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2.前後不覚 作:お野菜のデーモン
(B組用デュエルルーム…懐かしいなぁ、ここに来るのは何年ぶりだっけ)
「オッ、阿笠ちゃんじゃない!随分久しぶりだなぁ、でも、また会えて嬉しいぜ!」
お久しぶりです。と教官に挨拶しつつ周囲のデュエリストを観察する。
彼ら彼女らはB組。プロ…と呼べば聞こえはいいが、その大半は一線級のデュエリストには遠く及ばない有象無象の集まり。今年も、来年も、彼らはこのB組デュエルルームにいるのだろう…それまでマイナーリーグに居続けたらの話だけど。
「いやはや、最近のはレベルが低くて困るよ。お前みたいなダイヤモンドの原石はそうそう見つからないってことかねぇ?」
「あはは、そうみたいですね。でも…」
「おい早くしろよ2号ー」
「2号って言うなあぁぁぁ!!!」
僕が指差す先には、対戦相手に怒号を飛ばす1人のデュエリスト。彼の名前は…
「…阿笠か…って、ややこしいな。同じ名前だから気になるか?それとも、まさかお前…」
「ち、違いますよ!こほん…彼、一流ですよね?」
デュエルタクティクス、カードの選択、そして身に纏うオーラとでも呼ぶべきもの…どれをとっても彼の実力は既にマイナーリーグの枠を超えている…少し怒りっぽそうなのが玉に瑕だけど。
「なんであの実力でマイナーリーグ止まりなのかは知りませんけど…少なくともここで燻らせてていいようなデュエリストじゃありませんよ、彼は」
「…まぁ、色々とな…ん、帰るのか?」
「はい。これ以上ここに居てもなんの収穫も無さそうなので……また来ますね」
それだけ言って僕はその場を後にした……んだけど
───────────────────────
(あんなにカッコつけて帰ったのに…も、もう戻ってきちゃったよ…)
数時間後、財布を落としてたことに気付いた僕は教官に特別に通してもらってまたB組デュエルルームに来ていた。
…ちなみに、その事を伝えたら教官にものすごく笑われた。
(あったあった。…うん?)
…どこからか物音がする…シュミレーションルームからだ。少し開いたドアからは明かりが漏れている。そっと、僕は中を覗いて見た。そこには…
「キケンデスキケンデス。テキセツナキュウソクヲトルコトヲスイショウシマス」
「うるさい、次…!!」
あれは、阿笠遊理?
「俺は焦げカス共とは違う。誰よりも努力して、誰よりも上を見てる…なのに…チクショウ!なんで上手くいかねぇんだ!!」
……やっぱり、彼は一流だ。それに値するだけの価値観を持って、デュエルに臨んでいる。
…とはいえ、オーバーワークは見過ごせない。
「やぁ」
僕ができる限りの優しい声色でそう話しかけると、まるで鳩が豆鉄砲を食ったような表情で彼はこちらを振り返るのだった。
───────────────────────
「あは、あはははは!いやいやすみません!お見苦しい所お見せして…」
よう、俺だ。ドンケツの方の阿笠だ。
今日も残ってデュエルのシュミレーションをしてたら…嫌な奴に捕まっちまった。
目の前で人の良さそうな笑みを浮かべるアイツ…阿笠遊理だ。
「大丈夫だよ。それよりほら、遠慮しないで好きなものを頼んでくれ」
「ウス!ゴチになります!」
(…チッ。アンタがいなけりゃあ『そういうこと』は俺が言う側なんだよ)
内心穏やかではないが、それを表に出せば不利なのはこっち。内に眠る敵意を悟らせないよう取り繕うが…嫌な奴にヘラヘラするというのは、やはりどこかイライラする。
(にしても、酒か…変なこと口走ったらどうするかな。だからといって『飲めません』なんて口が裂けても言えねーし…ま、何とかなるか…)
…この時酒を飲むことを選択した事、その結果を楽観視した事を、俺は一生後悔することになる…
・
・
・
「いやぁ〜〜〜…ホントのホント、イヤになりますよマイナーリーグってのはぁ!!」
数時間後、完全に出来上がった1人の酔っぱらいの姿がそこにはあった。
俺のことだよ。飲み過ぎた…何も考えられん…
