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第一話・1 作:KOUBOU(旧名:光芒)






 結衣とのデュエルから数日後。遊希から正式にデュエル委員の座を引き継ぎ、生徒会の役員となった遊大に待っていたのは、去年の詩織たちと同じような実技試験の試験監督という役回りであった。あの時の詩織の役を担うのはベアトリスだが、遊大も一人の役員として受験生たちのデュエルをしっかりと見守る。

「あ、あの……」
「はい?」
「もしかして、高海 遊大さんですか? 前から一度お会いしたいと思っていました! 握手してください!」

 しかし、昨年末のTWO(The World Order)日本支部ビル爆発事故において(義理の)父親である高海 遊厳(たかみ ゆうげん)および遊希を単身助け出した(あくまで表向きではあるが)遊大の名は今や全国的に広まっていた。何より彼のアイドル顔負けの美貌を前にした思春期の少女たちが正常でいられるわけがない。

「えっと、握手はいつでも受けてあげるから……今はデュエルに集中してね?」

 もしこれが遊希であれば「デュエルに集中しなさい!」と一喝しているのだが、それができないのが遊大の美点でもあり欠点でもある。ただ、遊大のその優しい一言に女子の受験生たちはいつも以上に奮起するのだが。

「……本当に大人気ですね。遊希さんという方がいるにも関わらず」

 そんな遊大の前には試験を既に終えた結衣が現れる。現役のプロデュエリストだけあって、実技試験も順調に終えた彼女は試験監督を務めている遊大に経過の報告に来たのだった。

「意図してやっているわけではないんだけど……」
「意図していないなら余計に質が悪いですよ。もっと厳しくやってください」
「……申し訳ないです」

 年長者を年長者と思わない物言いの結衣に対し、遊大はたまらず同じ空間にいたもう一人の試験監督にアイコンタクトを送る。そのもう一人は結衣とは違って朗らかな笑顔を浮かべていたのだが、遊大のところに近寄って来るや否や、結衣と共に遊大に詰め寄り始めた。

「遊大さんのお味方をしたいのは山々なのですが、今回ばかりに関してはこちらの方と同意見です。遊大さんも上級生となって指導をする側なのですから、もっとらしさを身につけて下さい」

 遊大と共に試験監督を務めている孫 美鈴(そん めいりん)は台湾からの留学生である。彼女もまた留学生委員として生徒会の一員に招聘されており、遊大とは他の同級生とはまた違った因縁がある少女であった。

「美鈴さん……」
「そ、それに……」
「それに?」
「わ、私だって。所かまわず女の人に色目を使う遊大さんは見たく、ないですから……」

 そう言って頬を染めながら俯く美鈴。結衣は内心「あ、この人もか……」とため息をつくのであった。











「おい! なんでデュエルフィールドにはだれもいないんだ!」

 受験生たちの今後を決めるデュエルが行われているのと同時間帯。一人の少女が閑古鳥が鳴く学生用デュエルフィールドで叫んでいた。少女の名は舞原 留奈(まいばら るな)。遊大の親友であり、ライディングデュエルに使用されるDホイールの製造を主に行っている自動車メーカー『MAI MOTORS』の家に生まれ育った社長令嬢だ。

「なんで、って今は受験期間中で学校は実質春休みのようなものじゃない」
「デュエリストにはるやすみなんてないぞ! おしょうがつもクリスマスもデュエリストはデュエリストだ!」
「その気持ちはわからなくもないがな……だが、遊大と孫は生徒会の仕事、陸はサッカー部の練習、音無は合唱部の発表を控えている。皆忙しいんだ。汲んでやれ」

 そんな留奈をなだめるのは顔の似た二人の男女。大空 仁(おおぞら じん)と大空 礼(おおぞら れい)。双子の兄妹である彼らはそのクールな外見から怜悧な印象を受けるが、いずれも高い技量を持ったデュエリストだ。
 特に仁は遊大のルームメイトとして彼をよく支えていた。この二人は2年生になった今も特定の部活には所属しておらず、受験のため講義が休講になるこの時期は部活動に所属している留奈以上に暇を持て余していた。

「っ、わかってはいる。わかってはいるんだが……!」
「なんだったらまた私たちが相手をしてあげてもいいけど?」
「もうけっこうだ! 仁とのデュエルはあきたし、礼とはあいしょうがわるすぎるぞ!」

 留奈のデッキは闇属性・獣戦士族で統一された【月光(ムーンライト)】。強力な融合モンスターを融合召喚しては猛攻を仕掛けるデッキだ。一方で礼のデッキは風属性・鳥獣族で統一された【LL(リリカル・ルスキニア)】。レベル1の鳥獣族モンスターでランク1の鳥獣族XモンスターのX召喚を狙うデッキであり、ステータスこそ低いが、そのモンスター効果を駆使してテクニカルに戦うデッキ。そのため、正攻法で攻めてこない礼にモンスター同士の殴り合いを好む留奈のデッキはまさに柔よく剛を制す、とばかりにちょくちょくいなされてしまうのだ。

「本当に強いデュエリストになりたいなら、それこそ相性の悪い相手とデュエルをするべきだと思うのだが」
「ぐぬぬ……」
「はい、そこまで。取り敢えず国広君が戻ってくるまで待って―――」



―――あのー、もしよかったらアタシとデュエルしてくれませんか?



