熱血女！炎魅子の爆炎デッキ！　作：はにわ

　
ーーその日の放課後。
前回に続き、特別に開放された体育館で生徒会大戦第三戦が始まろうとしていた。
観客席は満員御礼、とでも言いたくなるような集客率。
今日に至っては前々から予定していた用事をキャンセルしてまで残る生徒もいるほどであり、
如何にこのデュエルが、いや今回の挑戦者が注目を集めているかが分かる。

ーー遊戦名透矢。

１ヶ月前に転校してきたばかりのこの生徒の名を、もはやこのアカデミアに知らぬ者はいない。

難攻不落の生徒会書記・朝霧地影を下し、
さらに天才少女と謳われた蒼井乃水花を連破し、そして今日からいよいよ後半戦を迎える。

相手に名乗りを挙げたのは紅月炎魅子。
生徒会副会長にして、会長・刹那の右腕とも言われる存在。

粗っぽい性格ながら、人情味溢れた性分を併せ持ち、彼女を慕う人物は少なくない。
現に観客席には炎魅子を応援する者が大半を占める。

ーーそんな中、デュエル・リングで向かい合い、後は審判・クロエの開始の合図を待つだけ、という状況。

炎魅子はもちろん、透矢もいつでも頭を切り替える事が出来る状態だが、どうしても頭に引っ掛かるものがある。

それはこのデュエルに、炎魅子が『賭けた事』。

「ーー紅月先輩」

「ん？」

「本当にこのデュエルに負けたら・・・副会長、辞めるんですか」

透矢がその事を訊いた。
もちろんこの事が知れたら騒ぎになるのは目に見えているから、小声である。

「ーー最終的に決めるのは刹那さ。
でも、あたしはそのつもりだよ」

「紅月先輩・・・っ！」

「そんな顔すんなって。
あたしが勝ちゃ、何にも問題ないんだからさ。
ーーま、そう簡単じゃないだろうけど、ね」

腰に手を置きながら、歯を見せながら笑顔を浮かべる炎魅子。
しかしすぐにその表情も真顔に戻る。

「ーー悪いね、遊戦名。
元々はあたしが独断で動いたのが原因なのに、嫌な思いさせちまってるね」

炎魅子が申し訳なさそうに語る。

ーー朝、生徒会室に赴いた透矢。
まず挙げられた話は透矢の体育館への無断侵入。
だがこれは炎魅子がそうするよう言ったことなので、不問となる。
炎魅子はその事に加え、
自分でそう仕向けながらデュエルを手前勝手に止めた事に対する責任として、自らの首をこのデュエルに賭ける、と宣言した。

すなわち勝って責任を果たすか、辞めて責任を果たすか、である。

「でもあたしの事なんか気にしなくていい。
お互い、全力で、持てる力の全てを出しきろうじゃないか」

「なんでそこまでして・・・？」

また笑顔を見せる炎魅子だが、透矢は更に突き詰める。

「・・・デュエル・キラーの事はね、あたしもあれで良い、とは思っちゃいないんだ」

「え・・・？」

「多分、地影もあたしと同じ思いだと思うよ。
遊戦名の言う通り、デュエルで負かして、退学に追い込むなんて、
誉められたやり方じゃないさ」

「ならどうして、その事を会長さんに訴えないんですか！」

神妙な表情で、本心を語る炎魅子。
透矢は思わず声のトーンを上げてしまう。

「でもね、遊戦名。
それがアカデミアのためになってる、ってのは事実なのさ」

「アカデミアのため・・・」

「風紀と秩序を守る事は生徒の勤勉には重要な要素だからさ。
・・・それが守れない奴らがいるんなら、時には、心を・・・鬼にしないとね」

「紅月先輩・・・」

「他に良い方法もあるかもしれない。
でも具体的な代替案が挙げられない以上、あたしは副会長として刹那をサポートするしかないんだよ」

炎魅子の厳しい表情から、透矢は何を感じたのか。
ただ自分の考えもなしに、刹那に付き従っているだけではないということは察したようだ。

（それにね、デュエル・キラーだって、望んであんなことやってるわけじゃないんだよ）

「え？」

小声で呟いた炎魅子。
それを聞き取れなかった透矢が聞き返すと、
不意に炎魅子は元々逆立った癖っ毛をかきむしると、唸るような声を上げた。

「ーーあぁ、もう！
せっかく楽しみにしてたデュエルだってのに、湿っぽいじゃないか！」

「せ、先輩・・・」

「なぁ、遊戦名！
せっかくのデュエルじゃないか！
今は全力で楽しもうじゃない！」

「・・・」

「あんたもあたしとやりたかったんだろ？
あたしも同じさ。
ならお互い、全力でそれに応えるのがデュエリスト、ってもんだろ」

堪えていたものを発散させるように声を張り上げる炎魅子。
透矢はまだ引っ掛かるものがあるようだが、炎魅子の気概に押されたか、無理矢理それを振り払った。

「ーー分かりました、先輩！
望むところですよ！」

「よっし、それでいいのさ、遊戦名！
今はお互い一人のデュエリスト同士、デュエルに集中しようじゃないか！」

ようやくお互いに構えられたデュエル・ディスク。
今は互いにわだかまりを捨てて、デュエルに集中する。
また炎魅子の言う通り、透矢は彼女とデュエルするのを楽しみにしていた。
そこに雑念をいれて、水を差したくないという気持ちもあったのだろう。

「クロエ先生！
デュエル開始の合図、頼むよ！」

「Ｏｈ、合点、承知ノ助！デスの！」

「また変な言葉覚えてる・・・」

炎魅子が声を飛ばし、それに応えるクロエ。
妙な言葉遣いに透矢は苦笑いを浮かべる。

「デハ、Ｄｕｅｌ、ｓｔａｒｔ、デスの！」

『ーーデュエル！』

デュエル開始が告げられ、観客が湧く。
生徒会第三戦の火蓋が遂に切られた。

（遊戦名・・・こんなところで負けんじゃないよ。
デュエル・キラーを助けられんのは、あんただけなんだからね）

炎魅子の心中。
熱い思いの中に秘められた知られざる気持ちが、このデュエルには込められていた。