第３８話　きっかけ　作：にしん

　ランダムデュエル大会から数日後。まだまだ夏休みということで課題をのんびり済ませ、後はぼーっとするだけ。田舎なのでやることがない。



というのは嘘であり、商品を補充しながら俺はこのコンビニに広がる“いつもの”光景を、この熱気を感じていた。

要「そうか。サラリーマンはもう夏休み終わったのか・・・」

朝の嵐が過ぎるとおばあちゃんはふらふらと事務所へ戻っていった。おばあちゃんいつもより元気がないなと思いつつ、俺は空になったケースを台車に乗せ、店の裏にある２つの倉庫のうち片方に入れた。次はウォークインで補充だ。

ウォークインの入り口はカードショップ側にあるので、仕切りのカーテンをめくると電気が点いていない、薄暗くて静かなカードショップが少しだけ眺められる。と思いきや昨日の納品で入ってきた飲料の段ボールが積まれているので眺める余裕はない。さっさと整理してしまおう。

恵那「お兄さん。ちょっといいですか？」
要「うむ？」

コンビニの制服から私服姿に着替えた恵那さんに呼ばれる。今日のシフトは昼まで恵那さんだったはず。

恵那「おばあちゃんがいつも飲んでる青汁が切れてるので急いで買ってくるので・・・残業お願いしてもいいですか？」
要「なるほど。健康は大事だな。任せろ」
恵那「あ、ありがとうございます」

そう言って恵那さんはぱたぱたと小走りで出て行った。毎朝あれだけの客を捌けるおばあちゃんの秘訣は青汁か・・・

おばあちゃん「お兄さんや・・・」
要「うむ？」

そしてそのおばあちゃんにも呼ばれる。その顔は何やら真剣そうだ。

おばあちゃん「・・・恵那は行ったの。さて、頼みたいことがあるんじゃ」
要「ふむ」
おばあちゃん「恵那を心配させたくないからのう・・・わたしをこっそり病院に連れて行ってほしいのじゃよ。それで・・・」

なるほど。恵那には倒れそうなのは秘密で。と前に言ってたな。悪化する前に病院か。おばあちゃんの話は俺が退勤した後、おばあちゃんが散歩を装って外出し、目の前にあるバス停から１つ先のバス停で集合といった感じだ。

そういえば恵那さんが心配しすぎて何もできなくなった時って何があったんだろう。とはいえバイト風情が家族情勢を聞くのはなんだか悪い気がしなくもない。

おばあちゃん「・・・前に恵那が心配した時は、わたしがぎっくり腰で動けなくなった時だったかの。治療してもらって動けるようにはなったんじゃが、恵那はここも学校も友人も趣味も、全てをほったらかしてわたしの看護をして、鬱になりかけての・・・」
要「考えすぎたって感じか。確かに今おばあちゃんが倒れたら、恵那さん何もできなくなりそうだ。よく立ち直ったなぁ」
おばあちゃん「そのきっかけが遊戯王であり、お兄さんでもあるからの・・・お兄さんに任せたいのじゃ」
要「なるほどなるほど・・・って俺！？」
おばあちゃん「正確には“シノビのユージ”じゃ」
要「その名は当の昔に・・・まぁいいか。俺の黒歴史が恵那さんを救ったのか・・・複雑だな」

おばあちゃんとおしゃべりをしていたら恵那さんが帰ってきたようだ。自転車を停め、スタンドを立てかける音がして、ぱたぱたと裏口に走る音が聞こえる。そして扉が開くと汗びっしょりの恵那さんがそこにいた。

恵那「た、ただいまっ」
おばあちゃん「お帰り恵那。おおそれじゃよ。この青汁じゃないと落ち着かなくての。毎日飲まないと水蒸気みたいに大爆発しそうじゃ」
要（危険な青汁・・・）

　恵那さんが戻ってきたので退勤する。そして帰る・・・と見せかけて１つ先のバス停へ向かう。バスの時間は・・・おばあちゃんと合流した後に来そうだな。今日も快晴でめっちゃ暑いけど待つしかない。

そして数分後、計画通りおばあちゃんが来た。バスに乗って。俺もそのバスに乗り込む。

要「目の前のバス停から乗ったら恵那さんに怪しまれないのか・・・？」
おばあちゃん「発注始めてたから大丈夫じゃよ」
要「な、なるほど」

普通に会話しているが、おばあちゃんの体調は少しよくなさそうな感じがするな。ひとまずこのバスは病院にも寄るしそれまでゆっくりするか。