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HOME > 遊戯王SS一覧 > 12:闇夜の刺客

12:闇夜の刺客 作:

『ふぁらお亭』を出ると、すっかり辺りは夜の帳に支配されていた。

今夜は月明かりも星の瞬きも見えない。暗い夜だ。
ぽつりぽつりしかない街灯の明かりを渡るようにして一人とぼとぼ歩く。
王都の夜に人々の賑わいなど『ふぁらお亭』のような人気店の周りにしかない。驚くほどに静かだ。ここに来る前にいた『首飾りの国』では、小さな町でももう少し賑わっていたように思う。それだけこの国は廃れてきているのか。

しばらく歩くと明かりの乏しい一角にたどり着く。周りに人の目もないし、広さも丁度良さそうだ。

「この辺でいいか」

デュエルディスクを腕に装着し、辺りを見回す。

「いつまで付いてくるつもりだ!? そろそろ出てきたらどうだい!?」

目で見えるところに人影はない。しかし確かに気配はあった。誰かがこちらをずっと見ている気配だ。
つけられることに身に覚えはないが、このタイミングでユーイを追い回すならばデュエル関係に違いない。
デュエルならばいつだって受けて立つ覚悟はできている。

次第に闘気を高めていく。未だ姿を見せない相手がそれなり以上の決闘者ならば気付くはずだ。
その意味するところは『かかってこいよ!』といったところか。つまりは挑発。だが腕に自信を持っていれば持っているほど、この挑発を無視はできないはずだ。

案の定、しばらく待つとその相手はまるで闇から溶け出すようにして姿を現した。

「よく気付いたわね。ショックだわ。隠形には自信があったのだけれど」

意外にもそいつは女だった。
顔は頭巾のようなものを巻いていて分からないが、着ているのはデュエル・アカデミアの女子制服だ。

「目的はなんだい? 自慢じゃないがお金なら大して持ってないぜ」

「こちらも自慢ではないけれどお金には困っていないわ。目的なら一つしかないでしょう?」

頭巾の合間から唯一見える目が少し笑ったように見えた。

確かに彼女の腕にもすでにデュエルディスクが装着されている。

(愚問だったな。なら重要なのは『このデュエルに何を賭けるか』になる)

「こんな後をつけるような真似をしなくてもデュエルならいつでも受けたのに。それで、何を賭けてデュエルするつもりだ?」

「私にも都合というものがあってね。こんな真似をしなくてはならない事情というやつがあるんだ。そこは理解してもらいたい。それと私の目的はあくまでキミとデュエルをすることそのもの。何も賭けたりするつもりはないわ」

彼女の返事にユーイは少し拍子抜けする。
ずいぶんと礼儀正しいというか邪気のない襲撃者がいたものだ。
だがクローディアとのデュエルがこれだけ噂になっている以上、こういった腕試しの輩が出てくるのは理解できないではない。顔を隠している意味までは分からないが、それなら全力で相手をするまで。

「名前・・・は教えてくれないよな。あんたのこと、何て呼べばいい?」

ユーイが訊くと、彼女は少し考えていたが悪戯そうな笑みを見せながら答える。

「『謎の美少女決闘者』でいいわ」

ユーイは目を丸くする。

「美少女なのかい?」

「美少女よ。掛け値なしにね」

その思い切りの良い答えにユーイは笑う。

「気に入った。何としてもあんたの素顔が見たくなったよ。俺が勝ったら見せてくれるか?」

「ええ、そうね。キミが勝てたらね」

「GOOD!!」

二人は十数メートルの距離を空けて対峙する。
決闘者はデュエルディスクを掲げることで自分のボルテージを上げていく。それと共に二人の魔力・闘気も高まり、同時に緊張感も張り詰めていった。

「「デュエル!!」」

掛け声に合わせて二人とも素早くデッキからカードを5枚抜き出す。

「先攻はもらうわ!」

先攻を宣言したのは美少女決闘者の方。
こういった野良デュエルの場合は、明確なルールはないがデュエルを挑んだ方が先攻を担うのが通例となっている。

「私はモンスターをセットし、カードを1枚伏せてターンエンド!」

彼女のフィールドに裏側のカードが2枚現れる。
まだこちらの様子を伺うつもりなのか、あっさりとした先攻1ターン目だ。

「俺のターン! ドロー!」

ユーイがカードをドローする。
美少女決闘者のフィールドには守備モンスターが1体のみで罠の類いはない。攻め込むチャンスだ。
手札からモンスターカードをデュエルディスクに装填する。

