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3:紫電の魔導師 作:天
「すげぇ・・・」
思わずそんな言葉が漏れた。
《戦慄の凶皇―ジェネシス・デーモン》の巨躯が放つ威圧感は確かに本物だった。
見下ろされているだけで、押し潰されそうな圧倒的な圧力を感じる。
戦慄の凶皇―ジェネシス・デーモン(OP3000)
それを裏付けるように《ジェネシス・デーモン》のステータスも破格だ。
「レベル8の・・・攻撃力3000・・・」
青ざめたのは、実質的にこのデュエルによりその後の処遇が決まる悲運な少女。
彼女自身は決闘者というわけではないが、ここはデュエルがその他の全てに優先される世界。1年も暮らしていればモンスターのステータスの意味くらい分かるようになる。
モンスターはそのレベルによって大きく三種類に別けられる。
レベル4以下は下級、レベル5から6は上級、レベル7以上は最上級モンスターだ。
レベルの低い下級モンスターならば召喚したり操ったりするのはそう難しくはないらしい。しかし上級以上はそうはいかない。ましてレベル8など、相当な魔力の持ち主でなければ召喚しようと試みるだけで卒倒しかねないだろう。
そんな強大なモンスターを同い歳くらいの少年が軽々と召喚してみせた。
流石は七星候はタイタン家の一族ということか。その魔力は同じアカデミア受験生の中でもおそらく屈指だろう。家名を振りかざすだけの坊っちゃんかと思っていたが、どうやらそうではなかったらしい。
少女は自分のピンチに颯爽と現れたユーイという少年に密かに期待していた。
昔読んだ少女漫画の主人公みたいに正義感の強いイケメンに助けられて、やがて二人は恋に落ちる。そんな妄想に当てられていたのだ。
だが一転、彼女は不安に駆られた。
こんな凄いモンスターを操る相手に彼は勝てるだろうか。
そう考えながらユーイに目を向けると・・・
彼は子供みたいに目を輝かせていた。
「すげー。デケー」
(あ、ダメっぽい・・・)
《ジェネシス・デーモン》を見上げるその表情は、憧れのヒーローやロボットに出会った男の子そのもの。惚けたように口を開けている。その口から漏れてくるのは感嘆ばかりだ。
これでは立ち向かうどころか敵として認識しているかどうかも疑わしい。
少女は密かに肩を落とした。
そんな少女を尻目に、シクスは背中に汗していた。
(流石にキツイね・・・)
涼しい顔を装ってはいるが、彼にとってもレベル8のモンスターを召喚するのは並のことではない。魔力枯渇で昏倒とまではいかずとも、軽い目眩が断続的に襲ってくる。
しかしそこは気力で耐えなければならない。一般人と貴族との如何ともしたがたい差を見せつけるためには、この程度でグラついている様を見せることなどできるはずもない。
「どうだい、ボクの最強モンスターを目の当たりにした気分は? 戦闘破壊耐性を持つモンスターでこちらの攻撃を耐えて上級モンスターの召喚に持っていくつもりだったようだが、当てが外れたねぇ」
あえて軽口を叩き、内心の動揺を押し隠す。
しかしその軽口を向けられた当のユーイはきょとんとした顔。
「いやぁ、すげーなアンタ。正直舐めてたよ。まさかこんなスゲーのを召喚するほどの魔力の持ち主だなんて思ってなかった」
素直に感嘆の意を述べる。
シクスにしてみれば拍子抜けだ。てっきりもっとビビるか悔しがるか、そういうリアクションを期待していたのだが。
「フ、フフン。そうだろう、君のような下賎の輩では当然無理な話だ」
ユーイが頭を掻く。
「まぁな、俺なんて上級モンスターを召喚することすら出来ねぇもんな」
「は?」
何気ないユーイの言葉であったが、それを聞いたシクスが目を丸くした。
「いま・・・何て言った・・・?」
「ん? ああ、なんでも俺は魔力量で言えば凡人以下なんだと。だからはんぱなく魔力使う高レベルモンスターの召喚なんか1度たりとも無理なわけ」
そんなことを事も無げにすらすらとのたまう。
しばらく事態が飲み込めずポカンとしてしまったシクスだったが、そのことが理解でき始めた頃、その心中に沸々と沸き上がってきたのは勝利の確信などではなく激しい怒りだった。
(このボクがふらつきそうな足をこんなに必死になって踏ん張ってまで《ジェネシス・デーモン》を召喚したのは、こんなカスみたいな奴を倒すためだったというのか・・・!?)
「き、貴様は・・・その程度の実力で・・・このボクとデュエルをしていたのか・・・」
沸き上がり続ける怒りが口を突いて漏れ出てくる。
「タイタン家次期当主である・・・このボクが・・・こんな奴相手に・・・」
「おいおい、デュエルを挑んできたのはアンタだぜ?」
「このボクが貴様に『挑んだ』だと!? 頭に乗るなよッ! 上級モンスターを召喚すら出来ないゴミクズの分際でッ! このボクをコケにしやがって! もういい、貴様など一気加勢に叩き潰してくれるわッ!!」
貴族にとって最も重要なのは矜持である。
その貴族たるシクスにとって、ただの一般人であり大した魔力も持たないユーイに対等な顔をされるのは我慢ならなかった。ましてその相手に無理を通して最強モンスターを召喚してしまったとなれば、まるで自分が必死にならなければ勝てないと思ってしまったかのようではないか。それだけで面子は丸潰れだ。
(これはタイタン家への最大の侮辱だ・・・!)
