１回戦 日本側出場選手決まる　作：はにわ改

　
ーーちょっとしたトラブルはあったが、透矢たちはおおよそ三時間ほど街を歩いて、再びホテルへと戻ってきた。
日も傾き始め、夕日のオレンジ色が作り出す風景は、日本とはまた違った趣がある。

するとホテルの入り口では、透矢たちに見覚えのある顔が３人肩を並べて佇んでいた。

「ーーやっほぅ、透矢くん！」

「お、久遠じゃん！」

１人は姉の刹那と同じ顔をしながらも、ワシントン・アカデミアの制服を着た久遠。
透矢の顔を見て傍に駆け寄る。

「それにシェリルに、メリッサもお揃いじゃんか！」

「ーーヤァ」

「ハロゥ！
ゥウェルカァム！」

「ハロー！
あはは、みんな元気そうだね！」

そしてシェリル、メリッサ。
透矢がまず声をかけると、シェリルは小さく手を上げて、
メリッサは両手を上げて日本から来た透矢たちを歓迎する。
真希もそれに合わせて笑顔で返した。

「何だ、お前たち。
こんなところで何しているんだ」

「フレッドからもうすぐホテルに戻ってくる、とメールで聞きましたから、待ってましたの」

「そうか。
チェックインはこれからか？」

「はい」

「あれ？
ってことは久遠たちもこのホテルに泊まるのか？」

クリスと久遠が交わした会話を聞いて、透矢が間に入る。

久遠の話によれば日本を含めた各国の参加者全員がこのホテルに泊まるそうである。
久遠たちの住まいはこのワシントン州にあるものの、さっき透矢たちが案内してもらった会場ドームに通うにはこのホテルを利用した方が近いということだ。
日程も一週間程度ある故、負担を出来る限り少なくしたいという配慮である。

「さて、ねぇ、透矢くん！
これから二人で一緒に夕食でもどう？」

「うおっとと・・・夕食？」

「な・・・！」

すると不意に久遠が透矢の腕に、自分の両腕を絡めて誘いをかける。
透矢は特に抵抗したりはしないが、真希の表情が途端に険しくなる。

「うん。
私はアカデミア帰りで、
透矢くんも散歩帰りでお腹空いてるんじゃない？」

「まぁ・・・言われてみりゃ」

「でしょ！
私、いいお店知ってるの！
美味しい料理、ご馳走してあげるからーー」

久遠が妙に明るさを振り撒きながら透矢を誘おうとする・・・が、すかさず真希が間に割って入り、久遠を引き剥がした。

「へー、久遠！
だったらあたしたちも連れてってよ」

「な、何よ、真希！
私は透矢くんと一緒に行きたいんだけど」

「それについては反対はしないわ。
その代わりあたしたちも連れてってよ、その美味しいお店とやらに。
二人きりでなんて、冷たい事言わないでさ」

「（ちっ・・・お邪魔虫め）」

「なぁに？
なぁあんか言ったぁ？」

「な、なぁあんでもなくってよ？」

ーー睨み合う真希と久遠。
作り笑顔を見せながらも、火花が散りそうな、互いの強い視線。
千鶴は心配そうにそれを見守り、アルフレッドは透矢の肩を後ろから叩いて苦笑いを見せる。
ただ透矢にはそのアルフレッドの笑顔の意味は分からなかった。

ーーもちろんだが透矢と久遠が二人きりで夕食、などという事になるはずもなく、
結局日本とアメリカの両アカデミアが一同会しての夕食会という運びになる。
ただし久遠は不満だったらしく、１人体調が悪いと理由を付けてその夕食会には参加しなかった。
刹那・アルフレッドと他何人かは、久遠のそれを仮病と見抜いており、久遠の身勝手な行動に呆れつつも、思い憂いを抱いていたようである。



ーー久遠が参加しない夕食会。
日本とアメリカ、ともすれば大会ではライバルの関係とは言えど、互いに仲良く楽しみながら過ごし、また明日からのお互いの健闘を祈る。
日本とアメリカが当たるとすれば決勝。
願わくば頂上で覇を競う決戦で相まみえることを願ってーー。

ーーそして解散後、クロエの指示で速やかに部屋に戻るよう言われた透矢・真希・千鶴が部屋に戻ろうとしたところで、３人は刹那に呼び止められた。
自分たちは明日の開会式の後、早速１回戦が執り行われる。
その作戦会議のためだとの事だ。

まだ寝る時間には早く、時間を持て余すことになっただろう透矢たちは当然刹那の言葉を快諾し、日本の代表組が刹那の部屋に集まった。


「ーーそれでは早速だけど、明日の１回戦で出場するメンバーの発表を行います」

ーー刹那の部屋。
相部屋で寝床を共にする蓮華が少し離れた位置で見守るなか、刹那が明日の出場選手の発表が始まる。
どうやらその協議は透矢たちが街を歩いている間に、刹那・炎魅子・地影の間で行われていたらしく、更にクロエの了承も得ている。

