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HOME > 遊戯王SS一覧 > 3.理想と現実

3.理想と現実 作:お野菜のデーモン

『……なぁ、聞いたか?この前の事故…不注意だったらしいぜ、深夜「一人で」帰っていて…』

違う…

『大変申し訳ありません。彼は今面会を…あら、失礼なことをお聞きしますが彼とはどのような…え、もう帰る?は、はぁ…では、お引き取りください』

やめてくれ…

『おめでとう。お前のメジャーリーグ昇進が決まった。…何で今かって?あー、先日の事故で…離脱者が出た。その穴埋めでマイナーリーグから1人出すことになったんだが…お前、ずっと前からメジャーリーグに行きたがってただろ?だから特別に推薦しといた…念願のメジャー昇進がこんな形で決まったのは不本意だろうが、良かったな。とにかく二度とここには戻ってこないつもりで思う存分やってこい!』

───────────────────────

死が急速に迫ってくるのを感じ、足が竦んで頭が真っ白になる。

気づけば俺の身体は、宙に投げ出されていた。

他でもない、阿笠遊理の手によって。

「───え?」

簡単な話だ。俺と車が衝突する前にアイツがその間に割り込んで、俺を投げ飛ばしたんだ。


どうして?一体なんのために?そんな疑問が頭の中に浮かんでは消えていく。
そして思考が目の前の現実追いついてくる前に…

阿笠から飛び散った鮮血が、コンクリートを赤く染めた。

───────────────────────
あれから1日が経ち、阿笠遊理の事故は既に世界中に広まっていた。
『深夜に一人で帰宅していた所ちょっとした不注意で車道に飛び出し、そのまま車に轢かれた。幸い一命は取り留めたものの、リーグ復帰は絶望』
これが表向きの事件の経緯…。

でも現実は違う。
アイツは酔ったまま車道に飛び出してしまった俺を助けてそのまま車に轢かれた。

(…俺のせいだ…)

俺が、終わらせた。
俺がスターの選手生命を終わらせた。
面会は断られ、謝罪すら許されない。

罪の意識が背中を這い登る。こうなったら、いっそのこと俺も…

『君を尊敬している。君は今のデュエリストが持っていない、だけど必要なモノを持っている。
次会うときはデュエルフィールドで会おう』

……違う。助けられた命を無駄にするな。掛けられた期待を裏切るな。それは、アイツへの冒涜だ。

メジャーリーグ昇進。これは与えられたチャンス。
俺は負けたくない。ただの一度もだ。
目指すは頂上、約束を果たせ。

「…やってやる」

明日数戦ほど、メジャー昇進初のデュエルがある。 …絶対に勝ってやる。
───────────────────────
『おい見ろよ〜アイツの名前!』
『阿笠…え!チャンピオンと同じ名前じゃん!』
『そういや居たよなぁ、マイナーリーグの偽物!』
『チャンピオン離脱したショックで笑い取りに来てんじゃね?』
『マイナーリーグ上がりだろ?どうせ雑魚だな』

(……)

偽物とか、名前とかで弄られるのは慣れてる。
でも、折角の初試合でこういう反応されるのはあんまりいい気分じゃないな。

(まあいい。勝てばそれでいい。そうすれば、誰も文句は言わないはずだ)

デュエルフィールドに上がればもう観客の声はほとんど聞こえない。先行後攻を決めるコイントスの音だけが響き、手札を握る手に力が込められる。

(まずは1勝だ。こんなところで躓いてられない)

そうやって勇み挑んだ記念すべき初戦。結果は…







「赫月に蠢く竜でダイレクトアタック。
『シャドーエンハンス』」

阿笠LP1800→0
射堂LP4000

(あぁぁあぁあああぁぁぁぁぁああっっ!!!)

洗練された相手、客。正直言って大興奮した。
だが結果はこのザマ。なんてこった、無敗の誓いが早くも1敗だ。いやそれよりも、だ。

『ほらなぁ、やっぱ雑魚じゃん!』
『引っ込めボケー!』
『阿笠の名前を汚すな偽物ヤロー!』

観客からのプレッシャーが段違いだ。マイナーリーグでは負けて溜め息が漏れることはあっても、ここまで大ブーイングが飛ぶことはなかった。
これがメジャーリーグ。

(何を勘違いしてたんだ、ここはそう言う世界だ……分かりきっていたハズなのに…!と、とにかく勝たなきゃダメだ。まずは1勝、何としても勝ち星に繋げるんだ…)

閉じ込めていた焦燥がまた顔を覗かせる……
───────────────────────
それからまた数時間後、俺は近くの公園にあるベンチで項垂れていた。結果は惨敗。3戦やって3敗。なんかもう無敗とかそう言う次元の話じゃない。
最後の方は観客も呆れてブーイングの声すら出なくなっていた。

「チクショウ…チクショウ…」

己への不甲斐なさ、情けなさに涙が出る。
どこかで現実を楽観視していた。
俺も本質的にはマイナーリーグの焦げカス共と何も変わらなかったのだ。

「おいみろ、泣いてるぜアイツ」
「ほっとけよ、さっきの試合みたろ?」
「ははは、オモロ。撮っちまおうぜ」

しばらくそうやってると周りに人が集まってくる。
惨めだ…本当の本当に惨めだ…

(それもこれも、勝たなきゃどうにもならない……でもどうすれば…)




「…お、おい…アレ…」
「嘘だろ…?なんでここに…」



…?なんだ…?周りの奴らが急に静かになった。
一体何が…



「やぁ」
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