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HOME > 遊戯王SS一覧 > 第7話 一区切りして

第7話 一区切りして 作:にしん

要「あっつい・・・そろそろ昼はエアコン必要か」

大学に入ってまで中間テストというものがあるのか。まぁテストは大事だよなぁ。それよりもだ。まだ5月だというのに昼のこの暑さ。アパートの1階だから窓は開けたくないという考えのせいで暑さが部屋中にこもっている。

明日からその中間テストなのだが、俺が勉強しているリビングの炬燵にもなる四角形の机を挟んで対角線上で遊戯王のデッキ調整をしている結花の姿があった。

ピンポーン

結花「おっきたきた。はーい!」
要「ここ俺ん家だが」

そして瀬戸さんもやってきた。が、遊んでいる結花とは違って鞄から取り出したのは参考書やノート、そしてノートパソコン。

結花「静流ちゃん!?」
静流「あれっ、テスト勉強じゃないの?」
結花「テスト・・・ウッ、頭がッ・・・」
要「勉強しろ」

大学1年次はとにかく何故か学部に沿わない教科が必須という大学に入った気にならないような講義ラインナップだ。数学や国語など教養のテストからはまだ逃れられない。バカな結花は頭を抱えて転がりまわる。

静流「・・・高校の時もこんな感じなの?」
要「ああ。バカだしな」
結花「バカっていったほうがバカじゃー!あ“ーーー!!」

とりあえずまずは明日の分のテスト勉強だ。結花も遊戯王を横に置き、しぶしぶと何故か隣の自宅まで参考書やノートを取りに行った。

要「こいつ、遊ぶ気まんまんだったな」
静流「あはは・・・川澄さんとずっと一緒だった要くんの苦労が分かるよ」
要「学部、別のにすればよかったかもなぁ。冗談だけど」
結花「今更だけどこの部屋アツゥイ」
要「・・・瀬戸さん来たしエアコンつけるか」


 そんなこんなで夕方。今日は瀬戸さんの希望で例のコンビニ兼カードショップへ行くことにした。テスト前だけどまぁいいか。息抜きは必要だしな。

自転車で数分で到着。店内には誰もいなかったがレジには例のボタンが置いてあり、事務所の方からはテレビの音が聞こえた。扉の鈴の音を聞いたからか、おばあちゃんの挨拶が聞こえた。

結花「おばあちゃんこんばんはー!」
要「カードショップ空いてますか?」
おばあちゃん「おや、お兄さんたち来たのねぇ。恵那ならまだじゃよ。学校で勉強してから帰るって言ってたかねぇ」

ということでカードショップはカーテンが閉じられ「CLOSED」のまま。結花があからさまにがっかりしていた。

要「流石に高校もテスト勉強だったな」
結花「遊戯王~」
静流「タイミング悪かったかもね。テスト終わった後にまた来ようかな」
おばあちゃん「ごめんねぇ」

その後少しだけ買い物をして退店した。

 瀬戸さんと別れ、俺と結花は家に戻る。と同時に俺の家の玄関の前に宅急便の人が来ていた。

宅急便「ああ、よかった。冷蔵品です。こちらにサインをお願いします」

荷物を受け取る。「冷蔵」のシールが張られたその少し大きめの箱はずっしりと重い。伝票を見るとどうやら食料のようだ。依頼主は実家。

結花「仕送りいいなー」
要「開けてみるか・・・ん?なんか封筒入ってるな」

食料と共に一緒に入っていた封筒を開ける。そこには3枚の遊戯王カードが入っていた。

結花「遊戯王!しかもめっさ便利な<砂塵の大嵐>!いいなぁ」
要「ああ、これ注文してたやつか。間違えて実家宛てにしてたのか」

<砂塵の大嵐>は罠カードでノーコストで魔法・罠を2枚除去できるのだが自分のターンで使うとバトルフェイズが行えなくなるデメリットがある。ただし相手のターンで使えばいいし、チェーンもできるので非常に便利だ。絶対相場が上がると読んで初動価格で3枚買っておいたが案の定相場は値上がりした。

結花「あたしも買おうとしたら1000円だって。そんな高いのよく3枚買えたね」
要「初動価格で買ったから500円程度だったぞ」
結花「マジ?」

食材を整理した後にテスト勉強をしようとした矢先に何故か家に入り込んでいた結花がデッキを机に置いてスタンバイしていた。

要「・・・1戦だけだぞ」
結花「わーい」



 数日後。大学の中間テストが終わる。俺は午前の分で終わりなので学食でゆっくり飯を食べながらこの後の予定を考えている。

要「落ち着いてきたしそろそろバイト始めるか」

一応バイトも含めた就活をサポートする部署はあるらしいけどこの時期は就活生が多くて行く気にならない。俺調べでは正社員率は80%らしいがまだ1年次の俺には関係ない。

結花「ぉっ~・・・」
静流「お疲れ様」
要「おう・・・って結花、真っ白に燃え尽きてるな」
結花「真っ白に燃え尽きたぜ・・・テストの点数と共にな・・・」
要「それじゃ赤く染まるぞ」

相変わらずバカな結花だった。いつもの事だけど実際はぎりぎり赤点は回避できているから今回も大丈夫だろうって思った。

静流「ところで要くん。今日こそあのカードショップに行きたいのだけど」
要「ああ、別の用事もあるから行くところだった」
静流「別の・・・?」
結花「遊二・・・じゃなくて用事?」

