日米対決前哨戦② 透矢vsシェリル！　作：はにわ改

　
「ーーいたわ、久遠！」

久遠到着から遅れること、十数分。
アルフレッドを引き連れた刹那も空港へ到着した。

ーー今日はワシントン・アカデミアの代表が来日する。
久遠の不審な行動とその事が何か関係あるのではという刹那の勘と、あるいは双子が持つ同調能力により、刹那は久遠の居場所を見事当てて見せたのだ。

そして車から全速力で走ってきた刹那が、遂に久遠たちと合流した。

「ーーあら、お姉さま？」

「久遠！」

「私がここに来てる事がよく分かりましたわね？
さすがお姉さま」

「久遠・・・あなた！
ーーって、と、透矢くん？！」

「刹那・・・？
アルフレッドまで。
どうしたんだ、そんなに慌てて」

刹那は透矢の姿がある事に驚かされる。
まさか透矢まで関わっているとは、思いもしなかったようだ。
一方の透矢は刹那の慌てた様子の意味が、当然ながらまるで分からないようだ。

「ーーなんだ刹那、それにアルフレッド。
お前もわざわざ私たちの出迎えに来たのか？」

「クリス先生・・・っ！
ご無沙汰しておりました」

「ーークリス先生。
お疲れ様です」

続いて刹那とアルフレッドに気が付いたクリスが声を掛けると、二人は挨拶を返しながら一礼した。
更にクリスの近くにいる舞にも挨拶を交わす。

「ーー久遠、後で話があるわ」

「くすくす、はーい」

本来ならば即、問い質したいところを刹那は自分を抑え、代わりに他の者に聞こえないように小さく声を掛ける。
久遠はそれがどういう意味か、知りながらも飄々とした態度でわざとらしい返事をする。
アルフレッドもそんな久遠を睨むように見ていた。

