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9:雷刃 作:天
『身長5メートル』と言葉にしたとしてもそれをリアルに想像することは難しいだろう。
高さ5メートルというのは、大体2階建ての建物くらいに相当する高さだ。想像してみて欲しい、2階建ての建築物と同じ高さの人間を。それはもはや化け物以外のなにものでもない。
ユーイの前にはその化け物が悠然と立ち、こちらを見下ろしていた。
古代の機械巨人―アルティメット・パウンド(星8/OP3000)
『大きい』ということは、それ自体が力だ。大きいというだけで、それを見る者に根源的な恐怖を与える。
この《古代の機械巨人―アルティメット・パウンド》はまるでその力を具現化したような存在だった。見上げているだけで肌が粟立つようだ。
(レベルや攻撃力はシクスの《戦慄の凶皇―ジェネシス・デーモン》と同じ。だが、この《古代の機械巨人―アルティメット・パウンド》からはそれよりも遥かに強い威圧感を感じる・・・!)
(それに―――)とユーイはクローディアを観察する。
(シクスはレベル8のモンスターを召喚した後、急激に消耗していた。だが彼女はどうだ、連続でレベル8モンスターを召喚していながらまるでケロリとしている。桁違いの魔力量だ・・・!)
『アカデミアの魔女』という異名は伊達ではない。間違いなく彼女は受験生レベルでまともに太刀打ちできる決闘者ではない。
だが――――
「ワタシのターン! ドローなノネ!」
ターンが移り、クローディアがカードをドローする。
「ワタシは手札から装備魔法《古代の機械砲(アンティーク・ギアバズーカ)》を《古代の機械巨人―アルティメット・パウンド》に装備するノネ! これにより《古代の機械巨人―アルティメット・パウンド》の攻撃力は600アップ!」
《古代の機械巨人―アルティメット・パウンド》の肩に名前通りバズーカが装備された。武装が追加されたことでその攻撃力がアップする。
古代の機械巨人―アルティメット・パウンド(OP3000→3600)
《古代の機械砲》を装備した《古代の機械巨人―アルティメット・パウンド》の攻撃力は3600。ユーイの《極夜の騎士 ガイア》の攻撃力1600ではもはや対抗できない数値だ。
「バトルなノネ!《古代の機械巨人―アルティメット・パウンド》で《極夜の騎士 ガイア》に攻撃ッ!〝アルティメット・パウンド〟!!」
《古代の機械巨人―アルティメット・パウンド》の攻撃技は、その巨大な拳で相手を殴り潰すその名にも冠されている〝アルティメット・パウンド〟。バズーカを装備していようとそれは変わらない。
《古代の機械巨人―アルティメット・パウンド》がギギギと体を鳴らしながらその拳を振り上げる。
「潰れなサイッ!」
ゴウッという風音とともにその拳が振り下ろされる。その圧倒的な力強さに《極夜の騎士 ガイア》は身動き一つできない。
「くっ・・・!」
ユーイは急いで手札を切る。
「手札から《クリボー》の効果を発動ッ!《クリボー》を墓地に送ることで、この戦闘でのダメージを0にするッ!」
《極夜の騎士 ガイア》の眼前に《クリボー》が立ちはだかった。
小さな手足を精一杯伸ばし《古代の機械巨人―アルティメット・パウンド》の拳を受け止めようとしているようだ。
「なるほど、先ほどそのモンスターをサーチしたのはそのためなノネ!《古代の機械巨人―アルティメット・パウンド》が攻撃する間、魔法・罠カードは発動できないが、モンスター効果は別なノネ!」
《古代の機械巨人―アルティメット・パウンド》には自身が攻撃するダメージステップ終了時まで相手の魔法・罠カードの発動を封じる効果がある。しかしモンスター効果ならばその範囲ではない。《クリボー》の効果ならば《極夜の騎士 ガイア》を守ることは出来ずとも、ユーイへの大ダメージは防ぐことができる。
「だが甘いノネ!《古代の機械砲》の効果発動ッ!《古代の機械砲》は、装備モンスターが攻撃するダメージステップ終了時までに相手が発動したモンスター効果・魔法・罠カードの効果を無効にして破壊することが出来るノネ!!」
《古代の機械巨人―アルティメット・パウンド》の肩に設置された《古代の機械砲》が轟音とともに砲弾を吐き出す。それは見事に《クリボー》へと直撃し爆発を以てそれを粉砕した。
「なッ――――!?」
「この効果を発動すると《古代の機械砲》は破壊されるノネ! でも《極夜の騎士 ガイア》を倒すには十分なノネ! さぁ、やりなサイ!《古代の機械巨人―アルティメット・パウンド》!!」
古代の機械巨人―アルティメット・パウンド(OP3600→3000)
装備カードだった《古代の機械砲》が破壊されたことで《古代の機械巨人―アルティメット・パウンド》の攻撃力は元々の数値に戻るが、これで邪魔はなくなったとばかりに〝アルティメット・パウンド〟が会場全体を揺らすような轟音とともに《極夜の騎士 ガイア》を押し潰した。
これまで以上の爆発が起こり、ユーイも後方へと吹き飛ばされた。
ユーイ(LP2400→1000)
・
・
・
・
「決まりましたね」
その声にアスナが振り返ると、そこにはダイキとカケルがいた。
「初めはバーン効果などで嫌らしく攻め、最後は圧倒的なパワーで相手を粉砕する。初めから終わりまでクローディア先生の掌上、クローディア先生の間合いだったな」
ダイキはアカデミアの主要な決闘者のデュエルデータは網羅しているつもりだ。クローディアのデュエルも例外ではない。
ダイキにはユーイがただ弄ばれているようにしか見えない。
「あの武藤とかいう男、万城目がずいぶんと気にかけていたんで期待してたんですがね。終わってみれば何てことはなかったですね」
