会長 神楽坂刹那の熱望　作：はにわ

　
「ズバリ・・・男が欲しいわ！」

刹那がそう言い放った瞬間、炎魅子は口に含んだオレンジジュースを噴出し、地影は全員に飲み物を渡して席に戻ろうとしたところで、すっ転ぶように地面に伏す。

「炎魅子・・・汚ない」

「もう、炎魅子ったら何してるの！
水花？こっちいらっしゃい。
拭いてあげるから」

ただ一人反応を示さなかった水花。
だが炎魅子が吹き出したオレンジジュースが水花にかかり、眉を寄せて表情を作る。
刹那も咳き込んでいる炎魅子を非難したあと、水花にこっちに来るように促した。
すると水花はぬいぐるみを抱えたまま、とことこ、と歩いて刹那のデスクまで行くと、その膝元に座った。
小さい身体だからそこまで重みも感じないのだろう。
刹那は水花を抱き寄せながら、汚れた部分をハンカチで拭っていく。

「お、男、って、いきなり何を言い出すのさ、刹那！」

ようやく呼吸が落ち着いてきた炎魅子が刹那に憤る。
起き上がった地影は、炎魅子がテーブルに撒き散らしたオレンジジュースを拭っている。
真面目な地影だけに抜かりないが、刹那の発言に動揺はしているようだ。

「あら、そんなにおかしいかしら？
だって折角の機会じゃない。
私たち女ばかりで編成してもつまらないじゃない」

「つ、つまらない、って刹那・・・あんたねぇ」

「私だって華の十七歳の女。
好きな男の人と青春を満喫したいわ。
しかもそれがめくるめく異郷の地なんて、素敵だと思わない？
ねー、水花？」

「・・・？」

「不潔です、刹那さん！
私たちの本分は学業に専念し、将来のために努力・邁進することのはずです！
それを男にうつつを抜かすなど・・・」

「いくら将来、希望の未来が切り開けたとしても、隣に誰もいないんじゃつまらないわ。
恋と勉強、両立出来たら素敵だと思わない？」

刹那の言葉に珍しく言葉を荒げていた地影も、まるで言い負かされたかのように言葉に詰まってしまう。
だが水花には意味が分からないらしく、不思議そうに刹那の顔を見ているだけだ。

「ま、まぁ否定はしないよ。
確かに青春時代に、浮わついた話の１つや２つ、あっても悪くはないさ」

「え、炎魅子さん、あ、あなたまで・・・」

「そこで、さ。刹那。
あんたにはその肝心の、気になる男、ってのはいるのかい？」

話を聞いて炎魅子は理解を示していた。
地影はまだ戸惑っているようだが、それでも何とか席について、炎魅子の質問に対する刹那の言葉を待つ。

「それがね・・・悲しいことに」

そう言いながら首を横に振る刹那。

「んじゃ、刹那の好みの野郎、ってどんな奴さ」

炎魅子が更に突っ込む。

「もちろん、私にデュエルモンスターズで勝てる人、かしら」

「あー、そりゃ無理だ。
そんな甲斐性もった野郎がいたら、あたしだってほっとかないさ」

「刹那さんも炎魅子さんも！
自分の操をたてる殿方が、ただデュエルモンスターズが強い、というだけでいいんですか！？」

刹那と炎魅子の言葉に、顔を赤くしながら憤慨するように地影。
すると二人はすぐに頷いた。

「あたしたちはデュエルモンスターズが恋人さ。
そのあたしたちが好きになる野郎、ってなれば、あたしたちに勝てる奴、しかないだろ？」

「そうよ、地影。
この業界に入ったからには、共にデュエルモンスターズで高め合える存在を、一生の相方に選ぶのは当然よ」

炎魅子、刹那に真剣に語られて地影は思わず混乱した。
あれ、自分がおかしいのか？と。

「でもさ、刹那。
やっぱりその条件はキツいんじゃないかい？
このアカデミアに、あんたに勝てる奴なんて・・・」

「いるかもしれないわよ？
ほら、例の・・・」

「例の・・・って、あの転入生のことかい？
でもあいつはどうかねぇ？」

刹那が気に留めている人物。
それは炎魅子も知っているが、納得はしていない様子だ。

「地影、彼の成績はどう？」

「この一ヶ月を見ると、学業成績は平均よりやや下、というところでしょうか。
ただ実技試験の評価は高いようです」

「ふむ・・・実戦タイプ、ということかしら」

刹那は水花の頭を撫でるようにしながら地影の報告を聞く。

「ま、学業は後でどうにでもなるさ。
やっぱり肝心の実技試験で勝てなきゃ、上には上がれないからね」

「そうね・・・でも、どうしたものかしら」

炎魅子の言葉に頷きながらも考える刹那。
そんな時である。
不意に入り口の扉を外からノックする声が聞こえ、一同がその方向を向いた。