「ごちゃごちゃうるさいヤツばっかし…やりがいないし年俸しょぼいし…あ〜も〜ヤダヤダ!やってられ…おえっ…」
「あ、あはは…でも、君の実力ならすぐにでも」
「あぁ!?チョーシのいいこと言ってんじゃあねーぞ天才ヤロー!!!!いつもそうだ……どいつもこいつも、口を開きゃあ『名前のわりに』だの『期待はずれ』だの…なんか最近は『阿笠2号』とか呼ばれるし…誰も俺を俺として評価しちゃくれねぇ…チクショウ、チクショウチクショウ!!何がマイナーだ、何がメジャーだ!!そもそもプロなんてのがいけねぇんだよ、こんなクソみてぇな制度消えちまえばいいんだ!!!」
「───。」
瞬間、チャンピオンの阿笠の雰囲気が変わった。先程までは和やかだった表情は引き締まり、纏う空気もどこか冷たさを感じる物に。
ここに来てようやく、失言に気づいた俺の全身は急速に萎縮し始める。
「……君が何を思っていても、それがプラスに働くなら何も言わない。そのつもりだった。君は今リーグに正式に登録、雇用されたプロデュエリストだ。何か勘違いをしているようだが、リーグは君を君として正当に評価し、必要としている。そのことに対して本当に今言った気持ちを持っているのなら、君はプロデュエリストでいるべきじゃない」
「………す…すみません……」
軽く溜め息を吐き、阿笠は続けた。
「君を尊敬している。君は今のデュエリストが持っていない、だけど必要なモノを持っている。次会うときはデュエルフィールドで会おう」
その後はお互い特に言葉を交わすことはなく、静かに店を後にするのだった。
「だ、大丈夫?タクシー呼ぼうか?」
「だ〜いじょ〜ぶれすよ〜ぜんぜんへいきっす〜」
(…やっぱりこいつは嫌いだ…高くて安心できるところから好き勝手言いやがって…ほんとは俺の事見下して優越感に浸ってやがるんだ…そんなやつに奢られて、怒られて、かと思えば褒められて…ミジメな気分だ、チクショウ…!!)
もっと早くに気づくべきだった。いつの間にか俺の足は歩道から大きく逸れていたこと、アイツがそれを必死に呼び止めようとしていたこと、大爆音のクラクションは俺に向けられていたこと。だが、全てが遅かった。俺がそれらに気づいた時には……
俺の身体は、宙に投げ出されていた。
「オッ、阿笠ちゃんじゃない!随分久しぶりだなぁ、でも、また会えて嬉しいぜ!」
お久しぶりです。と教官に挨拶しつつ周囲のデュエリストを観察する。
彼ら彼女らはB組。プロ…と呼べば聞こえはいいが、その大半は一線級のデュエリストには遠く及ばない有象無象の集まり。今年も、来年も、彼らはこのB組デュエルルームにいるのだろう…それまでマイナーリーグに居続けたらの話だけど。
「いやはや、最近のはレベルが低くて困るよ。お前みたいなダイヤモンドの原石はそうそう見つからないってことかねぇ?」
「あはは、そうみたいですね。でも…」
「おい早くしろよ2号ー」
「2号って言うなあぁぁぁ!!!」
僕が指差す先には、対戦相手に怒号を飛ばす1人のデュエリスト。彼の名前は…
「…阿笠か…って、ややこしいな。同じ名前だから気になるか?それとも、まさかお前…」
「ち、違いますよ!こほん…彼、一流ですよね?」
デュエルタクティクス、カードの選択、そして身に纏うオーラとでも呼ぶべきもの…どれをとっても彼の実力は既にマイナーリーグの枠を超えている…少し怒りっぽそうなのが玉に瑕だけど。
「なんであの実力でマイナーリーグ止まりなのかは知りませんけど…少なくともここで燻らせてていいようなデュエリストじゃありませんよ、彼は」
「…まぁ、色々とな…ん、帰るのか?」
「はい。これ以上ここに居てもなんの収穫も無さそうなので……また来ますね」
それだけ言って僕はその場を後にした……んだけど
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(あんなにカッコつけて帰ったのに…も、もう戻ってきちゃったよ…)
数時間後、財布を落としてたことに気付いた僕は教官に特別に通してもらってまたB組デュエルルームに来ていた。
…ちなみに、その事を伝えたら教官にものすごく笑われた。
(あったあった。…うん?)
