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第二話・3 作:KOUBOU(旧名:光芒)




 竜司とのデュエルが終わり、卒業生や在校生たちの興奮が冷めやらぬ中、遊希はその喧騒から逃れてアカデミアの屋上で一人黄昏れていた。この後遊希は親友の星乃 綾香やエヴァ・ジムリアらと卒業記念パーティーを控えている。卒業後プロデュエリストとなる遊希はとても忙しい。しかし、忙しくなるからこそ遊希は卒業前にどうしてもやっておきたいことがあった。

「遊希さん!」

 そんな遊希の眼には息を切らして駆けてきた遊大の姿が映る。進級するにあたって生徒会の役員となる彼は早くも大忙しだった。しかし、生徒会長のベアトリスをはじめ、遊希と遊大の関係はもはや多くの人が知るところとなっている。そのため、遊大が役員の仕事を中座することを止めることはしなかった。

「すいません……仕事が長引いてしまって……」
「いいわ。あなたは来年度から役員になるのだから、しょうがないことよ」
「あのっ、遊希さん……ご卒業、おめでとうございます!」

 そう言って遊大は手を差し出した。遊希は不器用に微笑むと、その手を優しく握り返した。今日この日をもって、天都 遊希はデュエルアカデミアジャパン・セントラル校を卒業する。竜司からの誘いを受け、入学して三年。様々なことがあったが、その三年間は間違いなく彼女の人生を左右するほどのものとなっていた。

「ありがとう……本当はもっといたかったけどね。もっとセントラル校の生徒でいられれば、あなたと一緒にいられるのに」
「だからって留年はしないで下さいよ? 俺も、定期的に会えなくなるのは寂しいですけど……」

 少し寂しそうにはにかむ遊大に対し、遊希は遊大の赤と緑のオッドアイをじっと見据える。

「でも、あなたはいずれ私と同じ世界に来る。その時までの我慢と思えばなんてことないわ」

 遊希は卒業式から一週間後に日本を離れる。プロデュエリストとして復帰した彼女に対しては世界各国のデュエル協会から大会参加のオファーが来ていたのだ。かつて一つの時代を築いた“銀河竜を駆る少女”が帰ってくる。それを今か今かと待ちわびている人が世界中にいるのだ。

「みんなが私を待っていてくれている。私は今改めてその人たちの想いに応えたい。もちろん、このセントラル校で経験したことや色々な人との出会いで培ったものをデュエルに活かしてみせる。このギャラクシーアイズデッキで」
「それでこそ遊希さんです。俺も、なるべく早くに遊希さんたちが待っているところに行きます。そして……その、遊希さんに改めて俺の決意を伝えます」
「待ってる。でも、今遊大がすべきことは私のことじゃないわよね?」

 未来を描くのは悪いことではないが、遊大はこの春に高校二年生となる。学生の本分は勉強であり、デュエリストの本分はデュエルに強くなること。遊大は自分を磨くことはそうだし、上級生として後輩たちの指導をしなければならないのだ。まずは足元をしっかりと固め、上を見るのはそれからでも遅くはない。それが羽ばたく遊希の言葉であった。

「はい。結衣さんをはじめ、多くの後輩が4月に入ってきますからね。俺も先輩としてみんなの目標になれるように頑張ります!」
「うん、様になって来たわね。先・輩?」
「あはは……」

 そう言って遊希と遊大は屋上の柵に寄りかかってその場に座る。少しだけ暖かくなってきた春風に吹かれながら、流れゆく雲を眺めていた二人であるが、そんな中遊希がふと思い出したかのように呟いた。

「そう言えば、この間結衣から連絡が来たの」
「結衣さんから?」
「ええ。まずは無事合格したとの報告。そして……準首席入学ってことをね」

 白幡 結衣は現役の中学生プロデュエリストであり、遊希と共に日本デュエル界の未来を担う逸材だ。しかし、準首席入学ということは、そんな彼女よりも良い成績を修めて入学する新入生がいるということでもある。

「……俺も本人から言われて驚きました。彼女の上を行くデュエリストがいるなんて」
「電話口であの子悔しがっていたように思えたわ。でも、頂点じゃないということはまだまだ上を向いて前に進むことができる、とも伝えておいた。多分気にしているだろうから、会ったらそれとなくフォローしてあげるのよ?」
「……わかりました」

 そんな時、遊大の脳裏には一人の少女の姿が浮かんでいた。留奈を倒し、自分ともデュエルをした風花 遊舞その人である。あれから彼女と出会うことはなかったが、遊大は何故か彼女のことを忘れられずにいた。

「あの……実は一人。気になるデュエリストがいるんです」
「気になるデュエリスト? 高海 遊大を唸らせる存在がいるのね」
「はい。試験が終わった後、仁たちが使っていたデュエルフィールドにふらっと現れては留奈さんをあっさり倒したそうです」
「舞原さんが? それは気になるわね。でも、どうしてその子が気になるの?」
「……デュエルの時の佇まいが、遊希さんに似ているような気がしたんです。性格とか見た目はだいぶ違いましたけど、対峙していて遊希さんを相手にしているような、そんな感じが……」

 遊大は遊舞とのデュエルで感じたことを率直に遊希に伝えた。遊希は空を見上げたまま遊大の方を見ることはなかったが、そんな状態でも遊大の話を真剣に聞いているようだった。

「ふーん……私に。まあ、在校生相手に勝てるんだから結衣レベルのデュエリストであることには間違いないわね。でも対峙して初めてわかることもある。私が初めてあなたと出会った時と同じようなものを、高海くんも感じたんじゃないかしら?」

 遊希が遊大に目を付けたのは、レアカードである【オッドアイズ】を所持していること。そしてI2社のデータに無かった《覇王烈竜オッドアイズ・レイジング・ドラゴン》のカードを所持していたこと。
 もちろんそれもあるが、あくまで数ある理由の一つに過ぎない。遊希はあの時の、まだデュエリストとして芽生え始めたばかりの遊大に何かを感じていた。だからこそ今、二人はこのような関係になっているのだ。

「そういう直感というのは案外馬鹿にならないものよ。私と高海くんのように、あなたもその子と出会ったことが今後のアカデミア生活に活かせる日が来るかもしれないわね。あ、でも浮気は許さないから」
「そんな、俺は遊希さん一筋です!」
「……嬉しいけど、堂々と言われると結構恥ずかしいものね」

 そう言って遊希は一人立ち上がる。小さく息を吐き、彼女はただ前だけを見つめていた。

「じゃあ……私は行くから」
「……遊希さん!」

 立ち上がり、その場を後にしようとした遊希を遊大は呼び止める。遊希は自分を呼び止めた少年の顔をじっと見つめる。

「……俺、絶対にあなたのいるところまで辿り着いてみせます。そして、あなたを迎えに行きます」
「……うん、待ってるから。約束よ?」

 風に吹かれ桜の花びらが舞う中、一人の少年と一人の少女の間には固い契りが交わされた。








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ヘロ
お久しぶりです!また光芒さんの作品を読むことが出来てとても嬉しいです!!
(2023-12-09 21:30)
KOUBOU(旧名:光芒)
ヘロ様
こんにちは、前回までの作品も見て頂けていること感謝申し上げます。
今回は頑張って書き上げられればと思っておりますので、宜しくお願い致します。
(2023-12-11 14:57)

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