最後のキー・カード　作：はにわ

　
ーー月と街灯だけが暗闇を照らす公園。
涼しい風が吹く中、果たし合いに応じた透矢は最後の四天王である、デュエル・キラーこと千歳真希を破った。
生徒会四天王、そのメンバー全員を倒すという快挙を成し遂げたのである。

しかし透矢にその事に対する喜びはない。
むしろそんなことより考えなければならないことがある。

ーー敗れた真希はふっと力が抜けたように膝を折り、地面に付いた。

「ーー真希！」

「お姉ちゃん！」

それを見た透矢と千鶴がすぐに真希の元へ駆け寄る。

「へ、へへ・・・なんか身体に力が入らないや」

ばつが悪そうに、照れ笑いを見せた真希。
このデュエルの間は四天王・デュエル・キラーとして通そうと誓い、普段使わない力を身体に込めていたのだ。
だがそれもようやく終わり、そしてもうそんなことをする必要もない。

「お、お姉ちゃん・・・」

駆け寄った千鶴が、真希の胸に飛び込み、溢れ出たものが真希のシャツを濡らした。

「あはは・・・どうしたの、千鶴ちゃん」

「だって・・・だってーー」

疲れたように笑いかける真希に、千鶴はただ泣きじゃくった。
そんな妹の頭を真希は優しく撫でる。

「ごめんね、千鶴ちゃん。
千鶴ちゃんのために、力になりたかったんだけどーー却って心配かけちゃったね」

「ううん、私が弱かったからーー私が臆病だから・・・お姉ちゃんばっかり迷惑かけてーー」

「そんなことないよ。
あたしが馬鹿だったんだよ・・・。
他にやりようはいくらでもあったのにね」

「お姉ちゃんーーっ」

そこまで語り合った二人。
千鶴を薄着の真希を見て、手に持ったままの透矢の上着に気付く。
１度透矢に目配せし、透矢がそれを察して頷いたのを見て、
千鶴は真希の肩に透矢の上着をかけた。

「へへ、ありがと、千鶴ちゃん。
・・・あったかい」

掛けてもらった上着の裾を引っ張るように、腕を交差させる真希。
透矢も安心したように息を吐いた。

「透矢も・・・ごめんね。
あたし、色々、酷いこと言っちゃったよね」

「良いんじゃねぇか？
むしろ、本音で言ってくれた方が俺も安心できるよ」

「ごめん・・・」

「もういいって。
後の事は俺に任せとけ。
お前は何も心配しないでいい」

この期に及んで真希に野暮な事を言ったり聞いたりはしない。
そこまで言って、透矢はほらっ、と促すように言いながら背中を向けてしゃがんだ。

「力が入んねぇんだろ？
俺が送ってやるから、帰って休め。
そのまんまだと風邪引くぞ」

「い、いいよ。一人で歩けるからーー」

おんぶして連れてってやる、という透矢にさすがに恥ずかしいのか真希は無理に立ち上がろうとする。
だが、やはり完全に力が抜けてしまっているのか、ふらふらしながらまたへたりこんでしまった。

「遠慮しなくていいよ。
この時間じゃ誰も見てねぇし。
恥ずかしがることねぇだろ」

「透矢・・・」

真希はふと千鶴を見ると、千鶴は頷いて応える。
そして観念したように真希はなだれ込むように透矢の背中に身を預け、透矢は真希の足を両手で抱えて、軽々と持ち上げた。

「あ、あたし、お、重くない？」

「そう言ってほしいのか？」

「ば、馬鹿・・・」

「言ってほしくないなら、暴れないでおとなしくしてろ」

誰も見てない、とは言うがやはり恥ずかしいのか頬が紅潮気味の真希。
しかし最後は開き直り、両手を透矢の肩に通した。

千鶴はそんな様を見て小さく微笑みながら、真希のデュエル・ディスクと脱ぎ捨てたデュエル・キラーの服を持って二人の後を追った。



ーー帰り道。
とは言っても数分も歩けばそれぞれの家に着く距離。
真希は徐々に腕に力を込め、透矢にしがみつくようになっていた。

「・・・千鶴ちゃん、悪いけどそのカード取ってくれる？」

「え、うん・・・」

ふと真希が自らのディスクを運んでくれている千鶴に頼んだ。
すると千鶴はディスクにセットしたままのカードを手に、二人の傍まで駆け寄る。

「透矢、これ、キー・カード・・・」

「んなの、後でいいよ」

真希の代わりに千鶴が差し出したカードは、『閃絶龍 ゼルフィム・ハザード』のカード。
少し怒ったように透矢は振り向きもしない。

「なぁ、真希」

「え？」

「俺、どんなに離れてもこの３人の関係は変わらないって信じてる」

「・・・うん」

「それと・・・千鶴の事、ありがとな。
お前なりに一生懸命考えててくれたんだもんな」

「・・・」

「しばらく休めよ、真希。
その内、今日のことも笑い話になるときが来るさ」

「ーーあり、がとう、透矢・・・」

透矢の背中に顔を埋めて身を震わせた真希。
そんな二人の兄、姉を見て千鶴もまた静かに心の中である決意を固めていた。

（このままじゃ駄目なんだ・・・！
いつまでもお兄ちゃんとお姉ちゃんに甘えてなんて、いられないんだーー）

一応の解決を見せた今回の事で、実は一番深い反省の念を抱いていた千鶴。
今の自分があるのは、陰ながら力を尽くしてくれていた真希のお蔭。
やり方はどうあれ、せめてその気持ちに報いたい、いや報いなければならない、と。

千鶴は力強い眼差しで二人を通して、彼女しか見えない『その先』を見据えていた。