そう言ってアスナの隣に腰掛ける。
「さぁ、それはどうかしらね・・・」
ダイキの言葉にフフと笑ったのはユウリだった。
視線は吹き飛ばされたユーイを追ったまま。
ダイキは眉を寄せて訊く。
「? 会長は彼のことご存知なんですか?」
「いいえ。でも彼、何かまだ隠してるわ」
ユウリは形の良い唇を少し緩める。
「確かに三沢君の言う通り彼の実力はクローディア先生の足元にも及ばないかもしれない。でもなんとなく分かる。『彼』の顔はまだ死んではいない。まだその瞳の奥にキラリと光る何かを秘めている。まるで『まだ切り札を残しているんだぜ』とでも言うかのように」
ユウリの顔は、まるで爽やかな風の吹く朝を迎えたかのように輝いていた。
「それにデュエルは『最後まで何が起こるかわからない』。そうでしょう?」
こんなに楽しそうなユウリは久しぶりだ。
その顔を見てダイキは(万城目と同じか・・・)と思う。
ユウリはダイキには分からない『何か』をユーイから感じ取っている。それがシュンと同じものなのかどうかは分からないが、ユーイにユウリやシュンのような決闘者を惹き付ける何かがあるのは間違いなさそうだ。
そういうセンスのない自分は彼らの態度を見て想像するしかないのがもどかしいが、他でもないユウリの言である以上、信じるしかない。
「武藤ユーイはまだ一発逆転の切り札を隠している・・・」
総合的な実力で劣る者が、たった1度のラッキーパンチでジャイアントキリングを起こすことは確かにある。
(彼が狙っているのも『それ』なのだろうか・・・。だが、会長の言う通り武藤ユーイが何か切り札を持っているとしても、何にせよこのターンを凌がなくては始まらない。クローディア先生の《古代の機械巨人―アルティメット・パウンド》が本当の恐ろしさを発揮するのは、これからなんだからな)
そこに集まった生徒会メンバーは、会長のユウリに倣って皆ユーイの動向に固唾を飲んだ。
・
・
・
・
吹っ飛ばされたユーイが何とか起き上がろうとしていた。
「ぐ・・・くっ・・・」
受け身は取ったつもりだったが、打ち付けたのか脇腹が痛む。
この会場にいる一体何人が、なぜユーイが吹っ飛ばされたのかを理解できているだろうか?
デュエルに於いて召喚されているモンスターは、謂わば霊体に近い。モンスター同士ならばいざ知らずプレイヤーはモンスターに攻撃されても痛くも痒くもない。デュエル中のダメージはあくまで魔力が負うダメージであり、モンスターが実世界に干渉することはない。
それが通例であり常識である。
だからこそこの会場に集まった者の多くは、吹っ飛ばされたユーイに『派手なリアクションしやがって』くらいの感想しか抱かない。
しかし実際にクローディアと対峙してみれば分かる。彼女の召喚した《古代の機械巨人―アルティメット・パウンド》の持つ霊体というにはあまりに濃厚でリアルな気配。その拳が地面に直撃した際に発せられた絶大なインパクト。
それらが確かな『実感』となってユーイを吹き飛ばしたのだ。
(何だ・・・今の衝撃は・・・。これが超一流決闘者の魔力の為せるわざなのか?)
改めてユーイは自分とクローディアの間にあるあまりに遠い実力の隔たりに戦慄を覚える。
(愕然とするな・・・。これほどかよ・・・)
連続で高レベルのモンスターを召喚しても疲労の色すら見せない魔力量。召喚されたモンスターの持つ濃度。そしてこちらの思惑を易々と乗り越える戦術性やデュエル技術。それら全てが段違いだ。
「あら、戦意喪失?」
クローディアがユーイを見下ろしていた。
実際にはユーイより小柄な彼女に、しかし確かに見下ろされているという感覚。
答えられないユーイに失望したようにクローディアはため息をつく。
「ここまでなノネ。少しは期待していたのだけれど、これで闘う意志が折れたのなら仕方がないノネ」
クローディアは手札からカードを1枚墓地へ送る。
「《古代の機械巨人―アルティメット・パウンド》は手札の機械族モンスターを墓地に送ることで、もう1度続けて攻撃できるノネ! これでフィニッシュなノネ!」
再び《古代の機械巨人―アルティメット・パウンド》が拳を上げる。
今度はユーイを守るモンスターはいない。先ほど《極夜の騎士 ガイア》を葬ったあのパンチが、今度はユーイ本人を襲うのだ。今度はもしかしたらユーイ本人がぺしゃんこに潰されてしまう番かもしれない。
何よりも残りLP1000のユーイがこの直接攻撃を受ければ、デュエルに負け、今後一切のデュエル・アカデミア受験資格を失ってしまう。
「潰れなサイ!!〝アルティメット・パウンド〟!!」
巨岩のような拳が迫る。
しかしユーイは身動き一つしない。
それは諦めか、それとも恐怖で動けないのか。
いや、そのどちらでもなかった――――。
ユーイの手前数メートルのところで《古代の機械巨人―アルティメット・パウンド》の拳がピタリと止まった。
「なにッ!?」
このデュエルが始まって初めてクローディアの顔から笑みが消えた。
どこからかカランカランと鐘の音が聞こえてくる。
見ると、ユーイの前に振り子時計の振り子に似たモンスターが召喚されていた。どうやらそのモンスターがこの鐘の音を鳴らしているようだ。
「これは一体・・・?」
困惑するクローディアに、ユーイが射るような視線を向ける。
「確かにあんたは強い。まだ俺はあんたに遠く及ばないだろう」
それからグイと引っ張って服の胸元を解放する。
「だが、この武藤ユーイには夢があるッ! それを阻むものは何であろうと倒さなくちゃあならないッ! あんたに勝たなきゃアカデミアに入学できないというのなら、何がなんでも俺はあんたを倒さなければならないッ!!」