ユーイからしてみればこのデュエルはシクスから申し出てきたことであり何もタイタン家に含むところなどないのだが、どうやら彼の中ではそう結論付けられてしまったらしい。
(まぁ、それは別にいいけど)
ユーイにとってはそんなことはどうでもいいことだ。むしろそれでシクスが本気になってくれるのなら逆に願ったりである。なにしろユーイがこのデュエルに期待することは、自分のデュエルがヒスイ以外の相手にどれだけ通用するか試すことなのだから。
シクスが残りの魔力を集中させる。
「ボクのバトルフェイズはまだ終わってはいないッ! 行けッ《ジェネシス・デーモン》! 奴を粉々に叩き潰せッ!!」
フィールドに《ジェネシス・デーモン》の攻撃からユーイを守るモンスターはもういない。
シクスの怒号のような指示に従い、《ジェネシス・デーモン》が携えた大剣を振り上げる。
その切っ先は建物数階分の高さ。それが重力に任せて振り下ろされた。
轟音。
それはもうほとんど爆発だった。
剣の直撃を受けた地面は大きく裂け、巻き起こる衝撃波はまるで爆風。まわりの建物にまで亀裂を生じさせ、砂嵐のごとき粉塵が吹き荒れた。
ユーイも悲鳴すら上げる間もなくその衝撃波で優に数メートルは吹っ飛ばされる。
「ぐっ・・・!」
何とか受け身は取ったものの、強かに打ち付けた背中が痛む。
ユーイ(LP4000→1000)
ユーイのライフはたったの一撃でその大半が削られてしまった。
ライフとは現有する魔力が数値化されたものであり、これはユーイの残り魔力が4分の3一気に失われたことを示していた。
幸い身体的なダメージは少なくて済んだが、この消失は間違いなく大きな痛手だ。
しかしユーイの顔は少しも悲壮ではない。
「この瞬間、俺の罠カード《ダメージ・コンデンサ―》が発動!」
まだ粉塵収まらぬ中、ユーイの伏せカードが発動した。
「《ダメージ・コンデンサ―》は戦闘ダメージを受けた時に発動でき、手札を1枚捨てることで受けたダメージの数値以下の攻撃力を持つモンスターをデッキから特殊召喚する! 俺はデッキから《エルフの双剣士》を特殊召喚!」
フィールドに立ち上る粉塵が十字に切り裂かれた。そしてその中から両手に剣を握る剣士が躍り出る。
エルフの双剣士(OP1400)
《エルフの双剣士》は先の《翻弄するエルフの剣士》そっくりの美青年だった。しかしその手には二本の剣を有している。
「さらに《エルフの双剣士》のモンスター効果!《エルフの双剣士》は特殊召喚に成功した場合、相手に700ポイントのダメージを与える!」
空中に舞い上がった《エルフの双剣士》が携えた剣の内一本をシクスに向けて投げつける。
空気を切り裂いて飛来した剣はシクスの頬を掠めて後方に突き刺さった。
シクス(LP4000→3300)
シクスの頬に一筋線が浮き出て、すぐに消える。
シクスは拳でそれを拭うように擦った。
「チッ、悪あがきを・・・」
《エルフの双剣士》は役割を終えるとユーイの傍らに戻り、彼を守るように剣を構えた。
それを見やりシクスは不快げに鼻を鳴らす。
「またしてもレベル4以下の下級モンスターか。その程度の分際で《ジェネシス・デーモン》から主を守っているつもりなのか?」
《ダメージ・コンデンサ―》の効果ならば《ジェネシス・デーモン》の直接攻撃を受けた時点で、攻撃力3000以下のモンスターを特殊召喚することができたはず。つまり最上級モンスターであろうと大抵のモンスターならば特殊召喚するチャンスはあったのだ。それにも関わらずユーイが選択したのはまたしてもレベルの低い下級モンスターだった。
(これではっきりした。こいつの魔力がその程度しかないというのは、こちらの油断を誘うための方便などではなく真実。事実、このユーイとかいう男はレベル5以上の上級モンスターを召喚することは出来ないということだ)
シクスはギラリと《エルフの双剣士》を睨み付ける。
「デュエルとはつまり如何にして高レベル、高攻撃力のモンスターを召喚するかを競う闘いだ! 高レベルのモンスターを召喚出来ない貴様には、最初から勝ち目などない!」
「そうかな? レベルの低いモンスターにだって強力なモンスターはいるぜ」
「ほざけッ! 貴様が如何な低レベルのモンスターを並べようと、我が《ジェネシス・デーモン》の前には無意味! 無価値! 言っただろう、貴様は犬のクソを後生大事にしている愚か者だとな! それを特と見せてやる!」
シクスは腕を振るう。
「《ジェネシス・デーモン》のモンスター効果発動! 《戦慄の凶皇―ジェネシス・デーモン》は手札または墓地の「デーモン」モンスターを除外することで、フィールドのカード1枚を破壊することができる! ボクは墓地から《デーモンの騎兵》を除外し、貴様の《エルフの双剣士》を破壊する!」
《ジェネシス・デーモン》が剣を地面に突き立てると、そこからまるで霊魂のような白いもやが立ち上ぼり始めた。
それらはやがて集束し《デーモンの騎兵》そっくりの形を作る。
「雑魚は消え去れィ!!」
《デーモンの騎兵》霊魂は音もなく疾走し《エルフの双剣士》へと殺到する。
そしてそのランスは今度こそ《エルフの双剣士》の胸を突き刺した。
「くっ・・・!」
