デュエル・キラー現る①　作：はにわ

　
ーー翌日の放課後。
日も沈みかけているというのに、明日の実技試験に向けてデッキの調整、友人を募って練習する者たちがアカデミアに点在する中。

ーーある数人のブルー生徒のグループは体育館へと向かっていた。
生徒会・書記である朝霧地影からのメールで、体育館に来るように言われたのである。
このアカデミアの生徒たちは、それぞれが持つ携帯端末をアカデミアのネットワークに登録することを義務とし、知らせがある場合はその都度メールにて行われ、
また用がある場合は直接教諭に呼ばれることもある。

「何だろーな、生徒会からの呼び出しって・・・」

「俺たち、何かやらかしたっけ？」

メールの送り主は生徒会・書記の地影だが、体育館に来るように命じているのは会長・刹那。
生徒の処分に口出しできる会長の意に反することは、基本的に禁忌（タブー）というのがこのアカデミアの常識でもある。

とはいっても呼び出される理由が分からずにいたようだが、その内にある一人が何かに思い当たった。

「ひょっとして・・・アイツがちくったか？」

「なんの話だよ」

「あの鳴瀬、っていう弱小レッドに・・・」

そこまで言われて、全員が『そうか』、っとなった。
このグループは昨日、千鶴に嫌がらせをした、かつて凌斗の取り巻きだった者たちである。
凌斗があんなことになるや、とばっちりを受けぬよう早々に彼から離れ、
今度は自分たちで千鶴を始めとした主にレッドの生徒たちに嫌がらせをしていたのである。

「案外、流石の仕業かもしんねぇな。
昨日の腹いせによ」

「マジかよ？
アイツと心中は御免だぜ？」

「ま、いくらなんでも退学ってことはねぇだろ。
せいぜい、叱られる程度じゃねぇのか？」

「だったら、最悪流石に責任押し付けちまおうぜ？
アイツにやれ、って言われました、って言えばさ？
どーせ、退学は確定なんだしさ」

意向がそのようにまとまりつつあると、下卑た笑い声を上げる一同。
しかしすぐに、別の者がいまひとつ腑に落ちない事を挙げた。

「でもさ、何で体育館なんだ？
生徒会室とか、職員室ってんなら分かるんだけど」

「俺が知るかよ。
罰として掃除でもやらせるつもりなんじゃねーの？」

「うわー、それだったらめんどくせぇ」

「ま、そんなんで済むなら安いもんさ。
とっとと済ませて、早く帰ろうぜ？」

ーー思えば、この時の一同はひどく楽観的だった。
だが彼らの運命は、地影のメールを受けた瞬間から決まっていたのである。


ーー程なく体育館へたどり着いた一同。
普段、体育館は用が無いときは厳重に閉め切られる。
だが今日は入り口が開かれており、一同は特に何も考えずに中へと入っていった。

「何だよ・・・真っ暗だぜ？」

体育館の電気は切られていて、窓もシャッターで閉め切られているため、中は暗闇である。
それでも一同は寄り添いながらも中へと進んでいき、
やがて目が慣れてきたころ、中央に配備された巨大なデュエル・リング へとたどり着いていた。
透矢が地影や凌斗とデュエルした時に用いたものである。

「なぁ、誰か・・・いるぜ？」

暗闇のデュエル・リング。
慣れた目がそこに立つ一人の影を捉えた。

ーーそれと同時だろうか。
突然入り口が勢いよく閉められてしまう。

慌てて入り口に近かった二人が閉められた扉を開けようとするが、扉は外からロックされていた。
もちろん一生徒に過ぎない彼らに、ロックされた扉を開ける術はなく、暗闇に閉じ込められた、と一気にパニックになる。

だが直ぐに体育館の明かりは点けられ、一同が今度は目映い光に視界を白黒させる。
それでも何とか視界を取り戻していき、ふと見上げたデュエル・リングには一人の人間が立っていた。

「だ・・・誰なんだ、あんた！」

一人が叫ぶ。

デュエル・リングの上に立っていたのは黒いマントを羽織り、不気味な『仮面』をつけた何者か。
マントの下に着る灰色の服は分厚いらしく、体格から男女を区別するのも難しい。

「ーーよく来たな、劣等な生徒ども」

「ーーい！？」

体育館に響くは、不気味に喉太い男の声。
彼らは恐怖におののき、その場でへたりこんでしまう者すらいる。

「ーー俺は生徒会風紀委員。
四天王の一人であり、こうも呼ばれている・・・。
『殺し屋（デュエル・キラー）』と！」

「でゅ、デュエル、き、ききキラー！？」

「あの・・・噂の！？」

『殺し屋（デュエル・キラー）』ーー。
穏やかにはとても聞けない、その物騒な二つ名について、彼らには覚えがあった。
アカデミア生徒会、四天王最強の実力を持つという『その者』。

アカデミアの風紀を乱す者、また成績のそぐわぬ者にデュエルを挑み、負ければ『即退学』という文字通り引導を渡される。

今までにも数十人の生徒たちが彼の者の手によって、アカデミアから追放されたという。

そして今日は彼らの番なのだ。

「な、何で俺たちが？！」

「お前たちは著しく風紀を乱すもの、として生徒会に認識されている。
そして会長は俺にその処分を一任した」

「しょ、処分って・・・」

「今、ここで俺とデュエルをし、負ければ退学！
そういうことだ・・・」

体育館に悲鳴が上がる。
土下座して仮面の男に許しを請う者さえいる。

「諦めろ。
もう出入り口は封鎖されている。
俺とデュエルして勝って出るか、負けて出るか、二つに一つだ」

出入り口の扉はロックされている。
開けるにはデュエルをしなければならない。
勝って無事にこの場を切り抜けるか、あるいは負けて永久にアカデミアから追放されるか、どちらかしかないのだ。

「だがお前たちにも希望の光はある」

ただ泣いてすがるだけの彼らが、その言葉に顔を上げる。

「お前らの内、誰か一人でも俺に勝てれば全員見逃してやる。
更にハンデとして、デュエル終了後、俺の残ったライフは次戦に引き継ぐ、ということにしてやろう」

その特別ルールを聞いた彼らは確かに光を見る。

噂によれば『デュエル・キラー』の実力は人間離れすらしてるとのこと。

だが彼らは全部で５人いる。
例え最初の者が負けても、少しずつ敵のライフを奪えれば最後の５人目までに勝てるかもしれない。
それに彼らにもブルー生徒、という自負がある。
そんな簡単に負けてたまるか、と急激に負けん気を蘇らせたのだ。

ーー彼らは応じた。
そして仮面の男に約束させた。
自分たちが勝った場合はお咎めなしで、帰してくれる、と。

程なくして最初の一人がデュエル・リングに立つ。
自身の退学を賭けた生死のバトル、その第一戦に臨む。

『ーーデュエル！』

こうして平和なアカデミアの一角で、決死のデュエルは始まった。
彼らは果たして生きてこの場所から出られるのだろうかーー。