと君の中ではまだいくつも、そのデッキを『動かす』ためのパターンがあるんじゃないかしら？」

「ぱ、パターン・・・？
いや、そんな事考えたことないけどーー」

「うふふ・・・なるほど、指が自然に動くってことね。
君のさっきのデュエルは一片の迷い、澱みは感じられなかった。
状況に合わせて、自然に数あるパターンの中から最良の策をーー」

「お、おいおい、ちょっと待ってくれ！
ていうかあんた誰なんすか？」

まくし立てるように話しながら、距離を縮める女子生徒に、透矢はたまらず両手を壁にするようにしてそれを遮った。
そして素朴な疑問を耳にして、女子生徒はようやく我に返ったように、口を手で隠しながら身を引いた。

「あら、ごめんなさい。
自己紹介がまだだったわね。
私はーー」

「か、かかか神楽坂会長！」

「どわぁ、千鶴！？
いきなり大声出すなよ！」

女子生徒が名乗ろうとしたその時、突然背後から素っ頓狂な声を上げた千鶴に驚かされる透矢。

「と、透矢お兄ちゃん、こ、この人はこの学園の生徒会長、神楽坂会長です！」

「生徒・・・会長？」

「このアカデミア最強のデュエリスト・神楽坂刹那会長です！
こ、こんな近くで見れるなんて感激です！」

「学園・・・最強デュエリスト？！
ひゃあっ、マジかよ、それ！」

取り乱しながら感動を露にする千鶴に、透矢もまたその単語に大きく反応した。
すなわち『最強』という言葉である。
最初は無造作に近づいてきたその生徒会長に警戒していた透矢だが、それを聞くや湧き上がる期待を前面に表したような笑顔で向き合う。

「えっと・・・生徒会長、さん？
どうも、俺はーー」

「遊戦名 透矢くん、ね？」

「あれ、俺の名前、知ってんすか？」

「もちろん。
あなたは今日からこの学園の生徒。
生徒の事を把握するのは、生徒会長として当然の職務よ、透矢くん」

名乗る前から名前を呼ばれ、素直に感心する透矢。
だがすぐに表情を戻し、今度は透矢が会長に押し向かっていく。

「会長さん、この学園の最強デュエリスト、って本当か？」

「どうかしら？
私は自分で自分を軽々しく最強だなんて言いたくはないのだけど・・・、
でも生徒の代表として恥ずかしくないデュエリストであるつもりよ？」

「あははは、転向初日からそんな人に会えるなんてツイてるぜ！
どうだ、会長さん！
今から俺とデュエルしてくれないか？」

「ーーと、透矢お兄ちゃん！？」

透矢の何気ないその一声に、場は一瞬静まり返る。
すぐに囁かれるのは『無謀』、『命知らず』、などの声ーー。

「くす・・・。
随分、積極的なのね、転入生くん。
でも、そういうの嫌いじゃなくてよ」

「お、話が分かるじゃん、会長さん！
じゃ早速、ここでやろうぜ！」

「ふふ、そうね。
せっかくのお誘いですもの。
乗らないわけにはーー」

意気投合・・・しているのかどうかは分からないが、なしくずし的に状況は一直線に進みかけたその時。
刹那の背後から、いかにもわざとらしい咳払いが、それを制止した。
すると刹那は小さく舌打ちする。

「おほん・・・刹那さん？
まさかとは思いますがーー」

「あ、あら・・・地影。
もちろん、分かってるわよ。
生徒会として、こんなところでデュエルなんて非常識よね？」

「分かっているなら結構です。
まったく・・・油断も隙もあったものじゃないです」

度の強い眼鏡を何度も指で位置を直しながら、冷めた声で威嚇するように話す地影という生徒。
刹那も苦手なのか、彼女に合わせている印象である。