《エルフの双剣士》は断末魔を上げながら消え去り、それと共に《デーモンの騎兵》霊魂も霧散した。
これで再びユーイのフィールドはもぬけの空となってしまった。
「貴様が上級モンスターを召喚することができまいと、貴様のフィールドにモンスターは残さん! 貴様は己の無力さを噛み締めながら敗れ去るのだ!」
シクスがワハハハと高笑いする。
自らの思惑がその通りに達成され、勝利を確信しきっている。
しかしそれでもユーイの顔に焦りはない。
「そいつはどうかな? 俺のターン!」
デッキに手をかけカードをドローする。
「どうやらその高レベルモンスター至上主義ってのがこの国のスタンダードらしい。だけどな、デュエルってやつの底はそんなに浅きゃないんだぜ。レベルの差がデュエルの決定的差じゃないことを教えてやる」
ユーイは手札から1枚のカードを選択する。
「見せてやるぜ、俺の最強カードをな! 俺はこのモンスターを召喚する!」
ユーイがそのカードをデュエルディスクにセットし、魔力を流し込む。
しかしそれで使用する魔力はほんのちょっぴりのものだ。
そのほんのちょっぴりの魔力でユーイのフィールドにモンスターが顕現した。
大きな丸い瞳が二つ。黒い毛に覆われたまるっこい体に小さな手足がちょこんと付いている。
ただそれだけのモンスター。
ぬいぐるみと見紛うくらいの愛らしいそのモンスターの名前は《クリボー》。
クリボー(OP300)
クリクリ~♪と可愛らしい声を上げる《クリボー》のレベルは1。攻撃力もわずか300しかない。
ユーイはそのモンスターを攻撃表示で召喚した。
「レベル1で攻撃力300だと・・・? 貴様、どこまでこのボクを馬鹿にするつもりだ・・・!」
怒りに震えるシクス。
しかしユーイは大真面目だ。
「確かに《クリボー》のステータスは低い。お世辞にも戦闘には向いちゃいない。だけどな、この世界には価値のないモンスターも価値のないカードも存在しない。価値のない人間が存在しないようにな。《クリボー》には《クリボー》の《クリボー》じゃなきゃいけない価値がある。それを見せてやるよ!」
ユーイが前方に手を伸ばす。
そして叫んだ。
「現れろ!未来を導くサーキット!」
すると空中に四角いゲートのようなものが出現した。
シクスも周りの者達もデュエル中にこんなものが出てきたことなど見たこともない。
「なんだ、これは・・・!?」
未知の現象にさしものシクスも声を裏返して驚愕を示す。
「まぁ、見てろって」
ユーイが笑みを見せて、現れたゲートを確認する。
ゲートには上、右上、右、右下、下、左下、左、左上の計八ヶ所に矢印のようなものが見える。
その内、下部分の矢印のみがほんのり色付いていた。
「アローヘッド確認! 召喚条件は、攻撃力500以下のモンスター1体! 俺は《クリボー》をリンクマーカーにセット!」
ユーイが宣言すると、フィールドの《クリボー》が黒い粒子となり下方向の矢印に吸い込まれて行った。
矢印にしっかりとした色が付く。
シクスも他の者も一体何が起こっているのか理解できない。
ただ為す術なく起こることを見守っている他ない。
「これで準備は整った! いくぜ、サーキットコンバイン! リンク召喚! 現れろ、リンク1!《ブリッツ・マジシャン》!!」
ユーイの詠唱により、ゲートから新たなモンスターが出現した。
現れたのは、紫紺の法衣を身に纏い自分の背丈以上の長さはある杖を携えた魔導師。
『チュミミ~ン♪』
しかしその背丈はユーイの半分ほどしかない。短い手足、丸みのあるふにふにと柔らかそうな顔にはぱっちりと大きく愛らしい目。人間で推定するなら4~5歳くらいだろうか。
幼女であった。
ゲートから飛び出した幼女が、召喚されたばかりで周囲の状況が分かっていないのかキョロキョロと辺りを見渡している。
ユーイを見つけると『ボロボロらな~い』と言ってキャハハと笑った。
言われてみれば、確かにユーイの服は土埃にまみれて薄汚れている。
「そう言うなよ。今日も頼むぜ、《ブリッツ・マジシャン》」
『なんら~? チュミ~負けてるらな~い』
《ブリッツ・マジシャン》は呆れたように嘆息する。
そんな二人のやりとりをシクス達は目を丸くしてみていた。
「モンスターがしゃべっている・・・」
その家柄故、タイタン家には何人もの決闘者が出入りしていた。シクスが出会ったことのある決闘者は一人や二人ではない。
しかしその誰もモンスターと会話しているところを見たことはないし、モンスターと会話が成立するなどと教わったこともない。
呆気に取られるシクスを見やり、《ブリッツ・マジシャン》がフフンと勝ち誇った笑みを見せる。
『アタチとチュミとの絆は、アンタ達みたいにたら魔力で支配してるのとは違うのよ♪』
モンスターとはいえ幼女に見下した視線を向けられ、シクスは歯噛みする。
「この小娘がしゃべっていることもそうだが、なんだ今の召喚は!? リンク・・・召喚だと!?」
口惜しさからか顔を歪めるシクスに、ユーイがまっすぐな視線を送る。
「さっきも言った通り、俺は高レベルのモンスターを召喚し使役するには魔力が足りない。そこで目を付けたのがこのリンク召喚さ。リンクモンスターはレベルを持たない。だから召喚するのに必要な魔力は少なくて済む。言わば省エネ戦法ってとこかな」