「《白牙のグレート・ホワイト》は手札を1枚墓地に送ることで特殊召喚できる! 俺は手札から《超戦士の魂》を墓地に送り《白牙のグレート・ホワイト》を特殊召喚ッ!」

ユーイが宣言通り手札の《超戦士の魂》というモンスターカードを墓地に送ると、そのフィールドに両腕の生えた白い鮫のモンスターが召喚される。


白牙のグレート・ホワイト(星4/ATK1600)


「さらに《開闢の騎士》を通常召喚し、それに装備魔法《神剣―フェニックス・ブレード》を装備させる!」

《白牙のグレート・ホワイト》の隣に《開闢の騎士》が召喚される。しかし持っている剣は以前のものではなく不死鳥があしらわれた神剣だ。


開闢の騎士(星4/ATK500→800)


剣が変わったことで《開闢の騎士》の攻撃力が上がる。

「バトルだッ!《白牙のグレート・ホワイト》でセットモンスターに攻撃ッ!」

《白牙のグレート・ホワイト》が裏側守備表示のカードに襲いかかる。
それに反応して美少女決闘者のセットモンスターがリバースする。
現れたのは鳥とも植物とも取れる姿のモンスターだ。

「私のモンスターは《捕食植物(プレデター・プランツ)プテロペンテス》ッ! その守備力は2100!」


捕食植物プテロペンテス(星3/DEF2100)


彼女のモンスター《捕食植物プテロペンテス》の守備力は《白牙のグレート・ホワイト》の攻撃力を上回っていた。通常通りならば攻撃したユーイの方に反射ダメージが来るはずだ。
しかし《白牙のグレート・ホワイト》はそれを物ともせずに《捕食植物プテロペンテス》に噛みつき、その強靭な顎でそれを噛み砕いてしまった。

「《白牙のグレート・ホワイト》が守備表示モンスターに攻撃した場合、戦闘ダメージは0になりダメージ計算後にそのモンスターを破壊できる! その程度じゃあ俺の攻撃を阻めはしないぜ! そして《開闢の騎士》で追撃のダイレクトアタック!」


《白牙のグレート・ホワイト》によって空けられた無人のフィールドを《開闢の騎士》が駆ける。
一閃。その《神剣ーフェニックス・ブレード》による剣撃が美少女決闘者を斬りつける。


美少女決闘者(LP4000→3200)


「くっ・・・」

与えたダメージは大きくはないが、ファーストバトルはユーイが征したことに変わりない。

「さすがにまがりなりにもクローディア先生を倒しただけはあるわね。この程度じゃ壁にもならないか」

その物言いから、彼女がデュエル・アカデミアの在校生であることは少なくとも確かなようだ。

(でなければ『クローディア先生』なんて言い方はしない。しかしアカデミア生がこんな闇討ち紛いの方法を取ってまで挑んでくる理由は何だ?)

ユーイはすでにアカデミアへの入学が決まっている。入学後ならばいくらでもデュエルする機会などありそうなものだが。

「カードを1枚伏せてターンエンド」

これでユーイの手札は残り1枚。しかしフィールドアドバンテージは圧倒的に優勢だ。

「私のターン、ドロー!」

美少女決闘者がカードをドローする。
そのカードを見て彼女は笑む。

「良いカードを引いたわ。私は《捕食植物オフリス・スコーピオ》を召喚ッ!」

彼女のフィールドに今度はサソリに似た形の植物モンスターが召喚される。


捕食植物オフリス・スコーピオ(星3/ATK1200)


《捕食植物オフリス・スコーピオ》の攻撃力は1200。《開闢の騎士》はともかく《白牙のグレート・ホワイト》には及ばない。もっとも守備表示で出したところで《白牙のグレート・ホワイト》の前には無力だが。

「《捕食植物オフリス・スコーピオ》は召喚・特殊召喚に成功した場合、手札のモンスターカードを1枚墓地に送ることでデッキから別の「捕食植物」を特殊召喚できるッ!」

どうやら《捕食植物オフリス・スコーピオ》は展開型のモンスターらしい。となれば次に出てくるのが強力なモンスターなのかもしれない。

「私は手札から《捕食植物コーディセップス》を墓地に送り、デッキから《捕食植物ダーリング・コブラ》を特殊召喚するッ!」

美少女決闘者が手札の弱い「捕食植物」を墓地に送ると、代わりに二頭の蛇のような姿の「捕食植物」が現れた。


捕食植物ダーリング・コブラ(星3/ATK1000)


強力なモンスターが現れるかと身構えていたが、《捕食植物ダーリング・コブラ》の攻撃力は低いものだった。

(てことは、こいつには何か強力な効果があるということ・・・!)

