第８話　チュートリアル娘　作：にしん

　梅雨の時期。毎日のように雨が降ったり曇ったりで太陽が見えないことが多い季節。大学に入ってから遊戯王に再燃し、初めての中間テストも終わり、バイトも始めた俺は天気を気にせずこの生活が充実しているのを感じていた。

今日はその朝のバイトの日。いつものようにこの狭い店内に社会人がどっと押し寄せる。接客業なんかやったことのない俺は商品の補充を任されていた。が、この狭い店内と大量の客の中で補充するのは今日の天気も合わせて非常にきつい。

要「あ、あとは冷蔵庫に入って飲料の補充か・・・」

ペットボトルや缶飲料が陳列されている場所の裏側にはちゃんと保存できる大きな冷蔵庫のような空間がある。そこに入れば俺一人。さっきまで超暑苦しかった空間とは違い、真冬のように冷えて乾燥した空間。

・・・の冷蔵庫入り口の横にはあのカーテンが。この奥が例のカードショップである。今は窓のカーテンも閉じられて真っ暗。

要「カードショップの方をメインに頼まれたんだよなぁそういえば・・・」

恵那さん曰く、「私より詳しいはずですよね」と。最近のルールとか勉強しておかないとな本当に。

　朝のラッシュが終わり、店内が静まり返る。

おばあちゃん「今日もお疲れさん。時間も遅いし、雨じゃし、点検はわしがしておくから二人とも行ってきなさいな」
恵那「ありがとう、おばあちゃん」
要「俺は２限目からだからまだ暇だけど・・・まぁいいか」

事務所で制服を脱ぎ、ロッカーのハンガーに掛ける。上からはばたばたと慌ただしそうな足音が聞こえる。恵那さんが準備しているのだろう。しばらくすると外の階段からセーラー服にレインコート姿の恵那さんが下りてきた。

恵那「お、お兄さんお疲れ様ですっ」
要「お、おう。いってらっしゃい」
恵那「いってきまーす・・・あっ、そうだ。お兄さん、今日は早く終わる日・・・でしたよね」
要「そうだが」
恵那「なら発注とカードショップの開店を・・・お願いしてもいいですか？私が遅くなるので・・・」
要「了解」

俺がバイトに入ってから時々恵那さんの帰りが遅くなることが多くなった。おばあちゃん曰く友達と勉強したり遊んだりしているかららしい。それは別にいいことなのだが、まだ経験の浅い俺に重要な作業が回ってくるので地味にプレッシャーがのしかかる。まぁ慣れるまでやるしかないか。おばあちゃんもいるし。

恵那「で、ではいってきます」

少し慌てたような表情で自転車に乗り、雨の中走っていった。レインコートか。バス通学もいいけどいつも以上に時間を気にしないといけないし、いいかもしれないな。


・・・


　俺の今日の講義が終わる。今日は結花も講義がなく、帰ろうとしている俺の横で歩いている。

結花「遊二、今日カードショップ開くんでしょ？あたしが一番乗りしていい？」
要「いいけど、やることないぞ？」
結花「静流ちゃんとデュエルしたりしてるから、カード買う時だけレジして？」
要「なるほどなぁ。その瀬戸さんは？」
結花「家に帰ってから行くって」
要「ほう」

バス停に到着すると、タイミングよく目的地行きのバスが停まる。そのバスに乗り込み、席に座る。隣に座った結花がバッグの中からいつものやつを取り出した。

結花「じゃーん、遊二のための＜リンク召喚＞デッキ～。テッテレテッテッテーテーテー♪」
要「ド●えもんか。それよりまたデッキ作ったのか」
結花「遊二にリンク召喚全部教えないといけないからね～。前回はあんまり理解してなかったみたいだし。そしてじゃじゃーん！今回のデッキは最新パックで出た＜デジバグリア＞だよ」
要「マジか・・・よく買えたな」

最新パックのカードは初動～ピーク時の価格のものが多い。評価次第ではピーク時よりも更に高くなることが多いが、大抵は出回ることによって若干下がることもある。そんな中でよく一つのデッキにするほど買ったなと思うが、バイト収入故の買い物か。俺も初任給が入る今月末でどうなるか。

そういえば結花のバイト先ってファミレスだったな。そりゃ高収入か。

　コンビニに到着する。相変わらず雨だったがここまで来るともう安心だ。おばあちゃんに挨拶をし、事務所から鍵を取り出し、例のカーテンを開け、柵につけられている南京錠を解除する。そしてそこの部屋の電気をつける。

結花「ッシャアアアアア一番乗リダアアアアｗｗｗ」
要「雨だというのに元気な奴だ」
結花「ふう満足した。さてさて早速やりましょやりましょ」
要「先に発注作業するから適当な飲み物でも買っとけ」
結花「えー」

恵那さんに頼まれていた発注作業を終えると事務所からおばあちゃんが出てきた。

おばあちゃん「忘れとったわい、ソレを貸しておくれ」
要「今終わったとこなんでどうぞ」
おばあちゃん「流石お兄さん、作業が速いわねぇ」

そして次は結花お待ちかねのカードショップ店員の時間だ。と言っても今日は雨で子供たちもほとんどか全く来ないので遊び放題給料もらい放題だ。まぁ九良市という超地方の基本給だからとんでもなく安いが。

結花「んじゃ、静流ちゃん来るまでリンク召喚さっさとやっちゃおう！はいデッキ」
要「ん。このデッキはどんな動きをすればいいんだ？」
結花「それはまぁ遊二ならカード見たらわかるっしょ。あたしもリンクデッキ使うからちゅーとりある感覚でデュエろうね。というわけで・・・チュートリアル娘の川澄　結花だよ、よろしくねっ。てへっ☆」
要「・・・とりあえずチュートリアル娘がうざいということは分かった」
結花「だよねっ☆ということでデュエル！」