「しょ・・・えね・・・なんだって?」
「ああ、この国にはそんな言葉ないのか。まぁ何でもいいさ。とにかくこのリンク召喚こそが、魔力の少ない俺でも高い魔力を持つ決闘者に立ち向かうことのできる武器ってことだ」
『そういうことなのら!』
ユーイに追随して《ブリッツ・マジシャン》も平らな胸を張る。
視線を交わして笑む二人。そこには確かな絆が見えた。
「くっ、だがそんなモンスターを召喚したところで何になる!? こちらのターンになればボクの《ジェネシス・デーモン》で蹴散らしてくれるッ!」
少し気圧された様子ながら、シクスが虚勢を張る。
ブリッツ・マジシャン(OP300)
《ブリッツ・マジシャン》の攻撃力は《クリボー》と同様の僅か300。確かに《ジェネシス・デーモン》の敵ではない。
だがユーイには《ブリッツ・マジシャン》に対する絶対的な信頼があった。
「いいや、アンタのターンはもう来ない。このターンで決める!《ブリッツ・マジシャン》のモンスター効果ッ!!」
ユーイが合図を送ると、《ブリッツ・マジシャン》が体いっぱいで杖を振るう。
「《ブリッツ・マジシャン》はリンク召喚に成功した時、墓地に同じ攻撃力のモンスターが2種類以上存在する場合、そのいずれか1体をこのカードのリンク先に特殊召喚できる!」
《ブリッツ・マジシャン》の背後にバチッと魔力が弾け魔法陣が浮かび上がる。
その魔法陣内にすーっと姿を現したのは二本の剣を携えたエルフの戦士―――《エルフの双剣士》だ。
ユーイの墓地には《翻弄するエルフの剣士》と《エルフの双剣士》の2体のモンスターが存在していた。これらのモンスターはどちらも攻撃力1400。《ブリッツ・マジシャン》の効果を受ける条件に当てはまる。
「そして《エルフの双剣士》は特殊召喚に成功した場合、相手に700ポイントのダメージを与える!」
復活した《エルフの双剣士》が再びその剣をシクスに投げつける。
「うあっ!」
その剣は何とか避けるもシクスのライフは削り取られた。
シクス(LP3300→2600)
剣を避けるために尻餅をつく形となったシクスが慌てて立ち上がる。
衆目がある大通りでのデュエルだ、貴族が無様な姿を見せるわけにはいかない。
「《ダメージ・コンデンサ―》でわざわざ攻撃力1400のモンスターを呼んだのはこのためかッ! だがこの程度のダメージを受けたからといって、ボクに《ジェネシス・デーモン》がいる限り勝てはしないぞッ!」
「まだまだぁ!!《ブリッツ・マジシャン》の更なる効果!!《ブリッツ・マジシャン》は1ターンに1度、フィールドのモンスター1体の攻撃力を守備力と同じ数値に変換できる! 対象はもちろん《ジェネシス・デーモン》だ!!」
《ブリッツ・マジシャン》が杖を掲げ、その魔力が紫の放電となって《ジェネシス・デーモン》を襲う。
全身を伝う電撃に流石の《ジェネシス・デーモン》も苦悶の声を上げた。
戦慄の凶皇―ジェネシス・デーモン(OP3000→2000)
《ジェネシス・デーモン》の守備力は2000。その攻撃力が守備力の数値まで下降する。
見た目には《ジェネシス・デーモン》が《ブリッツ・マジシャン》の電撃に焼かれ、力を失ったように見える。
だが《ブリッツ・マジシャン》のモンスター効果はこれで終わりではない。
「そしてこの効果が適用された場合、この効果で攻撃力が変動した数値分このカードのリンク先のモンスターの攻撃力をアップする!!」
「なにッ!?」
これまで《ジェネシス・デーモン》に絶対的な自信を持っていたシクスが初めて焦りの表情を見せた。
エルフの双剣士(OP1400→2400)
《エルフの双剣士》の攻撃力が《ジェネシス・デーモン》の攻撃力が下がった1000ポイント分アップする。
これにより《エルフの双剣士》の攻撃力が《ジェネシス・デーモン》を上回った。そしてユーイのモンスターが初めてシクスのモンスターを上回ったことになる。
「ぐ・・・」
シクスがその事実に打たれたのか歯を食い縛る。
だがユーイは攻めの手を緩めることはない。
「いくぞッ、バトルだッ! 《エルフの双剣士》で《ジェネシス・デーモン》を攻撃!!」
ユーイの指示を受け《エルフの双剣士》が宙に飛び上がる。その両手にはいつの間にか2本の剣が復活している。
『精・剣・連・斬!!』
目にも止まらぬとはこのこと。《エルフの双剣士》が放った五月雨斬りはユーイにもシクスにも目で追うことすらできないほどのスピードで《ジェネシス・デーモン》の巨体を斬り刻んでいた。
「ぐはぁ!」
只でさえ《ジェネシス・デーモン》の召喚や《エルフの双剣士》のモンスター効果により消耗していたシクスの魔力に更なるダメージを与える。
シクス(LP2600→2200)
「ば、馬鹿な・・・ボクの《ジェネシス・デーモン》が・・・あんなモンスターにィ・・・!!」
目の前で自身の最強モンスターを微塵に切り裂かれたシクスが口端から泡を出しながら呻く。
しかしユーイはそんなシクスにも憐れみはかけない。
「《エルフの双剣士》は1度のバトルフェイズに2度攻撃できる」
それを聞き、膝から崩れ落ちるシクス。
その前に《エルフの双剣士》が立つ。そして一閃。
それはまるで介錯の刃のようだった。
