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第1話 スタート 作:にしん

 ここは山に囲まれたとある県の市「九良市」。市民の生活場所のほとんどが市街地に集まっており、国道や県道、高速道路で市街地から離れるとすぐに山道である。その国道沿いで、市の境付近に俺の実家はあった。

俺は高校を卒業してから市街地から山奥の温泉施設へと続く、坂が続く県道沿いにあるアパート型の学生寮に引っ越した。地理の関係か、住んでいる学生は8部屋に対して俺を含めて4人ぐらいしかいない。

最後の荷物を整理していた時、懐かしいものが出てきた。

要「そういえばこれも持ってきてたな。遊戯王と自作のダメージ計算器」

デッキとカードが入った箱、そして高校生に入ったころに自作したダメージ計算器。懐かしいなぁ。ここ九良市の市街地にあるカードショップで無双してた頃が懐かしい。俺が使うデッキは「影忍」というどのカテゴリにもない非常にトリッキーな動きをするデッキで、今でもその動かし方を覚えている。俺は高校の途中でそろそろ引き時だと思ってひっそりと引退した。

 荷物の整理を終えた後は市街地の大きいスーパーに買い出しに行くことにした。交通手段はバスか自転車。バスは基本1時間に1本、朝と夕方は4本しかないが、大学の前までルートが通っているので雨の日とかは便利だ。というよりここ一帯が学生寮や社員寮が多い地域なのでバスも駅や高速道路、大学など主要施設へと接続されている。故にこの学生寮も人が少なく、分散しているようだ。

今日は晴れているので自転車で。一般的なカゴ付きの通学用の自転車だが、俺はリュックを持っていく。自転車置き場に行ったとき、見たことのある真っ赤で少し古びていて、後方に見たことのあるシールをつけたママチャリを見つけた。

要「もしや・・・あいつか」

俺には小学生からずっと同じ学校、同じクラスの幼馴染がいる。そしてこの自転車はその幼馴染が高校の時にずっと乗っていたものだ。駐輪所の番号を表すシールの番号もそうだ。俺の自転車にもそのシールは残っている。山の中だしやっぱり大学も同じになるのか。ちなみに一度も進路について話し合ったことはない。

そして遊戯王も俺がやっているのを見てその幼馴染も始めた。あまり強くはなかったがその活発で誰にも話しかける子供のような奴だったからか人気者になっていたな。引退してからはどうなったかは知らないが、高校の間はずっと主に遊戯王の話をしていた。

 学生寮がある場所から市街地までの県道はゆるやかな坂道だ。自転車を走らせると楽で気持ちいいが、帰りが重いのが欠点。この県道沿いは一般家庭はもちろん、学生寮や社員寮が多く隣接しているが、1つだけ気になったものがあった。

それは途中にある1軒のコンビニ。「Boxymini」というよく聞くコンビニのミニバージョンらしい。「mini」らしく2階に家がある小さめのコンビニに市街地や住宅地が眺められるちょっとした崖沿いの広めな駐車場。開店はしているようだけど客は見当たらなかった。朝に空いてるならコーヒーを買って飲んで大学行くのも悪くはない。俺は覚えておくことにした。


 買い出しから戻ると夕方だったので自炊をする。両親共働きで自宅にあまりいないので料理は得意な方だ。その時インターホンが鳴る。玄関の扉の覗き穴から覗くと案の定あの幼馴染だった。扉を開ける。そこにいたのはアニメとかだと中学生と間違えそうなぐらいに身長が低く、赤みがかかったぼさぼさのツインテール。俺の幼馴染の「川澄 結花」だった。

結花「やっぱり遊二だったかー」
要「やっぱり結花か」

同時に指を差しながらやっぱりかーという感じで納得する。とりあえず目的を聞こう。

要「今日は何用ぞ」
結花「拙者、買い出しを忘れたでござる。故、飯を頂きに来たで候」
要「拒否」
バタン

扉の向こうからは結花の嘆きの声が聞こえた。

とりあえず結花を部屋に入れる。と同時にカバンからあるものを取り出した。デッキケースだ。

結花「メシもいいけど、久しぶりにこれで遊ばない?」
要「遊戯王か・・・懐かしいな。もしや結花は今でもやってたりするのか?」
結花「今じゃあたしが九良市最強のデュエリストだよーん。元最強の遊二にデュエルを申し込むでござる」
要「んー、今はメシ作るから後でなー」

・・・

結花はメシを食うだけ食った後は満足したのかそのまま帰った。と言ってもどうやら部屋が隣だった。

要「嵐のように来て去っていったな・・・片づけて明日の準備するかぁ」

明日からはいよいよ大学生。最初が大事だと偉い人が言っていた。今は久々に見た遊戯王のカードの事は忘れて準備をすることにした。



 翌日。今日は入学式と大学案内。天気は晴れ、春らしい陽気と気温。俺と結花は自転車で県道のゆるやかで静かな坂道をすいすい下る。

結花「そいえば遊二って何学科だっけ?」
要「俺は情報。そういう結花もだろ。ノーパソかごに入れてると振動で壊れるぞ?」
結花「ばれたかー。というかあたしのカバンにノーパソはいらないのが悪いのだよ」