どうやら俺がバイトしたいところは既に決まっているのかもしれない。


3人で例のコンビニへ行く。前に夕方まで時間があるので何故か俺の家へ。そもそも夕方まで各自行動でよかったはずだし、瀬戸さんも瀬戸さんでお隣さんの結花の家でもよかったはず。なのに2人とも俺の家にいる。

すると案の定結花と瀬戸さんはデッキをカバンから取り出した。というか瀬戸さん何個デッキを出すんだろうか。一息ついた時点で7個ぐらいはあった。

結花「静流ちゃんすごい数!」
静流「昔のから最近のもあるよ」
結花「すごーい!これだけあれば1日中デュエルできるね」
要「絶対途中で寝そうだ。俺も使っていいか?影忍しかガチデッキ持ってないし」
静流「どうぞ。ふふっ、こうして友達といろんなデッキでデュエルするの夢だったんだ」


 夕方。3人で何回デュエルしただろうか。考えすぎて頭が少しぼーっとする気がしなくもない。コーヒー飲めばいいか。

コンビニに到着する。カードショップの方は・・・すでに開いていており、近所の子供たちや見慣れない子供たちで繁盛していた。恐らく近所の子供たちが友達を呼んだって感じだろうな。

結花「おおー、今日は多いねー」
静流「小さいけどびっしり・・・すごーい」

そして自然と子供たちに混ざる結花とシングルカードやサプライを見て回る瀬戸さん。

恵那「い、いらっしゃいませっ、お兄さん」
要「今日は繁盛してるなぁ。恵那さんもいるということはテスト終わったの?」
恵那「て、テストは・・・とっくに終わってます」
要「なるほど・・・そういえば高校の方が色々早かったな」

去年まで高校生だった俺だからこそ思い出すことができた。数日単位だけど。ちなみに夏休みも大学が入るのも終わるのも数日遅い。ちなみに高校より大学の方が夏休みは長いらしい。

要「っとそうだ、聞きたいことがあるのだが・・・今大丈夫かな」
恵那「えっ、は、はい。大丈夫です。事務所でいいですか?」

恵那さんはカードショップのレジに例のボタンを置いた。俺は恵那さんについていき、コンビニのレジの裏側、事務所に連れていかれた。

恵那「えっと、その、聞きたいことって・・・」

今更だけど何故かおどおどしている恵那さん。カードショップモードだからか普段の恵那さんのようだ。今思うと朝のコンビニモードの時と雰囲気が違うなぁ。これが“プロ”ってやつなのだろうか。

要「窓に張り紙あるけど、バイト募集ってまだやってるよな」
恵那「は、はい。そうです、けど・・・全然応募来なくて・・・ま、まさかお兄さん・・・?」

恵那さんは両手を重ねて胸元にあて、期待するような眼差しで見つめてくる。それよりもバイトするには絶好の場所なのに誰も来ないとはいったい。やっぱりあの朝の忙しさだろうか、もしくは暇すぎるからか。

ともかく俺の答えはもう決まっていた。

要「バイト、始めてみようかな・・・って」
恵那「~~~っ、ほ、本当ですか!?わぁ、嬉しい・・・!で、でもこんな辺鄙なところでいいの・・・?」
要「ぶっちゃけると近いから、かな。しょぼい理由でごめん」
恵那「そ、それでも嬉しいですよぉ・・・っ」

よほどバイトに入ってくれることが嬉しいことだからか、恵那さんの目からは涙が頬を伝って流れた。しばらくしてティッシュで目を拭き、鼻をかんで頬を叩いて深呼吸をした。

恵那「ご、ごめんなさい、びっくりしすぎて・・・えと、おばあちゃん・・・は今寝ているんだった。じゃ、じゃあ私が。入社の為に必要なものをこの紙に書いてあるのでいつでもいいので用意してきてください」
要「あれ、面接とかは・・・」
恵那「お、お兄さんなら即時採用ですっ」
要「そ、そうなのか」

・・・

真面目な話が終わり、カードショップに戻る。コンビニ側では1人の老人が恵那さんとおしゃべりをしていた。何やら気さくに話しかけていたけど常連さんだろうか。

老人「ほう!やっとバイト入ったのか!」
恵那「はい。やっとおばあちゃんが少しでも楽になるはず」
老人「ばあさんももう80?90?んーだしなぁ。ワシが元気なら手伝ってやってたというのに、この腰よ」
恵那「あはは・・・加藤さんには朝のあの人数は無理ですよぉ」

“加藤さん”と呼ばれているその老人の手にはBoxy特有の弁当箱。お米はもちろんだがおかずが全て鯖の味噌煮だった。

加藤「もしやそこの大学生じゃな?」
恵那「はっ、そ、そうです」
加藤「ふーむ」

加藤さんは俺に近づき、じーっと見つめてくる。

加藤「見たことある顔じゃな・・・それに、そのデッキケース」
要「ま、まさかおじいさんも・・・!」
加藤「何だったかのう、確かー・・・“ニンジャの”・・・」
恵那「“シノビのユージ”ですよ」
要「その名h」
加藤「そうじゃそうじゃ、孫と一緒にカードゲームの大会に行った時に印象に残ってたやつじゃ。あの時は興奮したのお!はっはっは!」

おじいさんにまで“シノビのユージ”は広まっているとは、もはやもう賽は投げられたってやつだろうな。どうやら諦めるしかなさそうだった。

結花「恵那ちゃーん!カード買うー!」
子供たち「ぼく(わたし)たちもかうー!」
恵那「あっ、ご、ごめんね。今いきますから」
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