シクス(LP2200→0)
思わずそんな言葉が漏れた。
《戦慄の凶皇―ジェネシス・デーモン》の巨躯が放つ威圧感は確かに本物だった。
見下ろされているだけで、押し潰されそうな圧倒的な圧力を感じる。
戦慄の凶皇―ジェネシス・デーモン(OP3000)
それを裏付けるように《ジェネシス・デーモン》のステータスも破格だ。
「レベル8の・・・攻撃力3000・・・」
青ざめたのは、実質的にこのデュエルによりその後の処遇が決まる悲運な少女。
彼女自身は決闘者というわけではないが、ここはデュエルがその他の全てに優先される世界。1年も暮らしていればモンスターのステータスの意味くらい分かるようになる。
モンスターはそのレベルによって大きく三種類に別けられる。
レベル4以下は下級、レベル5から6は上級、レベル7以上は最上級モンスターだ。
レベルの低い下級モンスターならば召喚したり操ったりするのはそう難しくはないらしい。しかし上級以上はそうはいかない。ましてレベル8など、相当な魔力の持ち主でなければ召喚しようと試みるだけで卒倒しかねないだろう。
そんな強大なモンスターを同い歳くらいの少年が軽々と召喚してみせた。
流石は七星候はタイタン家の一族ということか。その魔力は同じアカデミア受験生の中でもおそらく屈指だろう。家名を振りかざすだけの坊っちゃんかと思っていたが、どうやらそうではなかったらしい。
少女は自分のピンチに颯爽と現れたユーイという少年に密かに期待していた。
昔読んだ少女漫画の主人公みたいに正義感の強いイケメンに助けられて、やがて二人は恋に落ちる。そんな妄想に当てられていたのだ。
だが一転、彼女は不安に駆られた。
こんな凄いモンスターを操る相手に彼は勝てるだろうか。
そう考えながらユーイに目を向けると・・・
彼は子供みたいに目を輝かせていた。
「すげー。デケー」
(あ、ダメっぽい・・・)
《ジェネシス・デーモン》を見上げるその表情は、憧れのヒーローやロボットに出会った男の子そのもの。惚けたように口を開けている。その口から漏れてくるのは感嘆ばかりだ。
これでは立ち向かうどころか敵として認識しているかどうかも疑わしい。
少女は密かに肩を落とした。
そんな少女を尻目に、シクスは背中に汗していた。
(流石にキツイね・・・)
涼しい顔を装ってはいるが、彼にとってもレベル8のモンスターを召喚するのは並のことではない。魔力枯渇で昏倒とまではいかずとも、軽い目眩が断続的に襲ってくる。
しかしそこは気力で耐えなければならない。一般人と貴族との如何ともしたがたい差を見せつけるためには、この程度でグラついている様を見せることなどできるはずもない。
「どうだい、ボクの最強モンスターを目の当たりにした気分は? 戦闘破壊耐性を持つモンスターでこちらの攻撃を耐えて上級モンスターの召喚に持っていくつもりだったようだが、当てが外れたねぇ」
あえて軽口を叩き、内心の動揺を押し隠す。
しかしその軽口を向けられた当のユーイはきょとんとした顔。
「いやぁ、すげーなアンタ。正直舐めてたよ。まさかこんなスゲーのを召喚するほどの魔力の持ち主だなんて思ってなかった」
素直に感嘆の意を述べる。
シクスにしてみれば拍子抜けだ。てっきりもっとビビるか悔しがるか、そういうリアクションを期待していたのだが。
「フ、フフン。そうだろう、君のような下賎の輩では当然無理な話だ」
ユーイが頭を掻く。
「まぁな、俺なんて上級モンスターを召喚することすら出来ねぇもんな」
「は?」
何気ないユーイの言葉であったが、それを聞いたシクスが目を丸くした。
「いま・・・何て言った・・・?」
「ん? ああ、なんでも俺は魔力量で言えば凡人以下なんだと。だからはんぱなく魔力使う高レベルモンスターの召喚なんか1度たりとも無理なわけ」
そんなことを事も無げにすらすらとのたまう。
しばらく事態が飲み込めずポカンとしてしまったシクスだったが、そのことが理解でき始めた頃、その心中に沸々と沸き上がってきたのは勝利の確信などではなく激しい怒りだった。
(このボクがふらつきそうな足をこんなに必死になって踏ん張ってまで《ジェネシス・デーモン》を召喚したのは、こんなカスみたいな奴を倒すためだったというのか・・・!?)
「き、貴様は・・・その程度の実力で・・・このボクとデュエルをしていたのか・・・」
沸き上がり続ける怒りが口を突いて漏れ出てくる。
「タイタン家次期当主である・・・このボクが・・・こんな奴相手に・・・」
「おいおい、デュエルを挑んできたのはアンタだぜ?」
「このボクが貴様に『挑んだ』だと!? 頭に乗るなよッ! 上級モンスターを召喚すら出来ないゴミクズの分際でッ! このボクをコケにしやがって! もういい、貴様など一気加勢に叩き潰してくれるわッ!!」
貴族にとって最も重要なのは矜持である。
その貴族たるシクスにとって、ただの一般人であり大した魔力も持たないユーイに対等な顔をされるのは我慢ならなかった。ましてその相手に無理を通して最強モンスターを召喚してしまったとなれば、まるで自分が必死にならなければ勝てないと思ってしまったかのようではないか。それだけで面子は丸潰れだ。
(これはタイタン家への最大の侮辱だ・・・!)