ユーイはデュエルディスクを掲げてそこに設置されているカードをクローディアに見せる。
「俺が発動したカードは《バトル・フェーダー》ッ! このモンスターは、相手モンスターの直接攻撃宣言時に発動でき、発動後に特殊召喚され、そのバトルフェイズを終了させるッ!」
バトル・フェーダー(星1/DP0)
ユーイのフィールドで鐘を鳴らす小さなモンスター《バトル・フェーダー》は、《クリボー》と同じく手札から効果を発動できるモンスター。直接攻撃宣言時にしか発動できないが、《クリボー》とは違いフィールドに特殊召喚されバトルフェイズそのものを終了させることができる。
「なるほど、まだ手札に防御用のカードを持っていたノネ。しかもバトルフェイズを終了させることで《古代の機械巨人―アルティメット・パウンド》の更なる連続攻撃をも防いだわけなノネ」
クローディアはにやりと笑う。
だがその笑みは今までの嘲笑とは少し違う。まるでユーイが彼女の予想を超えてきたことが嬉しいような、そんな笑みであった。
「中々良いノネ。それでワタシをどう倒すつもりなのか見せてもらうノネ。ワタシはこれでターン終了なノネ」
クローディアがターン終了を宣言したため、ユーイのターンへと移行する。
「俺のターン!!」
ユーイが手札を再度見やる。
手札の内容はモンスター2枚に魔法が1枚。
この窮地を打開できる可能性があるのは、この内1枚の魔法カードのみ。しかしそれを発動するにはピースが足りない。
(このドローでそれを引かなきゃあ俺に勝ち目はないッ!)
デッキに手を添える。
(来いッ!)
「ドローッ!!」
祈るような気持ちでカードをドローする。
引いたカードは――――《開闢の騎士》。
《開闢の騎士》はレベル4、攻撃力500、守備力2000の戦士族モンスター。決して攻撃的なモンスターではない。
しかし、ユーイは(良しッ!)と心の中でガッツポーズを取った。
ユーイが求めていたのはまさにこういったステータスのモンスターだったのだ。
「俺が今持てる全てで挑まなければ、きっとあんたには届かないだろうッ! だから見せてやるッ! これが俺の未来を決めるラストターンだッ!」
ユーイは宙に手を伸ばす。
まるでそこにある求める何かを掴み取ろうとするように。
「現れろ!未来を導くサーキット!」
ユーイが叫ぶと空中に四角いゲートが出現する。
「これは・・・!」
クローディアが目を見開く。
会場でこのデュエルを観ていた者達からもザワザワとざわめきが起こる。
ユーイが現れたゲートを確認する。
シクスとのデュエル同様、下部分の矢印のみがほんのり色付いていた。
「アローヘッド確認! 召喚条件は、攻撃力500以下のモンスター1体! 俺は攻撃力0の《バトル・フェーダー》をリンクマーカーにセット!」
ユーイが宣言すると、フィールドの《バトル・フェーダー》が黒い粒子となり下方向の矢印に吸い込まれて行った。
矢印にしっかりとした色が付く。
「サーキットコンバイン! リンク召喚! 現れろ、リンク1!《ブリッツ・マジシャン》!!」
ゲートから小さな影が飛び出してくる。
それは宙でくるりと一回転舞い、ビシッとポーズを決めた。
ユーイの幼きエース《ブリッツ・マジシャン》の登場である。
ブリッツ・マジシャン(リンク1/OP300)
『チュミミ~ン♪もう~あたちを呼ぶときはいつもピンチらね~』
《ブリッツ・マジシャン》がユーイに小言を言う。言われてみれば確かに彼女を召喚するときは負けている時がほとんどだ。
「仕方ないだろう、君にはその窮地を覆す力があるんだから」
ユーイがそう言うと《ブリッツ・マジシャン》は照れたように『それほどでもないのよ~』とくねくねする。
「リンク召喚・・・! なるほど、それがあなたの隠し玉なノネ・・・!」
そのやりとりを見ていたクローディアが楽しそうに言う。
(何かあるだろうとは思っていたけれど、まさかリンク召喚とは思わなかったノネ・・・。これまでは『首飾りの国』にいたらしいし、『なるほど』というところなノネ。それにしても会話が成立するほど『精霊力』の高いモンスターとは、ネ)
「さぁ、見せてやろうぜ。《ブリッツ・マジシャン》!」
『はいさなのよ~』
そう言って前を向くユーイと《ブリッツ・マジシャン》の視線を、クローディアは実に面白そうに受け止めた。
・
・
・
・
甦ってきた苦々しい記憶を振り払うようにシクスは手すりを殴りつけた。
その視線の先には当然紫紺の法衣を身に纏う幼女のモンスター。
それに恨みがましい視線を送りながら、しかしシクスはほくそ笑む。
(あの《ブリッツ・マジシャン》のモンスター効果は相手モンスターの攻撃力を守備力と同じ値にし、その変化した数値分自分のモンスターの攻撃力を上げる。しかし『アカデミアの魔女』の《古代の機械巨人―アルティメット・パウンド》の攻守は共に3000だ。そのガキの効果では倒せないッ!)
相手モンスターの弱体化と自分のモンスターのパワーアップを同時に行うのが《ブリッツ・マジシャン》の能力。攻守がどちらも同じ高い数値を誇る《古代の機械巨人―アルティメット・パウンド》にはその能力は通用しない。
それがシクスの考えであった。
事実、少なくとも攻撃力を守備力と同じ値にする効果は確かに通用しない(というより意味がない)だろう。
だが、それはあくまでも《古代の機械巨人―アルティメット・パウンド》を効果の対象とする場合だ。
・
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・
・
(確かに《ブリッツ・マジシャン》の効果は《古代の機械巨人―アルティメット・パウンド》には通用しないッ! だけどそれだけが《ブリッツ・マジシャン》の使い方じゃあないッ!)