途中、気になっていたコンビニに寄る広い駐車場には車が1台のみ。なので自転車を適当な場所に置く。結花も俺に合わせて隣に置いた。

結花「大学に売店あるし昼飯は学食あるっしょ?」
要「いや、毎朝のコーヒーを買う」
結花「あー、遊二コーヒー好きだったね」

特に俺が求めているのは定番品だが高級志向を狙ったやや高めの缶コーヒーであり、入荷しているコンビニやスーパーはあまりない。高校の時は実家近くの自販機で買っていた。

入店する。そこに広がっていたのは静かな店内・・・


がやがやがやがや・・・


要「めっさ混んでるな」
結花「みんなスーツとか作業着だねぇ」
要「あー、社員寮の人たちか」

その2、30人はいるであろう客を捌いているのは二人の店員。親子だろうか。片方はいかにもこの個人経営っぽい小さなコンビニにいそうなおばあちゃん、そしてもう片方は高校生ぐらいの女の子だった。二人とも的確にかつスピーディに処理をしていて、どんどん客が退店していく。しばらくするとイメージ通りのがらんとした小さくて静かなコンビニになった。が、案の定チルド系と飲料はすっからかん。

とりあえず内装は入り口から見て左が事務所とレジ、正面がチルド系、右の壁がペットボトル&缶系とその隣にあるカーテン、中央がお菓子やら雑貨やらパンやらと普通のコンビニだった。が、そのカーテンには「閉店中」と書かれていた。確かに外から見たこの建物と、この店内の狭さはカーテンの奥に何か空間がある。

おばあちゃん「おやおや、九良大学の学生さんかね、めずらしい。いらっしゃい、ゆっくりしていってね」
要「どうも」
結花「すっごい人だったねー」
おばあちゃん「平日の朝はいつもこうだからねぇ。でもみんな頑張りに行くんだから、しっかりしないとねぇ」

とりあえず目的の缶コーヒーがあるかを確かめる。あった。それは「ブルーマウンテン100%ブラック」という200円ちょいの定番品としてはやたら高い缶コーヒー。

俺が缶コーヒーをレジに持って行った時、さっきの女の子だろうか。さっきのエプロン姿ではなく制服姿で事務所から現れた。

女の子「おばあちゃん、いってきます」
おばあちゃん「気を付けていくんじゃよ」

あの制服は確か大学の近くにある高校のもの。まぁ場所が場所か。とりあえずお会計を済ませる。

結花「店員のおばあちゃん、このカーテンの奥って何ですかー?」
おばあちゃん「そこ今は準備中だよ。恵那がこのコンビニじゃない営業許可証貰ってきてたけど、何を始めるのかねぇ」
結花「恵那ってさっきのJK?」
要「JKて」
おばあちゃん「そうじゃよ。手伝いをしながら学校行くとは元気があっていいわよねぇ」
結花「うんうん、若いっていいよねぇ」
要「あの感じだと俺らと2つぐらいしか変わらんぞ結花」
結花「でへへ」

おばあちゃんとおしゃべりをしていたら時間が過ぎていた。俺たちは急いで出発した。

おばあちゃん「いってらっしゃい、気を付けるんだよ」


 夕方。結花がスーパーに買い出しに行っているので俺一人で帰宅中。そういえばお茶とかお菓子とか買い置きしておくか。ということで朝に寄ったコンビニに行く。

入店すると誰もいなかった。レジには「御用のお客様はこのボタンを押してください」とよくある銀色のあれが置いてあった。客は俺以外に一人もいない。何を買うか迷っていると気になっていたカーテンの奥から物音がしていた。

商品をかごに入れてレジへ。そして例のあれを2回押す。高い金属音だが文字に起こすとちょっと卑猥な音だ。と思って笑いそうになる。すぐにそのカーテンの奥からぱたぱたと聞こえてきた。

恵那「おっおお、お待たせしましあっ!!」バターン!!

何かに躓いたのか、盛大に転ぶ女の子。確か「恵那」だったか。直後に事務所からおばあちゃんが出てきて商品を通した。

おばあちゃん「恵那ったら客がいないと油断するからねぇ・・・朝のお兄さんかい、ありがとうねぇ。838円だよ」
恵那「えう・・・ご、ごめんなさい」
要「はは・・・ん?」

ふとカーテンを見てみると奥が見える。何やら見たことのあるものが見えた。近くに寄って覗こうとしたら起き上がった恵那さんがすぐにカーテンを閉じた。

恵那「ま、まだ準備中なので・・・」
要「何かオープンするんですか?」
恵那「そ、その・・・ま、まだ秘密ですっ」
要「ふむ、なるほど」

カーテンの奥を隠そうとしている恵那さんは何故か恥ずかしがっていた。営業許可証ということは何かしらのお店なのだろう。何やら見たことのあるものが沢山あった気がするけど、とりあえず今は気にしないことにした。



恵那「あ、あぶなかったぁ」
おばあちゃん「だねぇ。でも、ここにオープンして盛り上がるのかねぇ」
恵那「盛り上がるもん・・・多分。でも、近所の子供たちとか朝来てた大学生の女の人とか、あれ、やってたもん。も、もしかしたらお兄さんも・・・」
おばあちゃん「あのお兄さん、風の噂だけど昔の九良市で一番強いって話題になってたねぇ。今はわからないけど、彼も興味を持ってくれるかもねぇ」
恵那「だ、だから気になったのかな・・・?」
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