ユーイの警戒通り、美少女決闘者は《捕食植物ダーリング・コブラ》の効果を発動させる。

「《捕食植物ダーリング・コブラ》が「捕食植物」モンスターの効果で特殊召喚された時、デッキから「融合」魔法カードか「フュージョン」魔法カードを1枚手札に加えることができる! 私はこの効果で《融合》を手札に加える!」

彼女がデッキから加えたカードを見せる。
それは確かに《融合》の魔法カード。これからユーイがこの『秤の国』で何度も目にすることになるキーカードだ。

「そして私は《融合》を発動ッ! フィールドの2体の「捕食植物」モンスターを融合させるッ!」

美少女決闘者が発動した《融合》により、フィールドの《捕食植物オフリス・スコーピオ》と《捕食植物ダーリング・コブラ》が渦を成して溶け合う。
クローディアの見せた《古代の機械猟犬》による融合とは違う。これこそが元祖にして基本となる正式な融合召喚の形なのだ。

「融合召喚ッ!!」

美少女決闘者が眼前でバチンと手を打つ。

溶け合う2体のモンスター達がいま一つとなる。

「出でよ! レベル8!《捕食植物キメラフレシア》!!」

現れ出たのは、「捕食植物」の名に相応しい巨大な食虫花を思わせるモンスター。うねうねと長い蔦を揺らし、その先端の口はよだれのように溶解液を垂れ流している。
そのサイズや攻撃力は確かに最上級モンスターとして申し分ない。恐ろしいモンスターだ。


捕食植物キメラフレシア(星8/ATK2500)


「恐ろしいのは見た目だけではないわ!《捕食植物キメラフレシア》は1ターンに1度、自身よりもレベルの低いモンスター1体を除外することができるッ! やりなさい《捕食植物キメラフレシア》ッ!!」

《捕食植物キメラフレシア》はその触手のような蔦を《白牙のグレート・ホワイト》に伸ばす。
レベル8の《捕食植物キメラフレシア》ならばユーイのフィールドのモンスターどちらでもその効果の餌食にできるが、どうやら攻撃力の高い《白牙のグレート・ホワイト》を標的に選んだらしい。

口を大きく開けて《白牙のグレート・ホワイト》を丸飲みしようと触手が迫る。
しかしその動きは《白牙のグレート・ホワイト》の眼前でピタリと止まる。

「どうした、《捕食植物キメラフレシア》?」

予期しなかった《捕食植物キメラフレシア》の躊躇に美少女決闘者が眉をひそめる。

見ると《捕食植物キメラフレシア》の胴体を円形の黒い魔法陣が締め付けていた。

「これは・・・!?」

ユーイは笑む。

「永続罠《幻想の呪縛》。これに捕らわれたモンスターは攻撃と効果を封じられ、攻撃力が500ダウンする」

ユーイの伏せカードが発動していた。
それに描かれているのは《捕食植物キメラフレシア》を捕らえているのと同じ魔法陣だ。


捕食植物キメラフレシア(ATK2500→2000)


ここで《捕食植物キメラフレシア》の除外効果を通せば、ユーイのフィールドは一気に制圧されていただろう。最上級クラスの攻撃力を持つ《捕食植物キメラフレシア》相手にそれは致命的なダメージになりかねない。

「やってくれる・・・!」

「そうそう勝手は許さないぜ?」

美少女決闘者は悔しそうに笑み、ユーイは自信をみなぎらせるように笑んだ。
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こんにちは!チヨです!
んもぅ!ユーイくんったら、イキナリ襲われてるのに相手が可愛い女の子だからって楽しそうにデュエルしちゃって!私、なんだかダークな気持ちです!

そんなこんなで優勢にデュエルを進めるユーイくんでしたが、美少女決闘者の反撃に遭い一転ピンチに!でもそんな中、ユーイくんに異変が起きて・・・!
次回、遊戯王戦記13話『覚醒の兆し』!
ガッチャでいきましょう!! (2018-02-10 08:26)
ター坊
エルフの剣士、クリボーに続き、グレート・ホワイト…遊戯の初期メンツが出てきますね。捕食植物デッキといえばやはりあの娘ですよね…。ということはエースは…どう覚醒するのか楽しみです。 (2018-02-10 11:07)
ター坊さん
確かにユーイくんは古いモンスターのリメイクカードが好きみたいです!でもそれに固執してるわけじゃないって言ってましたよ!
謎の美少女決闘者さんが誰なのか私には分かりませんが、ユーイくんはきっと勝ってくれると信じています! (2018-02-10 17:51)

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