「俺は更に《開闢の騎士》を《ブリッツ・マジシャン》のリンク先に通常召喚するッ!」
ユーイのフィールドに黒い鎧と盾、剣を備えた少年のような小柄な騎士が召喚された。
開闢の騎士(星4/OP500)
しかしそのステータスは貧弱。とても《古代の機械巨人―アルティメット・パウンド》に勝てるようなものではない。
「確かに俺のモンスター達の攻撃力では、あんたのモンスターには及ばない。俺の実力とあんたの力に遠く隔たりがあるのと同じようにな。だがデュエルってやつは面白いよな。その時の状況や運次第じゃそれが覆ってしまうことがある。それを証明してやるッ!」
そう言うとユーイは《ブリッツ・マジシャン》に命じる。
「《ブリッツ・マジシャン》のモンスター効果発動ッ!《ブリッツ・マジシャン》はモンスター1体の攻撃力を守備力と同じ数値に変えるッ!」
《ブリッツ・マジシャン》が杖を掲げ、そこに魔力を集中し始める。魔力を帯びた紫の電光がスパークする。
「攻撃力を守備力と同じ数値に・・・? しかしワタシの《古代の機械巨人―アルティメット・パウンド》の攻撃力・守備力はどちらも3000なノネ。その効果に意味はないノネ」
クローディアの指摘にユーイは当然のように頷く。
「ああ。だが《ブリッツ・マジシャン》の効果対象は何もあんたのモンスターだけじゃあないッ!《ブリッツ・マジシャン》の効果対象に選べるのはフィールドの全てのモンスターなんだッ!」
そこまで言われてクローディアはハタとユーイの意図に気付いた。
「そうかッ! あなたの《開闢の騎士》も・・・ッ」
ユーイがニッと口の端を上げる。
「ああッ! やれッ!《ブリッツ・マジシャン》ッ! 〝紫電潮流(ブリッツ・ドライブ)〟!!」
《ブリッツ・マジシャン》の杖から電雷が発せられ、それが《開闢の騎士》の剣へと落ちる。
しかし《開闢の騎士》は感電することもなく、電雷も剣に帯電したままだ。
「《開闢の騎士》の守備力は2000ッ! つまり《ブリッツ・マジシャン》の効果により、《開闢の騎士》の攻撃力はそれと同値の2000となりッ! さらに、その変化した数値分攻撃力がアップするッ!!」
《ブリッツ・マジシャン》は効果対象に《開闢の騎士》を選び効果を発動した。《開闢の騎士》は攻撃力より守備力の方が高いため、攻撃力は2000にアップ。それに加えて《ブリッツ・マジシャン》の追加効果によりその変化した数値分―――つまり1500ポイント攻撃力が更にアップした。
つまり《開闢の騎士》は2段階のパワーアップを得たことになるのだ。
開闢の騎士(OP500→2000→3500)
これにより《開闢の騎士》の攻撃力は《古代の機械巨人―アルティメット・パウンド》の攻撃力を上回った。
《開闢の騎士》の剣は《ブリッツ・マジシャン》の魔力を吸収し、今や『雷撃の剣』と化している。そこに秘められた威力は計り知れない。
「いくぜッ!《開闢の騎士》の攻撃ッ!!〝紫電・雷刃(ブリッツ・サンダー・スラッシュ)〟ッ!!」
《開闢の騎士》が烈迫の気合いとともに剣を振ると、その剣先から轟音を響かせて雷撃が迸る。
それはまさに稲妻。一瞬の電光の間に《古代の機械巨人―アルティメット・パウンド》を切り裂いていた。
そして尚も迸る電撃はクローディアをも貫いた。
「くぁああああッ!!」
クローディア(LP3400→2900)
これでクローディアのフィールドにモンスターはいなくなった。
しかしこれだけではまだクローディアに勝ったことにはならない。
「この瞬間、手札から速攻魔法《ブリッツ・シュート》発動ッ! このカードは、自分フィールドに魔法使い族モンスターが存在し元々の攻撃力500以下のモンスターが相手モンスターを戦闘で破壊した時に発動できる魔法カードッ! その戦闘破壊されたモンスターの元々の攻撃力分のダメージを相手に与えるッ!!」
「なにッ!?」
それはユーイの最後の一手であり、ずっと発動の機会を探っていたキーカードでもあった。
先に述べた通り、効果ダメージを相手に与えるカードは相対的に強力であり、中でもこのカードの生み出すダメージ量は激烈の一言。発動条件が厳しいため使いどころは難しいが、ユーイのデッキには適していると言える。
《ブリッツ・マジシャン》が、先の攻撃の余波を受けたクローディアに迫り、その眼前に杖を突き出す。
『どう? あたちのチュミは強いでちょ?』
誇らしげにクローディアを見下ろす《ブリッツ・マジシャン》。
クローディアは苦笑する。
「そうネ。少なくとも第一関門はクリアってとこなノネ」
『・・・・』
クローディアの言葉に、何かしら思うところはあったようだが、しかし《ブリッツ・マジシャン》は何も言わなかった。
代わりに、杖から電撃を放つ。
『―――〝紫・電・魔・導(ブリッツ・マジック)〟』
クローディアがその電撃に包まれた時点で、このデュエルの勝敗は決した。
クローディア(LP2900→0)
高さ5メートルというのは、大体2階建ての建物くらいに相当する高さだ。想像してみて欲しい、2階建ての建築物と同じ高さの人間を。それはもはや化け物以外のなにものでもない。
ユーイの前にはその化け物が悠然と立ち、こちらを見下ろしていた。
古代の機械巨人―アルティメット・パウンド(星8/OP3000)
『大きい』ということは、それ自体が力だ。大きいというだけで、それを見る者に根源的な恐怖を与える。
この《古代の機械巨人―アルティメット・パウンド》はまるでその力を具現化したような存在だった。見上げているだけで肌が粟立つようだ。
(レベルや攻撃力はシクスの《戦慄の凶皇―ジェネシス・デーモン》と同じ。だが、この《古代の機械巨人―アルティメット・パウンド》からはそれよりも遥かに強い威圧感を感じる・・・!)
