３ｒｄデュエル 秀才・地影の堅牢デッキ③　作：はにわ

　
「『災厄龍の石板』・・・何なんだ、あれはーー」

地影の背後に現れた巨大な石板。
その回りから紫色の炎のようなものが覆っていて、いかにも危険な雰囲気を感じさせる。

デュエルモンスターズは古代エジプトの先人たちが遺した、石板や壁画に刻まれた様々な怪物の図柄。
それを今の世に、カードとして甦らせたものとされる。

地影の発動した石板は、正にそれをイメージさせるものではなかろうか。

「一体、あれにどんなモンスターが封印されているんだ・・・？」

因みにこのカードの事は、昨晩送られてきた地影のメールに詳細が記されている。
しかし相手のデッキを知り、対策を立てて戦うのは、
自分のデッキのスタンスを大幅に損ねると思い至った透矢が、敢えて読むのを控えたのである。

故に透矢は地影のデッキについて、全く把握していないと言ってもよい
。

そうとは思いもしない地影はデュエルを進めていく。

「ーー私は、手札からモンスターを守備表示で召喚！
『守護者（ガーゴイル）の石板』！」

地影がモンスターをセットすると、今度は地影の目の前の地面から突き出るように現れた石板。
地影の背丈よりもやや高いその石板には、蝙蝠の羽が生やし、頭から角が突き出たモンスターが描かれている。

レベルは４、守備力は２１００、とこのレベルではかなり高い守備力を誇る。
一方で攻撃力はわずか５００であり、どうやら完全な守備要因である。

「更にカードを３枚セットして、ターンを終了します！」

そしてリバース・カードが３枚。
高い守備力のモンスターに、３枚のリバース・カード。
一見で攻めにくい雰囲気を相手に与える。
何より地影の背後のあの巨大な石板。
あれが未だどんな意味を為すのか、透矢は把握していない。

「俺のターン、ドロー！」

ターンが回り、とにかくカードをドロー。
これで手札は５枚。
その内、２枚は『三騎士 蒼き槍迅』。
これは地影に情報アドバンテージとして知られている。
透矢はその内の１枚を手に取る。

「俺は、モンスターを攻撃表示で召喚！
来い、『三騎士 蒼き槍迅』！」

前回の凌斗との戦いでの活躍が記憶に新しい『蒼き槍迅』。
素っ気ない雰囲気を持つ、槍使いの女戦士が姿を現す。
レベルは４、攻撃力は１９００だ。

「蒼き槍迅の効果を発動！
このモンスターの召喚に成功した時、手札の蒼き槍迅を相手に見せることで、デッキから蒼き槍迅を手札に加えるんだ」

前回は発動条件が噛み合わずに使えなかった効果。
それによりデッキに眠る３枚目の蒼き槍迅までもが手札に加わえられるのだ。

「ーー罠、発動します！」

「いっ！？」

「ーー『誘発同盟』！」

だが地影もこの瞬間を捉えて、３枚のリバース・カードの内の１枚を発動する。

「誘発同盟は相手がモンスターを召喚した時に発動する罠カード。
私の場に存在するレベルが４以下のモンスターを指定し、そのモンスターと同じ名前のモンスターをデッキ、または手札から特殊召喚します！」

「お、マジか！
やべぇ、そのカード欲しい」

「私はデッキから、２枚目の『守護者の石板』を守備表示で特殊召喚！」

誘発同盟の効果により、２体目の守護者の石板が地影の前に突きだす。
守備力は言うまでもないが、同じ２１００。
２枚の鉄壁が地影を完全にガードする。
このカードは同名カードを多く使う透矢も是非欲しいカードだ。
しかし思わず発した声からすると、どうやら持ってはいないらしい。

「俺もデッキから蒼き槍迅を手札に加えるぜ」

透矢も蒼き槍迅の効果で、デッキから別の蒼き槍迅を手札に加える。
これで手札とフィールドに合わせて３枚の蒼き槍迅が揃ったことになる。

「更にトライ・サーチャーの二つ目の効果！
こいつをリリースすることで、俺はこのターン、『三騎士』モンスターに限り、もう一度通常召喚出来る！」

（サーチ効果に加え、召喚補助・・・ですか。
便利なモンスターですね）

地影は頷きながらトライ・サーチャーという利便性に優れたモンスターの能力に感心する。

トライ・サーチャーの効果が発動されて、トライ・サーチャーはそのコストとしてリリース、墓地へ送られた。

「俺は更に蒼き槍迅を通常召喚！」

透矢の場にも現れる２体目の同名モンスター、蒼き槍迅。
その２枚目の蒼き槍迅はやる気がないように、足を組んだ立ち姿勢で欠伸をしている。
自慢の槍も地に突き立てたままで、戦う姿勢を感じさせない。