ユーイからしてみればこのデュエルはシクスから申し出てきたことであり何もタイタン家に含むところなどないのだが、どうやら彼の中ではそう結論付けられてしまったらしい。
(まぁ、それは別にいいけど)
ユーイにとってはそんなことはどうでもいいことだ。むしろそれでシクスが本気になってくれるのなら逆に願ったりである。なにしろユーイがこのデュエルに期待することは、自分のデュエルがヒスイ以外の相手にどれだけ通用するか試すことなのだから。
シクスが残りの魔力を集中させる。
「ボクのバトルフェイズはまだ終わってはいないッ! 行けッ《ジェネシス・デーモン》! 奴を粉々に叩き潰せッ!!」
フィールドに《ジェネシス・デーモン》の攻撃からユーイを守るモンスターはもういない。
シクスの怒号のような指示に従い、《ジェネシス・デーモン》が携えた大剣を振り上げる。
その切っ先は建物数階分の高さ。それが重力に任せて振り下ろされた。
轟音。
それはもうほとんど爆発だった。
剣の直撃を受けた地面は大きく裂け、巻き起こる衝撃波はまるで爆風。まわりの建物にまで亀裂を生じさせ、砂嵐のごとき粉塵が吹き荒れた。
ユーイも悲鳴すら上げる間もなくその衝撃波で優に数メートルは吹っ飛ばされる。
「ぐっ・・・!」
何とか受け身は取ったものの、強かに打ち付けた背中が痛む。
ユーイ(LP4000→1000)
ユーイのライフはたったの一撃でその大半が削られてしまった。
ライフとは現有する魔力が数値化されたものであり、これはユーイの残り魔力が4分の3一気に失われたことを示していた。
幸い身体的なダメージは少なくて済んだが、この消失は間違いなく大きな痛手だ。
しかしユーイの顔は少しも悲壮ではない。
「この瞬間、俺の罠カード《ダメージ・コンデンサ―》が発動!」
まだ粉塵収まらぬ中、ユーイの伏せカードが発動した。
「《ダメージ・コンデンサ―》は戦闘ダメージを受けた時に発動でき、手札を1枚捨てることで受けたダメージの数値以下の攻撃力を持つモンスターをデッキから特殊召喚する! 俺はデッキから《エルフの双剣士》を特殊召喚!」
フィールドに立ち上る粉塵が十字に切り裂かれた。そしてその中から両手に剣を握る剣士が躍り出る。
エルフの双剣士(OP1400)
《エルフの双剣士》は先の《翻弄するエルフの剣士》そっくりの美青年だった。しかしその手には二本の剣を有している。
「さらに《エルフの双剣士》のモンスター効果!《エルフの双剣士》は特殊召喚に成功した場合、相手に700ポイントのダメージを与える!」
空中に舞い上がった《エルフの双剣士》が携えた剣の内一本をシクスに向けて投げつける。
空気を切り裂いて飛来した剣はシクスの頬を掠めて後方に突き刺さった。
シクス(LP4000→3300)
シクスの頬に一筋線が浮き出て、すぐに消える。
シクスは拳でそれを拭うように擦った。
「チッ、悪あがきを・・・」
《エルフの双剣士》は役割を終えるとユーイの傍らに戻り、彼を守るように剣を構えた。
それを見やりシクスは不快げに鼻を鳴らす。
「またしてもレベル4以下の下級モンスターか。その程度の分際で《ジェネシス・デーモン》から主を守っているつもりなのか?」
《ダメージ・コンデンサ―》の効果ならば《ジェネシス・デーモン》の直接攻撃を受けた時点で、攻撃力3000以下のモンスターを特殊召喚することができたはず。つまり最上級モンスターであろうと大抵のモンスターならば特殊召喚するチャンスはあったのだ。それにも関わらずユーイが選択したのはまたしてもレベルの低い下級モンスターだった。
(これではっきりした。こいつの魔力がその程度しかないというのは、こちらの油断を誘うための方便などではなく真実。事実、このユーイとかいう男はレベル5以上の上級モンスターを召喚することは出来ないということだ)
シクスはギラリと《エルフの双剣士》を睨み付ける。
「デュエルとはつまり如何にして高レベル、高攻撃力のモンスターを召喚するかを競う闘いだ! 高レベルのモンスターを召喚出来ない貴様には、最初から勝ち目などない!」
「そうかな? レベルの低いモンスターにだって強力なモンスターはいるぜ」
「ほざけッ! 貴様が如何な低レベルのモンスターを並べようと、我が《ジェネシス・デーモン》の前には無意味! 無価値! 言っただろう、貴様は犬のクソを後生大事にしている愚か者だとな! それを特と見せてやる!」
シクスは腕を振るう。
「《ジェネシス・デーモン》のモンスター効果発動! 《戦慄の凶皇―ジェネシス・デーモン》は手札または墓地の「デーモン」モンスターを除外することで、フィールドのカード1枚を破壊することができる! ボクは墓地から《デーモンの騎兵》を除外し、貴様の《エルフの双剣士》を破壊する!」
《ジェネシス・デーモン》が剣を地面に突き立てると、そこからまるで霊魂のような白いもやが立ち上ぼり始めた。
それらはやがて集束し《デーモンの騎兵》そっくりの形を作る。
「雑魚は消え去れィ!!」
《デーモンの騎兵》霊魂は音もなく疾走し《エルフの双剣士》へと殺到する。
そしてそのランスは今度こそ《エルフの双剣士》の胸を突き刺した。
「くっ・・・!」
《エルフの双剣士》は断末魔を上げながら消え去り、それと共に《デーモンの騎兵》霊魂も霧散した。
これで再びユーイのフィールドはもぬけの空となってしまった。
「貴様が上級モンスターを召喚することができまいと、貴様のフィールドにモンスターは残さん! 貴様は己の無力さを噛み締めながら敗れ去るのだ!」