(それに―――)とユーイはクローディアを観察する。
(シクスはレベル8のモンスターを召喚した後、急激に消耗していた。だが彼女はどうだ、連続でレベル8モンスターを召喚していながらまるでケロリとしている。桁違いの魔力量だ・・・!)
『アカデミアの魔女』という異名は伊達ではない。間違いなく彼女は受験生レベルでまともに太刀打ちできる決闘者ではない。
だが――――
「ワタシのターン! ドローなノネ!」
ターンが移り、クローディアがカードをドローする。
「ワタシは手札から装備魔法《古代の機械砲(アンティーク・ギアバズーカ)》を《古代の機械巨人―アルティメット・パウンド》に装備するノネ! これにより《古代の機械巨人―アルティメット・パウンド》の攻撃力は600アップ!」
《古代の機械巨人―アルティメット・パウンド》の肩に名前通りバズーカが装備された。武装が追加されたことでその攻撃力がアップする。
古代の機械巨人―アルティメット・パウンド(OP3000→3600)
《古代の機械砲》を装備した《古代の機械巨人―アルティメット・パウンド》の攻撃力は3600。ユーイの《極夜の騎士 ガイア》の攻撃力1600ではもはや対抗できない数値だ。
「バトルなノネ!《古代の機械巨人―アルティメット・パウンド》で《極夜の騎士 ガイア》に攻撃ッ!〝アルティメット・パウンド〟!!」
《古代の機械巨人―アルティメット・パウンド》の攻撃技は、その巨大な拳で相手を殴り潰すその名にも冠されている〝アルティメット・パウンド〟。バズーカを装備していようとそれは変わらない。
《古代の機械巨人―アルティメット・パウンド》がギギギと体を鳴らしながらその拳を振り上げる。
「潰れなサイッ!」
ゴウッという風音とともにその拳が振り下ろされる。その圧倒的な力強さに《極夜の騎士 ガイア》は身動き一つできない。
「くっ・・・!」
ユーイは急いで手札を切る。
「手札から《クリボー》の効果を発動ッ!《クリボー》を墓地に送ることで、この戦闘でのダメージを0にするッ!」
《極夜の騎士 ガイア》の眼前に《クリボー》が立ちはだかった。
小さな手足を精一杯伸ばし《古代の機械巨人―アルティメット・パウンド》の拳を受け止めようとしているようだ。
「なるほど、先ほどそのモンスターをサーチしたのはそのためなノネ!《古代の機械巨人―アルティメット・パウンド》が攻撃する間、魔法・罠カードは発動できないが、モンスター効果は別なノネ!」
《古代の機械巨人―アルティメット・パウンド》には自身が攻撃するダメージステップ終了時まで相手の魔法・罠カードの発動を封じる効果がある。しかしモンスター効果ならばその範囲ではない。《クリボー》の効果ならば《極夜の騎士 ガイア》を守ることは出来ずとも、ユーイへの大ダメージは防ぐことができる。
「だが甘いノネ!《古代の機械砲》の効果発動ッ!《古代の機械砲》は、装備モンスターが攻撃するダメージステップ終了時までに相手が発動したモンスター効果・魔法・罠カードの効果を無効にして破壊することが出来るノネ!!」
《古代の機械巨人―アルティメット・パウンド》の肩に設置された《古代の機械砲》が轟音とともに砲弾を吐き出す。それは見事に《クリボー》へと直撃し爆発を以てそれを粉砕した。
「なッ――――!?」
「この効果を発動すると《古代の機械砲》は破壊されるノネ! でも《極夜の騎士 ガイア》を倒すには十分なノネ! さぁ、やりなサイ!《古代の機械巨人―アルティメット・パウンド》!!」
古代の機械巨人―アルティメット・パウンド(OP3600→3000)
装備カードだった《古代の機械砲》が破壊されたことで《古代の機械巨人―アルティメット・パウンド》の攻撃力は元々の数値に戻るが、これで邪魔はなくなったとばかりに〝アルティメット・パウンド〟が会場全体を揺らすような轟音とともに《極夜の騎士 ガイア》を押し潰した。
これまで以上の爆発が起こり、ユーイも後方へと吹き飛ばされた。
ユーイ(LP2400→1000)
・
・
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「決まりましたね」
その声にアスナが振り返ると、そこにはダイキとカケルがいた。
「初めはバーン効果などで嫌らしく攻め、最後は圧倒的なパワーで相手を粉砕する。初めから終わりまでクローディア先生の掌上、クローディア先生の間合いだったな」
ダイキはアカデミアの主要な決闘者のデュエルデータは網羅しているつもりだ。クローディアのデュエルも例外ではない。
ダイキにはユーイがただ弄ばれているようにしか見えない。
「あの武藤とかいう男、万城目がずいぶんと気にかけていたんで期待してたんですがね。終わってみれば何てことはなかったですね」
そう言ってアスナの隣に腰掛ける。
「さぁ、それはどうかしらね・・・」
ダイキの言葉にフフと笑ったのはユウリだった。
視線は吹き飛ばされたユーイを追ったまま。
ダイキは眉を寄せて訊く。
「? 会長は彼のことご存知なんですか?」
「いいえ。でも彼、何かまだ隠してるわ」
ユウリは形の良い唇を少し緩める。
「確かに三沢君の言う通り彼の実力はクローディア先生の足元にも及ばないかもしれない。でもなんとなく分かる。『彼』の顔はまだ死んではいない。まだその瞳の奥にキラリと光る何かを秘めている。まるで『まだ切り札を残しているんだぜ』とでも言うかのように」
ユウリの顔は、まるで爽やかな風の吹く朝を迎えたかのように輝いていた。
「それにデュエルは『最後まで何が起こるかわからない』。そうでしょう?」
こんなに楽しそうなユウリは久しぶりだ。
その顔を見てダイキは(万城目と同じか・・・)と思う。
ユウリはダイキには分からない『何か』をユーイから感じ取っている。それがシュンと同じものなのかどうかは分からないが、ユーイにユウリやシュンのような決闘者を惹き付ける何かがあるのは間違いなさそうだ。
そういうセンスのない自分は彼らの態度を見て想像するしかないのがもどかしいが、他でもないユウリの言である以上、信じるしかない。
