第29話　旅館の女将はネギ農家　作：トマトところてん

本編

　冗談じゃなくダメージはこれで限界、これ以上一発でもくらったらヤバイって、体全体が悲鳴をあげているのがわかる。それなのに、
　はなせよ！
　きなこは黒子六人にかつがれて運ばれていた。正月休みを満喫したかと思ったら急に弱ってしまって病院ではなく自宅待機になってしまって実家の自分の部屋のセミダブルのベッドで寝ていたはずなのだが、これは夢か
　黒子たちに運ばれてある銭湯に着いた。浄化の湯とかいてあった。パジャマ姿のまま、温泉に入ることになりそうだった。きなこは、どうしようと思っていると、温泉の女将らしい女神さまが現れて、
　ごくろうさまです
　と、黒子たちにいってきなこはおろされた。女神に話しかけられる
　あなたもついにここに来てしまいましたか。大変お疲れのようです
　え？
　瀬戸際です。最悪、死にます
　はい？
　ここにある浄化の湯につかっていただきます。つかるとまず身体から疲れがにじみ出て、お湯が汚れたボロ雑巾をつけたように黒く染まっていきます。徐々に身体が楽になっていきますが、ここで注意点が。気分がよくても眠ってはいけません。深呼吸をしてリラックスして脱力しすぎると口から魂が抜けて、魂もこの浄化の湯につかってあなたの身体から離れて戻らなくなります
　いやだ。死にたくない、死にたくない！
　ですが
　なんでリラックスして楽になったらそのまま寝ちゃダメなんだよ、瞑想か修行かよ？
　それはですね、説明はどうすれば手短にできるかわかりませんが、睡眠時無呼吸症候群を知っていますか？　睡眠の時にも命の危険があるんです。寝過ぎはよくないんです、自律神経という神経があって休んでる時に活発になる副交感神経と動いてる時に活発になる交感神経、この二つがバランスよく働いて健康なのですが、それが偏っています。緊張してもリラックスしても集中力は高まるんですが、今はリラックスしながら集中力を高める時なんです。温泉につかって緊張しすぎるのも危険です。ヒートショックというものでしょうか、今回はぬるま湯です。気持ちが落ち着いたら温泉につかってください
　そういって女神は消えたので、きなこは仕方なくパジャマを脱ぎ捨てて、タオルを巻いて浄化の湯につかった。湯は言われた通りぬるま湯だった。疲れがにじみ出る。リラックスする時に流れに身を任せてはいけないのか。雪山で眠いからって眠ると死ぬみたいなものか、眠っても心臓がとまるわけではないのに高山病にはかかるみたいな。手術の時に麻酔を使われたら寝てもいいはずなので、こんな状況ってどんな状況なんだろうと、きなこは考えていた。まあ、これは夢のはずなんだが
　しばらく、無事につかると温泉から出ることにしてゆかたに着替えると、黒子に案内され、ある部屋につく。また女神がいて話しかけられる
　お食事の方、できております。ですがここでも注意点が
　きなこは、またかと思った
　こちらの用意したものを食べていただきます。自分で出前をとったり、好きなものを頼んではいけません、ウーバーイーツとか
　いや、あたしはそんな偏食じゃないんだけど
　人は第二の脳と呼ばれる腸に支配されていて、食べ物で人格や考え方も決まりますから、同じ釜の飯を食べて結束力を強めるというので、用意したものを食べていただきます
　いや、それ、大げさじゃないの、女神さま？　って一体何者なの？
　秘密です
　食事が出されて部屋の真ん中の机の上におかれていく。きなこはそれをみて、
　ネギだらけじゃん
　ネギトロ丼、ネギ味噌汁、納豆に刻みネギ、焼き鳥のねぎま塩ダレなど
　ネギ信仰かな
　ネギはあのシャキシャキ感とネギだく汁と特に量を選ばない主張で万人に愛されて。でも十人十色、例え世界中の人間がネギを食べても特に何も。ネギばかり食べる状況ってなんだろう、ネギ農家なのかな実家が。
　きなこは無事完食すると、部屋の隅のテレビをつける。すると、またか、女神さまが出ていて、
　続いてはこのコーナー。実は私、これ好きなんです。このコーナーでは好きだけど言えない、恥ずかしくて、マイノリティーで、そんなあなたが勇気を出して告白するコーナー。ペンネーム、旅館の女将はネギ農家さんからです
　あんたのことじゃないの？
　実は私、不気味でかわいいラスボスちゃんのアザミナが好きー！　世界を敵に回して独り、カッコイイー！
　あ、そうですか
　と、言ってきなこはテレビを切ると目がさめた。夢だった。ああ、夢でよかった。気がつくと、ラジオや部屋の明かりをつけたままベッドで寝ていたのだった。予防接種をうったインフルエンザにかかったんだっけ、病弱がワクチンなしでインフルにかかってたら最悪死ぬような気がするんだけどどうなんだろう。まあ、次にカードショップへ行った時にはアザミナのカードを探してみようかな、ときなこは思うのだった

続く

　わかっていたけどワクチンうったコロナよりもうたなかったインフルのほうがきつかった