「ーー丁度いい、アルフレッド。
折角こうしてお前が来てくれたのだ。
早速だがお前に１つ、頼みたい」

「は・・・っ？」

「ここにいる透矢君と、今からデュエルしてくれないか？」

来日早々の、突然のクリスの頼みにアルフレッドと透矢はさすがに驚く。

「ーー久遠？
近くにデュエルが出来る施設はあるか？」

「はい。
クリス先生ならそう言うと思いまして、
ここから車で１０分ぐらいの所に、いい場所を１つ、予約してありますわ」

「久遠・・・っ！」

クリスの突然の申し出にも拘わらず、久遠は用意周到に立ち回っていた。
いや、最初からここまで計画通りなのだろうか。
刹那が久遠を睨む。

「どうだろう、透矢君？
今日、幸運にも君とこうして知り合う事が出来た。
是非、君の力をこの目で見たいのだが」

「俺の実力を・・・ですか？」

「ははは、まぁそう硬く考えなくていい。
君にとってみれば、練習デュエルのようなものだ」

「・・・」

「ああ・・・それとも今、デッキが無いかな？
それならば仕方ない、と諦めるが」

透矢にも打診するクリス。

ーーいや、デッキはある。
久遠から練習デュエルがしたいという理由で、持ってくるように言われたのだから。

透矢はポシェットに手を触れさせながら少し考えるようにする。
久遠は初めからこういう展開を予期していたのだろうか、と。

「ーー先生、何もそんなに焦らなくても。
アカデミアにいらっしゃってからでも、いつでも機会はございますわ」

「ふむ・・・確かにもっともだな。
私とした事が、気が逸ってしまったようだな」

刹那が諌めるように進言すると、クリスはすぐに納得したようだった。

「いや、デッキはあります！」

だが透矢ははっきりと宣言するようにそう告げた。

「ほう。デッキを持ち歩いているとは、デュエリストの鑑だな」

少し冗談めいた口調で、クリスは透矢を誉める。

「ならば・・・私の我が儘を聞いてくれるか？」

「はい！望むところです！」

「いい返事だ。
気に入ったよ、透矢君」

「透矢くん・・・っ」

クリスの頼みに、自信に満ちた表情で応じた透矢。
刹那は何故か心配そうな視線を透矢に送り、久遠は計画通りに進んでいるからなのか、小さくほくそ笑んでいる。

「ーーすいません。
自分は今、デッキが手元にはありません」

すると、アルフレッドが手を上げた。

それは当然の話。
元より彼は今日、久遠に映画を観に行く名目で呼び出されている。
デュエルをするつもりなどなかったのだから、持参していないのは当たり前である。

「それに・・・彼とは、大きな舞台で戦いたいと思いますので」

だが仮にデッキがあったとしても、アルフレッドにはこの場で透矢とデュエルするつもりはなかった。
前に透矢本人に告げたように、自分たちが戦うのはこんな場所ではないという信念に基づいている。

「なるほど。
彼は、お前にそこまで言わせるデュエリストか」

「・・・自分はそう確信しています」

クリスが問いかけると、アルフレッドは強く頷く。
まだ１度も戦っていないのに、『好敵手（ライバル）』と認めているかのような彼の口調。
言われた透矢にも、内に高鳴るものを感じずにはいられなかった。

「ふぅ・・・ならば仕方ない。
アルフレッドと透矢君の決戦は、その大きな舞台で、見させてもらうとしよう。
だがそれを聞いて、なおのこと興味が湧いたなーー」

アルフレッドと透矢の対決は見送る。
ただし、とクリスは不意に自分が連れてきた生徒の１人、シェリルを見た。

『ーーシェリル、彼とデュエルしてくれないか』

『私、ですか？』

背が高いクリスよりも、更に背の高いシェリル。
回ってきた話に少しだが驚いた様子だ。

『久遠が場所まで用意してお膳立てしてくれたんだ。
是非、彼の実力を見たい』

『分かりました。
先生がそうおっしゃるなら』

『よし。
ーーいいか、本気で潰しにいくつもりで戦え。
彼の全力が見たいからな』

『了解しました、先生』

英語で話しているクリスとシェリル。

この中で唯一、英語に馴染みのない透矢は何を話しているかは分からないが、最後のシェリルの『Ｙeｓ，ｓｉｒ』だけは聞き取れた。
一体どんな会話があったのか、それは透矢にもすぐに分かるところとなる。

「よし、透矢君。
都合よくデッキを用意してもらってるんだ。
良かったら彼女とデュエルしてくれないか？」

「彼女と、ですか？」

「彼女は『シェリル・アン・マックスウェル』。
君とは同い年のはずだ」

簡単だが、紹介してくれるクリス。
１人目はシェリル。
ショートカットの髪型に琥珀色の肌を持ち、青みが掛かった瞳を持つ女生徒。
ワイシャツにズボンと、飾り気はないが、逆にそれがすっきりとした雰囲気であり、彼女に合ってるようですらある。
クリスの紹介に合わせて、シェリルが透矢に近付いた。

「ーーヨロシク」

「あ、ああ。よろしく！」

アクセントの置き方も不慣れな、完全な片言。
それでもわざわざ日本語を使ってくれたシェリルに、透矢は明るく声を返しながら握手を交わす。
ただ背の高さはシェリルの方がかなり高く、透矢は見上げるような佇まいだ。

「ついでに紹介しておく。
もう１人は『メリッサ・エンフィールド』。
彼女もシェリルと同い年だ」

そしてもう１人。
クリスと同じくらいの背のメリッサが、紹介されるの同時にシェリルの脇から透矢の前に躍り出た。

『ハァイ！
私はメリッサ！
日本には初めて来ました！
同じゲームを強く愛する者同士として、是非お友だちになって下さい！
あとあと、良かったら今度、私ともデュエルしてね！
それからーー』

「え、えーと・・・」

透矢の手を両手で握りながら、満面の笑みで捲し立ててくるメリッサ。
こちらはお構い無しの英語でペラペラと話すため、透矢には何を言ってくるのか全く分からない。
友好的だというのは分かるが、コミュニケーションがとるには、やはり言語の壁が立ちはだかるようだ。

「おい、メリッサ、それぐらいにしておけ。

それでーー透矢君。
さっきの続きだが、デュエルはしてくれるか？」

「あっ、はい！
俺はむしろ歓迎なくらいです！」

「ありがとう、透矢くん。
・・・遠慮はいらない。
シェリルもそうだが、ここに集った四人は私の生徒の中でも、最高の実力を持った者たちだ。
練習とはいえ、全力でぶつかってくれ」