「武藤ユーイはまだ一発逆転の切り札を隠している・・・」
総合的な実力で劣る者が、たった1度のラッキーパンチでジャイアントキリングを起こすことは確かにある。
(彼が狙っているのも『それ』なのだろうか・・・。だが、会長の言う通り武藤ユーイが何か切り札を持っているとしても、何にせよこのターンを凌がなくては始まらない。クローディア先生の《古代の機械巨人―アルティメット・パウンド》が本当の恐ろしさを発揮するのは、これからなんだからな)
そこに集まった生徒会メンバーは、会長のユウリに倣って皆ユーイの動向に固唾を飲んだ。
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吹っ飛ばされたユーイが何とか起き上がろうとしていた。
「ぐ・・・くっ・・・」
受け身は取ったつもりだったが、打ち付けたのか脇腹が痛む。
この会場にいる一体何人が、なぜユーイが吹っ飛ばされたのかを理解できているだろうか?
デュエルに於いて召喚されているモンスターは、謂わば霊体に近い。モンスター同士ならばいざ知らずプレイヤーはモンスターに攻撃されても痛くも痒くもない。デュエル中のダメージはあくまで魔力が負うダメージであり、モンスターが実世界に干渉することはない。
それが通例であり常識である。
だからこそこの会場に集まった者の多くは、吹っ飛ばされたユーイに『派手なリアクションしやがって』くらいの感想しか抱かない。
しかし実際にクローディアと対峙してみれば分かる。彼女の召喚した《古代の機械巨人―アルティメット・パウンド》の持つ霊体というにはあまりに濃厚でリアルな気配。その拳が地面に直撃した際に発せられた絶大なインパクト。
それらが確かな『実感』となってユーイを吹き飛ばしたのだ。
(何だ・・・今の衝撃は・・・。これが超一流決闘者の魔力の為せるわざなのか?)
改めてユーイは自分とクローディアの間にあるあまりに遠い実力の隔たりに戦慄を覚える。
(愕然とするな・・・。これほどかよ・・・)
連続で高レベルのモンスターを召喚しても疲労の色すら見せない魔力量。召喚されたモンスターの持つ濃度。そしてこちらの思惑を易々と乗り越える戦術性やデュエル技術。それら全てが段違いだ。
「あら、戦意喪失?」
クローディアがユーイを見下ろしていた。
実際にはユーイより小柄な彼女に、しかし確かに見下ろされているという感覚。
答えられないユーイに失望したようにクローディアはため息をつく。
「ここまでなノネ。少しは期待していたのだけれど、これで闘う意志が折れたのなら仕方がないノネ」
クローディアは手札からカードを1枚墓地へ送る。
「《古代の機械巨人―アルティメット・パウンド》は手札の機械族モンスターを墓地に送ることで、もう1度続けて攻撃できるノネ! これでフィニッシュなノネ!」
再び《古代の機械巨人―アルティメット・パウンド》が拳を上げる。
今度はユーイを守るモンスターはいない。先ほど《極夜の騎士 ガイア》を葬ったあのパンチが、今度はユーイ本人を襲うのだ。今度はもしかしたらユーイ本人がぺしゃんこに潰されてしまう番かもしれない。
何よりも残りLP1000のユーイがこの直接攻撃を受ければ、デュエルに負け、今後一切のデュエル・アカデミア受験資格を失ってしまう。
「潰れなサイ!!〝アルティメット・パウンド〟!!」
巨岩のような拳が迫る。
しかしユーイは身動き一つしない。
それは諦めか、それとも恐怖で動けないのか。
いや、そのどちらでもなかった――――。
ユーイの手前数メートルのところで《古代の機械巨人―アルティメット・パウンド》の拳がピタリと止まった。
「なにッ!?」
このデュエルが始まって初めてクローディアの顔から笑みが消えた。
どこからかカランカランと鐘の音が聞こえてくる。
見ると、ユーイの前に振り子時計の振り子に似たモンスターが召喚されていた。どうやらそのモンスターがこの鐘の音を鳴らしているようだ。
「これは一体・・・?」
困惑するクローディアに、ユーイが射るような視線を向ける。
「確かにあんたは強い。まだ俺はあんたに遠く及ばないだろう」
それからグイと引っ張って服の胸元を解放する。
「だが、この武藤ユーイには夢があるッ! それを阻むものは何であろうと倒さなくちゃあならないッ! あんたに勝たなきゃアカデミアに入学できないというのなら、何がなんでも俺はあんたを倒さなければならないッ!!」
ユーイはデュエルディスクを掲げてそこに設置されているカードをクローディアに見せる。
「俺が発動したカードは《バトル・フェーダー》ッ! このモンスターは、相手モンスターの直接攻撃宣言時に発動でき、発動後に特殊召喚され、そのバトルフェイズを終了させるッ!」
バトル・フェーダー(星1/DP0)
ユーイのフィールドで鐘を鳴らす小さなモンスター《バトル・フェーダー》は、《クリボー》と同じく手札から効果を発動できるモンスター。直接攻撃宣言時にしか発動できないが、《クリボー》とは違いフィールドに特殊召喚されバトルフェイズそのものを終了させることができる。
「なるほど、まだ手札に防御用のカードを持っていたノネ。しかもバトルフェイズを終了させることで《古代の機械巨人―アルティメット・パウンド》の更なる連続攻撃をも防いだわけなノネ」
クローディアはにやりと笑う。
だがその笑みは今までの嘲笑とは少し違う。まるでユーイが彼女の予想を超えてきたことが嬉しいような、そんな笑みであった。
「中々良いノネ。それでワタシをどう倒すつもりなのか見せてもらうノネ。ワタシはこれでターン終了なノネ」
クローディアがターン終了を宣言したため、ユーイのターンへと移行する。
「俺のターン!!」
ユーイが手札を再度見やる。
手札の内容はモンスター2枚に魔法が1枚。
この窮地を打開できる可能性があるのは、この内1枚の魔法カードのみ。しかしそれを発動するにはピースが足りない。
(このドローでそれを引かなきゃあ俺に勝ち目はないッ!)