シクスがワハハハと高笑いする。
自らの思惑がその通りに達成され、勝利を確信しきっている。
しかしそれでもユーイの顔に焦りはない。
「そいつはどうかな? 俺のターン!」
デッキに手をかけカードをドローする。
「どうやらその高レベルモンスター至上主義ってのがこの国のスタンダードらしい。だけどな、デュエルってやつの底はそんなに浅きゃないんだぜ。レベルの差がデュエルの決定的差じゃないことを教えてやる」
ユーイは手札から1枚のカードを選択する。
「見せてやるぜ、俺の最強カードをな! 俺はこのモンスターを召喚する!」
ユーイがそのカードをデュエルディスクにセットし、魔力を流し込む。
しかしそれで使用する魔力はほんのちょっぴりのものだ。
そのほんのちょっぴりの魔力でユーイのフィールドにモンスターが顕現した。
大きな丸い瞳が二つ。黒い毛に覆われたまるっこい体に小さな手足がちょこんと付いている。
ただそれだけのモンスター。
ぬいぐるみと見紛うくらいの愛らしいそのモンスターの名前は《クリボー》。
クリボー(OP300)
クリクリ~♪と可愛らしい声を上げる《クリボー》のレベルは1。攻撃力もわずか300しかない。
ユーイはそのモンスターを攻撃表示で召喚した。
「レベル1で攻撃力300だと・・・? 貴様、どこまでこのボクを馬鹿にするつもりだ・・・!」
怒りに震えるシクス。
しかしユーイは大真面目だ。
「確かに《クリボー》のステータスは低い。お世辞にも戦闘には向いちゃいない。だけどな、この世界には価値のないモンスターも価値のないカードも存在しない。価値のない人間が存在しないようにな。《クリボー》には《クリボー》の《クリボー》じゃなきゃいけない価値がある。それを見せてやるよ!」
ユーイが前方に手を伸ばす。
そして叫んだ。
「現れろ!未来を導くサーキット!」
すると空中に四角いゲートのようなものが出現した。
シクスも周りの者達もデュエル中にこんなものが出てきたことなど見たこともない。
「なんだ、これは・・・!?」
未知の現象にさしものシクスも声を裏返して驚愕を示す。
「まぁ、見てろって」
ユーイが笑みを見せて、現れたゲートを確認する。
ゲートには上、右上、右、右下、下、左下、左、左上の計八ヶ所に矢印のようなものが見える。
その内、下部分の矢印のみがほんのり色付いていた。
「アローヘッド確認! 召喚条件は、攻撃力500以下のモンスター1体! 俺は《クリボー》をリンクマーカーにセット!」
ユーイが宣言すると、フィールドの《クリボー》が黒い粒子となり下方向の矢印に吸い込まれて行った。
矢印にしっかりとした色が付く。
シクスも他の者も一体何が起こっているのか理解できない。
ただ為す術なく起こることを見守っている他ない。
「これで準備は整った! いくぜ、サーキットコンバイン! リンク召喚! 現れろ、リンク1!《ブリッツ・マジシャン》!!」
ユーイの詠唱により、ゲートから新たなモンスターが出現した。
現れたのは、紫紺の法衣を身に纏い自分の背丈以上の長さはある杖を携えた魔導師。
『チュミミ~ン♪』
しかしその背丈はユーイの半分ほどしかない。短い手足、丸みのあるふにふにと柔らかそうな顔にはぱっちりと大きく愛らしい目。人間で推定するなら4~5歳くらいだろうか。
幼女であった。
ゲートから飛び出した幼女が、召喚されたばかりで周囲の状況が分かっていないのかキョロキョロと辺りを見渡している。
ユーイを見つけると『ボロボロらな~い』と言ってキャハハと笑った。
言われてみれば、確かにユーイの服は土埃にまみれて薄汚れている。
「そう言うなよ。今日も頼むぜ、《ブリッツ・マジシャン》」
『なんら~? チュミ~負けてるらな~い』
《ブリッツ・マジシャン》は呆れたように嘆息する。
そんな二人のやりとりをシクス達は目を丸くしてみていた。
「モンスターがしゃべっている・・・」
その家柄故、タイタン家には何人もの決闘者が出入りしていた。シクスが出会ったことのある決闘者は一人や二人ではない。
しかしその誰もモンスターと会話しているところを見たことはないし、モンスターと会話が成立するなどと教わったこともない。
呆気に取られるシクスを見やり、《ブリッツ・マジシャン》がフフンと勝ち誇った笑みを見せる。
『アタチとチュミとの絆は、アンタ達みたいにたら魔力で支配してるのとは違うのよ♪』
モンスターとはいえ幼女に見下した視線を向けられ、シクスは歯噛みする。
「この小娘がしゃべっていることもそうだが、なんだ今の召喚は!? リンク・・・召喚だと!?」
口惜しさからか顔を歪めるシクスに、ユーイがまっすぐな視線を送る。
「さっきも言った通り、俺は高レベルのモンスターを召喚し使役するには魔力が足りない。そこで目を付けたのがこのリンク召喚さ。リンクモンスターはレベルを持たない。だから召喚するのに必要な魔力は少なくて済む。言わば省エネ戦法ってとこかな」
「しょ・・・えね・・・なんだって?」
「ああ、この国にはそんな言葉ないのか。まぁ何でもいいさ。とにかくこのリンク召喚こそが、魔力の少ない俺でも高い魔力を持つ決闘者に立ち向かうことのできる武器ってことだ」
『そういうことなのら!』
ユーイに追随して《ブリッツ・マジシャン》も平らな胸を張る。
視線を交わして笑む二人。そこには確かな絆が見えた。
「くっ、だがそんなモンスターを召喚したところで何になる!? こちらのターンになればボクの《ジェネシス・デーモン》で蹴散らしてくれるッ!」
少し気圧された様子ながら、シクスが虚勢を張る。
