刹那の権力　作：はにわ

　
ーー翌日。
透矢は今日、実技試験に加えて、
生徒会四天王、天才少女の水花とのデュエルを控えている。
しかし三度の飯よりもデュエルが好きな透矢には、緊張どころかむしろ今日という日が楽しみであり、
朝の登校時も千鶴や真希との会話はそれ一色なのだった。

ーーそんな折、予期しない出来事が待っていた。
朝の登校だからアカデミアの校門を通る者は、中に入ろうと潜る者だけのはずであるが、
外に出ていこうとするブルーのグループ。
そのグループと透矢たちが向かい合ったその瞬間、突如その者たちは千鶴目掛けて走り込んできた。

「てめぇっ！
よくも生徒会に言いつけやがったな！？」

ただでさえ気の弱い千鶴である。
目の色変えた男たちが走り迫ってくれば、強く怯えて身を縮めてしまう。
しかしそこには透矢と真希。
二人が千鶴の前壁となって、駆け寄ってきた者たちを阻んだ。

「おいおい、いきなりなんだよ」

「どけよ！
俺らはそいつに用があるんだ！」

「見りゃ分かるさ。
だけど男たちが揃って、千鶴一人に掴みかかる気かよ？」

「うるせぇな、てめぇは引っ込んでろ！」

突然の物々しい雰囲気に、他の生徒たちの注目を集める。
明らかに冷静でない男たちに、透矢は毅然とした態度で臨む。
例え相手が暴力的手段で来ようとも、一歩も退かない構えだ。

「ーーあ！
あなたたち、一昨日の！」

「知ってるのか、真希？」

「こいつら、千鶴ちゃんを苛めてた奴等よ！」

「苛め、だと？」

すぐに真希は思い出した。
彼らは千鶴を常習的な嫌がらせをしていたグループである。

「そういや、お前ら、確か流石の周りにいた奴らか？」

透矢も思い出した。
透矢と凌斗の二度に渡るデュエルの際に、そのいずれの時も後ろで一際熱心な応援をしていた者たちだ、と。

「何なんだよ、理由を話してくれよ。
千鶴がお前たちに何かしたってのか？」

「そいつが・・・そいつが、俺たちのことチクったせいで・・・俺たちはーー！」

「なんだよ？」

透矢はこういう時、以外に冷静な一面を見せる事がある。
喧嘩腰に来る相手に、自分もそれに倣ったりはしない。
とりあえず相手の言い分を聞いて、それからこちらも態度を決めようということだ。

「俺たちは・・・退学になっちまったんだよ！」

「退学・・・？」

グループの一人がそう叫んだ瞬間、グループの全員が途端に悲壮な表情を見せる。
彼らの言い分を要約すると、千鶴が彼らに嫌がらせした事を生徒会に言い付け、その結果彼らは退学になったということかーー？

「わ、私・・・ち、チクったり、なんかしてない・・・」

当の千鶴はそんなことをしてない、と訴える。

「嘘を付け！！
だったら何で俺たちが突然、退学になるんだ！！」

「ひぅ・・・う」

怒号を浴びせてくる男に、千鶴は思わず真希にすがり付く。
そんな千鶴を受け止めた真希は、一気に怒りを募らせる。

「ーー何言ってんのよ！！
千鶴ちゃんがチクろうが、どうしようが、悪いのはあんたたちじゃない！
いつも千鶴ちゃんに嫌がらせして、当然の報いよ！」

真希の迫力のある激昂と、正論をついた言葉にその男は言葉を詰まらせる。
そして頭を俯かせて、恨み辛み、とも言えるような声を漏らす。

透矢は思いを巡らす。
真希の言うように千鶴に嫌がらせをしていたこの者たちは悪い。
だからと言って、一発退学、とはどうなのだろうか。

凌斗のことも併せて思考に巡らせてみるが、
透矢にとっても大事な幼馴染みの千鶴に執拗な嫌がらせをしていたというこの者たちに、かなぐり捨てて同情する気持ちにまでは至らなかった。

「ーー遊戦名先輩、千歳先輩！」

「流石！」

「流石くん」

すると騒ぎを聞き付けた凌斗が場に混ざる。

「お前ら・・・どうした？
先輩たちに何やってんだよ？！」

凌斗が自分の元・取り巻きたちを一瞥してそう投げ掛ける。
すると弱々しい目で見られて、凌斗は思わず気持ちがたじろぐ。

「さ、流石さん・・・お、俺たち、退学なんですよ」

「た、退学・・・？
お前たちがか？」

「は、はは・・・流石さんのこと、あれだけ退学野郎、って馬鹿にしてた俺たちが退学になっちゃ、笑えないですよ・・・ははは」

自虐的に物を語るその者。

「お、お前たち何したんだ！
なんで退学なんかにーー」

「昨日、生徒会に呼ばれて・・・『デュエル・キラー』とデュエルして・・・負けたら、この有り様っすよ」

「『デュエル・キラー』・・・だと？
生徒会四天王・・・」

凌斗が掴みかかるようにして理由を聞くと、明かされた事実。

『デュエル・キラー』。

その単語を聞いた凌斗が並みならぬ反応を示し、また周囲の者たちが突然関わりを拒否するようにその場から立ち去り始める。

「『デュエル・キラー』・・・？」

透矢がその言葉を繰り返した。

『殺し屋（キラー）』などと、穏やかでないその言葉が何を意味するのか。
透矢はいよいよ、生徒会の『闇』について知ろうとしていた。