デッキに手を添える。
(来いッ!)
「ドローッ!!」
祈るような気持ちでカードをドローする。
引いたカードは――――《開闢の騎士》。
《開闢の騎士》はレベル4、攻撃力500、守備力2000の戦士族モンスター。決して攻撃的なモンスターではない。
しかし、ユーイは(良しッ!)と心の中でガッツポーズを取った。
ユーイが求めていたのはまさにこういったステータスのモンスターだったのだ。
「俺が今持てる全てで挑まなければ、きっとあんたには届かないだろうッ! だから見せてやるッ! これが俺の未来を決めるラストターンだッ!」
ユーイは宙に手を伸ばす。
まるでそこにある求める何かを掴み取ろうとするように。
「現れろ!未来を導くサーキット!」
ユーイが叫ぶと空中に四角いゲートが出現する。
「これは・・・!」
クローディアが目を見開く。
会場でこのデュエルを観ていた者達からもザワザワとざわめきが起こる。
ユーイが現れたゲートを確認する。
シクスとのデュエル同様、下部分の矢印のみがほんのり色付いていた。
「アローヘッド確認! 召喚条件は、攻撃力500以下のモンスター1体! 俺は攻撃力0の《バトル・フェーダー》をリンクマーカーにセット!」
ユーイが宣言すると、フィールドの《バトル・フェーダー》が黒い粒子となり下方向の矢印に吸い込まれて行った。
矢印にしっかりとした色が付く。
「サーキットコンバイン! リンク召喚! 現れろ、リンク1!《ブリッツ・マジシャン》!!」
ゲートから小さな影が飛び出してくる。
それは宙でくるりと一回転舞い、ビシッとポーズを決めた。
ユーイの幼きエース《ブリッツ・マジシャン》の登場である。
ブリッツ・マジシャン(リンク1/OP300)
『チュミミ~ン♪もう~あたちを呼ぶときはいつもピンチらね~』
《ブリッツ・マジシャン》がユーイに小言を言う。言われてみれば確かに彼女を召喚するときは負けている時がほとんどだ。
「仕方ないだろう、君にはその窮地を覆す力があるんだから」
ユーイがそう言うと《ブリッツ・マジシャン》は照れたように『それほどでもないのよ~』とくねくねする。
「リンク召喚・・・! なるほど、それがあなたの隠し玉なノネ・・・!」
そのやりとりを見ていたクローディアが楽しそうに言う。
(何かあるだろうとは思っていたけれど、まさかリンク召喚とは思わなかったノネ・・・。これまでは『首飾りの国』にいたらしいし、『なるほど』というところなノネ。それにしても会話が成立するほど『精霊力』の高いモンスターとは、ネ)
「さぁ、見せてやろうぜ。《ブリッツ・マジシャン》!」
『はいさなのよ~』
そう言って前を向くユーイと《ブリッツ・マジシャン》の視線を、クローディアは実に面白そうに受け止めた。
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甦ってきた苦々しい記憶を振り払うようにシクスは手すりを殴りつけた。
その視線の先には当然紫紺の法衣を身に纏う幼女のモンスター。
それに恨みがましい視線を送りながら、しかしシクスはほくそ笑む。
(あの《ブリッツ・マジシャン》のモンスター効果は相手モンスターの攻撃力を守備力と同じ値にし、その変化した数値分自分のモンスターの攻撃力を上げる。しかし『アカデミアの魔女』の《古代の機械巨人―アルティメット・パウンド》の攻守は共に3000だ。そのガキの効果では倒せないッ!)
相手モンスターの弱体化と自分のモンスターのパワーアップを同時に行うのが《ブリッツ・マジシャン》の能力。攻守がどちらも同じ高い数値を誇る《古代の機械巨人―アルティメット・パウンド》にはその能力は通用しない。
それがシクスの考えであった。
事実、少なくとも攻撃力を守備力と同じ値にする効果は確かに通用しない(というより意味がない)だろう。
だが、それはあくまでも《古代の機械巨人―アルティメット・パウンド》を効果の対象とする場合だ。
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(確かに《ブリッツ・マジシャン》の効果は《古代の機械巨人―アルティメット・パウンド》には通用しないッ! だけどそれだけが《ブリッツ・マジシャン》の使い方じゃあないッ!)