明日出場するメンバーは３人。
日本の代表は６人だから、その中から３人が選ばれる。

そうして発表された出場メンバーは、先鋒に地影。
そして副将に真希。
初参加でいきなり出場メンバーに、それも副将として選ばれた真希。
これは真希の実力を信じてのことと、大会の空気に早く慣れてほしいという意図もある。

「ーー真希の力はこの大会の優勝を勝ち取るために欠かせない要素よ。
・・・期待してるからね」

刹那が真希に言う。
大会の優勝に、真希の力は不可欠であると。
真希はそれに当たり障りのない笑顔でやる気を見せていたが、やはり内心ではかなりのプレッシャーを受けていた。
もちろん、代表としてここへ来たからには、デュエルに全力を注ぐ覚悟はあった。
しかしクリスに案内してもらったあの会場ドーム。
あの巨大なドーム、満席になるという大観衆の中で、果たして自分は緊張しながら力を発揮できるのだろうかと、不安になっていたのだ。

しかし逃げるわけにもいかない。
何とか早く、その雰囲気に慣れねばならない。
真希は千鶴の応援を受けながら、己を必死に奮い立たせていた。

「続いて大将はーー」

初参加の真希への応援の声が一区切りついて、次はいよいよ大将。
だがこれは聞くまでもない。
１回戦とはいえ、勝ち進むには最初が肝心。
ならばここは当然、経験もある刹那以外にいない。
透矢も１回戦は出番なしかーーと諦めつつ納得していた矢先だった。

「ーー透矢くんよ！」

「え、俺か？！」

まさかの指名に透矢本人が１番驚く。

「選んだ理由は真希と同じ。
早く、大会の場に慣れてほしい事と、透矢くんの力を信じての事よ」

「ま、マジか！
いや、俺は気合いたっぷりだし、願ってもないけど・・・俺が大将でもいいのか？」

「正直・・・かなり冒険、だとも思ってる。
二人とも初参加で緊張もするだろうし、あなたたちの内、最低どちらかは勝たなければいけないわ」

刹那が語る。
大事な起点となる１回戦に、初参加の透矢と真希の両方を採用するのは確かに賭け。
地影と炎魅子もうなずいている。

「でも、優勝にはあなたたち二人の力が不可欠よ。
だからこの１回戦を勝ち抜いて、何よりあなたたちのモチベーションを高めていってほしいの」

「期待してるぜ、二人とも！」

「こんな事はあまり言いたくはありませんがーー大丈夫です。
二人ならきっとやれます」

「・・・がんばって、まき、とうや」

刹那、地影、炎魅子、そして水花が勇気づけるように声を掛けてくれる。
透矢は皆の期待もそうだが、何より１番最初から参加出来るのが嬉しいらしく、自信に満ちた笑顔で応えていた。
それに比べて真希は謙虚、というか控えめな態度。
千鶴は真希の気持ちを幾分か見抜いたのか、心配するように見つめていた。

「ーーってことは、俺はあの『エリザ』って奴が相手か！
へへ、どんなデッキ使うのか楽しみだな！」

「あら、透矢くん。
どうしてイギリス代表の大将の名前を知っているの？
誰かから聞いたのかしら？」

透矢はふと昼間の出来事を思い出し、皆にその話を聞かせた。
とは言っても無用な心配を避けてか、黒装束の一団に襲われた事は話さず、偶然出会ったという風な話し方である。

「去年もうちとイギリスアカデミアは戦ってるんだよな？」

「はい、その時は刹那さんが。
内容は刹那さんの完勝でしたが、『アンデット』を主体とした手強いデッキです」

「『アンデット』か・・・へー、意外だな。
妙なお嬢様言葉使ってたし、てっきり『天使』とかその辺だと思ってた」

地影の情報を聞いて、透矢は予想が外しつつも何度か頷く。

「前回のエリザさんのデュエルデータ、まとめてありますがーー」

「いや、いい。
向こうは俺を知らないんだ。
なのに俺だけ向こうの事知ったらフェアじゃないだろ」

「ま、そう言うと思いました。
私としては、結果を重視するためにデータを有効に活用していただきたいのですがーー」

「透矢くんらしいわね！」

困ったように笑う地影に対し、刹那が微笑みかけると、ため息をつきながらそれに頷いた。

かくして、明日の大会出場メンバーは、
先鋒、地影、
副将、真希、
大将、透矢、となる。

更にその後もデュエルの記録について、千鶴に対しても確認作業がとられ、他、細かな事項の確認がなされた。

刹那の部屋を出る頃には時刻は九時を回り、各々部屋に戻り、明日に備えて休むこととなった。