 そんな時、三人が待つデュエルフィールドに現れたのは一人の少女だった。サイドテールにしてまとめられたエメラルドのような色の髪はキラキラと差し込む陽の光に反射して煌めく美少女。セントラル校の制服を身につけていないことから、受験に来た中学生と思われるが、中学生の割には妙に派手な印象を受ける少女だった。

「……あなたは? もしかして受験生の子かしら」
「えっと、まあそんなところかな? 実技試験も終わったんで、セントラル校の中を見学していたら、そこのちっちゃな先輩が叫んでるのが聞こえたんだ☆」

 初対面ながら妙にフランクな言葉遣いをする少女。いわゆる「ギャル」というものなのだろう、と思いつつもあまり自分たちの周りにいなかったタイプのため、仁と礼は困ったように互いの顔を見合わせる。

「おい、ちっちゃな先輩とは……わたしのことか?」
「うん。いや、ここにいるちっちゃいってあなた以外にいないでしょー!」
「……わたしをぶじょくしたな。いいだろう、デュエルをしてやる! おまえなんか、このわたしがフルボッコにしてやるからな!」

 実に直接的にバカにされた、と思った留奈はその少女にデュエルを申し込む。しかし、デュエルの相手を探していた留奈にとっては好都合だった。もしかしたら自分の後輩になるかもしれないデュエリストとデュエルができるというのは春に後輩ができる彼女からしてみればとても嬉しいことだったからだ。

「先輩とデュエルですか? うーん、わっかりました。じゃあアタシ、頑張っちゃいますからね!」
「にげずにむかってきたことはほめてやる! だが、このセントラル校さいきょうのわたしをおこらせたこと、こうかいするがいい!」
「最強かぁ……だったらアタシ的には舞原先輩じゃなくて高海先輩とやりたかったけどなぁ。でも、大空先輩たちの見てる前だから、無様なデュエルはできないよね☆」
「なっ、たしかに遊大はつよい! だが、わたしこそがさいきょうだ! それをおもいしらせてやる!」

 留奈と少女はデュエルフィールドを挟んで対峙する。

「留奈はこうなると中々収まらないのよね……でも、こんな感じで先輩と慕ってくれる後輩ができるのは嬉しいわよね」
「……」
「仁? どうしたの、考え込んで」
「いや……」

 今後もこのように先輩と慕ってくれる後輩とデュエルができるのだろうか。そう思うと礼は感慨深かった。しかし、そんな礼の隣で仁は一人考えていた。頭脳明晰で観察力のある彼はあの中学生の少女の言ったあるところに引っかかっていた。

(……遊大には去年の一件が。実家のこともあって有名なのは当然、舞原もそうだ。だが……)



―――何故彼女は、まだ名乗ってもいない俺と礼のことを知っているんだ……?







「やっと解放された……」

 そのころ、ようやく実技試験に一区切りがついた遊大と美鈴は疲れた様子で廊下を歩いていた。美鈴はともかく、事あるごとに少女たちからサインやら握手を求められた遊大は疲労困憊の様子であった。

「お疲れ様でした。しばらく休憩に入りますが、どうします? お昼を頂きに学食でも行きますか?」
「……うん、さすがにお腹が空いたからね。でも、せっかくだから仁たちも誘っていこうか。みんなで食べた方が色々と楽しいだろうしね」
「……はい」

 遊大に同調しつつも、美鈴はほんの一瞬ではあるが口をツン、と尖らせた。この一年で様々なことを経験し、人としてもデュエリストとしても成長した彼であるが、女性の心持ちについてなどまだまだ学びが足りないところが多いということなのだろう。そうこうしているうちに仁たちが待っているデュエルフィールドに到着した遊大と美鈴の目に飛び込んできたのは驚きの光景だった。

「……ひとつだけ、きいておきたいことがある」
「えっ、なになに?」
「おまえ、なにものだ?」
「えーと……なにものもなにも……アタシは単なるデュエリストだよ。モンスター3体でダイレクトアタック!」

??? ATK2700×2
??? ATK2800

 少女のフィールドには3体のモンスター。そのモンスターたちの攻撃が、フィールドががら空きの留奈に一斉攻撃を仕掛ける。遊大と美鈴が目にしたのは、あまりにも信じがたい光景だった。

留奈 LP8000→LP0



―――そう、アタシはどこにでもいる美少女。いや、違うか。



―――アタシは風花 遊舞(かざはな ゆま)! へへっ、そこにいるあの人……高海 遊大とデュエルがしたくてやってきた一人の最強プリティーで未来的なデュエリストだよ☆






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から揚げ
遅ればせながら感想失礼します

遊大くんのモテモテっぷりに嫉妬気味な美鈴ちゃんが可愛かったです。

ふと思ったのですが、遊舞ちゃんが留奈ちゃんの事を「ちっちゃな先輩」と言った際に、留奈ちゃんの「ある部分」に関しては小ちゃくないって思ってそうですね
(2023-11-23 12:55)

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