ブリッツ・マジシャン(OP300)
《ブリッツ・マジシャン》の攻撃力は《クリボー》と同様の僅か300。確かに《ジェネシス・デーモン》の敵ではない。
だがユーイには《ブリッツ・マジシャン》に対する絶対的な信頼があった。
「いいや、アンタのターンはもう来ない。このターンで決める!《ブリッツ・マジシャン》のモンスター効果ッ!!」
ユーイが合図を送ると、《ブリッツ・マジシャン》が体いっぱいで杖を振るう。
「《ブリッツ・マジシャン》はリンク召喚に成功した時、墓地に同じ攻撃力のモンスターが2種類以上存在する場合、そのいずれか1体をこのカードのリンク先に特殊召喚できる!」
《ブリッツ・マジシャン》の背後にバチッと魔力が弾け魔法陣が浮かび上がる。
その魔法陣内にすーっと姿を現したのは二本の剣を携えたエルフの戦士―――《エルフの双剣士》だ。
ユーイの墓地には《翻弄するエルフの剣士》と《エルフの双剣士》の2体のモンスターが存在していた。これらのモンスターはどちらも攻撃力1400。《ブリッツ・マジシャン》の効果を受ける条件に当てはまる。
「そして《エルフの双剣士》は特殊召喚に成功した場合、相手に700ポイントのダメージを与える!」
復活した《エルフの双剣士》が再びその剣をシクスに投げつける。
「うあっ!」
その剣は何とか避けるもシクスのライフは削り取られた。
シクス(LP3300→2600)
剣を避けるために尻餅をつく形となったシクスが慌てて立ち上がる。
衆目がある大通りでのデュエルだ、貴族が無様な姿を見せるわけにはいかない。
「《ダメージ・コンデンサ―》でわざわざ攻撃力1400のモンスターを呼んだのはこのためかッ! だがこの程度のダメージを受けたからといって、ボクに《ジェネシス・デーモン》がいる限り勝てはしないぞッ!」
「まだまだぁ!!《ブリッツ・マジシャン》の更なる効果!!《ブリッツ・マジシャン》は1ターンに1度、フィールドのモンスター1体の攻撃力を守備力と同じ数値に変換できる! 対象はもちろん《ジェネシス・デーモン》だ!!」
《ブリッツ・マジシャン》が杖を掲げ、その魔力が紫の放電となって《ジェネシス・デーモン》を襲う。
全身を伝う電撃に流石の《ジェネシス・デーモン》も苦悶の声を上げた。
戦慄の凶皇―ジェネシス・デーモン(OP3000→2000)
《ジェネシス・デーモン》の守備力は2000。その攻撃力が守備力の数値まで下降する。
見た目には《ジェネシス・デーモン》が《ブリッツ・マジシャン》の電撃に焼かれ、力を失ったように見える。
だが《ブリッツ・マジシャン》のモンスター効果はこれで終わりではない。
「そしてこの効果が適用された場合、この効果で攻撃力が変動した数値分このカードのリンク先のモンスターの攻撃力をアップする!!」
「なにッ!?」
これまで《ジェネシス・デーモン》に絶対的な自信を持っていたシクスが初めて焦りの表情を見せた。
エルフの双剣士(OP1400→2400)
《エルフの双剣士》の攻撃力が《ジェネシス・デーモン》の攻撃力が下がった1000ポイント分アップする。
これにより《エルフの双剣士》の攻撃力が《ジェネシス・デーモン》を上回った。そしてユーイのモンスターが初めてシクスのモンスターを上回ったことになる。
「ぐ・・・」
シクスがその事実に打たれたのか歯を食い縛る。
だがユーイは攻めの手を緩めることはない。
「いくぞッ、バトルだッ! 《エルフの双剣士》で《ジェネシス・デーモン》を攻撃!!」
ユーイの指示を受け《エルフの双剣士》が宙に飛び上がる。その両手にはいつの間にか2本の剣が復活している。
『精・剣・連・斬!!』
目にも止まらぬとはこのこと。《エルフの双剣士》が放った五月雨斬りはユーイにもシクスにも目で追うことすらできないほどのスピードで《ジェネシス・デーモン》の巨体を斬り刻んでいた。
「ぐはぁ!」
只でさえ《ジェネシス・デーモン》の召喚や《エルフの双剣士》のモンスター効果により消耗していたシクスの魔力に更なるダメージを与える。
シクス(LP2600→2200)
「ば、馬鹿な・・・ボクの《ジェネシス・デーモン》が・・・あんなモンスターにィ・・・!!」
目の前で自身の最強モンスターを微塵に切り裂かれたシクスが口端から泡を出しながら呻く。
しかしユーイはそんなシクスにも憐れみはかけない。
「《エルフの双剣士》は1度のバトルフェイズに2度攻撃できる」
それを聞き、膝から崩れ落ちるシクス。
その前に《エルフの双剣士》が立つ。そして一閃。
それはまるで介錯の刃のようだった。
シクス(LP2200→0)
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リンクモンスターが出てきて意外に思いました。(個人的には)初めて見るリンク召喚を扱ったSS、そして少女の顛末、どういう展開になるか楽しみです。 (2017-12-19 16:16)
小説書くのってたいへんですね。改めて感じました。
ター坊さん
いつもコメントありがとうございます!
お察しの通り、決闘者の魔力がデュエルに影響するというのが本作のちょっと変わったところかもしれませんね。魔力切れでモンスターが召喚できないとか。その設定を活かせるように頑張ります!
リンク召喚は、ユーイが成長していく様を表現するのに適していると考えての採用です。まだリンク召喚を主に使用する主人公は少なそうというのも理由の一つですね。正直ドライブ召喚も候補ではありましたが(笑) (2017-12-19 17:55)