攻撃力は同じく１９００。
だが地影の守備モンスターにはわずかに及ばない。

「よし、行くぜ！
この瞬間、リバース・カード発動！
『トリニティ』！」

だが透矢は得意とする戦術を披露する。
罠カード『トリニティ』は場に同名モンスターが２枚存在するときに、３枚目を特殊召喚するカード。

「この効果で俺は手札から３枚目の『蒼き槍迅』を特殊召喚！」

蒼き槍迅が場に３枚揃えば、Ｔ・Ｆ召喚へと移行できる。
透矢の戦術が決まるか、と思われたがーー。

「ーー抜かりなく！
カウンター罠カード！
『魔宮の賄賂』！」

地影が眼鏡の位置を指で直しながら、２枚目のリバースカードを発動する。

「か、カウンター罠カード！」

「『魔宮の賄賂』は相手の魔法・罠カードの発動を無効にします」

「ちぇ、簡単にはやらせてくれないな」

舌打ちしながらも何故か笑みを見せる透矢。
簡単には通らないことに、むしろやりがいでも感じたのか。
トリニティは魔宮の賄賂によって無効となり、効力を発動しないまま墓地へと送られた。

「『魔宮の賄賂』の効果により、遊戦名くん、カードを１枚ドローして下さい」

「そういやそうだったな、カード、ドローっと」

魔宮の賄賂は魔法・罠カードの両方を無効にするが、その代償として相手に新たなカードをドローさせてしまうのだ。
しかし自分側から何かコストを払う必要はないため、その点を評価し、好む者も少なくない。

「うーん、なら作戦変更だ！
俺は手札から装備魔法『三剣の結束』を発動！
これをえーっと、蒼き槍迅『Ａ』に装備」

第１の戦術は潰されたため、第２案を採用する透矢。
それが装備魔法『三剣の結束』。
凌斗との戦いで『三剣の誓い』というものがあったが、それに似たエンブレムが最初に召喚された蒼き槍迅に装備される。
透矢は二つのカードの区別を『Ａ』、すなわち記号でしようとしたため、気に入らないのか蒼き槍迅二人が透矢を睨み付ける。

「あ、あはは・・・え、えーと、装備モンスターの攻撃力が４００アップだ！」

透矢が愛想笑いで誤魔化しつつ、効果を説明する。
蒼き槍迅Ａの攻撃力は２３００に上昇。
この時点で地影の壁モンスターの守備力を上回った。

「更に手札から同名モンスターを公開することで、エンドフェイズまで更に４００アップだ！」

手札の蒼き槍迅を見せながら更に装備魔法の効果を使用。
これで蒼き槍迅の攻撃力は２７００。
蛇足かもしれないが、攻撃力が高いことに越したことはない。

「バトル、行くぜ！
蒼き槍迅Ａで、右の守護者の石板を攻撃する！」

そうして下された攻撃命令。
不機嫌そうな蒼き槍迅だが、戦士として忠実にマスターの命に従い、
俊足でしなやかな身体と共に突撃した槍が、右の守護者の石板を粉々に打ち砕いた。

すると地影は意外そうな表情を見せる。

（まさか攻撃してくるとはーー私のモンスターの事は知ってるはずなのに？）

地影のモンスターは守備表示なのでダメージはない。
だからダメージを与えられないことを知りながら、バトルを仕掛けた透矢が意外だったのだ。

何故なら、これは地影の望む通りの展開だからだ。

２体の守護者の石板の内、１体が砕け散った。
しかし同時に地影の背後の巨大な石板に『亀裂』が走ったことに透矢は気付いていない。

「さて、俺はカードを１枚セットしてターンを終わるぜ」

もう１体の蒼き槍迅の攻撃力は素の１９００のままのため、もう１体の守護者の石板は破壊できない。
だが１体は倒したのに満足し、透矢はターンを終了させた。

ーーが、しかし。

「待ってください。
あなたのエンドフェイズ、破壊された守護者の石板が効果を発動！」

「え？」

「守護者の石板が破壊されたターン、私の場に別の守護者の石板が存在する場合、エンドフェイズに復活します！」

破壊されたはずの石板が再び地より突きだす。
しかし復活しただけではない。

「この効果で復活した守護者の石板は封印が解かれ、攻撃力と守備力が入れ替わります！」

「攻撃力と守備力が・・・入れ替わる？！」

復活した守護者の石板は攻撃表示で特殊召喚されている。
すると石板が砕け、中から封印されていた『悪魔（ガーゴイル）』が解き放たれた。
黒い身体、牛の顔に２本の角、そして長く延びた尻尾。
攻守が入れ替わった結果、攻撃力が２１００、守備力が５００となった。

「守護者の石板は『同一ターン』内に倒さないと何度でも復活しますよ？
何度でも・・・です」

敢えてその部分を強調するように言った地影。
地影の堅牢なる戦術、それはまだ始まったばかりであるーー。