第５話　小さなコンビニと少女の告白　作：にしん

　数年ぶりの遊戯王をした数日後。気温も高くなりそろそろ冷たいものでも食べたくなってくる季節。ちらほら見かけた桜もほぼ散っていて、気温の高まりと合わせて夏への変化を感じる。

今日は休日だ。食材がないので市街地のスーパーへと買い出しへ行く。

要「結花も遊戯王強くなってたな」

結花が遊戯王を始めた当初はいかにも初期のデッキらしく初代アニメあたりのようなデュエルをしていた。思い返してみると当時のフレッシュな“普通の”デュエリストだった頃が懐かしい。なんで“シノビのユージ”化したんだろうか俺は。

よく行くこの市街地のスーパーは九良市最大のスーパーであり、九良市ではここしかスーパーがない。田舎だし仕方ないね。ここら一帯に市の機能が集中しているというのもある。

故に品ぞろえは完璧だ。特に一人暮らしをする俺からしたらむしろ余裕がありすぎる。自炊も捗る多さで毎回何を買うか迷う。

要「よし、今週はこれにするか」

便利とはいえ学生寮からはそれなりに遠く、そんな頻繁に行けるようなものじゃない。時には消費期限を気にせずに買い置きするのも一つの手だ。なので毎回カゴいっぱいに食材やら飲料やら日用品やらを詰め込む。そういえば飲料と日用品はあのコンビニで済ませられるな。今回は食品を中心に買おう。

途中、見覚えのある人が買い物をしていた。隣の部屋の結花だ。あいつも自炊勢だったな。料理についてはお世話になっているのでこのスーパーに来るのも当たり前だろう。

要「結花も買い出しか」
結花「およ？遊二じゃーん。あたしも買い出し」
要「って野菜ばっかりじゃないか」
結花「そういう遊二は肉ばっかりだなー」

結花のカゴは大量の野菜類で隠れていたが、下半分がお菓子ばっかりだった。

しばらくは自炊と遊戯王の話をしながら売り場を回る。お菓子コーナーを回った時、これまた見覚えのある人が買い物をしていた。それに気づいた結花が真っ先に声をかけにいった。

結花「コンビニの店員ちゃんおいーす」
恵那「！？」
要「いきなりすぎるて。こんにちは、恵那さん」

嵐のような暴風挨拶をかまされた恵那さんは少しパニック状態になっていた。俺はこの嵐に慣れているので冷静に対処する。

結花「恵那ちゃんが買い物するんだー。おばあちゃんは？」
恵那「お、おばあちゃんは店番してます。えと・・・」
結花「紹介忘れてたんじゃよ。あたしは川澄　結花。んでこれが幼馴染の要　遊二」
要「これ言うなこれって」

結花らしい適当な紹介をされたが、俺の名前を聞いた恵那さんは少しびっくりしたような顔をしていた。

恵那「“遊二”・・・あっ、おばあちゃんに聞いたのですが、もしかして元九良市最強の・・・？」
結花「おっ、普通そうなきゃわいいＪＫにまで覚えられてるとはさすがだねぇ、“シノビのユージ”は」
要「その名前はとうの昔に捨ｔ」
結花「昨日この遊二とデュエルしたけどまーだまだ強かったよー」
恵那「そ、そうなんだぁ・・・あっ、わ、私は桃井　恵那って言います。い、今更ですけど・・・」

しばらく何故かシノビのユージで盛り上がった。俺の黒歴史が幼馴染の手によって普通のＪＫ・・・恵那さんにどんどん暴かれまくっている。俺はこの容赦のない公開処刑に耐え切れずにこっそりと売り場を移動した。

惣菜コーナーを回っていると結花と恵那さんが合流した。瞬間恵那さんが少し興奮気味にずいっと寄ってきた。

恵那「あ、あのっ、明日からうちの店で遊戯王ショップ始めるんですっ」
要「お、おう・・・？」
恵那「あの、その・・・えっと、だから・・・きて、くれませんか？も、もちろんお兄さんが“シノビのユージ”だからってわけじゃ・・・あの・・・」

何だか徐々にテンパってきている。自分でも何が何だか分からなくなっているようで、最終的に赤面してうつむいて無言になってしまった。

要「ま、まぁ遊びで復帰するから行くしかないよな。結花も行くだろ？」
結花「もちろんろんのもち！あ、晩飯ぜんざいにしよ。もちもち～」
要「野菜でも入れとけ」
結花「んじゃ野菜入りぜんざい遊二にもあげるから一緒に食べよ？」
要「いらねー」
恵那「・・・ふふっ。あっ、ご、ごめんなさい」
要「大丈夫、いつもの事だから。結花のボケは適当に流していいよ」
結花「そんなぁ」

俺と結花の老夫婦レベルのアホなトークのおかげか恵那さんはすっかり元の状態になっていた。

恵那「あの、だから、オープン当日はよろしくお願いしますね。明日の夕方を予定してますので・・・」

それでもやっぱり少し恥ずかしがりながらカードショップの宣伝をされたのであった。


―――
おまけ
結花「恵那ちゃんも遊戯王やってるんだねー」
恵那「は、はい。雑誌で見た＜マドルチェ＞がかわいくて・・・」
要「マドルチェは強かったなぁ・・・危うく九良市最強の座を奪われるところだった事は覚えてる」
結花「そんな恵那ちゃんの為に遊二に勝てるデッキを作ってあげよう！もちろんかわいいカテゴリでね☆」