…どこからか物音がする…シュミレーションルームからだ。少し開いたドアからは明かりが漏れている。そっと、僕は中を覗いて見た。そこには…
「キケンデスキケンデス。テキセツナキュウソクヲトルコトヲスイショウシマス」
「うるさい、次…!!」
あれは、阿笠遊理?
「俺は焦げカス共とは違う。誰よりも努力して、誰よりも上を見てる…なのに…チクショウ!なんで上手くいかねぇんだ!!」
……やっぱり、彼は一流だ。それに値するだけの価値観を持って、デュエルに臨んでいる。
…とはいえ、オーバーワークは見過ごせない。
「やぁ」
僕ができる限りの優しい声色でそう話しかけると、まるで鳩が豆鉄砲を食ったような表情で彼はこちらを振り返るのだった。
───────────────────────
「あは、あはははは!いやいやすみません!お見苦しい所お見せして…」
よう、俺だ。ドンケツの方の阿笠だ。
今日も残ってデュエルのシュミレーションをしてたら…嫌な奴に捕まっちまった。
目の前で人の良さそうな笑みを浮かべるアイツ…阿笠遊理だ。
「大丈夫だよ。それよりほら、遠慮しないで好きなものを頼んでくれ」
「ウス!ゴチになります!」
(…チッ。アンタがいなけりゃあ『そういうこと』は俺が言う側なんだよ)
内心穏やかではないが、それを表に出せば不利なのはこっち。内に眠る敵意を悟らせないよう取り繕うが…嫌な奴にヘラヘラするというのは、やはりどこかイライラする。
(にしても、酒か…変なこと口走ったらどうするかな。だからといって『飲めません』なんて口が裂けても言えねーし…ま、何とかなるか…)
…この時酒を飲むことを選択した事、その結果を楽観視した事を、俺は一生後悔することになる…
・
・
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「いやぁ〜〜〜…ホントのホント、イヤになりますよマイナーリーグってのはぁ!!」
数時間後、完全に出来上がった1人の酔っぱらいの姿がそこにはあった。
俺のことだよ。飲み過ぎた…何も考えられん…
「ごちゃごちゃうるさいヤツばっかし…やりがいないし年俸しょぼいし…あ〜も〜ヤダヤダ!やってられ…おえっ…」
「あ、あはは…でも、君の実力ならすぐにでも」
「あぁ!?チョーシのいいこと言ってんじゃあねーぞ天才ヤロー!!!!いつもそうだ……どいつもこいつも、口を開きゃあ『名前のわりに』だの『期待はずれ』だの…なんか最近は『阿笠2号』とか呼ばれるし…誰も俺を俺として評価しちゃくれねぇ…チクショウ、チクショウチクショウ!!何がマイナーだ、何がメジャーだ!!そもそもプロなんてのがいけねぇんだよ、こんなクソみてぇな制度消えちまえばいいんだ!!!」
「───。」
瞬間、チャンピオンの阿笠の雰囲気が変わった。先程までは和やかだった表情は引き締まり、纏う空気もどこか冷たさを感じる物に。
ここに来てようやく、失言に気づいた俺の全身は急速に萎縮し始める。
「……君が何を思っていても、それがプラスに働くなら何も言わない。そのつもりだった。君は今リーグに正式に登録、雇用されたプロデュエリストだ。何か勘違いをしているようだが、リーグは君を君として正当に評価し、必要としている。そのことに対して本当に今言った気持ちを持っているのなら、君はプロデュエリストでいるべきじゃない」
「………す…すみません……」
軽く溜め息を吐き、阿笠は続けた。
「君を尊敬している。君は今のデュエリストが持っていない、だけど必要なモノを持っている。次会うときはデュエルフィールドで会おう」
その後はお互い特に言葉を交わすことはなく、静かに店を後にするのだった。
「だ、大丈夫?タクシー呼ぼうか?」
「だ〜いじょ〜ぶれすよ〜ぜんぜんへいきっす〜」
(…やっぱりこいつは嫌いだ…高くて安心できるところから好き勝手言いやがって…ほんとは俺の事見下して優越感に浸ってやがるんだ…そんなやつに奢られて、怒られて、かと思えば褒められて…ミジメな気分だ、チクショウ…!!)
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