「俺は更に《開闢の騎士》を《ブリッツ・マジシャン》のリンク先に通常召喚するッ!」
ユーイのフィールドに黒い鎧と盾、剣を備えた少年のような小柄な騎士が召喚された。
開闢の騎士(星4/OP500)
しかしそのステータスは貧弱。とても《古代の機械巨人―アルティメット・パウンド》に勝てるようなものではない。
「確かに俺のモンスター達の攻撃力では、あんたのモンスターには及ばない。俺の実力とあんたの力に遠く隔たりがあるのと同じようにな。だがデュエルってやつは面白いよな。その時の状況や運次第じゃそれが覆ってしまうことがある。それを証明してやるッ!」
そう言うとユーイは《ブリッツ・マジシャン》に命じる。
「《ブリッツ・マジシャン》のモンスター効果発動ッ!《ブリッツ・マジシャン》はモンスター1体の攻撃力を守備力と同じ数値に変えるッ!」
《ブリッツ・マジシャン》が杖を掲げ、そこに魔力を集中し始める。魔力を帯びた紫の電光がスパークする。
「攻撃力を守備力と同じ数値に・・・? しかしワタシの《古代の機械巨人―アルティメット・パウンド》の攻撃力・守備力はどちらも3000なノネ。その効果に意味はないノネ」
クローディアの指摘にユーイは当然のように頷く。
「ああ。だが《ブリッツ・マジシャン》の効果対象は何もあんたのモンスターだけじゃあないッ!《ブリッツ・マジシャン》の効果対象に選べるのはフィールドの全てのモンスターなんだッ!」
そこまで言われてクローディアはハタとユーイの意図に気付いた。
「そうかッ! あなたの《開闢の騎士》も・・・ッ」
ユーイがニッと口の端を上げる。
「ああッ! やれッ!《ブリッツ・マジシャン》ッ! 〝紫電潮流(ブリッツ・ドライブ)〟!!」
《ブリッツ・マジシャン》の杖から電雷が発せられ、それが《開闢の騎士》の剣へと落ちる。
しかし《開闢の騎士》は感電することもなく、電雷も剣に帯電したままだ。
「《開闢の騎士》の守備力は2000ッ! つまり《ブリッツ・マジシャン》の効果により、《開闢の騎士》の攻撃力はそれと同値の2000となりッ! さらに、その変化した数値分攻撃力がアップするッ!!」
《ブリッツ・マジシャン》は効果対象に《開闢の騎士》を選び効果を発動した。《開闢の騎士》は攻撃力より守備力の方が高いため、攻撃力は2000にアップ。それに加えて《ブリッツ・マジシャン》の追加効果によりその変化した数値分―――つまり1500ポイント攻撃力が更にアップした。
つまり《開闢の騎士》は2段階のパワーアップを得たことになるのだ。
開闢の騎士(OP500→2000→3500)
これにより《開闢の騎士》の攻撃力は《古代の機械巨人―アルティメット・パウンド》の攻撃力を上回った。
《開闢の騎士》の剣は《ブリッツ・マジシャン》の魔力を吸収し、今や『雷撃の剣』と化している。そこに秘められた威力は計り知れない。
「いくぜッ!《開闢の騎士》の攻撃ッ!!〝紫電・雷刃(ブリッツ・サンダー・スラッシュ)〟ッ!!」
《開闢の騎士》が烈迫の気合いとともに剣を振ると、その剣先から轟音を響かせて雷撃が迸る。
それはまさに稲妻。一瞬の電光の間に《古代の機械巨人―アルティメット・パウンド》を切り裂いていた。
そして尚も迸る電撃はクローディアをも貫いた。
「くぁああああッ!!」
クローディア(LP3400→2900)
これでクローディアのフィールドにモンスターはいなくなった。
しかしこれだけではまだクローディアに勝ったことにはならない。
「この瞬間、手札から速攻魔法《ブリッツ・シュート》発動ッ! このカードは、自分フィールドに魔法使い族モンスターが存在し元々の攻撃力500以下のモンスターが相手モンスターを戦闘で破壊した時に発動できる魔法カードッ! その戦闘破壊されたモンスターの元々の攻撃力分のダメージを相手に与えるッ!!」
「なにッ!?」
それはユーイの最後の一手であり、ずっと発動の機会を探っていたキーカードでもあった。
先に述べた通り、効果ダメージを相手に与えるカードは相対的に強力であり、中でもこのカードの生み出すダメージ量は激烈の一言。発動条件が厳しいため使いどころは難しいが、ユーイのデッキには適していると言える。
《ブリッツ・マジシャン》が、先の攻撃の余波を受けたクローディアに迫り、その眼前に杖を突き出す。
『どう? あたちのチュミは強いでちょ?』
誇らしげにクローディアを見下ろす《ブリッツ・マジシャン》。
クローディアは苦笑する。
「そうネ。少なくとも第一関門はクリアってとこなノネ」
『・・・・』
クローディアの言葉に、何かしら思うところはあったようだが、しかし《ブリッツ・マジシャン》は何も言わなかった。
代わりに、杖から電撃を放つ。
『―――〝紫・電・魔・導(ブリッツ・マジック)〟』
クローディアがその電撃に包まれた時点で、このデュエルの勝敗は決した。
クローディア(LP2900→0)
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一応GX第一話の再現を狙った魔法カードですね。中々ユーイのデッキコンセプトにも合ったカードにできた気がしています。OCGでは条件がキツくて使えないでしょうが。
さて次回は『闇夜の刺客』というお話です。お楽しみに~♪ (2018-01-28 16:48)
闇夜の刺客って…もう襲われるんかい! (2018-01-29 10:44)
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予告はしましたが、そこまでいかないかもしれませんね
(2018-01-29 19:02)