「もちろんです！」

「ふふ・・・本当にいい返事だ。
私の生徒に加えたいぐらいだよ」

機嫌良さそうに笑うクリス。
だが、刹那だけは相変わらずどこか不安そうな面持ちで一部始終を見ているだけであった。

「ーーでは、話も決まったところで、早速予約しておいたデュエル場に向かいましょう。
外にお車を呼びますね」

「うむ。
久遠、済まないな。
助かるよ」

「いいえ、これぐらいなんでもありませんわ。
でも少し人数が多いですから・・・」

「ーーわかってるわ。
私が乗ってきた車と分乗しましょう」

「ありがとう、お姉さま」

久遠がそう切り出し、刹那もそれに応じて一同は車にて移動する事となった。

「ーーあたしゃ、帰って寝るよ。
もう、あたしは必要ないだろ？」

「まぁ、舞。
そう言わずに付き合え。
久しぶりに会えたんだからな」

「ったく、会って早々にデュエルを吹っ掛けるなんざ、相変わらず強引な奴だねぇ、クリスは」

「ふふ、気になったのだから仕方あるまい。
後で一杯奢ってやるから、付き合いな」

面倒くさそうにしながらも、最後は渋々付いていくことにしたらしい舞。
この二人はかなり気心知れた仲のようだ。

そんな一同が空港内から外へと出る最中、ふと透矢が刹那へ歩み寄る。

「ーー刹那？
今日はどうしたんだ？
さっきから様子がおかしいぜ？」

「・・・透矢くんこそ、今日はどうしたの？」

「俺か？
俺は久遠に呼び出されてーー」

「久遠にーーそうだったの・・・」

「でもさ、あいつ、お前の名前を騙って電話してきやがってさ。
番号も刹那だったから、疑いもしなかったよ」

「・・・ごめんなさい、迷惑かけてーー」

「いや、結果的にはこうして色々と知り合えて、俺的には良かったんだけどな？」

憮然としたような態度の刹那と話す透矢。
事情の全てを知らない透矢は呑気であり、また刹那も多くを語ろうとしない。


「ーーどういうつもりだ、久遠」

一方、アルフレッドは久遠に寄り、話し掛けていた。

「・・・折角、二人きりの状況作ってあげたのに、それを活かさないなんて馬鹿ねぇ」

「久遠・・・っ！」

「お姉さまに振られたからって、私のところに泣きついても、知らないからね？
私だって自分を振った男に、いつまでも執着したりしないから」

「・・・仕方のない奴だ」

早足になり自分を置いていく久遠に対し、疲れたようにため息をつくアルフレッド。
『歪んだ』久遠の心に、アルフレッドは心を痛めているようだった。



ーーそうして一同は空港の外へと出る。
するとロータリーには、既に二台の車が一同を待っていた。
一台は久遠が乗ってきた車、もう一台は刹那が乗ってきた車だ。
そして蓮華の姿を見るや、刹那が駆け寄った。

「ーー蓮華さん」

「・・・刹那お嬢様」

「何度も電話したのよ？」

「それが・・・私も先ほど、気が付いたのですがーーいつも懐に入れている携帯電話を、邸内に忘れてきたようでしてーー」

「蓮華さんが？」

「申し訳ございません」

「ーーいいえ、蓮華さんがそんなミスするはずがないわ。
これもきっとーー」

久遠の仕業だーー。
蓮華の話を聞いて、また久遠を睨み付ける刹那。

「・・・お嬢様」

「久遠が迷惑かけてごめんなさい。
あの子には、後で私がよく言いつけておきますから」

「はいーー」

ーー今回の久遠の一連の行動。
果たして、それは何のためのものなのか。
刹那が妹の狙いを探ろうとする中、
ワシントン・アカデミア教諭、クリスの計らいで、今再び日米のデュエル・アカデミア生徒の対決が始まろうとしている。

透矢が対するはシェリル。
一体、どんな戦術を見せるのかーー。